ビヨンド・ザ・ライトレス   作:カニ漁船

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新ウマ娘がドリジャは予想できねぇよ!近々来るとは思ってたけども!


ニエル賞後・違和感

 ニエル賞が終わった数日後、日本からやってきたマスコミの取材を受ける。

 

「……では、ニエル賞よりもさらに高いパフォーマンスが期待できる、と」

「約束はできませんが、アグネスタキオンは手の内全てを明かしたわけではありません。凱旋門賞では、それら全てを出し切れるように手を尽くします」

「成程。まだまだ底が見えないアグネスタキオン、というわけですね……未だ達成者のいない凱旋門賞制覇。自信の程は?」

「勝ちます。その一言だけ」

 

 手の内全てを明かしたわけじゃないというか、なんというか。間違ってはいないが合ってもいないというこのもどかしさ。まだまだ底が見えないという記者さんの言葉が全てだろう。

 

「凱旋門賞の出走メンバーも固まりました。現在最有力候補はサリーブとされていますが、高村トレーナーとしてはどのウマ娘を警戒していますか?」

「最優先で警戒しているのはサリーブです。インターナショナルステークスの勝利はまさに衝撃的でしたから」

「あ~、確かにそうですね。有力候補なしか?とされていたところでの7バ身差勝利、一気に人気トップに躍り出ましたからね」

 

 サリーブのレースはまさに圧巻だった。王道の先行策からの快勝。つい最近レースに復帰したばかりだとは思えないほどに。

 

「後は、アグネスタキオンと同じく現状無敗のウォーターペインターですね。ニエル賞からのメンバーも引き続き警戒しています」

「あれだけの勝ちであっても、やはり油断はできないと?」

「当然です。前哨戦は前哨戦でしかありませんから。今回の勝利は頭から切り離して考えていくつもりです」

「……それはそれとして、繰り返しにはなりますが。担当ウマ娘であるアグネスタキオンさんのニエル賞勝利、おめでとうございます」

「ありがとうございます」

 

 まぁ、頭から切り離して考えるとは言ったけど、こうしていざ祝福されるとやっぱり嬉しいものだね。記者さんが微笑ましそうな表情を浮かべているからちょっと恥ずかしいけど。

 話題も程々にインタビューは終わる。

 

「良い記事にできそうです。今日はお忙しい中ありがとうございました!」

「こちらこそ、ありがとうございます。発売の日を楽しみにしています」

 

 記者さんは笑顔で手を振りながら去っていった……さて、と。

 

「タキオンと()()話し合うか」

 

 ニエル賞で感じた違和感について話し合うために。

 

 

 宿泊先の一室。すでにタキオンは待っていた。

 

「遅いじゃないかトレーナーくぅ~ん。私は待ちくたびれてしまったよ~」

「一応時間ピッタリなんだけどね」

「冗談だよ。さて、ニエル賞が終わって数日が経ったわけだが……いまだに結論は出ていない」

 

 タキオンの表情が真面目なものに切り替わる。彼女としても無視できない問題だし、早急に解決したいものだからね。無論、それは僕も同じだ。

 

「私の身体に異常があるわけでもない、あの日の調子が悪かったわけでもない……だが、それでも確かな違和感を感じた」

「……」

「私の身体は全力に耐えられるようになったわけだが、凱旋門賞を控えている今全力を出す必要性を感じない。故に、精々40から50%程度で慣らし運転をするつもりだった。しかし……」

20%。出力自体は皐月賞の時と何も変わっていなかった」

 

 頷くタキオン。初日でも確認したことを改めて頭に叩き込む。

 ニエル賞でタキオンは領域を切った。切ったのは良かったが……()()()()()()()()()()()()()。本来50%の力を出すはずだったのに、引き出されたのは20%。皐月賞の時と変わらない数値しか出せなかったのだ。最初にこの数値を割り出した時は2人揃って驚いた。

 

(皐月賞の時と何も変わっていない……おそらくだけど、バクシンオーとの併走でも変わってなかったんだろう。だから、違和感を覚えた)

 

 タキオンはバクシンオーとの併走でまだまだいける、と言っていた。でも、なぜかずっと引き出せないままだった。その時は併走だからリスクを負う必要がないから、と結論付けたけど。

 

「さすがに本番でも上がらないってなると、話は変わってくるね」

「その通りだ。この問題を解決しなければ、凱旋門賞制覇は難しいだろう。相手はかなりの強敵だからねぇ」

 

 一応、これまでの話し合いで何個か心当たりを挙げてみた。

 たとえばジンクス。確か、凱旋門賞シナリオの時につくバッドコンディションのようなもので、ステータスが著しく下がるもの。これの可能性があるんじゃないか?と疑った。なお。

 

「ジンクスぅ?むしろ私としては凱旋門賞に挑むことにワクワクしているがねぇ!」

 

 タキオンにそんな兆候は見られなかったので没。というかそもそも、ジンクスが作用するのは凱旋門賞だったのでニエル賞で出てくるのはおかしい。この線はないだろう。

 次に強敵となる相手がいなかったからじゃないか?というもの。ヘルモンやキチェビアール等がいたが、結果はアグネスタキオンが6バ身差で勝利。強い相手との競い合いができなかったからじゃないか?という考えが浮かんだ。タキオンもこれにはどこか納得しているようで、真剣に受け止める。

 

「別に彼女達が特別弱かったというわけではないのだが……あるかもしれないね。となると、サリーブ君が相手では」

「領域の力をさらに引き出せる可能性はある、かもしれない」

「なんにせよ不確定要素が大きすぎる。ぶっつけ本番で挑むことになってしまうとは」

 

 溜息を吐くタキオン。気持ちは分かる。リスクをできるだけ排除したいタキオンにとっては、本番で20%から100%まで引き上げざるを得ない今の状況は勘弁したいところだろう。なにより、100%を出せるかどうかすら不安な今の状況では余計に、ね。

 現在のところこれが最有力候補。けど、僕はどこか引っかかりを覚えている。

 

(サリーブが引き出せるとしたら、どうしてバクシンオーとの併走で少しも上がってないのだろうか?)

