ビヨンド・ザ・ライトレス   作:カニ漁船

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ついにバレてしまった。


問題追及

「高村トレ~ナ~?これは一体どういうことですか~?」

「……」

 

 目の前には修羅の形相をしたたづなさん。周りには僕を非難の目で見るミーティアのメンバー。僕の立場はさながら罪人のそれだ。

 刺々しい視線が痛い。いたたまれなさが半端じゃない。けど、この状況から解放されることはないだろう。

 

「黙っていても分かりませんよ?早く白状してください」

 

 聞かれるが、無言。もう罪人とかそういうのじゃない、悪いことをして叱られている子供の気分だ。あんまり怒られた記憶ないけど。

 たづなさんは無言でなにかを取り出す。なにかのドリンクであり、とても見覚えのあるものだ。たづなさんの表情は呆れている。うん、もう逃げ場はない。

 

「まさか、ロイヤルビタージュースを利用していつも働いていたなんて……」

「ダメですよトレーナーさんッ!健康第一、即刻摂取を止めるべきですッ!」

「そんな危ない薬みたいな扱いは止めてもらえますか?バクシンオーさん」

 

 僕が詰められている原因は、働きすぎである。

 

 

 つい先日、トレーナー全員に対して意識調査アンケートみたいなものがあった。その中には一日何時間寝ているか?みたいな質問があって。確かその時はバカ正直に書いていた……と思う。もうその辺の記憶もあいまいだ。まぁ書いてなきゃこうやって詰められないんだけど。

 最初は驚いた。チーム全体でミーティングをやっているところにたづなさんが乱入してきたのだから。

 

「高村トレーナー!これは一体どういうことか説明してください!」

「おはようございます、たづなさん。えっと、なんのこと……で、すか……」

 

 必死の形相でたづなさんが見せてきたのは、僕が書いた意識調査アンケートの用紙。バクシンオー達はなんの紙か気になってみんなで見ていたけど。

 

「ちょわぁっ!?」

「えぇ!?これ、さすがにマズいですよ!」

「……君は、なにをやっているんだ?」

「えぇ~……これはさすがに……」

「おいおい、さすがの私でもどうかと思うぞ?トレーナー君」

「あなた、常日頃から私達に言っているのに自分はできていないのはどういうことかしら?」

 

 次の瞬間には一斉に非難の視線を浴びせられた。理由も分からずそんな目を向けられるとさすがに気になるもので、たづなさんから紙を貰ったんだけど。

 

「……あっ」

 

 そこに書いてあった文字。【Q.11あなたの平均睡眠時間は何時間ですか? A.約3時間】というのが見えて。

 

(こ、心当たりしかない……!)

 

 理由を悟った。それと同時に、僕はこの後大変な目に遭うことを理解した。

 

 

 そして今、たづなさん達に非難されている。ただ、僕にだって理由があるんだ。

 

「その、気づいたら時間が経っていたので」

「気づいたら時間が経っていた?自己管理はトレーナー業どころか社会人としての基本です!疎かにしてはいけません!」

 

 うん、ダメだ。この言い訳は役に立たない。

 

「仕事がたくさんあって、忙しかったので」

「それはありませんッ!トレーナーさんはいつも夕方ごろには終わらせていると言ってましたッ!この学級委員長にごまかしは利きませんよッ!」

 

 おのれバクシンオー。よく覚えていたと思うけどその記憶力は今発揮されて欲しくなかった……!

 

「あれ?じゃあなんで寝るのが遅くなってるんですか?」

「おそらくだが、対戦相手やトレーニングメニューのチェックだろう」

「何回も確認している内に、だな」

 

 うっ、鋭いな。

 ドゥラやタキオンの言う通りで、寝るのが遅いのは仕事以外のことをやっているからだ。実際には仕事に入るかもしれないけれど、僕は入念にチェックを重ねている。どんなに時間が経っても止めることはしない。その理由も単純で。

 

「疲れてもロイヤルビタージュースがあるからいい……どうせそんなところでしょう?」

「それに、多分私達のネット記事も探しているんじゃないですか?スクラップブックのために」

「……その通りだよ、タルマエ」

 

 ロイヤルビタージュースがあれば疲労は一発で取れる。だから時間を気にせずに仕事をしてしまうのだ。後、実際のところ大部分の時間はみんなのネット記事を探すことに没頭している。どんなに細かいものでも逃さないように。

 その結果が、睡眠時間約3時間というもの。というか徐々に記憶が戻ってきたぞ。確か、いつもは誤魔化していたけれど。

 

「毎回毎回誤魔化していたみたいですね~?()()()()()()()()

「うぐっ」

「ハァ、毎回毎回ロイヤルビタージュースの在庫を貰っていくから、怪しいと思っていたんですよ」

 

 たづなさんに、今度の意識調査アンケートは嘘を書かないでくださいね~?、と無言で威圧されたからだった。やっぱりバレていたのか……。

 床に正座する僕。見下ろすたづなさんとミーティアのメンバー。足が痺れたとか、そんなことも感じないぐらいに冷や汗がヤバい。過去最大にピンチだ。

 

「さて、こんなことが続くようでしたら、もうロイヤルビタージュースは高村トレーナーに卸せませんね」

「ッ!?そ、それは困ります!はたら、とにかく困ります!」

「働けなくなる、と思っているみたいですけど、あなたは働きすぎです!ちょっとは休んでください!」

 

 ぐ、ぐうの音も出ない正論……!何も言い返せないっ。

 

「そうだ。君は常日頃から私達に言っているだろう?」

「規則正しい、節度を持った生活を心がけるべき……だったかしら?でも」

「トレーナーさん自身ができてないのはダメですよ!」

 

 はい、何も言い返せません……。

 その後もたづなさんからありがたいお説教をたくさんいただいた。そして、ロイヤルビタージュースの処遇については。

 

「しばらくは禁止です!規則正しい生活を心がけるようになったら、また卸してあげます」

 

 卸してもらえなくなった。当然だけど……当然だけども!

