ビヨンド・ザ・ライトレス   作:カニ漁船

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前半インタビューと菊花賞。


インタビューと菊花賞

 凱旋門賞が終わった僕達に待っていたのは。

 

「凱旋門賞勝利おめでとうございます、高村トレーナー!アグネスタキオンさん!」

「ありがと「本当に……本当に!日本初の偉業!凄いですね!」ありが「勝利の秘訣となったものは!?」それ「レース前にはどのような会話をしていましたか!?」質問責めだね」

 

 報道陣による質問責めである。日本の初の偉業を成し遂げたわけだから当然と言えば当然だけど、凄い勢いだ。みんな我を忘れて質問をしてくるね。こっちが答えている暇がない。

 

「トレーナー君、私はすでに帰りたいのだが」

「我慢して。佐岳さんだって我慢しているんだから」

 

 チラリと佐岳さんを見るけど……いや、ニコニコしてるから我慢はしていないね。質問を丁寧に捌いている。凄いな。

 

 

 少し経ってようやく落ち着いた様子を見せる報道陣。

 

「す、すいませんでした……逸る気持ちを抑えることができず……」

「いえ、大丈夫です。お気持ちは分かりますので」

 

 それぞれから謝罪を受けて、ここからが本番だ。1人ずつ質問に答えていく。

 

「まずは凱旋門賞制覇、おめでとうございます。勝利の決め手となったものは?」

「ありがとうございます。日々のトレーニングと対戦相手の研究を怠らなかったことです」

「日本勢初の偉業!今のお気持ちは?」

「やっぱり嬉しいですね。どんなレースにも言えることですが、担当のウマ娘が勝つというのは嬉しいことですから」

 

 丁寧に答えることを心がける。タキオンもタキオンで質問に答えており、記者の人達も相槌を打ちながら内容を記録していた。

 特に何事もなく進行し、もうすぐインタビューの時間も終わりそうという頃。その質問はやってきた。

 

「アグネスタキオンさんの次走はなにを考えていますか?一応、ジャパンカップや有記念には出走可能ですが」

 

 次走、か。考えてこなかったわけじゃないけど……。

 

(今のタキオンを考えると、慎重に選びたい。どちらにも強い相手は出走してくるけど……厳しいものがある)

 

 今のタキオンは100%の領域を使うことに恐怖を覚えている。まだまだ研究が進んでいないし、どういった影響を及ぼすかも分からない状態。これからもっと詰めていく予定ではあるけど……それがジャパンカップや有までに間に合うかどうか。

 後は疲労の影響もある。そう考えると、この2つのレースを走るのはかなり厳しいところだ。

 

「……まだ決まっていません。アグネスタキオンの疲労と相談になりますが、年内のレースはちょっと厳しいかもしれません」

「確かに、凱旋門賞は激闘でしたからね。今はまだ身体をゆっくり休めた方がいいかもしれない、と」

「そうですね。ですが、絶対に出走しないわけではなく、可能性としてはあるかもしれません」

 

 記者の人達も納得しているような反応を見せてくれた。実際どうなるかは分からないけれど、次は年明けになるかもしれない。

 

「年明けの予定は決まっていますか?」

「一応、暫定ではありますが決まっています。アグネスタキオンと相談して決めました」

「年明けはドバイシーマクラシックに出走するつもりだよ」

 

 予定が決まっている、と答えるとタキオンが間髪入れずに答えた。この発表に会場はざわついている。

 

「おぉっ!ドバイワールドカップミーティングですか!」

「はい。こちらも世界中から強豪が集まってきますので」

「これは楽しみですね~!」

 

 その後もつつがなく進行していき、インタビューは終わった。

 

「お疲れ様でした佐岳さん」

「あぁ、聖トレーナーもタキオンもお疲れだったな!」

「ほらトレーナー君、早く帰るぞ。実験は待ってはくれないのだから!」

 

 急かすタキオンと一緒に帰路につく。うん、インタビューが無事に終わって一安心だ。

 

 

 

 

 

 

 日本に帰ってきて、随分と時間が経ったものだ。さすがに時差ボケも解消したというものだね。

 さて、目下気になることといえば……菊花賞だろう。世代の最も強いウマ娘を決める戦い、京都の芝3000mで開催される、クラシック最後の戦い。私は走らないが、カフェ達が走るからねぇ。

 

(カフェは6番人気。1番人気はポッケ君、か。まぁ札幌記念の敗戦があったとはいえ、ダービーウマ娘だ。この評価も頷ける)

 

 後はダンツ君だね。ダンツ君は2番人気、それに……調子は良さそうだ。ポッケ君は普通だね。

 そんな菊花賞をトレーナー君と一緒に観戦しに来た。

 

「トレーナー君。誰が勝つと思う?」

「……マンハッタンカフェ。皐月やダービーには出てないけど、彼女は本来ステイヤータイプのウマ娘だ。距離が長ければ長いほど有利に働く」

「私と同じ見立てだねぇ。ポッケ君やダンツ君をとやかく言うわけじゃないが、この領分ならカフェに軍配が上がるだろう」

 

 それに、ポッケ君は……よそう。この話を蒸し返すのはもう止めだ。レースに集中するとしよう。

 肝心のレースはというと。

 

《このままエフェメロンが逃げ切ってしまうのか!?ここで大外からダービーウマ娘ジャングルポケット!ジャングルポケットが上がってきた!ダンツフレームも来る!ダンツフレームとジャングルポケットが外から上がってきた!エフェメロン必死に逃げ粘る!》

