ビヨンド・ザ・ライトレス   作:カニ漁船

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3陣営の併走ですたい。


ライバルとの併走

 ……全く、理解不能だ。

 

「え、え~っとぉ……お手柔らかにね?タキオンちゃん」

「生憎と私は手加減をするつもりはないよ」

「へっ、上等じゃねぇか。だからこそ燃えるってもんだ……!」

 

 ダンツ君に関してはいつも通りだからいいとして、ポッケ君に関しては私に対して怯えがあるのが分かる。彼女らと併走をして、私に得られるものがあるのか?

 

(……だが、トレーナー君が考えたことだ。必ずそこに意義はあるはず)

 

 トレーナー君は我々のために行動する。それは間違いない。だからこそ、この併走も私にとって必ず有意義なものとなるはずだ。まぁ有意義なものとするために、何故この2人との併走なのか?という意図を探らなければならないのだが。

 大体の見当はついている。皐月賞で私に対して恐怖を抱いた2人……過去に戦った2人が今どこまで強くなっているのか?それを確かめるためのものだろう。この先も戦う可能性はあるわけだし、実力を測っておくのも悪くない、といったところだろうか?

 しかしねぇ……ダンツ君もポッケ君も、わずかながらに怯えが見える。皐月賞の私がまだ焼き付いているのかどうか……それは分からないが、きっと近い感情はあるはずだ。もしや、私と同じく恐怖を抱えているから併走しようなどという浅はかな考えではあるまい。

 

(それに、私が抱えている恐怖と彼女らが感じている恐怖は別のものだ。なんの参考にもなるまい)

 

 不安を抱かずにはいられないが、すでに併走すると決まった以上逃げ場なんてものはない。大人しく走ることに。

 

 

 そして始まった併走。距離は芝の2000m左回り。私が外を回る形で展開し、ポッケ君が最内、ダンツ君が真ん中につけている。

 

「どうしたどうしたぁ!?まだまだいけるぜ俺はっ!」

「ハッ……ハッ……!」

「ふぅン」

 

 最内のポッケ君が叫ぶように煽る。だが、その声は僅かに震えていた。おそらくだが虚勢だろう。

 

(まだまだいける、という言葉は嘘ではない。だが、先程からチラチラと視線を感じる……外の私を意識していることは明らかだ)

 

 やはり彼女は克服できていない。ポッケ君に対して落胆の気持ちを感じるとともに、ダンツ君へと意識を向ける。

 

(彼女もまた強くなっている。ポッケ君と同様に)

 

 だが、やはり私に対して一定の恐怖を感じているように思われる。私の主観と言えばそこまでだが……あぁ、この併走に意味はあるのだろうか?

 

(まぁいい。さっさと終わらせるとしよう)

 

 すでに最後の直線へと入ったところ。ゴールまであと少しだ。ここで──領域を切る。見えてきたのはやはり、幻影の私ッ!

 

(相変わらず、何とも言えないねぇ!どんどんと暗くなっているのもまた不気味だ!)

 

 しかし、さっさと終わらせてしまえば関係ない。全力の100%、手を抜くわけにはいかないのだから!それに、いつかは慣れるだろうさ!

 領域を切る。ポッケ君達との差は開いていく。けれど。

 

「ハァ……ハァ……ッ!」

「まだだ、まだ、まだぁっ!」

 

 彼女達に、()()()()()()()。おいおい、これはどういうことだい?

 

(私に怯えているんだろう?皐月賞の恐怖が、まだ拭えていないんだろう?なのに、どうしてそんなに)

 

 目をギラつかせている?闘志を滾らせている?全くもって理解不能だ。君達は怯えていたはずだ。一体全体、なにが起こっている?

 そう感じている間にも、併走は終わってしまった。結果は私が3バ身差で先着。所詮併走ではあるが……それよりも気になることがある。

 息を荒げて、膝をついているポッケ君とダンツ君。2人の瞳からは、確かに私に対する怯えを感じる。間違いない、皐月賞と同じ感覚。だが、頭の中でなにかが違うと警鐘を鳴らす。

 

(あの時とは違う……怯えながらも、私に対して敵意を、対抗心を抱いている)

 

 恐怖しながらも立ち向かうだと?どういうことだ?

