アグネスタキオンが加入して、彼女が抱えているものについても分かってきた。
「……痛みは?」
「心配性だねぇトレーナー君は。問題ないと言ってるだろう?」
トレーニングを終えたアグネスタキオンの脚を触診。さすがに専門家には劣るけど、多少は勉強している。彼女の言う通り、問題はないようだ。
別に脚を捻ったとか、トレーニング中怪我に繋がるようなことがあったとかそういうわけじゃない。ただ、彼女の脚は……脆い。
(これがアグネスタキオンの抱えているもの、か)
トレーニングをしていく中で発覚した、アグネスタキオンの脚のこと。本人曰く。
「エンジンだけ立派で、それを支える周りの強度がまるで足りてないのさ。君ならば、察していたんじゃないのかい?」
らしい。アグネスタキオンは天性のスピードを持っているが、代わりにガラスの脚と自虐するほどに脆かった。
(せっかくスピードを出せても、全てを引き出すとなると脚を壊すことになる。難しいな)
でもまぁ、
そのためにもまずは食生活の改善。弁当作りに関してもこれが主だったりする。
「ま、アグネスタキオンは引き続き基礎トレ中心で身体作りを頑張ろうか。無茶して身体を壊したりでもしたら大変だからね」
「はいはい、分かっているよ……それはともかく、この薬を飲みたまえ、トレーナー君」
アグネスタキオンが怪しげな笑みと共に取り出したのは、なんか凄い色をした試験管。今回は何の薬だ、これ。
「今回の試験薬“Δ”改は味を調整しつつ前回と同等の疲労が回復できるようにしてみた!肉体改造実験で疲れただろう?さぁさぁ、早速飲み「いただきます」……毎度思うが躊躇がないねぇ君は。相変らずの狂気だ」
「……別に、命に関わるようなことでもないし。何回でも言うけどね」
味は多少マシになったけど、それでも酷い味だね。これも今後のためだ。効果のほどはというと。
「……前より疲労が取れなくなってるね。そうそう上手くはいかないか」
「う~ん、残念だ。これも改善しないといけないねぇ」
残念そうにしている。研究結果が芳しくないからだろうな。
「あ、あの~……なんでトレーナーさんも一緒にトレーニングしているんですか?」
「ん?」
おずおずと、キタサンブラックがこちらへと質問してきた。なんで僕までトレーニングしているか、か。
「まぁシンプルだよ。アグネスタキオンの実験のためだね」
「じ、実験?」
「そう。肉体の強度を高めるためのね」
人間とウマ娘は身体の構造はそう変わらない。なので同じ効果が期待できる……はず。一応、アグネスタキオンも自分で実験することもあるらしいし、問題は、ない。うん。多分。
「それに、僕はどうも運動不足だし。全く運動しないのもアレだから、運動しないと」
「は~、そうなん「それは良い心がけですッ!トレーナーさん!」うわっ!?バクシンオーさん!」
気づいたらトレーニングを切り上げたバクシンオーがこっちに来ていた。本当にびっくりしたよ。
「健全な精神は健全な肉体からというように、身体を鍛えるのはとても良いことですッ!では、私がお手伝いしましょうッ!」
「いや、気持ちだけ受けと「いざ!共にバクシィィィィィン!」ダメだね、これ」
バクシンオーに引っ張られてランニングをすることに。もうトレーニング終わりなんだけどな。
◇
アグネスタキオンのトレーニングはこれだけじゃない。勿論、他の子とだってトレーニングをする。
「さぁタキオンさん!共にスピードの向こう側を目指してバクシンしましょうッ!」
「詳細なデータを撮らせてもらうよ?委員長君」
ビデオカメラを向けて、バクシンオーとアグネスタキオンの併走。デビュー済みのバクシンオーと未デビューのアグネスタキオンの差は歴然だが。データをまとめつつカメラを回す。
併走を終えたアグネスタキオンがすぐさまこちらへと詰め寄ってくる。
「さぁトレーナー君!速やかにデータをまとめたまえ!1人で走った時のデータと今走ったデータ、その比較をしようじゃないか!」
近い近い。分かったから顔を近づけないで欲しい。
まとめたデータを2人で見る。アグネスタキオンはというと。
「ほほ~う!
