ビヨンド・ザ・ライトレス   作:カニ漁船

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凱旋門賞だぜい。


開幕の凱旋門賞

 世界最高峰のレースの1つ、凱旋門賞。日本のウマ娘がまた、その舞台に挑む。

 

「もうそろそろだよな、中継が始まるの!」

「あんまりそわそわしないで。子供の前でみっともないわよ?」

「仕方ないだろ?ニエル賞の勝ちっぷりを見たら、今年こそは!って思うんだって!」

 

 日本中のレースファンが注目し、テレビにくぎ付けになっている。始まる瞬間を今か今かと待ちわび、期待に胸を高鳴らせる。

 

「始まる、ね。タキオンさんの、戦いが」

〈ハジマル!タノシミ!〉

「う~ん……ハッ!?ね、眠くねぇですよ!?」

「あまり、無理はなさらないでください。ユキノさん」

 

 トレセン学園の生徒も結果が気になるのか、携帯端末を利用してレースを観戦していた。寮長達は気づいているかもしれないが、口出しをする気はないようだ。

 現在映像では、出走するウマ娘達が続々と姿を現しており、その中には──アグネスタキオンの姿もあった。映像の彼女は、バ場の感触を何度も確かめるように足踏みをしている。

 

「きたきた、アグネスタキオン!」

「頑張ってくれよ~。日本から応援してるからな~!」

 

 ファンは興奮し、彼女の勝利を願う。その中には

 

「……タキオン」

「ぽ、ポッケちゃん大丈夫ですか?あまり無理して見なくても「問題ねぇよ、トップロード」ポッケちゃん……」

「見なきゃいけねぇ。そんな気がするんだ」

 

 ジャングルポケットの姿もあった。

 

 

 フランス、ロンシャンレース場。天気はあいにくの曇り空である。空模様に関しては大した問題じゃないだろう。問題なのは……ロンシャンのバ場だ。

 アグネスタキオンは苦々しい表情を浮かべる。想定していたケースの中でも最悪に近いものを引き当てた、そんな状況だった。

 

(重バ場開催……良バ場で走ったニエル賞とは全く違う。前哨戦での経験がほぼ無に帰したか)

「しかし、本当に別物だ。深く沈むし、駆け抜けるのにかなりの力がいる。スタミナが削られることは必至、か」

 

 冷静に分析し、情報を頭に叩き込む。どう走るのが最適か?どうすれば上手く走れるかを計算する。

 

「『あなたが日本からやってきた挑戦者、アグネスタキオンだね』」

 

 考え事をしているタキオンに話しかけてくるウマ娘、サリーブ。タキオンが反応して声のした方を振り向くと、ニコニコとした表情のサリーブが立っていた。

 

「『おやおや、サリーブ君か。私に何か用かな?』」

 

 答えは返さず、ただジッと見つめている。不敵な笑みを浮かべるタキオンとニコニコ笑顔のサリーブ。なんとも不思議なにらみ合いが続いていた。

 膠着状態が続く中、サリーブがポン、と手を叩く。

 

「『うん、()()()()。とっても強いね、貴方』」

「『おや?凱旋門賞最有力候補様に言われると自信がつくというものだねぇ』」

「『貴方だって差がないでしょ?ニエル賞のレース、見たよ』」

「『それは嬉しいねぇ。私も君のインターナショナルステークスは見させてもらった』」

 

 今回のレース、1番人気と2番人気の語らいに注目が集まる。会場中の視線は2人に注がれていた。

 次はどのような言葉が交わされるのか?ドキドキしながら待っていると、サリーブは笑顔で。

 

「『貴方と一緒に走るの凄く楽しみだった!今日はよろしくね、タキオン!』」

 

 予想外の言葉、表情に一瞬面食らう。が、すぐに笑みで答えた。

 

「『あぁ、よろしく。今日は楽しいレースにしようじゃないか』」

 

 その言葉を最後に、2人はそれぞれウォーミングアップに戻る。この一幕に会場は沸き上がった。

 サリーブが去った後、身体を動かしながら物思いに耽る。

 

(成程……アレは確かに強いね)

 

 表情こそ笑顔だったが、確かな圧を感じた。強者としてのオーラを、自分を超えているだろう、と思わせるほどの力を。

 

(だからこそ、()()()

