アグネスタキオンと一緒に今後の予定をすり合わせていく。場所は旧理科準備室、アグネスタキオンの根城、というよりはもう1人のウマ娘との共同スペースだ。
「ちなみにだが、君の言う適性とやらはどんな効果をもたらすんだい?詳しく聞かせてくれたまえよ」
アグネスタキオンが聞いてきたのは距離適性について。曰く、今後の目標を決めるために知っておきたいとのことらしい。
「距離適性は言葉通りだよ。走りやすい距離とかそういうのを表したものさ」
「ほう。具体的に、適性外で出走すると何が起こる?」
「適性外の距離に出走した場合、能力が少しだけ下がるんだ。適性は8段階であるけど、A未満で出走するとパフォーマンスが下がるって認識でいいと思う」
「成程ね」
興味深そうに聞きつつPCのキーを叩くアグネスタキオン。メモを取っているのだろう。
「そして最高値が……距離適性S。トレーナー君でも滅多に見たことがない代物、か」
「そうだね。バクシンオーの短距離なんかがそうだけど、距離適性Sは本当に見かけないよ」
これまで色々とやってきて分かったことだが、距離適性Sは才能の壁みたいなものだと判断した。極論、Aまでは何とかなる領域。けど、Sとなると才能も必要になってくる。たとえるなら、マイルを最も得意とするウマ娘がマイルを極めようと努力することで至れるような、そんな領域だ。
ただ、その分強力ではある。
「適性Aが100%の実力を発揮するものなら、適性Sは120%を出すことができる。そういう風に認識しているよ」
「成程……では、私も当面は距離適性Sを目指すべきかな」
アグネスタキオンはSに至れそう、というよりは至れるだろう。才能がものすごいわけだし。
「君の目では、私の適性はどうなっているんだい?」
「中距離が最適性かな。マイルや長距離もAになったし、短距離も勝負できないことはないレベルにはなったけど」
「……いや、私は中距離一本に絞ろう。長距離にしても春の天皇賞のような長いレースは走る気はないよ」
「分かった。それじゃあクラシック三冠も日本ダービーまでってことだね」
「そういうことでよろしく頼む。私が最も力を発揮できる舞台が中距離ならば、それ以外を走る意義は薄いからねぇ」
アグネスタキオンは三冠を狙わない。中距離路線に絞ることを決めた。そうなるとこっちも絞れてくる。まぁホープフルステークスを目標にしているから、ジュニア級は特に変わらないか。
「ホープフルからの弥生を経て皐月へ。ダービーは……まぁ気が向いたら走るとするかね」
「同じ中距離なのに、狙わないんだね」
「その時になってみなければ分からない、ということさ。状況がまるっきり変わっている可能性もある。今はまだ、視野に入れておくだけでいいだろう」
アグネスタキオンの目標次第では向かわない。そう解釈もできる。こればっかりはダービーの時を迎えないと判断はできないね。
さて、中距離一本に絞ることが決まった。ここで1つ、アグネスタキオンに
「アグネスタキオン。君に提案があるんだ」
「なんだい?もしかして……実験の数を増やす「残念だけどレースのことだね」なんだそっちか」
露骨に残念そうな表情するね。悪いけど、今回はそっちじゃないよ。
「それで?レースのことで提案とはなんだい?」
「実は、君の目的にも合致するプランを考えているんだ。より強い相手と戦うために、君に呈示したいものがね」
「……ほう、聞かせてくれたまえよ」
僕の言葉に、面白そうな表情を浮かべるアグネスタキオン。予想はついてるだろうに、それでもワクワクが抑えきれないって感じだ。
「中距離一本に絞って、なおかつ強敵との戦いを求めるなら──凱旋門賞。ここに出走する気はないかな?」
アグネスタキオンは──それはもう愉快そうに笑みを深めていた。
◇
阪神レース場。今日はレースの開催日であり、メイクデビューが開催されようとしていた。
ただ、今回のメイクデビューはいつもより客入りが多い。理由は、ある一人のウマ娘によるものだ。
「今回はアグネスタキオンが出走するわけか。しかも、トレーナーがトレーナーだからな!」
「えぇ。サクラバクシンオーのトレーナーが担当するウマ娘……注目しないわけにはいかないでしょ」
「サクラバクシンオーも凄かったからな!アグネスタキオンもきっと、すげぇレースを見せてくれるよ!」
