ビヨンド・ザ・ライトレス   作:カニ漁船

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ニエル賞本番。


いざニエル賞へ

 ニエル賞。凱旋門賞の前哨戦に位置付けられているレースで、クラシック級のウマ娘だけが出走できる。

 

《やってきましたニエル賞!今年もクラシック戦線を沸かせた優駿達が集います。ここを勝利して凱旋門賞に乗り込むのはどのウマ娘か?2400m、芝の状態は良バ場と発表されています!期待が集まるのはやはりヘルモンでしょうか?》

《そうですね。彼女は2000ギニーを制していますから。さらに英ダービーを2着、愛ダービーを3着と好走。本レースでも1番人気です。ですが、私が注目したいのは日本から来たアグネスタキオンですね》

《アグネスタキオンは日本の2000ギニーを制してここフランスに遠征。日本での実力はまさに圧倒的との触れ込みです!さらに、日本といえばエルコンドルパサーが記憶に新しいでしょう。きっと素晴らしいレースをしてくれることに違いありません!》

 

 アグネスタキオンはかなり注目を集めている。2番人気であることからもそれが分かるだろう。

 

「『エルコンドルパサーがいたもんな。アグネスタキオンも楽しみだ!』」

「『一体どんなレースをしてくれるのかしら?』」

 

 ウマ娘達が続々とターフへと姿を現す。出走するウマ娘は8人。少人数での発走だ。

 アグネスタキオンは周りを見渡し、実力を測るように他のウマ娘を観察する。口元を覆い隠し、笑みを深めていた。

 

(ほほ~う。良い、実に良い!彼女も、あそこの彼女も強そうだ!これは中々楽しい実験になりそうだねぇ!ただ)

「その中でも私の実力が抜けている、とはね」

 

 ステータス上では自分が一番上、高村が教えてくれたことだ。あくまで目安のようなものとはいえ、確かな自信になる。ウキウキ気分でウォーミングアップを進めていた。

 

 

 そんな彼女を見る高村達。いつものように大声で応援するサクラバクシンオーとキタサンブラックを尻目に、高村はノートを開いてアグネスタキオンのステータスを確認する。

 

 

アグネスタキオン

 

適性:芝A ダートD

距離:短A マA 中S 長A

脚質:逃げE 先行A 差しA 追い込みF

 

スピード:S 1010

スタミナ:A+ 932

パワー :A+ 901

根性  :C 487

賢さ  :A 824

 

 

 ヘルモン達が最高B、平均CからDの中で、この能力値は破格と言えるだろう。一部のステータスに限れば、凱旋門賞最有力候補のサリーブに匹敵している。

 

(常時5人の友情トレーニングを叩いているようなものだしね。かなり破格だ)

「油断は禁物、頑張ってねタキオン」

「「頑張ってくださーーーいッ!タキオンサーーンッッッ!!」」

 

 ウマ娘達がゲートに入る。先程まで喧騒に包まれていたロンシャンレース場が静まり返った。

 

《ウマ娘達がゲートに入ります。クラシック級のウマ娘達が凱旋門賞に挑むためのステップレースに選ぶことが多いニエル賞。ここでのレース結果が、今後を占う重要な一戦になるのは間違いありません。同条件の同コース、間違いなく得難い経験になるでしょう!》

《果たして今回はどのような結果になるのか?ウマ娘達の気合は十分、勢いに乗るのはどのウマ娘でしょうか?》

《今、最後のウマ娘がゲートに入ります。ロンシャンレース場G2ニエル賞、今っ!》

 

 最後のウマ娘がゲートへ入り、数瞬の後──ゲートが開く。

 

《スタートしましたっ!ニエル賞が始まりました!揃って綺麗なスタートを切ります!先手を取るのはどのウマ娘か?出遅れはなしです!》

 

 ニエル賞が幕を開けた。アグネスタキオンは好調なスタートから先頭争いの位置につけている。

 