《ッ!いや、待ってください!真ん中から来ますよ!》

《そして真ん中からマンハッタンカフェ!真ん中を割ってマンハッタン!大外からジャングルポケットとダンツフレーム!ダンツフレームがわずかに有利か!?エフェメロン逃げ切れない!残り100mで捕まった!マンハッタン先頭マンハッタン先頭!》

 

 バ群の真ん中を割るように上がるカフェと大外から食らいつくポッケ君とダンツ君。わずかにダンツ君が前に出ているね。しかし、カフェの速さには追いつけないでいる。やはりカフェが勝つか。しかも……見たところ領域に到達している。

 う~ん、惜しいねぇ。彼女が中距離に来ればあるいは、と思うのだが。得意な距離が違うのがいかんともしがたい。

 

《マンハッタンカフェ押し切ったぁぁぁぁ!クラシック最後の冠を戴冠したのはマンハッタンカフェ!中団からの怒涛の追い上げ!バ群の真ん中を剛脚一閃!凄まじい上がりを見せましたマンハッタンカフェ!菊の冠を受け取ったのは6番人気のマンハッタンカフェだぁぁぁ!》

《皐月とダービーは体調の問題から出走できなかった彼女。この菊花賞で見事に雪辱を果たしました!おめでとうマンハッタンカフェ!》

《2着はジャングルポケット!3着はダンツフレーム!3分7秒2の激闘!京都で己の強さを証明しましたマンハッタンカフェ!》

 

 彼女達が次どこを走るのか……楽しみではあるがね。

 

 

 菊花賞が終わり、旧理科準備室でデータをまとめながら過ごしているとカフェが来た。いつものようにコーヒーを淹れ、彼女のパーソナルスペースに置かれているソファに座る。

 さてさて、早速祝ってやろうじゃあないか!

 

「やぁカフェ!菊花賞おめでとう!」

「……ありがとう、ございます」

「いやはや、実に素晴らしい末脚だった!バ群の真ん中を突っ切って差し切るとはねぇ。今度是非データを取らせて「また、それですか」おっと、コイツはすまなかった。私の知的好奇心が抑えきれなかったようだ」

「いつも通り、ですね。凱旋門賞を勝っても、変わらない」

 

 当然だ。そんな劇的に変わるわけ……いや、変わったと言えば、変わったか。

 

(まさか、全力を出すことへの恐れがあるとはね。我ながら驚いているよ)

 

 私の目指す限界速度の果て。その最大の障害となるのが、私自身の問題とはね。しかも、かつてポッケ君達に突きつけた恐怖という感情が私に巡ってきた……因果応報とはこのことかもしれない。

 一応、あれから検証は重ねてみた。その結果分かったのは、領域があの景色に変化してしまったということ。真っ暗闇に幻影の私が走る光景、そして幻影の脚が砕け散る……なんともまぁ不気味なものだ。私の身体に異常はないとはいえ、見ていて気分の良いものじゃない。

 

(かといって、領域を使わないという選択肢はない……)

 

 私の目指す果てには必要不可欠なパーツの1つ。それに、いずれは克服しなければならないものだ。問題点は解消しないといけないからねぇ。

 

「タキオン、さん?」

「……ん?」

「ボーっと、していたようですが。大丈夫ですか?まだ、遠征の影響が?」

 

 そんな風に考え込んでいると、カフェから話しかけられる。こちらを心配するような声。ちょっと考え事に没頭し過ぎたか。

 

「いや、問題はない。ちょっと考え事をしていただけさ。トレーナー君にどんな実験をしてやろうかってねぇ!」

「……相変わらず、ですね」

 

 ジトーっとした目で睨まれてるねぇ!

 話題は変わって、遠征の時の話になる。カフェとしても興味があるのか、少し前のめり気味な気がするよ。

 

「どう、でしたか?凱旋門賞は」

「面白いことは何も……いや、委員長君のせいで我々が忍者集団に誤解されるという事件があったか」

「……あぁ。セーヌ川を爆走する、バクシンオーさんの一件、ですか」

 

 まさか日本にも情報が出回っているとは。いや、確かにニュースになってはいたけども。

 

「アレのせいでやれ我々は忍者の末裔だの日本のウマ娘は特殊なトレーニングを積んでいるだの大変だったよ……誤解が解けて本当に良かった」

「お疲れ、様です。高村トレーナー共々」

 

 あの一件はすでに解決済みだ。トレーナー君や佐岳君が奔走していたからねぇ。

 

「一番の、強敵は、やはりサリーブさんでしたか?」

「……そうだね。彼女は油断ならない相手だった。最後の最後まで気が抜けなかったよ」

 

 その後もコースのこととか芝のこととか聞いてくるカフェ。先程からずっと凱旋門賞の質問をしてくるが……もしかして。

 

「カフェ、凱旋門賞に興味があるのかい?」

 

 私の質問に、わずかに反応するカフェ。ふぅン、図星か。

 

「……一応、来年度の目標に、しようかと」

「そうかい。だったら、佐岳君を頼るといい。彼女のアドバイザーとしての腕は本物だ」

 

 彼女ならば喜んで協力するだろう。それにしても、カフェも凱旋門賞を、ねぇ。

 

「……ただ、その前にやらなければならないことが、あります」

「ふぅン?それはなんだい?」

 

 やらなければならないこと?一体何をしようというのやら。

 次の言葉を待っていると、ソファに座っていたカフェは唐突に立ち上がった。コツコツと歩き、私の目の前にやってきて──指を突きつけてくる。

 

「タキオンさん。私と──記念で勝負してください

 

 それは、予想だにしてない宣言だった。




これにはタキオンもビックリ。
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