ウマ娘、というよりはトレーナーもセットで話題を集めている。アグネスタキオンとそのトレーナー、高村聖。最年少でトレーナーになった天才と、デビュー前から期待を集めていたアグネスタキオンとのタッグ。果たして阪神の芝2000mでどのようなレースを見せてくれるのか、始まる前から話題を集めていたのだ。
パドックを終えたウマ娘達が続々とターフに姿を現す。今回出走するのは12人のウマ娘。アグネスタキオンは4枠と真ん中の枠番からの出走だ。
準備運動をするアグネスタキオンを見守りながら、高村はノートを取り出す。
「さて、今回のバ場は良バ場。アグネスタキオンの実力を十二分に発揮できる。どこまでやれるか」
「勿論タキオンさんがバクシン的勝利を掴みますともッ!えぇ、この委員長のお墨付きです!」
「タキオンさん頑張れー!お祭りパワー全開でーす!」
高村の他にも、彼が担当するウマ娘達も観戦しに来ている。その一角は視線を集めていた。
「おい、高村トレーナーがいるぞ……それに、サクラバクシンオーも!」
「凄いオーラ……後、目がいつも通り死んでる」
「あの人がサクラバクシンオーを三冠に導いたトレーナー……」
クラシックで並み居る強豪を蹴散らし、見事無敗の三冠ウマ娘に輝いたサクラバクシンオー。そんな彼女を担当する高村が注目を集めるのも当然、といった具合だ。
そんな周りの声など露知らず、高村はノートを見る。
(現状のアグネスタキオンのステータスなら、まぁ問題なく勝てる。事故も起こらない)
アグネスタキオン
適性:芝A ダートG
距離:短D マA 中A 長A
脚質:逃げE 先行A 差しA 追い込みF
スピード:D 342
スタミナ:E+ 267
パワー :D 302
根性 :F+ 191
賢さ :D 311
アグネスタキオンの能力値が書かれたページに視線を落とし、満足げに頷く。アグネスタキオンの勝利を確信しているような、そんな表情だった。
出走するウマ娘達がゲートに入る。緊張している者、自信満々な者、小声で自分に言い聞かせる者様々だ。その中でアグネスタキオンは、ただ前だけを見ていた。
(さぁて、今のこの身でどこまで走れるか……検証させてもらうことにしよう)
自分が求める強いウマ娘達が集うトゥインクル・シリーズへ出走ができる。そのことに胸を高鳴らせながらゲートへと入っていった。
《天気に恵まれた阪神レース場、芝2000mのメイクデビューがまもなく発走となります!絶好の良バ場日和、誰が勝ち抜けるのか?非常に気になるところです》
《個人的に注目したいのはやはりアグネスタキオンですね。本人の知名度もさることながら、やはりトレーナーも有名ですから》
《そうですねぇ。アグネスタキオンのトレーナーといえば、新人ながらその手腕でサクラバクシンオーを導いている高村聖トレーナー!これは注目ですよ~!》
「注目されているな、トレーナー」
「……まぁ、理由は分からなくはないよ」
ドゥラメンテの言葉に気恥ずかしそうに返す高村だった。
《全てのウマ娘がゲートに収まりました。新たなスターが誕生する瞬間。態勢整って……っ、スタートしました!おっと、11番のサンドコマンドがやや出遅れたか?それ以外は綺麗なスタートを切ります!メイクデビュー、スタートです!》
アグネスタキオンのメイクデビューが始まる。
◇
レースは縦長の展開。逃げてペースメーカーとなっているのは2番のオネストワーズ。9番のエフェメロンが競り合うように付き合い、2人から3バ身程離れて先行勢がついていく形。アグネスタキオンはこの先行勢の中にいる。前からは5番手の位置だ。
《快調に飛ばして逃げますオネストワーズとエフェメロン。この2人がペースメーカーで前半1000mを通過しました。平均的なペースで進みます。エフェメロンから遅れること2バ身、先行勢を引っ張るのはイツツバクローバー、イツツバクローバーが3番手。4番手アビルダ、そして5番手に1番人気、アグネスタキオン!》
《アグネスタキオンは前目につけていますね。冷静にレースを展開していますよ》
《アグネスタキオンから遅れること3バ身の位置、6番手はアーケードチャンプ、そしてアイアムクイーンと続きます!3コーナーを回っていくウマ娘達。まもなく第4コーナーに入る!》
レースのタイムを計測するドゥラメンテ。逐一メモを取る高村。漏れがないようにしっかりと取っていた。その横でキタサンブラックとサクラバクシンオーが大声で応援している。
5番手でレースを進めるアグネスタキオンは高揚感に包まれている。
(あぁ、素晴らしい!彼女も、彼女も!良い実験対象になりそうじゃないか!)