「さぁ、検証を開始(はじ)めよう」

 

 気づけば狂気的な笑みを浮かべている。怪しげに笑いながら、ゲートへと向かっていった。

 

 

 レース開始前、ロンシャンレース場は静まり返っている。張りつめた空気が支配し、誰もが口をつぐんでいた。

 

《ついにこの日がやってきました、世界最高峰の舞台凱旋門賞!ロンシャン芝2400m、バ場の状態は重バ場の発表です》

《これはタフなレースになりますね。果たして栄光を手にするのはどのウマ娘か?》

《中でも注目を集めているのはこの2人!インターナショナルステークスで衝撃の7バ身差圧勝を飾った1番人気サリーブ!》

《1年間の休養に1レース挟んでのあのパフォーマンスですからね。恐ろしいという他ありません。どのようなレース運びをするのか?》

《そしてもう一人は日本からの挑戦者アグネスタキオン!ニエル賞は名だたる欧州ウマ娘達を一蹴する6バ身差での圧勝劇を見せてくれました!未だ凱旋門賞の勝ちがない日本勢、悲願の初戴冠なるか!?》

《日本中の期待を背負っているといっても過言ではありませんね。ですが非常に落ち着いています》

 

 1人、また1人とゲートへと入っていく。そして最後のウマ娘がゲートへ入り、態勢が整った。

 

《最後のウマ娘がゲートに入りました。頂点を決める戦い凱旋門賞。緊張の一瞬……舞台の幕が今っ!》

 

 静寂な空間を切り裂くようにゲートが開く音が響く。沸き上がる歓声、一斉に駆け出すウマ娘。

 

《上がりましたッ!さぁまずは誰が行くのか?ペースメーカーを務めるのはどのウマ娘だ!15番枠からの出走サリーブ、3番枠発走のアグネスタキオンはどの位置につけるのか?4番枠のウォーターペインターも幸先の良いスタートを切ります!》

 

 凱旋門賞が始まった。

 

 

 

 

 

 

 序盤から繰り広げられる激しい攻防。ハナに立つのはニエル賞でも逃げたリッペンシティフトとホーホドリュック。アグネスタキオンは内枠を活かして進出し、内側の4番手集団につけていた。サリーブは外から内へと進出し、最内を確保しようとしている。ロンシャンの重バ場はパワーを使う。できる限り最短距離を走ってスタミナの消費を抑えようとしているのだろう。

 

《先頭走りますはリッペンシティフト、今回も逃げますリッペンシティフト。半バ身、1バ身程離れてホーホドリュックが続きます。集団の先頭はアクアアンバー、その後ろにアグネスタキオン。日本のアグネスタキオンは最内の4番手をキープ》

《閉じ込められるリスクを承知の上で内側を取りましたね。この判断が良い方向に向かうかどうか?》

《続きましてはジャッジョーロが5番手、ヘルモンが内に続きます。サリーブは、まだ外だ。サリーブは内へ行きたそうにしているがまだ外にいる。アメティースタ、アンテットマンと3人並んでの外側だサリーブ》

 

 ただ、サリーブの位置取りは思うようにいかない。レースはまだ序盤、熾烈な位置取り争いが繰り広げられており、サリーブが行きたい道は困難である。

 

(う~ん、進路がないね。ここは仕方ない、()()()()()()

 

 無理に内側へ進出するのを諦め、外で進路が開くのを待つ形になった。アグネスタキオンもすぐ後ろのヘルモンからプレッシャーをかけられており、決して楽な道のりではない。

 

(私を徹底マークするつもりか……まぁ問題はない。このバ場でどう走ればいいかも大体分かった。最後までもたせてやるさ)

 

 しかし、一切乱されることなく、鋼のメンタルでレースを展開する。

 

 

 アグネスタキオンの状況は、高村達も確認していた。

 

「いいぞ、冷静に動けてる!しかも、この状況で欲しかった内側の進路を取ることができた!」

「コーナーまでまだ距離はありますが、序盤の攻防はこちらに軍配が上がりましたね。後は」

「あぁ。前が壁にならないように注意するだけだ」

 

 観客の声援がレース場を支配する中、佐岳は嬉しさを隠し切れずにガッツポーズをする。重バ場という状況で最も欲しかった内側という進路を勝ち取ることができた。油断はできないが、最初の攻防の結果有利に動けるのはこちらである。

