ビヨンド・ザ・ライトレス   作:カニ漁船

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ドバイに行く前に。


束の間の休息

 全く、トレーナー君ときたらロイヤルビタージュースを使って働いていたとは。

 

「信じられるかい?カフェ。トレーナー君はロイヤルビタージュースを飲んで、毎日の疲労を取っていたみたいだ!寝ずにね!」

「ッ!?あの、劇物を……?常飲していたんですか?」

 

 カフェも驚いているねぇ。ま、ロイヤルビタージュースの存在を知っている者ならば誰もが同じ表情をするだろう。アレは本当にヤバい。トレーニング後の疲労が取れる代わりに、こちらのやる気を削ぐような味をしているからね。常飲しているのは稀だ。その稀な例が一番身近にいたわけだが……まぁいい。

 

「その通りだとも。約3時間程度の睡眠、残った疲労は全てロイヤルビタージュースで解決……無茶をするよ、本当に」

「高村トレーナーは、大丈夫、なのですか?」

「あぁ。たづなさんからのお叱りと、我々で説教をしたからね。今後同じような過ちは繰り返さないだろうさ」

 

 普段から我々に食生活だ普段の生活が大事だと説いている割に、当の本人は睡眠時間を削りまくっているとは。トレーナー君としても今回ばかりは反論できなかっただろう。借りてきた猫のように大人しかったからねぇ。

 

「ですが、高村トレーナーは、またやりかねないのでは?」

「それはないさ。アレだけキツく言われて、さらにはロイヤルビタージュースを人質に取られているからね」

「……それが成立するのも、どうかと思いますが」

 

 まぁロイヤルビタージュースに関しては冗談だとして、アレだけ怒られたんだ。もう同じような過ちはしないだろう。最近は心なしか元気が出てきたようだからねぇ……目のハイライトが消えているのは相変わらずだが。

 

(というか、アレは本当にデフォルトだったんだねぇ)

 

 多分、彼の気持ちが最高潮に達した時だけハイライトが灯るとかそんな感じだろう。知らないがね。

 

「それにしても、トレーナー君は自分を省みないのだけはいただけないねぇ。自己管理は大事だというのに!」

「……あなたが、言いますか」

 

 カフェから凄い目で見られているが、そうだろう!

 

「毎日3時間睡眠など、いつかは倒れてしまうよ!彼が倒れたら、誰が私のお弁当を作ってくれるっていうんだい!」

「……ダメウマ娘」

「辛辣だねぇ!?」

 

 だって事実じゃないか!私の食事は彼のお弁当によって成り立っているんだ、彼が倒れたら私は栄養失調で倒れること間違いなしだよ!

 

「第一、高村トレーナーの生活を、指摘していますが、タキオンさんは、もっと酷いでしょう」

「そんなことはない!少なくとも、睡眠は大事にしている……大事に、大事に……しているとも!」

「もう、答え出てるじゃないですか」

 

 失敬な!ちょ~っと実験に夢中になりすぎて寝不足になることはあるが、それはそれだ!

 

「しかも、洗濯も、デジタルさんに任せっぱなしだったはずです。彼女が、タキオンさんの服をたたんでいるそうじゃないですか」

「ふぅン、デジタル君がやってくれるから、私はその厚意に甘えているだけさ。省ける手間を省いているだけだとも!」

「……料理もしない、洗濯もしない、私生活が壊滅的。高村トレーナーのことを、とやかく言える立場ですか、貴方は」

 

 あー、あー、聞こえないねぇ。私は何も知らないねぇ。

 

 

 まぁ私の私生活についてツッコまれてしまったが、話しを程々に切り上げてと。

 

「カフェの次走は春天らしいねぇ。ま、頑張りたまえよ」

「えぇ……次、貴方と戦う時は、負けません」

「おぉっと、またも熱烈なラブコールだ。ただ、次は中距離で頼むよ?」

 

 カフェは闘志を滾らせながらこちらを見てくる。フフフ、それでいい。それでこそ私のモルモットとしてっ?