ちょっと余計なことを考えているが、テンションが上がっているのは間違いない。口角を吊り上げ、楽しそうに走っていた。
(なにより、私自身能力の向上が感じられる。明らかに併走時よりもパフォーマンスが向上していると断言できるねぇ!)
「だが、
検証はすでに済んだ。ならば後は勝つだけだ。そう言わんばかりに、アグネスタキオンはギアを上げる。
《第4コーナーでアグネスタキオンが動いた!アグネスタキオンが外から上がって行く!アビルダとイツツバクローバーを簡単に抜き去って、逃げるオネストワーズとエフェメロンとの差を詰めていきます!》
「む~り~!」
振り切ったアビルダとイツツバクローバーには目もくれず、オネストワーズとエフェメロンに襲い掛かるアグネスタキオン。アグネスタキオンが近づいてきていることに気づいた2人は必死に粘るが、アグネスタキオンはあざ笑うかのように差を詰めてくる。
「それじゃ、失礼させてもらうよ」
最後の直線に入る前に、アグネスタキオンは2人に並んだかと思えばそのまま抜き去る。
《アグネスタキオンがあっという間に抜き去った!最後の直線で先頭に立つのはアグネスタキオン、アグネスタキオンだ!アグネスタキオンの加速が止まらない!後ろをグングン突き放す!》
「「「む~り~!」」」
こうなると、後はアグネスタキオンの独壇場だった。後ろとの差をどんどん広げていき、まるで1人で走っているかのように疾走する。
(不思議な高揚感だ!1人で走っている時には得られない事象、なおかつこれまでで最高のパフォーマンスだと断言できる!成程、これがトゥインクル・シリーズで走るということ!)
その後も追いつかせることなく差を広げ。アグネスタキオンはゴール板を駆け抜けた。
《アグネスタキオン強い強い!恐ろしい強さを見せつけたアグネスタキオン!2着との差を10バ身以上は広げる大差勝ち!衝撃のデビュー戦を飾りましたアグネスタキオン!》
《いやはや……第4コーナーで先頭に立ち、後は後続との差を広げていくだけのレースでしたね。レースも王道、これは強い!と思わせるような勝ち方でした!》
《すでに主役の風格漂わせるアグネスタキオン!次はどのレースへと向かうのか、非常に楽しみです!阪神レース場メイクデビューを制したのはアグネスタキオンだぁぁぁ!》
息を整えるアグネスタキオン。阪神レース場に集ったファンは、アグネスタキオンの勝利に驚きと興奮を覚える。
「凄かったぞー!タキオーン!」
「これからも応援してるわー!」
「なんて速さだよ……もうとにかく凄かった!おめでとーう!」
「良いバクシンでしたよタキオンさんッ!委員長が花丸をあげましょうッッ!!」
「おめでとうございまーす!!タキオンさーーん!!」
「声デカッ!?」
隣にいた人が思わずビックリするぐらいの声量で祝福の言葉を届けるサクラバクシンオーとキタサンブラック。ドゥラメンテと高村は無言で拍手を送っていた。
アグネスタキオンは、楽し気に笑みを浮かべる。
(クックック……、想定以上だ!これから先が楽しみだねぇ!)
自分の脚を撫で、今後のレースに思いを馳せる。
地味~に今後の指針が決まるのとメイクデビュー回でした。