 

 

 

 

 

 

 たづなさんが帰った後、またミーティアのメンバーから詰められる。

 

「ちょっとした疑問なんですけど、トレーナーさんってよく飲めますよね、ロイヤルビタージュース」

「まぁ……青汁が数十倍苦くなっただけだし」

「だけ、で済ませていいものじゃないんですよそれは」

 

 そうだろうか?もう飲み慣れてしまったから疑問に思わなくなった。

 その後も小一時間ほど説教をされた。自分の身体を大事にしてほしい、とか私達のためなのは分かるけどそこまで無茶はしないで欲しい、とか。あまりにも耳が痛すぎて何も言えなくなった。

 

(確かに、人に言っておいて自分の管理ができてないな、僕)

 

 前世ではこれがデフォルトだったから忘れかけていた。いや、もう……本当に反省しなければいけない。下手をしたらみんなを泣かせてしまうわけだし。

 

「とにかく!もう無茶な仕事はしないでくださいね!」

「えぇ。あなたが倒れましたら困るのは私達ですわ。くれぐれも、同じことを起こさないように」

 

 バクシンオー達にも説教されて、ようやく解放される。足がしびれて立ち上がることができないが、これも自業自得だ。

 

「今日は……もう時間なさそうだし、解散にしようか」

「だ、大丈夫ですか?トレーナーさん。あたしが肩を」

「大丈夫だよ、キタサン。これは自業自得だから」

 

 心配するキタサン達に帰るよう促す。こればかりは僕のせいだから、彼女達の手を借りるわけにはいかない。いずれ自分で立ち上がれるようになるだろう。

 

「なら、私が残って彼を見ておこう。個人的に話したいこともあるわけだからね」

「ちょわ?そうですかタキオンさんッ!では、トレーナーさんは任せましたッ!」

 

 と、思っていたのに、タキオンが残った。何か話があるみたいだけど……。

 他のみんなは帰って、タキオンだけが部屋に残る。2人っきりだ。

 

「それにしても……君も随分なことをやるねぇ。まさか一日3時間しか寝てなかったとは」

「……忙しい時はね。たまにちゃんと寝ている日もあるよ」

 

 比率に関してはノーコメントで。

 

「子供の時からそうなのかい?君のそれは」

「子供の時は……そんなことはなかったかな。トレーナーになってからだ」

「そうか。では……」

 

 その後もいろんなことを聞かれた。とりとめのない会話、時間だけが過ぎていく。もうそろそろ日没の時間か、って頃。ふと気になった。

 

「そういえばタキオンはさ、どうして限界速度の果てに辿り着きたいの?」

「ふむ?どういう意味だい?」

 

 会話の内容はほとんど僕の昔話。だからちょっと気になった。タキオンはいつから今の目標を立て始めたのだろうか?かを。

 

「いやさ、タキオンの目標は限界速度の果てに辿り着くことだったよね?研究目標」

「あぁ、そうだね。それがどうかしたのかい?」

「でも、それっていつ頃から思い始めたのかなって。ちょっと気になっただけ」

 

 目標には動機となった何かがあるはずだ。タキオンが限界速度の果てを目指すに至った経緯が。

 

「特別なことはないさ。ウマ娘という神秘の存在そのものに魅せられ、気づけば研究対象としていた……それだけの話だよ」

「神秘、か。確かに、人と同じ姿なのに身体能力が桁違いに高いよね。そう言われると気になる」

「そうだろうそうだろう!飽くなき探求、どこまでも調べつくしたい!君もそう思うはずだ!」

 

 生憎と僕は研究者ではない。でも、タキオンの言う通り気にはなる。

 タキオンは色々と語ってくれた。ウマ娘の理論や様々なことを。楽しげに語る彼女の姿を見て、ちょっと微笑ましく思う。

 

「……というわけで、私としてはこれもひじょ~に気になる分野なわけだがっ?おや、どうかしたのかい?」

「え、なにが?」

「いや、微笑ましそうに笑っているからねぇ。何か楽しいことでもあったのかい?」

「……楽しいことなら、現在進行形で起きてるかな」

 

 不思議そうに首を傾げるタキオンだった。

 

 

 どうにか脚の痺れも引いた頃、そろそろ帰ることに。

 

「さて、明日からまた頑張ろうか。ドバイのこともあるし」

「中々有意義な時間だったよ。また語り明かそうじゃあないか!」

「時間があったらね。とにかく僕は早く寝ないと……」

「当たり前だ。倒れでもしたらどうする?私のご飯は誰が作ってくれるんだい!」

 

 そこなんだ。別にいいけども。




それからしばらくの間はちゃんとした睡眠を心がける高村Tだった。なお目は相変わらず変化はない。
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