有馬記念も残すところ後1週間となった。タキオンと一緒に、改めて出走者を再確認。
「まず最初に出てくるのはやはり、オペラオー君だねぇ」
「うん。新しい世代が台頭してきてるけど、現役最強と言われたら彼女が頭に浮かぶファンは多い」
「事実、負けが目立つかもしれないが掲示板内はしっかりとキープしている。それにしても楽しみだ!宝塚記念のデータだけでは足りないからねぇ!」
タキオンとしては、勝負の他にもう一つ、データ収集もある。つまりはいつも通りだ。
「ナリタトップロードにメイショウドトウも出走。ジャングルポケットとダンツフレームは……今回は出走見送りみたいだ」
「そうかい。残念ではあるが、気にすることではないね」
2人は疲労を考慮して出走を見送ることにしたらしい。12月の頭ぐらいに正式に発表していた。今後彼女達と戦うのは年が明けてからになるだろう。
「タキオンとしてはどう思っているの?2人のこと」
「……さぁね。まさか予想を覆してくるとは思わなかったが、また戦うなら私が勝つだけだ。それ以上でもそれ以下でもない」
その割には、かなり意識している節が見られるけどね。2人の前走、マイルチャンピオンシップとジャパンカップを繰り返し何度も再生しているから。特に最後の直線のところ、2人が領域に到達したと思われる場面をよく見ているみたいだ。この前も実験室もとい旧理科準備室で見てたし。
当のタキオンはというと、面白くなさそうに鼻を鳴らしている。なにか気に入らないことでもあるのだろうか。仲が悪いとか、そういうわけじゃなさそうだけど。
(認めたくないことでもあるのだろうか?それとも、単純な知的好奇心とか)
……深く追求することではないだろう。今は有馬の対策だ。
ここまでテイエムオペラオー達の名前を挙げた。ただ、個人的に一番警戒すべきなのは
「マンハッタンカフェ。有馬記念で一番警戒すべきなのは彼女だと思う」
「カフェ、か。オペラオー君よりも警戒すべきなのかい?」
「そうだね。おそらくだけど、君が負ける可能性が一番高いのはマンハッタンカフェだ」
目を見開くタキオン。ただ、意外とは思ってなさそうだ。
「君がそれほどまでに評価するんだ。何か理由があるんだろう?オペラオー君よりもカフェを警戒すべき、理由が」
「そうだね……正直ステータス上は君やテイエムオペラオー達に比べて少し劣っている」
クラシック級の時点でシニアのステータスに匹敵しているタキオンとマンハッタンカフェは大概おかしいけれど、それは隅に置いておこう。今ここで重要なことじゃない。
「ただ、マンハッタンカフェは──
「……あぁ、そういうことかい」
合点がいったタキオン。ノートを取り出してタキオンに見せる。内容は、この前の菊花賞で見えたマンハッタンカフェのステータスだ。
マンハッタンカフェ
適性:芝A ダートG
距離:短G マD 中A 長S
脚質:逃げG 先行C 差しA 追い込みC
スピード:A+ 946
スタミナ:A+ 932
パワー :A+ 925
根性 :C 487
賢さ :B 687
これが菊花賞時点のステータス。次のレースではさらに伸びているだろうね。多分だけど、スピードもSを超えているだろう。テイエムオペラオー達は差異はあるけど、マンハッタンカフェよりも少し上ぐらいだ。
アグネスタキオンも決して見劣りしない、というか上なんだけど、やはり距離適性Sというのが警戒を強めている。
「我々は100%だが、カフェは120%を引き出せる。加えて領域もあると来たもんだ。確かに、一番警戒すべきはカフェかも知れないねぇ」
「意外だけど、テイエムオペラオーは長距離の適性がSじゃない。ステータス上は負けず劣らずだから問題はないと思う」
だからこそ、マンハッタンカフェだ。有馬記念は一応長距離に分類されるわけだからね。長距離適性Sが牙をむいてくる。
「適性Sは、タキオン自身が一番よく分かっているだろう?たまにバクシンオーと短距離戦もするわけだし」
「……まぁねぇ。自分でもやっていることだからアレコレ言えた立場じゃないが、それでも言いたくはなるよ」
げんなりしているタキオン。バクシンオーたっての希望でたまに短距離戦をするのだが……毎回同じようにげんなりしている。バクシンオー自身は楽しそうにしているけど。
ちなみに、現在のバクシンオーのステータスはこんなことになっている。
サクラバクシンオー
適性:芝A ダートD
距離:短S マA 中A 長A
脚質:逃げA 先行A 差しG 追い込みG
スピード:UA 1800
スタミナ:UG 1204
パワー :UD5 1557
根性 :SS+ 1183
賢さ :UG2 1225
うん、なんだこれ?いや、僕が担当しているわけだけど、これはあまりにも……止めておこう。
まぁこんなステータスをしているバクシンオーだけど、長距離ではライスシャワーに負けたりするし中距離はミホノブルボンに阻まれたりする。適性Sの差っていうのは結構大きいわけだ。
「それに、カフェはこちらのスタミナを削ってくることに長けている。全く、挑発に乗るんじゃなかったよ」
天を見上げるタキオン。仕草からめんどくさいとかそういった感情が伝わってくるが……それだけじゃない。
「その割には、楽しそうだけどね。どことなく、ウキウキしている」
「……何のことだか、私には分かりかねるよ」
誤魔化すタキオン。そっぽを向いているからさすがに嘘だと分かる。でも深く追求したらまた拗ねそうだし止めておこう。