 

(……()()、か。これは一体、どういうことなのやら)

 

 どうも有記念が終わってからというものの、変になっている。別に身体に異常があるわけではないのだが……彼女達をモルモット扱いすることに変な感覚を覚えている。

 

(今まで彼女達は、私が限界速度の果てへと至るためのモルモットとしてみなしていた。でも、今は……違う?)

 

 どうにも分からない感覚だ。ただ、悪いとは思わない。むしろ心地よいとまで感じる。

 

「……タキオン、さん?」

「っ、ん?」

 

 気づけばカフェがこちらを覗き込んでいた。急に黙ってしまった私を心配しているのだろう、彼女の表情から見てとれる。

 ふぅ、とりあえず取り繕わなくては。

 

「なんでもないさ。少し考え事だよ」

「なら、良いのですが。体調には、しっかりと気を配ってください」

「言われるまでもない。私の次走も近いからね」

 

 私の次走、ドバイシーマクラシック。ここも世界中から強豪が集まってくるレースだ。私の実験にはもってこいの舞台だろう。ドバイワールドカップはダートなので出走見送りだが、ドバイシーマクラシックも中々の猛者が集う。フフ、楽しみだ!

 

「ポッケ君とダンツ君は大阪杯に向かうらしいね。私は観戦にいけないが」

「そうですね。お2人も、いつかタキオンさんを超えると、意気込んでいましたよ」

「ほほ~う!そいつは楽しみだ!彼女達の成長には目を見張るものがある、次はどこで戦えるのやら!」

 

 マイルチャンピオンシップにジャパンカップ、どちらも凄かった。彼女達と競い合えれば、私は更なる高みに「……っ」っ?おぉっと、なにがおかしいのかな?

 

「何故訝しんでいるんだい、カフェ。何かおかしなことでも?」

「……いえ。皐月賞後は、興味なさそうにしていたのに、今は、興味があるんですね」

 

 あぁ、そういうことか。それも当然だろう。

 

「今の彼女達は皐月賞後の彼女達とはまるで違う。一度、私の走りに心折られた彼女達とはね」

「……」

「彼女達ならば、私の走りをさらに磨いてくれるだろう!そうすれば、いずれは目標へと到達することができる!その時が楽しみだ!」

 

 カフェは、なおも訝しんだ表情。おかしいねぇ、今のは私の紛れもない本心なのだが。

 

「……まぁ、良いです。あなたは、そういう人なので」

「どこか引っかかる言い方だが……まぁいい。これが私さ」

 

 さて、そろそろ研究に「すみませ~ん、タキオンさんはいますか?」おっとぉ?この声は!

 視線を扉へと向けると、赤く長い髪をツインテールにしたウマ娘、スカーレット君がいるじゃないか!

 

「やぁやぁスカーレット君!こんなところまでよく来てくれたねぇ。今日はどうしたんだい?」

「……こんな、ところ」

「あ、タキオンさん!実は、タキオンさんに頂いたアロマが凄く良くて……なので」

 

 う~ん、もじもじしている姿も可愛らしいねぇ!末はアイドルかもしれない!

 

「あのアロマかい?いいともいいとも!好きなだけ持っていきたまえっ!あ、私の方で出そう。ここは危ない薬品が多いからねぇ」

「本当ですか!?ありがとうございます!」

「なぁに、スカーレット君のためだ。これくらいわけないよ」

 

 さて、あのアロマはどこに仕舞ったかな~っと。

 

「……凄い、変わり身の早さで。相変わらず」

 

 カフェが何か言っているが気にしない。些細なことだ……おっと、これだね。

 

「待たせたねスカーレット君。これだろう?」

「あ、これです!ありがとうございます、タキオンさん!」

「気にしないでくれたまえ。それでは、気をつけて帰るんだよ。後チームが決まってなければ是非ともミーティアに来てくれたまえ。みんな歓迎してくれるさ」

 

 考えておきまーす!、と元気の良い返事。う~ん、癒されるねぇ。カフェからはすんごい目で見られているが些細な問題だ。

 

「……相変わらず、スカーレットさんに、甘いよね。うん」

 

 知らないねぇ。スカーレット君が可愛いのが悪いねぇ。

 

