タキオンの恐怖克服のために、色々なものを立案してきた。
まずは身近な恐怖体験から触れてみよう、とのことで遊園地のジェットコースター。チームのみんなで行くことに。
「アッハハハハハ!楽しいねぇ!」
なお、ジェットコースターは恐怖よりも楽しいが勝ってしまったためあえなく没。というか普通に遊園地を楽しんだだけだった。みんなが楽しそうだったのでそれはそれで良かったが、目的から乖離しているので失敗。お化け屋敷もいったものの成果は得られずだ。
「というか、走りに対する恐怖なのだから遊園地に来ても無意味ではなくて?」
「……恐怖と言っても色々あるから」
「だからといってこれはどうなんですかね……」
ジェンティルやタルマエからもツッコまれた。
最終的に無難なものになったけど、バクシンオーとの全力併走。お互いに領域を使用して、本気の勝負をしてもらった。バクシンオーはタキオンとの併走を楽しんでいるが、タキオンは苦しそうにしている。おそらく、領域のせいかもしれない。無意識に手に力が入る。
タキオンの恐怖の根底にあるものは、怪我への恐れだ。誰もが抱くことかもしれないけれど、タキオンは過剰に恐れている。いや、過剰に恐れるのも当然だ。
(タキオンの脚はガラスと呼ばれるほどに脆かった。それをどうにかこうにか改善していって、今のタキオンがいる)
本人が諦めかけていたものがようやく手に入った。大切に思うのは当然のことだろう。そこに、タキオンのリスクを避ける性格が重なった。大切に大切に使い続けた結果、本気を出すことを過剰に恐れるようになってしまった。
悪いというわけじゃない。むしろ良いことかもしれない。だけど、そのせいで本人の到達したい領域には永遠にたどり着けない……そんなところかもしれないね。
(この全力併走も、タキオンの負けず嫌いを考慮してのものだ。バクシンオー相手に勝つなら全力を出すしかない。だからやっている)
ただ……あまりやりたくないというのが本音。
(領域の景色が景色だ。下手をしたらトラウマになりかねない……)
幸いにもタキオンは問題なさそうにしているが、それでも心配なものは心配だ。この全力併走は極力やらないようにしたい。
後は、心理学というか恐怖を克服するための本を片っ端から読んでいる。どうすれば克服できるのか?とか、過去の人達の成功体験を基に執筆された本とか。とにかくタキオンの恐怖克服に繋がりそうなものを調べ上げた。その結果分かったことは。
「徐々に慣らしていくしかない……か」
領域を使って積み重ねること。コツコツと使って、自分は大丈夫だと成功体験を持つことだった。正直に言うと、分かっていたことを改めて突きつけられただけ。溜息を吐きそうになる。
「そんな都合の良いことがあるわけない。でも、もしかしたらあるかもしれない……って、思ったけどね」
現実は甘くないってことだ。今やっていることが最良の方法で、地道に改善していくしかない。でもそうなると、タキオンは改善するまであの景色を見続けることになる……。
「嫌だな……」
目的達成のために必要なのは分かる。タキオンが望んでいるのも分かる。けれど、納得できるかと言われたらちょっと難しい。
(恐怖を
この先どうしたものか?と考えているところに、ふとした考えが頭に浮かんだ。天啓っていうヤツかもしれない。できるかどうかは分からない、そもそも成功するかなんて曖昧なもの。けど、確かに下りてきた。
「タキオンの負けず嫌いをベースに……そうなると相手に最適なのは……他にも協力者が必要……」
その後は寝る間も惜しんでタキオンのプランを考える。彼女が恐怖を乗り越えるために、彼女が求める、限界速度の果てへと至るために。
◇
とりあえず、プランは完成した。そのためにまず行動すべきなのは。
「え?ダンツと併走したい?」
「はい。お願いできませんか?」
キョトンとした表情をしているダンツフレームのトレーナー、朝霞(あさか)さん。彼女に併走のお願いをしに来た。相手は勿論ダンツフレームである。
ダンツフレームを併走相手に選んだ理由は、前にタキオンが言っていたことを思い出したから。皐月賞でタキオン相手に恐怖の感情を抱いたことを。けれど、マンハッタンカフェから話を聞いてみると、どうも克服したらしい。夏合宿は平気そうにしていたと教えてもらった。
彼女はタキオンという恐怖を乗り越えた。だからお願いすることに。タキオンにも良い刺激になると思うから。
「え、え~っとぉ……逆に良いの?」
「?なにが、ですか?」
「いやいやいやいや!?アグネスタキオンは凱旋門賞ウマ娘だよ!むしろこっちがお願いする立場じゃないかな!?」
そう、だろうか?確かに凱旋門賞を勝ったけれど、こちらに目的があってお願いするわけだし。
