ビヨンド・ザ・ライトレス   作:カニ漁船

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ちょっとカフェがキャラ崩壊しているかもしれない。


幻影の挑発

 自分でも、らしくないというのは分かっています。けれど、こうせずにはいられなかった。

 目の前には驚いた表情のタキオンさん。私の宣言が、彼女にとって意外だったのが、分かります。まぁ、私からこんなことを言うのは珍しいから、仕方ないかもしれませんが。

 

「……へぇ?君からそんなことを言うなんて珍しいねぇ?カフェ。私の聞き間違いかな?」

「聞き間違いでは、ありません。タキオンさん、私と有記念で勝負してください」

 

 再度同じ宣言をします。そうすることで、タキオンさんは、これが冗談ではないと分かったのでしょう。目を細めて私を睨み始めました。

 

 

 タキオンさん。同じ部屋を共有する、変な人。いつも実験と称しては高村トレーナーに変な薬を飲ませて発光させている、いわゆるマッドサイエンティストみたいな方。さらに、たまに自分も発光しているから、理解ができません。

 

「私のための薬だぞ?私も飲むのが当然の道理だろう?」

 

 と、本人はあっけらかんとしていました。

 そんな彼女と初めて走ったのは、弥生賞。あの時は、なすすべもなく負けてしまいました。調子も悪くなく、出走にこぎつけて挑みましたが……結果は惨敗と言ってもいいでしょう。

 タキオンさんの3バ身差2着。数字だけ見れば立派ですが、タキオンさんは全力ではなかった。領域の一端しか使わず、レース後も余裕を見せていた。

 

(この人は、まだ……底を見せて、いないッ!)

 

 実力不足を痛感した。だからこそ、しっかりと基礎を固めよう、もっと強くなろう。そう思った矢先に……体調を崩してしまいました。

 

「……ケホ、ケホっ」

〈カフェ。ムチャダメ。タイチョーダイイチ〉

「うん、大丈夫。しっかり、分かってるよ」

〈アセリゲンキン!アケデセイチョー!ヨロシ?〉

「そうだね。これ以上、離されたくないから」

 

 クラシックの春シーズンは、トレーナーさんと相談して全休することに。秋の菊花賞に向けて、調整することになりました。

 その間にも、タキオンさんはどんどん成長していきます。特に、皐月賞は凄まじいという他なかったでしょう。ポッケさんやダンツさんといった強豪を相手に、領域を使用して余裕の勝利。しかも、その領域は……20%程度の力。

 

(まだまだタキオンさんには、遠く及ばない……)

 

 だからこそ、夏合宿で更なる飛躍を。そう誓いました。

 夏合宿では、チームのみなさんにお願いして、トレーニングを重ねました。特に、会長さんやテイオーさんにはとてもお世話になった。

 

「アグネスタキオンに勝ちたい、か。生半可な努力では足りないだろうな」

「タキオン自身が天才だし、なによりトレーナーもヤバいからね~。めっちゃ厳しくいくよ?」

「……望むところです。私は、絶対に追いついてみせます」

 

 追いつくだけでは、足りませんね。追い越してみせる。その先にきっと、私の目指すモノがあるから。

 会長さん達との併走、他のチームの方々との合同トレーニングを経て、私は進化を遂げたと実感しました。そして、領域もモノにすることができた。自信を深めて、秋シーズンへ挑むことができる……そんな時に開催された、タキオンさんの凱旋門賞。

 タキオンさんは2番人気。1番人気は、別の方。向こうのG1を7バ身差で圧勝した、サリーブさんという方。

 

(強い……映像越しでも分かる)

 

 そんな相手と渡り合うタキオンさんも、強い。けれど、自分も負けない。漠然とそう思っていました。そして──凄まじい攻防を目撃しました。

 最後の直線。同時に抜け出したタキオンさんとサリーブさんの、激しい叩き合い。お互いに領域を切り、文字通り全身全霊をかけて走っていた。思わず手に持ったウマホを、強く握りしめてしまうほどに。

 けれど、気になったことが、1つ。

 

(……タキオンさん。なにに、怯えているのですか?)

 

 タキオンさんの表情が、恐怖に染まっていたこと。レースを観戦して、疼く自分の身体を抑えつけながら、()()()()()タキオンさんの表情に、疑問を感じずにはいられませんでした。

 結果は、タキオンさんが抜け出しての勝利。レース後、高村トレーナーが急いで駆けつけていたので、心配しましたが、後日発表された異常なしという結果に安堵します。本当に、良かった。

 

 

 私にとってタキオンさんは、変な人です。時折理解が追いつかない、そんな方。けれど、レースの実力は本物で、私達の世代の、頂点に立っているでしょう。

 ファンの方々に聞けば、誰もがタキオンさんこそが最強だと答えるでしょう。ポッケさんや私ではない、タキオンさんこそが最強だと。

 

(……そんなの)

 

 えぇ、確かに実績があります。皐月賞に、凱旋門賞。輝かしい成績を残しています。最強という言葉も、間違いではないかもしれません。

 

(……そんなの)

 

 頭では理解できます。けれど……許せるはずがない。

 私らしくない。えぇ、自分でも分かっています。でもこの衝動は止められません。凱旋門賞からずっと、下手したら、弥生賞からずっと感じていたこの気持ちに、嘘はつけません。きっと、ウマ娘としての本能なのでしょう。

 

(競い合いたくなる……ッ!)

<ソレデヨシ、カフェ!……獰猛な獣のように、精神を研ぎ澄ますのさ>

 

 強敵(タキオンさん)と、競い合いたいと!