《7番が行きました、7番が先頭に立とうかという勢い!バ群は固まっています、固まったバ群から最初に抜け出したのは7番リッペンシティフト!レースを引っ張ります!》

 

 しかしすぐに引き下がり、2番手から3番手のポジションにつける。ポジションは内側だ。

 

(さてさて、競り合うようにヘルモンが、後ろにはアクアアンバーか。問題はないね)

 

 他のウマ娘は激しいポジション争いが繰り広げられる。そんな中、内側で冷静にレースを俯瞰していた。

 

 

 

 

 

 

 コーナーを迎えるとポジション争いは落ち着きをみせる。先頭を走るのは7番のリッペンシティフト。2番手はアグネスタキオンで先頭から2バ身程離れた内側につけている。外にはヘルモン、後ろにはアクアアンバーがつけていた。少人数ということもあり、先頭以外は固まっている。

 

《コーナーへ入ります各ウマ娘達。ここからは下り坂、上った分だけ下りますウマ娘。先頭はリッペンシティフト、レースのペースを握ります。2番手は内にアグネスタキオン、外にヘルモン。後ろにはアクアアンバーが虎視眈々と機会を窺います》

《アグネスタキオンが良い位置につけていますね。最短コースで駆け抜けています》

《3番人気キチェビアールはヘルモンの後ろにつけます。ペースは落ち着きました。最後の直線に向けて脚を溜めておきたいところ。坂を下るウマ娘達、あまりスピードは出したくないぞ!》

 

 何人かのウマ娘は勢いに乗り過ぎて前へと進出してくる。つられるように動くウマ娘もいるが、アグネスタキオンはつられることなく淡々と自分のペースを守っていた。

 

(多少落ち着いてはいるが、勢いを殺し切れてない子がいるねぇ)

 

 外へと視線を向ければ、1人のウマ娘がヘルモンに並ぼうとしている。後ろにいるアクアアンバーもアグネスタキオンに並ぼうとする勢い。

 

(最悪抜かれてもいい。大事なのはペースを守ることだ)

「最後の直線で全員躱せばいいからねぇ」

 

 気づけばアクアアンバーが自分を追い抜かしていくのを見る。下り坂では無茶なペースアップをせず、最後の直線に備える。事前に決めたこと通りにできていた。

 

 

 佐岳も高村も満足げに頷く。

 

「うんうん、アグネスタキオンは順調だな!」

「はい。凄く落ち着いています。このままいけば問題はないかと」

「ここは是非とも勝っておきたいからな。頑張れよー!タキオーン!」

 

 佐岳が応援の声を送る。集団はフォルスストレートへと入っていった。

 

 

 最内でレースを見るアグネスタキオン。先頭との差は3バ身程であり、アクアアンバーが前を走っている。

 

(ふさがれているわけではない。抜け出しは容易だ)

「そろそろ進出しようか」

 

 アクアアンバーとの差を詰める。じわりじわりと位置を押し上げ、最内へと陣取る。

 

《フォルスストレートを走るウマ娘達、アグネスタキオンが位置を押し上げる!アグネスタキオンがアクアアンバーとの差を詰めます!まもなく最後の直線、先頭で抜けてくるのはどのウマ娘か!》

 

 フランスの芝に対応できるかが心配されていたアグネスタキオン。その心配は杞憂に終わった。

 VRでのトレーニングで慣れていた、フランスでのトレーニングで誤差を修正した。日本と遜色ない、同じ感覚で走れている。アクアアンバーに並び、先頭を走るリッペンシティフトを追い詰めていく。外からはヘルモンとキチェビアール、エリューアルが上がってきた。バ群はさらに固まり、先頭との差はほとんどなくなる。

 フォルスストレートを抜け、最後の直線。先頭で入ってきたのはリッペンシティフト。

 