 

「クソっ、やっぱはえぇなタキオン……まだまだ、届かねぇっ!」

「……うぅっ!」

「君達に、聞きたい」

 

 気づけば口を開いていた。思わず問いかけていた。不思議そうな表情を浮かべるポッケ君達に、聞かずにはいられなかった。

 

「君達は私に対して恐怖を抱いているはずだ。今もこうして、私を恐れている……なのにどうして、闘志を滾らせているんだい?」

「ハァ?急に何のことかと思えば」

「ど、どういうこと?」

「決まっている。君達からは確かに恐怖の感情を感じた……なのに、それと同じくらいの対抗心を感じた。それは何故だ?」

 

 一度諦めてしまった彼女達。今も諦めていると思っていた。私に追いつくことを諦めたものだと、決めつけていた。

 しかし、違う。なにかが違う。同じはずなのに、違う。これは一体どういうことだ?

 2人の言葉を待つ。先に口を開いたのは──ダンツ君だった。

 

「トレーナーから言われたの。誰だって怖いものはあるって」

 

 ポツリと語るダンツ君からなんとも言えない感情が伝わる。悲しみ、後悔、懺悔の念。

 

「確かにタキオンちゃんと同じレースで走るのは今でも怖いよ。凄く、すっごく怖い」

 

 だが、次の瞬間には私を睨みつける。皐月賞の時とは違う、ウマ娘の闘争本能を刺激するような瞳。

 

「けど、だからって諦めたくない!タキオンちゃん達に勝って、わたしはセンターに立ちたい!逃げるなんて絶対に嫌ッ!怖くても立ち向かう!わたしは、そう決めたの!」

 

 覚悟を決めた目だった。もうそこに、私を恐れていたダンツ君はいない。かつて私が期待していた──ダンツフレームが立っていた。

 

(なにが、彼女をそこまで変えた?)

 

 怖くても立ち向かう?生半可な覚悟でできることじゃない。一体、どうしてそこまで。

 戸惑いを覚えていると、隣からポッケ君の笑い声が聞こえてきた。

 

「クックック……あぁ、ダンツ。オメーはやっぱスゲェよ。そんな啖呵切れるなんてな」

「えぇ!?そ、そんなつもりは」

 

 ポッケ君は吹っ切れたように、私に指を突きつける。そして、震える声で宣言した。

 

「タキオン。俺は今でもオメーが怖いよ。皐月賞の時の走りが目に焼き付いて離れねぇ、ずっと俺の先を走っていやがる」

「……そうかい」

「けどなぁ、俺はこの弱い自分を──受け入れる!怖くても突き進む!いつかテメーを超えるために、俺はどこまでだって立ち向かう!最強は、俺だッ!」

 

 脚は震えているし、情けないことこの上ない姿かもしれないだろう。だが、茶化そうなどとは思えなかった。

 

(弱い自分を、受け入れる?心の弱い自分を?どうして?)

 

 理解が追いつかない。それが恐怖を乗り越えることと、なんの関係がある?

 

()()()()()()()()()()()()()()()()、真ん中に、センターに立ちたいから!」

「俺もだ。()()()()()()()()()()頂点(テッペン)とって、最強を証明してやるってな!」

 

 もしかしてこれが……。

 

(私にとって、必要なものなのか?)

 

 すでに彼女達は私を恐れてなどいないだろう。それ以上に強いもので塗りつぶされているから。不思議と、そう感じた。

 

 

 

 

 

 

 ジャングルポケットとダンツフレームの宣言。朝霞さんは涙を流していた。

 

「ダンツ……成長したねぇ……!」

「まだまだポッケに足りないものは多い。じゃが、前を向いておる。これならば」

 

 ジャングルポケットのトレーナーさんも満足げに頷いている。うん、やっぱり。

 

(この2人と併走したのは間違いじゃなかった)

 

 タキオンもきっと、2人から感じ取ったはずだ。恐怖を乗り越えるために必要なことを学んだはずだ。今はまだ分からないかもしれないけれど、この経験がきっと役に立つ日が来る。不思議とそう感じた。