 

 本番前に全力を出す必要性を感じないから、と言われたらそこまで。でも、ずっと20%のままなんてあるのだろうか?もっと引き出せたっていいはずなのに。だからこそ、この予想が当たっているとは僕には思えない……結局分からないんだけども。歯がゆさを感じる。

 一応、他にもある。

 

「バ場が合わなかったとか」

「ここにきてそれはないだろう。そもそも、走りに影響を及ぼしていないのは君も分かっているはずだ」

 

 バ場の問題。タキオン自身が良く分かっていることだし、即座に否定したからこの線はないと断言できる。

 

「もしや、さらなる成長の兆しという線があるかもしれない!」

「それだったら出力が永遠に上がらないままだけど」

 

 さらに成長するんじゃないか?という希望的観測。なお没。

 

「実は50%を引き出せていたのかもしれない!」

「希望的観測が過ぎるよタキオン。それはないって分かるでしょ?」

「……さすがに原因が不明となると冗談も言いたくなるんだよ」

 

 実は出せてました論。タキオンの冗談だけど。

 

「全力を出すのが怖かったり?」

「……どの目線で言ってるんだい君は」

「分かったからジト目で睨まないでよ」

 

 全力出すのが怖いんじゃないか?論。タキオンにジト目で見られたのでこれ以上は止めておく。

 

 

 と、まぁ。議論は白熱しているがこれ!という答えは見つからず。

 

「……ま、今はトレーニングをするしかないね。凱旋門賞も近づいている、少しでも鍛えて備えないといけないだろう」

「そうだね。一旦領域のことは忘れよう。あまり頼りすぎるというか、考えすぎるのも良くないしね」

 

 領域は勝つための要素の1つ、忘れそうになるがこれが大事な心構えだ。あまり固執しすぎるのもよろしくない。肝に銘じておかないと。

 

「佐岳さん達が待ってるし、早くいこうか」

「分かった……それにしても、ニエル賞を勝った後の彼女は凄かったねぇ」

「確かに」

 

 タキオンの勝利をもの凄く喜んでいたのは記憶に新しい。これはまだ前哨戦、本番は凱旋門賞だからな!と口では言っていたが凄くニコニコしていた。あれだけ喜んでくれると嬉しいものがある。

 

「後は、リスクの高いトレーニングは避けるべきだ。ここで怪我をするのは避けたいからね」

「それは勿論。本番はもうすぐだからね」

「その通り!さぁて、たくさんのモルモット達が我々を待っているよ!」

「モルモットかどうかはともかく、出走できない、なんて事態は避けたいからね」

 

 凱旋門賞もあと少し。しっかりとトレーニングをしていこう。

 

 

 

 

 

 

 アグネスタキオンの勝利はかなりの話題を集めた。

 

【アグネスタキオン、ニエル賞を6バ身差圧勝V!凱旋門賞に向けて視界よし!】

 

 明らかな格の違いを見せたレースに、欧州のファンも彼女の動向に注目している。

 

「『前哨戦と言えばそこまでだが、あそこまで突出した実力を見せるとはね』」

「『現時点でサリーブの次ぐらいはあると思うわ!楽しみね!』」

「『しかも、彼女のトレーナー曰くまだまだ底を見せていないらしいからね。彼女の本気がどれほどのものか楽しみだよ!』」

 

 注目しているのは勿論ファンだけじゃない。凱旋門賞に出走するウマ娘達も警戒を強めている。

 

「『ニエル賞の彼女は圧倒的だった……差を見せられたよ』」

「『だからといって、諦めるつもりはさらさらないけどね。負けないんだから!』」

「『増長していた、驕っていたところがあった。彼女には感謝しているよ……これでもう、油断はしない』」

 

 特に、ニエル賞に出走していたウマ娘達の闘志に火が点く。が、キチェビアールは諸々の事情により出走を取り消すことになる。

 そして、注目しているのは──彼女も。

 

「『トレーナー!日本から強い子がやって来たみたいだね!』」

「『そうだな、サリーブ。彼女は強い、お前に匹敵するレベルでな』」

 

 足をばたつかせて興奮を抑えきれない様子のウマ娘、サリーブは笑顔だ。走るのが待ちきれない、といった様子である。

 

「『わは~!楽しみだな~!』」

「『怪我で棒に振ってしまったが、お前はこれからだ。獲るぞ、凱旋門賞』」

「『勿論!みんなの記憶に残るような、すっごいレースにしちゃうんだから!』」

 

 サリーブも待ち望む。凱旋門賞の日を、アグネスタキオン達と走るその日を。

 

 

 それぞれの陣営が調整をする。

 

「タキオン、タイムは良いよ。けど」

「問題はない。体調面、身体面全部ね。あるとすれば……」

「今は、考えなくていい。それよりも作戦を打ち合わせようか」

「……そうだね。警戒すべきはサリーブ、彼女をどう封じ込めるか、だ」

 

 勝つために、対策に対策を重ねる。

 

「よし、最終確認だ!聖トレーナー、タキオン!あたし様が集めたデータ、有効活用してくれ!」

「……ありがとうございます、佐岳さん。最初から最後まで」

「いいのさ……一丸になって勝つぞ!」

「分かっているさ」

 

 日は流れて──ついに、凱旋門賞の日を迎えた。




次回 凱旋門賞。
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