「むしろ申し訳ないです。無理を言ってるのは分かるんですけども」
「うん、そうじゃなくてね!?いや、まぁいいんだけども!こっちとしては嬉しい限りだから!」
なんにせよ、朝霞さんからの許可は貰ったのでダンツフレームと併走することはできた。後はもう1人──ジャングルポケットである。
彼女のトレーナーの場所を教えてもらい、足を運ぶ。
「失礼します」
「……こりゃまた、珍しい客人じゃのう」
「うわっ!?ゾン「失礼だろシマ!」すみませんッ!」
戸を開けて、ジャングルポケットのトレーナーを視界に捉えて軽く会釈する。
「今日は、お願いがあってここに来ました」
「それはなんじゃ?儂らにできることなどたかが知れておるぞ?」
「簡単……ではないかもしれませんが、私が担当しているアグネスタキオンと併走をしてもらえないかと思い、足を運びました」
今度は深く頭を下げる。誠心誠意、お願いする立場として。相手の表情は見えないけれど、戸惑っているような声が聞こえてきた。
「……アグネスタキオンとの併走じゃと?誰が?」
「ジャングルポケットさんにお願いできないかと」
「ウチのポッケと、あなたのところのタキオンを?」
「はい。どうか受けてはくれないでしょうか?」
さらに戸惑うような声が聞こえる。
「ちょちょちょ、何考えてるんスかこの人」
「凱旋門賞を勝ってんだから、むしろこっちがお願いする立場だろ」
「わけわかんねー……」
そんなにだろうか?朝霞さんの時もそうだったけど。お願いするのに立場とか何もないと思うのだが。
少し顔を上げて様子を窺う。ジャングルポケットのトレーナーはというと……悩んでいる様子だった。まぁいきなり押しかけてきて、あなたのところのウマ娘と併走させてくださいと言ってるわけだから即答はできないか。
「……1つ聞きたい。お主は何故ポッケとの併走を望むんじゃ?」
「タキオンのためです。詳しくはお話しできませんが、今のタキオンにはジャングルポケットさんとの併走が必要だと思いました。だから、お願いできないでしょうか?」
理由に関しては、タキオンの弱点に直結するようなものなので教えるのは憚られる。調子の良いことを言っているのは分かっているが、それでもお願いするしかない。
相手の返答を待っていると。
「……こちらとしても、得られるものがあまりにも大きい。むしろお願いしたいくらいじゃ」
「ッ!……ありがとうございます。では、日取りの方はまた後日に」
しっかりとダンツフレームとも併走することを伝えて、併走に備える。日程をすり合わせていき、どこでやるかが決まった。
併走が決まったことをタキオンに伝えるため、旧理科準備室へ。ただ、珍しく騒がしかった。
「……よな。悪い……」
「……たく」
ジャングルポケットとタキオンの声?だろうか。扉を開けて目に入ってきたのは……。
<ッ!>
「あ、どうしたの?……高村トレーナー?」
「うん、こんにちはマンハッタンカフェ」
こっちに突っ込んできたお友だちさんである。相変わらず仲間意識を持たれているのか、僕は。
機嫌良さそうにしているお友だちさんは置いておいて、タキオンの方へ視線を向けると……バツが悪そうにしているジャングルポケットと、めんどくさそうにしているタキオンがいた。
(何があったんだろう?)
ひとまず事情を聞いてみよう。
「どうかしたの?2人とも。なにかあったみたいだけど」
「あ、タキオンのトレーナー、さん。ま、ま~なにかあったっつーか、なんというか……」
「私に併走のお願いをしに来たんだよ、ポッケ君は」
あぁ、成程。なら丁度いいか。さっきまで併走の日取りを決めていたわけだし。けど、ジャングルポケットの表情を見るに……タキオンに断られたか。
「まぁ、仕方ねーよな。俺も受けてもらえるとは思ってなかったし」
「ふぅン。私は実験で忙しくてねぇ。それに、併走相手も委員長君で事足りている。だから問題ない」
そう答えるタキオンだけど、ごめん。
「そうなんだ。なら安心して良いよジャングルポケット」
「へ?ど、どういうことだよ?」
呆けているジャングルポケット。僕を訝しむように見るタキオン。そんな2人に、僕は告げる。
「ジャングルポケットとダンツフレーム、そしてアグネスタキオンの3人で併走することになった。もう2人のトレーナーに了承は貰ってるし、日程も決まった。だから、タキオンと併走できるよ」
「「はっ?」」
2人揃って素っ頓狂な声を上げていた。
<ギャハハ!アホヅラアホヅラ!タノシー!>
何が楽しいのかは分からないけれど、お友だちさんは今日も元気だ。
R理事長も完凸できませんでした!俺は、弱いッ!後架空馬モノ増えて。