 2人に向き直って、深くお辞儀をする。

 

「ありがとうございます、お2人とも。併走を受けてくださって」

 

 頭上からは慌てているような声。多分、朝霞さんの方。

 

「いやいや!こっちこそ助かった~っていうか!マイルCSも近いし、凱旋門賞ウマ娘と併走できたのは本当に貴重な経験だよ!ありがとう聖君!」

「こっちもじゃ。ジャパンカップ……相手はあのテイエムオペラオー。その相手を前に、これほどの強敵と戦える機会を設けてくれたこと、こちらこそ感謝したい」

 

 そう言ってくれるとこちらも嬉しい。間違いなく、全員にとって有益な併走となった。

 

 

 その後も何度か併走をするタキオン達。最初は乗り気じゃなかったのに、途中からは率先してやるようになった。タキオンとしても気になるのだろう。そして、敵と認識した。良い傾向だ。

 余談だけど、他のメンバーも合同でトレーニングをしている。

 

「ふぅ、退屈ですわね……私と併走しませんこと?」

「──いいだろう。余も飽き飽きしていたところだ。貴様の興に乗ってやる」

「あら、珍しいわね。精々泣きわめくことのないよう、お気を付けくださいませ?」

「ほざけ。終わった頃には貴様が屈服しているだろうよ」

 

 オルフェーヴルとジェンティルはバチバチにやり合っている。仲が良いのか悪いのか、よく分からない。バクシンオーはマチカネタンホイザやフジキセキと一緒に、キタサン達のトレーニングを見ている。

 

「さぁみなさん!大事なのはバクシンですッ!バクシンこそ全て、道を開きますッ!」

「お、お~!説得力が凄いですな!」

「落ち着いてタンホイザ。言ってる意味はよく分からないよ」

 

 先導するバクシンオー、まとめ役のフジキセキ、マチカネタンホイザが教える役で綺麗に纏まっている。うん、順調そうだ。

 

「それにしても……お前さんに聞きたいことがあるんじゃが」

「はい、どうしましたか?」

 

 トレーニングを見守っていると、ジャングルポケットのトレーナーさんから質問された。一体なんだろうか?

 

「お前さん、ちゃんと寝ているのか?疲れ切った社会人みたいな目をしておるぞ」

「あ!それは私も気になる!聖君ちゃんと寝てるの?ちなみに私は毎日8時間睡眠!」

「睡眠、ですか」

 

 睡眠というのは大事だ。翌日のパフォーマンスに直結するからね。

 

「ちゃんと取ってますよ」

「お、おぉそうか。ならその目は「毎日きっかり、30分」……」

「……」

 

 どうしよう、2人からお前嘘だろ?みたいな目で見られてるんだけど。

 

「……冗談ですよ」

 

 苦し紛れにそういうと、2人が凄い勢いで詰め寄ってきた。

 

「質の悪い冗談はよさんか!寿命が縮むところだったわい!」

「そうだよ聖君!聖君の場合、本当にやりかねないから冗談に聞こえないんだよ!」

「そ、そんなにですか?」

 

 僕ってそんなイメージがあるのだろうか?そう思っていると2人から凄い勢いで頷かれた。えぇ?

 

「天城トレーナーや他のトレーナーも同じことを思ってるはずじゃ。お前さんはちゃんと寝ているのか?と」

「ヘリオスのトレーナーやたづなさんも心配してたよ?ちゃんと睡眠取れてるのかーって」

「そこまでですか」

 

 どうも僕はその辺の信用が0に等しいらしい……実は近い睡眠時間なことは黙っておこう。一応言い訳しておくけど、別に仕事が多いとかそういうわけじゃない。やりたいことをやっていたら時間が勝手に過ぎてるだけだ。

 ちょっと話は横道にそれたが、無事に3人の併走は終わった。ダンツフレームはマイルチャンピオンシップ、ジャングルポケットはジャパンカップ。どっちも良い結果を残せることを祈る。




なにかを掴めたかタキオン。
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