ビヨンド・ザ・ライトレス   作:カニ漁船

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現地でのトレーニングですたい。


フランスでのトレーニング

 フランスでは普段とは異なるトレーニングをしている。初日のパラシュートランもそうだけど、それ以外もだ。

 スタミナトレーニングはオペラ式呼吸法というもの。

 

「結構キますねこれっ」

「呼吸を乱しちゃダメだよ。しっかりと、身体を膨らませるイメージで」

 

 オペラ歌手がやっているような呼吸法を実践することで肺活量を鍛える、というものだ。凱旋門賞ではスタミナも重要、しっかりとやっておかないと。

 パワートレーニングはサバット。フランスの護身術だ。ウマ娘を相手に実践するわけではなく、サンドバッグ相手に拳や蹴りを叩きこむことになる。

 

「フッ!ハッ!」

「いいよ、アグ……タキオン。その調子その調子」

 

 タキオンは良い感じに動けている、と思った直後。ドガァァァン!と、轟音がトレーニングルーム内に響いた。

 

「うひゃあ!?」

 

 思わずタキオンも屈んで警戒する。周りを見渡すと……大体想像がついていた光景が広がっていたね。

 

「あら、随分と貧弱な設備だこと」

 

 優雅な笑みを浮かべて佇むジェンティル。傍らには無惨にも破壊されたサンドバッグの姿があった……いや、何してんの。というか、サンドバッグを支えている鎖じゃなくてサンドバッグ自体が真っ二つになってる。どんだけ力を込めたらそうなるのさ。

 なにより恐ろしいのは老朽化によるものではないということ。ほぼ新品同然のサンドバッグを、たった一撃で粉砕したことになる。

 

「もっと頑丈な素材で用意なさい。この程度では私の力に耐えられませんわ」

「とりあえず、ジェンティルは他の器具を使ってて。僕は責任者に謝ってくるから」

「……仕方ありませんわね」

 

 抗議するような目をされても。ひとまず責任者に謝ったが、笑って許してくれた。というか。

 

「『次はそっちのお嬢さんの蹴りに耐えられるような物を作ってやるさ!』」

 

 と、むしろ対抗心を燃やしていた。……結果的には良かったのかな?

 セーヌ川を利用してのスタンドアップ・パドルボード。ひとまずできるトレーニングを一通り実践する形だ。

 

「な、中々っ!難しいね!バランスも重要、漕ぐ力も大事とっ、来たもんだッ!」

「でも前に進んでるよ。その調子で頑張って」

 

 ボードは不安定なのでバランス感覚が重要になってくる。しかも、手の力だけでは進むことは困難なため全身の力を使うことが重要になってくる。成程、これは良いトレーニングだ。

 なのだが。後方から水しぶきをあげて近づく影が1人。

 

「ハーッハッハッハッハ!タキオンさん!良いことを教えましょうッ!」

 

 バクシンオーがセーヌ川を走りながらやってきた。君、烈〇王かなにか?というか、アグ、タキオンの近くで器用に静止している。そしてその手に持っているプラカードはなんだろう?え~っと……【日本の苫小牧をよろしく!】……ホッ、タルマエの仕業か。

 

「水上を走ればいいのですッ!そうすれば、ボードに頼らずとも良くなりますよッ!」

「いや、バクシンオー。これトレーニングだから。水上を走ればいいってもんじゃないから」

「なんと!そうでしたかッ!これは失敬!では、バクシンシーー……ガボボボ」

「あぁ!バクシンオーさんが沈みましたぁ!?せっかく苫小牧を宣伝するプラカード持っててもらったのにぃ!」

「早く救出しよう。バクシンオーが心配だ」

 

 その後バクシンオーはドゥラとタルマエに救出されていた。

 

「トレーナー君、なんだいアレは?」

「僕に聞かれても困るかな」

 

 ひとまずパドルボードを再開。良い調子でこなしていた。

 

 

 ……このトレーニングの後日。とあるニュースがフランスで話題となった。

 

《これがジャパニーズ忍者!?セーヌ川を走るウマ娘の目撃証言が多数上がっております!》

 

 映像ではバクシンオーがセーヌ川をバクシンしている光景が映し出されている。仕事早いな。というか誰が撮ったんだろうかこれ。

 

《映像の提供者によりますと、彼女は日本からやってきたウマ娘のようです。いや~それにしても、これが忍者というものでしょうか!》

《凄いですね~。水蜘蛛?というヤツかもしれません。ウマ娘なら案外できたりするんじゃないですか?》

《セーヌ川に突如現れた謎のウマ娘。いつか彼女にインタビューしてみたいですね!》

 

 テレビの電源を切り、たまたま打ち合わせ中だった佐岳さんと顔を見合わせる。彼女の表情は引き攣っていた。

 

「……見なかったことにしましょう」

「……そうだなっ!」

 

 あのニュースは見なかったことにしよう、うん。

 

 

 

 

 

 

 それは、ある日のトレーニングのこと。

 

「……ふむ」

「どうしたの?ア、タキオン」

 

 タキオンが途中で走り込みを止めてしまった。もしかして、何かあったのかな?だとしたら相当まずい、今すぐ病院に連絡しないと「あぁいや、特に問題があるわけじゃない」だ、大丈夫だったみたいだ。

 

「なに、私の脚もようやくここまで来たか、と思っていたところでね」

「……本当に?」

「本当だとも。ガラスの脚だった私だが、今では十全に近い状態で走ることができる。昔の私が聞いたら信じられない目をするだろうねぇ」

 

