冬の風が冷たい中山レース場。しかし、そんなものは関係ないとばかりに大勢のファンが詰め寄っている。
「楽しみだな~、今日の有馬記念!ナリタトップロードもそろそろG1勝って欲しいな~!」
「やっぱアグネスタキオンだよ!凱旋門賞ウマ娘の走りを見れるぞ~!」
「ジャングルポケットとダンツフレームは残念だったなぁ。でも、今回集まったメンバーも豪華、めちゃ楽しみ!」
集まった人々の熱は寒さを吹き飛ばすほどだ。発走の時を今か今かと待ちわびている。
特に注目されているのは4人。クラシック級から2人と、シニア級から2人だ。
クラシック級はアグネスタキオンとマンハッタンカフェ。特にアグネスタキオンは今回の1番人気であり、大本命に推している人が多い。理由は明白で、彼女が日本のウマ娘として初めて凱旋門賞を制したからだ。
今まで勝てなかった凱旋門賞。海外の強敵達相手に激闘を繰り広げ、見事に勝利をもぎ取った。その走りは今もファンの目に焼き付いている。
「やっぱタキオンだよ!初の2500だけど問題ないって!」
「ロンシャンの2400mを走れたのよ?中山の2500mぐらいいけるわ!」
実際ロンシャンはかなりタフなコースなのでスタミナも求められる。初の距離だが、伸びた距離は100m。問題はないだろうという声が多い。たかが100mになるか、されど100mになるか。
マンハッタンカフェは4番人気。とはいっても、3番人気のメイショウドトウとほとんど差はない。人気の理由はやはり、菊花賞の勝ちウマ娘であることだろう。
ステイヤータイプのウマ娘。そのスタミナをいかんなく発揮することができれば、彼女が勝つとの声が上がっている。
「マンハッタンカフェだって負けてねぇぞ!タキオンにも勝てるはずだ!」
「あのミステリアスな雰囲気が素敵~!」
3番人気はメイショウドトウ。宿敵・テイエムオペラオーのライバルであり、宝塚記念でついに打ち破ったウマ娘。その後もテイエムオペラオーと死闘を演じ続けており、実力を疑問視するファンはいない。
「また覇王越え、期待してるぞー!」
「グランプリ二連覇、頑張れー!」
そして2番人気にテイエムオペラオー。天皇賞・秋をアグネスデジタルに、ジャパンカップはジャングルポケットの前に屈してしまった。だが、それでも2着。天皇賞・春を二連覇して実力を示している。
まだまだ彼女の力は衰えていない。きっとこのレースで復活してくれる。ファンは大きな期待を寄せていた。
「やっぱ俺はオペラオーだ!きっと有馬記念は勝ってくれる!」
「相手は強いけど、そんな時ほど覇王は輝く!頑張ってねオペラオー!」
他にもナリタトップロードが5番人気に続く。5人の人気が突き抜けており、このうちの誰かが勝つだろう……それがファンの予想だった。
そして、本日のメインレースを迎える。
《やってきました、冬のグランプリ有馬記念!ファンの夢を背負って16人のウマ娘達が中山レース場を駆け抜けます。芝2500m、バ場の状態は良バ場の発表。それにしても、今回は史上初!ですねっ!》
《そうですね。なんといっても、
《果たして凱旋門賞ウマ娘はどのようなレースを見せてくれるのか?そして、彼女に待ったをかけるウマ娘はいるのか?発走の時が楽しみですね!ウマ娘達が続々とターフに姿を現します!》
ターフの上で身体を念入りに温めるウマ娘達。その様子をファンは観察している。
何人かのウマ娘が登場し、次は誰が来るか。期待に胸を高鳴らせている時だった。
「ハーッハッハッハッハ!ボク、参上ッ!」
《続いて登場したのは2番人気テイエムオペラオー!シニア戦線は彼女無しでは語れない、それほどのレースを演出してきました!年間全勝のグランドスラムを成し遂げた覇王、中山で復活なるか!?》
《秋天にジャパンカップも惜しいレースが続いていますからね。陣営も勝ちたいと意気込んでいました》
テイエムオペラオーの登場に大きな拍手が鳴り響く。その喝采を受けて、テイエムオペラオーは笑みを深めた。
「さぁ、中山に集った我が
自信満々に宣言する。そうしている間にもメイショウドトウがいつの間にかターフへと姿を現していた。
「あわわわ……やっぱりオペラオーさんは凄いですぅ……あんなに自信満々でぇ……」
そして──今日一番の喝采が鳴り響く。中山レース場は揺れ、ターフにいるウマ娘達も彼女を鋭く睨んだ。テイエムオペラオーも例外ではない。不敵な笑みを浮かべて、彼女を見る。