 

 

 目の前のタキオンさんは、相変わらず私を睨んでいる。

 

「どう、しました?もしや、有には出ないと?」

「……そのことだがねぇ」

 

 タキオンさんは、椅子にもたれかかり、溜息を吐きます。表情は、残念がっているような、そんな顔。

 

「有は2500mとはいえ、一応長距離だろう?そして、私の最適性は中距離だ。有とは少しズレている」

「……なにが、言いたいんですか?」

 

 どうせ結論は出ているのに、もったいぶるところ。あまり好きではありません。普通に、腹が立ちます。

 

「つまり、私の目的には合致しない。故に、走る意味はない。それが私の結論だ」

「……有記念には出ない、と?」

「ま~そういうことだね。悪いとは思うが、中距離でなら戦おうじゃないか」

 

 笑いながら、PCに向き直ろうとしている、タキオンさん。そんな彼女に。

 

「──あぁ、負けるのが怖いんですか

「……なんだと?」

 

 私は、特大の爆弾を、投下しました。タキオンさんの表情から感情は消え、底冷えするような視線を向けられます。

 あぁ、悪いとは思っています。こんなことを言うつもりはなかった、大人しく引き下がればよかった。でも、我慢ができなかった。後、普段のちょっとした、仕返しです。

 

「自分の得意距離でなければ、私に勝てる自信がありませんか」

「……ほう?」

「えぇ、仕方ありません。ならば、別の距離で挑みましょう。それで、構いませんか?」

 

 どの口が。そう言いたくなるでしょう。自分のことを棚に上げて、本当にごめんなさい。挑発なんて私らしくない、そう思いますが、貴方のやる気を出させるには、これしかない。それに、内からあふれる衝動を、もう抑えることができません。

 

「……クックック、随分とまぁ安い挑発だ。私がフランスに行っている間に、そんなジョークを覚えるなんてねぇ」

「……なんとでも」

「それほどまでに私と戦いたいのかい?アッハッハ!そいつは光栄なことだ!」

 

 タキオンさんは、手で顔を覆い、笑っています。とてもとても、楽しそうに。

 

「カフェ、君に教えてあげよう」

 

 ひとしきり笑ったタキオンさんは、指の間から私を睨みつけます。けれど、表情は笑顔。確か、笑顔は、攻撃的な意味もありましたね。きっと、そんな笑み。

 

「……なにを、ですか」

 

 聞き返す私に、タキオンさんは、愉快そうに答える。あぁ、そうだ。あなたも私も、逃れることはできない。だって。

 

「私は長距離を走れないんじゃない──走らないだけだということをね

「……そう、ですか」

 

 私とあなたは、ウマ娘(おなじ)だから。この闘争本能から逃れることはできない、競わずにはいられない。自分こそが上だと、証明せずにはいられない。

 

「いいだろう。君の安い挑発に乗ってあげよう。私の次走は有記念だ」

「……ありがとうございます。それと、ごめんなさい。挑発をしてしまって」

「なぁに、構わないさ。君の新しい側面を見ることができた。それだけでおつりがくるというものさ」

 

 椅子から立ち上がり、去り際に、タキオンさんは一言。

 

「お礼に──君に敗北をくれてやろう。私が勝つ、それだけさ」

 

 フフ、勝敗なんてどうでもいいと言ってた割には、随分とやる気ですね。ですが、良いでしょう。

 

「ご自由に。油断して後ろから噛みつかれないように、気をつけてください……怖い怖い猟犬がいますので」

「ッ!本当に、面白い!それは気をつけないといけないねぇ!」

 

 笑いながら、部屋を後にするタキオンさん。さて、私もそろそろ行かないと。

 

<リョウケン!リョウケン!ギャハハ!>

「……止めて。私も、ちょっと恥ずかしかったから」

<エー?カッコイイヨ?>

「そういう問題じゃ、ないの」

 

 我ながらテンションが上がってしまいました……気をつけないと、いけませんね。

 

 

 

 

 

 

「トレーナー君!有記念に出走するぞ!」

「なんて?」

 

 急にやってきたかと思えばタキオンからとんでもないことを言われた。え、有?本当になんで?しかもやたら楽しそうにしているし。

 にしても有か……本当になんでだ?普段のタキオンなら出走しないと思うんだけど。

 

「なにかあったの?一応、長距離のレースだけど」

「おっと、君がそう思うのも無理はないだろう。だが、挑戦状を叩きつけられてしまってねぇ。出走せざるを得なくなった」

「……そうなんだ」

 

 具体的な内容を聞いてみると、どうもマンハッタンカフェから勝負しようと言われたらしい。珍しいな。彼女がそんなことをもちかけるなんて。あんまりそういう子じゃないと思ってたけど。

 

「な~いいだろ~?別に減るもんじゃないじゃないか~」

 

 そんなダル絡みされても。まだ何も言ってないし、というかタキオン自体がやる気なんだから断る理由がないし。

 

「いいよ。出走登録しておくよ」

「それでこそトレーナー君だ!さぁて、しっかり調整をしないとねぇ!」

 

 ウキウキ気分のタキオン。それにしても。

 

「やっぱり、君は負けず嫌いだね」

「ん~?何がだい?」

「なんでもないよ」

 

 挑発されたからとはいえ、自分が最も得意とする距離じゃない長距離に出走する。勝ち負けなんて気にしていない、と言っていた割にはかなり意識しているように見えるからね。口にしないけど。

 この有記念が、タキオンにとってどういう影響をもたらすか。願わくば、解決の糸口が見つかればいいな。




タキオンの次走は有記念に。カフェさんもバチバチよ。それと手で覆っている時のタキオンの笑顔は映画のポッケに宣戦布告された時のアレを想像していただければ。
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