「決戦の日は近い。最終調整を続けるぞ、トレーナー君」
「分かった。後1週間、頑張ろうか」
タキオンはかなり警戒されるだろう。凱旋門賞ウマ娘というネームバリューはそれだけ大きい。下手をしたら、テイエムオペラオー以上に警戒される。2400の経験はあるとはいえ、一応長距離に分類される2500は未知数。かなりの不利は間違いない。
(僕ができるのは信じることだけ、か)
有馬記念はもうすぐだ。
◇
各陣営、レースに向けて気合が入っている。
「カフェ、もう一本行こう!まだまだいけるだろ!」
「……もち、ろんです。最善を、尽くすためにもっ!」
マンハッタンカフェ陣営。菊花賞を制して勢いに乗っており、アグネスタキオンを有馬記念の舞台に立たせた張本人でもある。
マンハッタンカフェは特に気合が入っていた。理由は、アグネスタキオンに勝つため。
(タキオンさんは、強い。長距離で私に分があるとはいえ、総合的に劣っているのは私の方)
弥生賞では力を見せつけられて終わってしまった。アレが自分の実力だと思われたくない、本当はもっと強いのだということを証明したい……色々とあるが、シンプルな答えに行きつく。
「タキオンさんに、みなさんに勝つ……ッ!ただ、それだけッ!」
〈ソーダ!カフェ!ガンバレ!〉
裂帛の気合いと共に駆け抜ける。尋常ではない熱意であり、同じチームであるサトノダイヤモンドとシュヴァルグランは驚いていた。
「か、カフェさん凄く気合入ってる……」
「普段のカフェさんとはまるで別人です。やっぱり、タキオンさんの存在ですよね?」
「そうだね。ああやって名前も叫ぶぐらいだから、一番勝ちたい相手はアグネスタキオンなんだろう」
「ライバル、なんですね!」
どこか嬉しそうに反応するサトノダイヤモンドに頷く天城トレーナー。彼もまた警戒している。アグネスタキオン、というよりはそのトレーナー、高村聖を。
クラシック三冠を早々に捨てて、凱旋門賞を見据えて鍛錬を重ねてきた。普通できることではない。
(適性の問題でクラシックを出走しない、なんて話はごまんとあるけど……元から目的があってクラシックを捨てるというのは珍しいことだ)
ウマ娘本人が望んでいるとはいえ、一生に一度しか出走できないクラシックレースを捨てるなんて判断は普通できない。しかも、説得することなく取り消したと聞いた時はさすがに驚いたものだ。ただ、それと同時に彼らしいとも思う天城。
(相変わらず、君は本当に凄い。俺よりも若いのに、まだまだ学ぶべきことがたくさんあるよ)
思わず笑みをこぼす。だが、勝負は勝負。相手が誰であっても勝ちに行く、そのことを忘れない天城。
(アグネスタキオンは強敵だ。メイショウドトウやナリタトップロード、テイエムオペラオーよりも最優先で警戒すべき相手)
凱旋門賞を制し、現在無敗のウマ娘。前評判ではアグネスタキオンが勝つだろうという声が大きい。長距離に出走したことがないのにだ。
ちょっとは浮かれてたりしないだろうか?と考えもするが。
(とはいっても、聖君が油断するとは思えないし……なんならこっちが一番警戒されてそうだし)
「ままならないなぁ。本当に相手取りたくないよ、聖君のところは」
「トレーナー君、君も大概だということを忘れないことだ」
「そうだよ。タキオンのトレーナーと並んで相手にしたくない陣営って有名だよ、ボクたち」
「えぇっ!?」
突如として現れたシンボリルドルフとトウカイテイオーの言葉に驚き、愕然とする天城。まぁ無敗の三冠ウマ娘2人を育てたトレーナーなど誰も相手にしたくないだろう。
マンハッタンカフェは順調。そして、他陣営も順調である。
「ハーッハッハッハ!秋天にジャパンカップ、どちらも不甲斐ないボクを見せてしまったね、トレーナー君!」
「え、えぇっと……確かに負けちゃったね」
トレーニングの休憩中、高笑いをするテイエムオペラオーに驚くトレーナー。トレーナーはどこか挙動不審で自信なさげだ。
「ぼ、僕のせいだよね……トレーナーの僕が不甲斐ないから、君を負けさせちゃった……ごめんね、オペラオー」
担当に頭を下げて謝るトレーナー。そんな彼にテイエムオペラオーは。
「あぁ、そんな悲しい顔をしないでくれトレーナー君!君にそんな表情は似合わないさ!」
「お、オペラオー?」
「さぁ、美しいボクを見て元気を出すんだ!大丈夫、どんなに落ち込んでても、ボクの笑顔を見ればたちまち元気百倍さ!」
「え、えぇ?」
ハイテンションなテイエムオペラオーに戸惑うトレーナー。この2人のいつも通りの光景だ。
「大丈夫。有馬では不甲斐ない姿は見せないよ。君はただ堂々としていればいい」
「け、けど……相手は」
「誰が相手でも関係ないさ!ボクは世紀末覇王、テイエムオペラオー!誰よりも輝くウマ娘なのだから!」
その言葉に、トレーナーも徐々に元気を取り戻していく。そうだ、自分の担当ウマ娘は強いのだ。
(また弱気になってた……ダメだな)
けれど、迷いを振り切る。誰が相手であっても関係ない、自分はただテイエムオペラオーの強さを信じていればいい。それだけは揺らがないようにしようと心に誓う。
「とりあえず、詳細なデータをまとめておいたから。後で確認しておいてね、オペラオー」
「当然!対戦相手の研究も怠らないボクも美しい!」
「と、当然のことだけどね」
世紀末覇王テイエムオペラオー。彼女も絶好調のようである。
主人公のチームもルドルフトレのチームもどっちも相手にしたくない(周りの本音)