 加えてサリーブは外側、少しばかりだが距離ロスが発生する。内側へ行こうという素振りがあったが、彼女もこのバ場で距離ロスは避けたいのだろう。とはいっても、進路は閉じていたため進出はできず。結果として外を走ることになる。

 

(サリーブは外、タキオンは内……どこまで走ることができるか、だな)

 

 展開によっては前が壁になる可能性も十分にある。そうならないためにも動き出しは重要だ。

 

「どこまで冷静さを保てるか、ですね」

「あぁ。このバ場で、体力を消耗する中で辛抱することができるかだ。ジッと我慢強くいけよ~」

 

 サクラバクシンオー達の元気の良い応援を聞きながら、冷静にレースを分析する。ノートを開き、今の展開を書き留めていた。

 

 

 レースは最初のコーナーを迎える。ようやく熾烈な先行争いが終わって、最後の直線のために脚を溜め始めた段階だ。

 

《レースを引っ張るリッペンシティフト、差がなくホーホドリュック。ホーホドリュックから1バ身後ろを走るアクアアンバーはこの位置だ。4番手内側にアグネスタキオン、その後ろにピッタリとヘルモン。ヘルモンがいますがっ、おぉっと!外側からサリーブが強襲!外からサリーブが5番手に浮上しようかという勢い!》

《コーナーのこのタイミングですか!アグネスタキオンに並ぼうとしています!》

《外からサリーブ、内にはヘルモンとアグネスタキオン!この状況でアグネスタキオンはどうするか?っ、動かない!冷静に俯瞰しているアグネスタキオン!サリーブはヘルモンの外をキープ、後方にはウォーターペインターが前から……10番手、11番手の位置にいるか?集団は固まってきています》

 

 この状況にアグネスタキオンは思わず舌打ちしそうになる。

 

(厄介だねぇ、ここでその位置を取られたか)

 

 本来であれば内側に閉じ込めたかった。が、それは自分よりも後ろの位置でだ。並んだ今の位置で、なおかつ外側を取られるとこちらが少し厳しくなる。

 

(現時点で距離のロスが最も少ない経路を進んでいる。最内ではなくとも、あの位置からならもつという自信の表れか)

 

 後ろにいるヘルモンも油断ならない。すぐにでも差し切ってやるという圧をレース序盤からずっとかけられている。

 

「『厄介なっ!』」

 

 だが、後ろにいるヘルモンもサリーブの位置に気づいたのだろう。悪態をつく声が耳に入った。

 アグネスタキオンは思考する。今この状況で、サリーブを封じ込めるにはどうすればいいか?を。

 

(……この手を試すか)

 

 考えが決まったタキオンは、()()()()()()()()()()()()()。加えて、加速しながらだ。

 

「およっ?」

 

 サリーブは一瞬呆けるが、すぐに意図を探る。

 

(この状況で、最内を捨てた?考えられる手としては……)

「『前が壁にならないように、とかかな?でもそれだと加速する意味はない……う~ん?』」

 

 アグネスタキオンをマークしているヘルモンも真ん中に寄った。内へ切り込むには絶好の位置取りになっただろう。だが……サリーブは飛びこまない。

 

(多分だけど、私を閉じ込めたいって考えているはず。だから内へと誘導している……ふ~ん)

「『これじゃあダメかな?引っかかってあげないよ』」

 

 サリーブは今の位置をキープする。アグネスタキオン達の後ろ、外側につける。いつでも抜け出せるようにと崩さない。

 落ち着きを取り戻したと思われるコーナー。しかし、今でも攻防は続いていた。

 

《アグネスタキオンが外へ進路を取ります。つられるようにヘルモンも最内を捨てて真ん中寄りの位置へ。サリーブは、その後ろをキープ。サリーブの内にはサテューンがついています。サリーブの外からはマラルメが来ているか?固まったバ群、序盤の激しい攻防からは一転して静かなレース運び。フォルスストレートに向かいます!》

(……この手はダメか。次の手を試すとしよう)

(色んな手を出しても良いよ~?全部看破してあげる)

 

 コーナーを下るウマ娘達。最初に飛び出すのはどのウマ娘か?




てか今でこれってことはハーフアニバはどうなってしまうんや?
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