「だね。20%程かな?」
「いやいや、もっと上がると私は睨んでいるよ。さぁ、もう一本走ろうじゃないか!」
満足そうな表情をしていた。思った通りの結果が得られて嬉しいんだろうな。
さらには他のトレーナーの子とのトレーニングもする。
「うぇーいひじり~ん!今日もパリピってる~?」
「お疲れ様です。別にパリピってはないです」
ダイタクヘリオスやメジロパーマーを担当している先輩トレーナーだったり。
「今日もトレーニングをお願いしてもいいかな?ちょっと気になることがあって」
「大丈夫です。むしろ、願ったり叶ったりです」
シンボリルドルフのトレーナーさんだったりと。学園でも親交のある人達と一緒にトレーニングしたりしていた。
時にはバクシンオーのレースを観戦しに行ったりもする。バクシンオーの観察だけではなく、他のウマ娘の観察もかねて。
「素晴らしい!併走の時の委員長君よりもさらに能力が向上しているじゃないか!やはり、私の思った通りだ!」
「強い相手と鎬を削ることで、ウマ娘は高いパフォーマンスを発揮することができる……精神が肉体に与える影響は計り知れない」
「その通りさトレーナー君!より強い相手と戦うことで更なるパフォーマンスの向上が期待できる。データは逐一取らねばなるまい!」
観戦しつつデータを収集。これも全てはアグネスタキオンの目的のためだ。
そしていつもの薬。
「今回の薬は?」
「今回は筋力増強系だねぇ。プロテインみたいなものさ」
「……飲んだら全身が赤く発光した」
「副作用はコレか……いや、眩しいんだが?」
「タキオンさんのせいですよね?トレーナーさんが眩しいの!」
さらにはアグネスタキオンの脚を強化するためのトレーニング。
「千里の道もっ、一歩から!というヤツ、かい?この、地道な、基礎トレはっ!」
「そういうことだよ。後は温泉とか、諸々効果があるものを試していこう」
「分かった、よっ!」
とにかく尽くせる手を尽くしていく。少しでもアグネスタキオンのスピードを引き出すために。限界の許容量を増やしていくために。
「おいトレーナー君!どうして今日のお弁当にピーマンを入れたんだい!」
「……健康にいいし」
「おいおい、私は苦いものが好きじゃないんだ。その辺ちゃんと考えて作りたまえよ全く!」
「苦手でもちゃんと食べてね。あまり文句を言うとゴーヤを生のまま食べさせるよ」
「えー!?そ、それならこっちにだって考えがあるぞ!」
余程ピーマンがお気に召さなかったのか、アグネスタキオンは怪しげな笑みと共に薬を取り出す。効果はなんだろうな、アレ。
「この薬を強制的に飲んでもらお「別にいいけど。それでアグネスタキオンが残さず食べるなら」そ、そうだったー!?トレーナー君にこれは通用しないじゃないか!」
「良いから食べてね。ちゃんと、アグネスタキオンのことを考えて作ってるんだから」
「……分かったよぅ」
う~ん、耳も尻尾もがっくりと項垂れている。さすがに可哀想だな。
「ちゃんと食べてきたら、冷蔵庫にあるプリンを持っていっていいよ」
あ、アグネスタキオンの耳がピクリと動いた。
「ほ、ほう?だが、ただのプリンじゃあだめだ。私を動かすならそれなりの品物なんだろうねぇ?」
「ウマウマ堂が販売している、一日限定10セットしかないプリンだよ。この前シンボリルドルフのトレーナーさんに貰ってね」
アグネスタキオンの耳が忙しなく動いている。あれは多分、嬉しい反応だろうか。
「ッ!し、仕方ないねぇ。なら食べようじゃあないか!いいかい?決して、決して私に黙って食べるんじゃないぞ!ちゃんと私の分を残しておきたまえよ!」
「勿論。それじゃあね」
最終的には機嫌良さそうに部屋を出ていった。さて、冷蔵庫のプリンがちゃんとあるか、冷えているかを確認しておくか。一応、バクシンオー達の分も確認しておこう。
とまぁ、アグネスタキオンのために尽くせる手を尽くしてきた。
(幸いにも、バクシンオーのこともあるからノウハウが流用できるってのが良かったな)
一から勉強するよりも、ノウハウが少しでもあったのが大きい。その結果として。
「……よし。デビューしても問題がないほどの強度が確認できた。早速デビュー戦といこうじゃないか!」
アグネスタキオンも満足するぐらいのものになった。心の中でガッツポーズをする。
(ただ、これでようやくスタートラインだ。ここから先、もっともっと頑張っていかないと)
アグネスタキオンのトレーニングと一緒に、脚を強化するためのプランを考える必要がある。まだまだ、上を目指さないといけないからね。
「ところでトレーナー君。私の目標レースなんかは設定しているのかい?」
唐突に聞いてきたアグネスタキオン。彼女の目標レース、か。
(アグネスタキオンの目的は、可能性の果てへと至ること。ウマ娘の限界速度の果ての追求、だったな)
これまでのことを考えて、まずはなにを目標にすべきか。
(クラシックの出走はほぼ確定だろう。アグネスタキオンの意思次第になるけど)
強い相手と戦えるのだから、G1みたいな大きなレースには確実に出走する意思を見せるはずだ。けど。
(より強い相手と戦うなら……)
「お~い?どうしたんだいモルモット君。私の目標レースを聞いているんだが?」
「……あぁ、ゴメン。とにかくメイクデビューを済ませよう。その次は──ホープフルステークス。ジュニア級G1の出走を考えている」
「ほう!」
「より強い相手と戦うなら、やっぱりジュニア級G1には出走しないとね。ジュニア級の大目標はホープフルステークスだ」
まずはこれでいいだろう。後は追々決めていく。クラシック期は、どのレースに出走するかは、ね。
「了解だ。ま、まずはメイクデビューを勝たないと話にならないがね。ただでさえ私の注目度は高いからねぇ」
「……それはアグネスタキオン自身のせいでもあるけどね」
「でも、君の
ニヤニヤしながらこっちを見るアグネスタキオン。言わんとしたいことは分かるけどね。
「ま、マークされても問題ないよ。君なら勝てるだろう?」
僕の問いかけに、アグネスタキオンは不敵に笑う。
「──当然だ。さぁ、華々しいデビューを飾ろうじゃあないか」
アグネスタキオンのメイクデビューは、もう少しだ。
とりあえず円盤出してくれ。新時代の扉もRTTTも。