《最後の直線!先頭で入ってきたのはリッペンシティフト!ですがほとんど差はありません!最内からアグネスタキオンが上がってきている!内にアグネスタキオンとアクアアンバー、リッペンシティフトの外からヘルモンとキチェビアール、キチェビアール!バ群はさらに固まります、誰が抜け出すのか!》

 

 最内を上がって行くアグネスタキオン。領域はまだ使っていない。にもかかわらず、内から先頭へ躍り出ようとしていた。アクアアンバーとの差を着実に広げていく。

 

「くっ!」

 

 必死に粘るが無情にも差は開く。そして、ついに先頭を捕まえてアグネスタキオンが先頭に躍り出た。

 

《アグネスタキオンが先頭に変わります!アグネスタキオンが先頭だ!日本のアグネスタキオンが快調に飛ばす!さ~他のウマ娘もすぐに追いつきたいぞ!アグネスタキオンが差を広げていく!2番手にはヘルモンが浮上!内にアクアアンバー、リッペンシティフトも粘る!キチェビアールはまだ来ないのか!?》

 

 会場の声援が大きくなる。

 

「バクシンですよーーーッッ!タキオンさぁぁぁんッ!」

「バクシンってなんですの?」

「バクシンってことじゃない?」

「説明になってないですよトレーナーさん」

 

 レースは最後の戦いが始まっていた。

 

 

 ヘルモンは前を走るアグネスタキオンに食らいつこうとする。だが、差は一向に縮まらない。

 

(日本のウマ娘が、ここまでやるとは……ッ!いや、そんな話じゃない!)

「『彼女の実力だけ飛び抜けている……ッ!』」

 

 嫌でも差を実感させられた。2000ギニーを制したことで自信を深めていたが、そんな自信を砕かれてしまうほどに。それはヘルモンだけではない。出走している全員が感じ取った。日本からやってきた挑戦者(アグネスタキオン)の実力を。

 だが、アグネスタキオンは()()()()()()()()。残り200m、雰囲気が一変する。

 

(さぁて、100%は発揮しないが……慣らし運転と行こうか!)

「更なる高みへと至ろう!」

 

 

領 域

 

 

超 光 速 粒 子

 

 

 領域を切る。視界が切り替わり、レース場に自分だけが走っているような感覚になる。余計な思考は無くなり、クリアになる……

 

(……何?)

 

 ()()()()()

 違和感、ほんの些細な違和感。別に脚が悪くなるとか、このままいったらまずいといったような感覚ではない。領域は正常に使えている。使えているが……確かな違和感を感じていた。

 先頭を走るアグネスタキオン。2番手との差をさらに広げる。

 

《アグネスタキオン!アグネスタキオンだ!さらに差を広げる!2番手ヘルモンこれは厳しいか!?キチェビアールもここで上がってきた!アクアアンバーとキチェビアールが並んだ並んだ!しかし先頭アグネスタキオンには追いつけない!その差は4バ身!》

 

 差はさらに広がり、観客の声援もさらに大きくなる。最終的に、アグネスタキオンは2着のヘルモン相手に6バ身差つける形で勝利した。

 

アグネスタキオンだ!日本のアグネスタキオンが圧勝!凄まじい強さ、圧巻の走り!2000ギニーを勝ったヘルモン相手に6バ身差の圧勝劇!これは凱旋門賞に向けて期待が高鳴ります!》

「「「わぁぁぁぁぁッッ!!」」」

 

 沸き上がる歓声。誰もがアグネスタキオンの勝利を称える。サクラバクシンオーとキタサンブラックを筆頭に、ミーティアのメンバーも祝福していた。

 しかし。

 

「……っ」

 

 勝ったアグネスタキオンは、()()()()()()()()()()()()を浮かべている。確かめるように手を握っては開き、首を傾げる。

 

(……ひとまずトレーナー君に報告だ)

 

 勝者を祝福するファン。だが、勝者は納得がいかないままターフを去っていった。




どこか違和感を覚えるタキオン。
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