入場してきたのは……今回の1番人気、アグネスタキオンだ。
《さぁ、そして来ました!今回のレース1番人気アグネスタキオン!世界の頂点に立ったその脚は、この中山でどのような光を見せるのか!?超光速の世界へ、いざ進もう!》
《凱旋門賞はまだ記憶に新しいですからね。まさかまさかの有馬記念に参戦。しかしスタミナは申し分ないでしょう》
興味深そうに周りを眺め、テイエムオペラオーを視界に収めると笑みを深める。
「やぁやぁオペラオー君!レースで会うのは初めましてだねぇ」
「おぉ!世界の頂に上った
「それは嬉しいねぇ。こちらも同じ気持ちだよ」
1番人気と2番人気のにらみ合い。凱旋門賞でも似たような光景を目にしたファンは興奮する。
「凱旋門賞の時もあったよな、これ」
「あぁ……サリーブと話していた時と一緒だ!」
「ひょ、ひょえぇ~!タキオンしゃんとオペラオーさんの見つめ合い!良きッ!」
そんな声をよそに、2人はお互いを見据える。不敵に笑うオペラオーと愉快そうに笑うタキオン。同じ笑いでも違った印象を植え付けられる。
「だがすまない。この舞台はボクのものなんだ。キミが輝けば輝くほど、ボクもまた美しく輝く!」
「そうかい。だが生憎と興味がなくてねぇ……私の
言葉はそれだけ。それ以外は不要だとばかりに2人は別れる。お互いにウォーミングアップをしていた。
そして最後のウマ娘、マンハッタンカフェが登場する。入場してきた彼女は辺りを見渡し……アグネスタキオンを鋭く睨みつける。
(弥生賞では、なすすべもなくやられました……ですが、今の私は、あの時以上に成長した。それこそ、タキオンさんにも、負けないぐらい)
夏合宿のトレーニングで自信を深めた。同じチームの仲間からの協力を得て、この舞台に立っている。情けない姿は見せられない、絶対に勝つ。そんな気概を感じさせる。
「負けません、絶対に……っ!」
最後にひと睨みした時、アグネスタキオンがマンハッタンカフェの方へと視線を向けた。睨みつけられていたことに驚いた表情を浮かべ──愉しそうに口角を吊り上げる。
口が動いたわけではない。ただ、無言でマンハッタンカフェに語りかける。
私に追いついてみたまえ、と
そう語っているようだった。
(どこまでも、上から……実際、上にいるのは、認めなければなりません。だからこそ)
「ここであなたを、下します。私の、目標のためにも」
踵を返し集中力を高める。ゲートインの時間はもうすぐだ。
◇
さて、レース前からバチバチだ。
「た、タキオンさんかなり警戒されてますね」
「当然だ。凱旋門賞ウマ娘というネームバリューは、それだけ大きい。現・世界一といっても過言ではないのだからな」
「確かレーティング……134、だったかしら?随分とまぁ評価されてますこと」
ジェンティルの言うレーティングとはワールド・ベスト・レースウマ娘・ランキング*1のことである。簡単に言えば強さの格付けのようなものだ。あくまで指標に過ぎないけど。
「実際、サリーブを下したのがかなり大きいね。彼女、凱旋門賞までは世界一だったから。今は世界二位だけど」
「ってことは……今タキオンさんが一位なんですか!?」
「さすがはタキオンさんッ!委員長も誇らしいですよッ!」
まだ暫定だけど、このままいけば世界一位はタキオンのものになるだろう。そうなると嬉しいな、うん。ちょっとウキウキする。
おっと、気を引き締めないといけない。年末の大一番、勝って終わりたい。もう信じることしかできないけれど。
(頑張れ、タキオン)
「頑張ってくださいねー!タキオンさーん!」
「ファイトでーす!」
バクシンオーとキタサンの応援がいつものように飛ぶ。そして、ゲートインの時間がやってきた。
《各ウマ娘がゲートに入ります。年末の大一番、みなさんの夢を運んで、ウマ娘達が駆け抜けます。この寒風を吹き飛ばすほどの熱を、ウマ娘達に届けましょう!》
《シニアの強豪が強さを見せるか?クラシック級の若武者が世代交代の鐘を鳴らすのか?注目ですね》
《今、大外枠のインテンスリマークがゲートに収まりました》
静まり返る中山レース場。冷たい空気を切り裂いて──ゲートが開いた。ウマ娘達が一斉に飛び出す。
《冬のグランプリ有馬記念が今──スタートしましたッ!ウマ娘が一斉に駆け出します!おっと、これは7番のオリノコリエンテがちょっと出遅れたか?他は綺麗なスタートを切ります!さぁハナを切るのはどのウマ娘か?注目の先頭争い!》
有馬記念が始まる。