 愉快そうに笑みを深めるタキオン。確かに、今の彼女ならばほぼ100%の力を出しても問題ないくらいには脚の強度が増している。成長していくにつれて、ようやくタキオンの全力に耐えるだけの身体になってきた、ってところだろう。

 

「これも全て実験に協力してくれた君のおかげだ、ありがとう」

「あれだけの薬を飲んだ日々は無駄じゃなかったね。今でも飲まされてるけど」

「それはほら、アレだよ。探求心が抑えきれないのさ!」

 

 薬を飲むこと自体は別にいいんだけどね。命に関わるようなものじゃないから。

 

「ま~とにかく、これからも走るために頑張らねばなるまい。私の研究はどんどん進んでいくのだから!」

「そうだね。頑張ろうか、タキオン」

「君にも期待しているよ?これからも可能性を追求していこうじゃあないか!」

 

 また走り始める。彼女の走りは快調そのものだ。どうやら本当になんでもなかったらしい。……一応病院の予約を入れておくか。

 そして後日。駄々をこねるタキオンをなんとか宥めて病院へ。診断結果はというと。

 

「『全くの健康体ですね。何の問題もありません』」

「だから言っただろうトレーナー君!心配し過ぎだ!」

「『骨にも筋肉にもなんの異常もありません。他の数値も正常です』」

 

 本当になんもなかった。一安心である。怒っているタキオンのために甘いものを買って宿泊先へと戻っていった。

 

「大体君は心配し過ぎだ!問題はないといっただろう!」

「まぁまぁ。そう怒るなアグネスタキオン。聖トレーナーだって君のことが心配なんだろう」

「……それに、隠すなんてこともありそうだし」

「今更君に身体面で隠し事をするわけがないだろう!全く……」

 

 どうやら過保護すぎたようだ。反省しよう。

 

 

 その後のタキオンは順調そのもの。トレーニングを軽々とこなしている。

 

「タルマエ君、初日でもうやりたくないと言っていた君がパラシュートランに希望したのはまぁいいとして……その紙は何だい?」

「苫小牧を宣伝するための紙です!大丈夫、邪魔にならないように持ちますので!」

「別に構わないがねぇ」

 

 パラシュートランではタルマエがアドバルーンよろしく苫小牧を宣伝していたりしたけど。商魂たくましい子だ。

 そして恒例となったバクシンオーとの併走の時間がやってくる。

 

「頑張りましょう、タキオンさんッ!」

「そろそろ成果をあげたいからねぇ。遠慮はいらないよ」

「勿論ですッ!どんな時でも、誰が相手でも全力バクシンがモットーですのでッ!」

「2人とも、準備は良いかな?」

 

 スタート位置につく2人。併走が始まる。

 

 

 

 

 

 

 最早恒例となった委員長君との併走。

 

「遠慮はいりませんッ!どうぞバクシンしてくださいタキオンさんッ!」

「バクシンは知らないが、言われずとも!」

 

 委員長君は速い。三冠全てでレコードタイムを更新した、最速の三冠ウマ娘。これほどの速さを持つ相手との併走を、好きな時に体験できるというのはまさに幸運だ!遠慮なくいかせてもらう!

 ……の、だが。最近()()()()()()()()()があった。併走が終わり、トレーナー君とタイムを確認する。

 

「タイムは良くなっていってる。前回併走した時の記録よりもね」

「……そうか」

「何か気になることでもあるの?」

 

 水分補給をして、タオルで汗を拭く。一通り終わった後、トレーナー君との会議が始まる。

 

「なんて言えばいいんだろうねぇ……まだまだいける気がするんだよ、私は」

「と、言うと?」

「思うように全力が出せていない、ってところだろうか?」

 

 ま~併走は併走。本番は本番だ。リスクを背負う必要がないから力をセーブしているといえばそこまで。特に気にすることじゃない。それでも一応報告しておかなければならない。トレーナー君に隠し事はできるだけしたくないからね。また病院に連れていかれるのは勘弁だ。

 トレーナー君はというと……ふむ、不思議そうな顔をしている。

 

「……ステータスが向上しているからタイムは伸びてるけど、タキオン的にはもっといける!って思うの?」

「何となくの感覚だがね。本番ではどうなるかってところだ」

「次のレースはニエル賞、か」

「状況次第だね、どうなるかは」

 

 現状、ニエル賞に出走してくるウマ娘はまだ判明していない。レースはまだまだ先だから当然だね。

 私はまだ領域を20%しか使っていない。ニエル賞、凱旋門賞ではおそらく、100%を発揮できるだろう。それだけの強敵が集まるし、私の身体も耐えられるとトレーナー君と私の見解が一致している。

 それにしても、現地のウマ娘がトレーニングしている光景が視界に入るが……素晴らしい!日本と格が違うとかそういうわけじゃない、興味を惹くような子達がたくさんだ!きっと良いモルモットになるだろう!ま、国際問題にしたくないから手は出さないが。

 

「ひとまず、この調子で続けようか。なにか違和感があるようならすぐに報告して」

「分かっているとも。併走の後はなんの予定だい?」

「ドゥラ達とオペラ式呼吸法だね」

 

 ふぅン、スタミナトレーニングか。

 

「それじゃあ早速向かうとしよう。ドゥラ君達は?」

「もう佐岳さんと一緒にいるよ。早いところ行こうか」

「分かったよ」

 

 急いでドゥラ君達の下へと向かう。トレーニングは順調そのものだ。




ちなみに割合としてはスピードトレーニングがちょっと多め。やはりスピードですよスピード。
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