 

 

 

 

 

 ミーティアのトレーニングも終わって、トレーナー君との談義の時間だ。議題は変わらず、私の領域について。

 

「しかし、今だ変わる兆しは見えていない。私の根本的な部分は全くダメ、ということだ」

「有記念が終わっても、変化なしか」

 

 委員長君との併走でまた使ってみたが、変わらず。一体何が原因なのか見当もつかないのが現状だ。

 意識の変え方なのだろうが、どう変えればいいのかも分からない。そもそも、怪我へのリスクなど誰もが持ち合わせていることだ。どうしても頭にチラついてしまう。

 

(それをねじ伏せるほどの何かがあればいい……トレーナー君はそう言ったが)

 

 現状、打破するための手掛かりはなし。一応、委員長君にも聞いてみたのだが。

 

「バクシンが足りませんッ!タキオンさんにはバクシンする心が足りていないのですッ!」

「はっ?」

「自分を信じてバクシンすれば道は切り開けますッ!あらゆるリスクなどお構いなし、バクシンこそが正道ですッ!いざ、バクシンバクシーーンッ!」

 

 うん、訳が分からなかったね。委員長君には悪いが。

 この談義も半ば意味のないものと化している。状況は好転しないし、どうしたものかと手をこまねいているわけだ。なにか光明があればいいんだけどねぇ。

 そう考えていると、トレーナー君がふと口を開いた。

 

「……そういえば、さ。タキオンの目標は、探求心から生まれたものだったよね?」

 

 それは、私の目標である限界速度の追求について。今更その話をしてなんになるのか?と疑問を抱かずにはいられないが、答える。

 

「そうだね。その通りだよ」

「でさ、子供の頃からガラスの脚だってことを自覚してたの?」

 

 ……どうだったか。少なくとも最初から自覚していたわけじゃないのは確かだが。

 

「なんて言えばいいのか分からないけど……がむしゃらに走っていた時期はあったりしたのかな?」

「それは、あるだろうね。走るのが楽しくて、仕方ない時期はあったはずだ」

 

 気づいたら研究漬けだったからあまり覚えていないが、多分あったはずだ。

 ブツブツと呟いているトレーナー君。いつものようにハイライトのない瞳が、急にこちらを捉える。

 

()()()()()()、タキオン」

「……はっ?」

 

 トレーナー君が口にした言葉は、予想外のことだった。

 

「タキオンにとっての原点に戻ろう。少なくとも、最初は領域を普通に使えていたんだよね?」

「まぁ……出力を抑えていたからね」

「でも、領域の出力を抑える方法を知る前は?僕に最初領域を披露した時は、リミッターはかけてなかったはずだよ」

 

 ……ッ!確かに、そうだ。あの時はまだ調節の仕方が分からなかった頃だ。つまり、無意識のうちに100%を発揮していたはずである。

 

「あの時は確か、できると思ったからやった……でも、それ以上に何かがあったはずだ」

「それを思い出そう、タキオン。そうすれば、攻略の糸口が見えてくるはずッ!」

 

 思い出せ。あの時私は……何を考えていた?いや、むしろ考えていなかったのか?分からない、何を思っていた?

 トレーナー君の驚いた表情を思い出す。周りが領域に至れるかどうかを話していたのを思い出す。必死に記憶を掘り起こして、なにを感じたかを思い出す。そして……辿り着いた。

 

(……そうか)

「思い出せた?」

 

 こちらを覗き込んでくるトレーナー君。全く、とても良いヒントをくれたものだよ、彼は。私一人だと堂々巡りで辿り着かなかっただろう結論に、導いてくれた。どうすれば怪我のリスクを減らせるかどうか、そればかりを考えて思考が凝り固まっていた。そこに、別視点からの切り口を出してくれた。やはり、彼は素晴らしいトレーナーだ。

 

「……あぁ。ありがとうトレーナー君、君のおかげで──なんとかなりそうだよ」

「そう。それは良かった」

 

 どうすればいいかは分かった。後は──実践あるのみだ。




何かが見えたタキオン。そして初登場のダスカ。
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