ビヨンド・ザ・ライトレス   作:カニ漁船

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ドバイへいくぞー。


いざ、ドバイワールドカップミーティングへ

 光明が見えたあの日から、少しずつではあるが領域は改善していった。

 

「……どう?タキオン」

 

 心配そうな表情で窺うトレーナー君に、安心させるように笑顔で答える。

 

「大丈夫さ。徐々に、徐々にではあるが……改善している。これならば、問題はないだろう」

「そっか。……良かったっ」

 

 心から安堵しているような表情。本当に、彼にはお世話になりっぱなしだ。

 

 

 私にとっての走りの原点は何か?と聞かれたら、ウマ娘という種族の神秘を解き明かすため、と答える。人間と変わらない外見をしていながらも、その身体能力は人間を遥かに凌駕する。人間よりも遥かに速く走ることができ、人間では持てないものも軽々と持ち上げる力に惹かれる。子供ながらに、私はウマ娘という種族の神秘に心奪われた。

 だからこそ、知りたくなった。ウマ娘が出せる限界値はいくつなのか?その限界値はどうすれば出せるのか?そして……その果てに、どんな景色が見えるのか。

 

(知りたい……私の手で、解き明かしてみたいッ!)

 

 つまりはまぁ、私にとっての原点は──探求心になるのだろう。これこそが、鍵の一つになった。

 だが、鍵はもう一つあった。それが、つい最近まで私も気づくことができなかった……負けず嫌いというもの。どうも私はかなりの負けず嫌いなようで、ムキになりやすいようだ。負けることを恐れている、というよりは負けることが気に食わない……そんな感じか。

 この2つの鍵が揃うことで初めて、私の領域は完成する。怪我に対する恐怖すらもねじ伏せる感情が湧き上がる。あの領域は、まだ未完成だったんだ。全く、我ながら自分への理解度が足りていないんじゃないのかい?

 

(だが、それももう終わりだ。次のドバイシーマクラシックが楽しみだね)

 

 拳を握り、次なる戦いに胸が躍る。私の気持ちは、昂り続けていた。

 

 

 

 

 

 

 そして、ドバイへと旅立つ日がやってきた。空港ではたくさんの報道陣がいたねぇ。対応がめんどくさかったよ。

 

「ドバイシーマクラシック、頑張ってください!」

「世界最強ウマ娘としての実力、みせてきてください!」

 

 そんな感じの言葉を言われて悪い気はしなかったがね。ふふん、中々良いことを言うじゃないか!

 向かうのはいつものミーティアのメンバーだ。委員長君はともかく、他も後学のために必要だろう。

 

「……ッ!ッ!」

「落ち着いてね、バクシンオー。まだ出発して1時間も経ってないよ」

「はいッ!分かりましたッ!」

 

 ちなみにファーストクラスだ。いやはや、快適だねぇ。これも期待の表れというヤツだろう!他のみんなもリラックスしているようだ。

 着くまでの間は暇だ。寝て過ごすのも良いが、それだと味気ない。なので話のタネが必要なのだが……話題に上がったのは。

 

「そういえば、タキオンさん凄かったですね!年度代表ウマ娘!」

 

 私が年度代表ウマ娘に輝いた、という話だった。授賞式自体はこの前あったのだが、すっかり頭から抜け落ちていたよ。正直、あまり興味はなかった。むしろインタビュー責めにあって辟易していたぐらいだよ。

 なので特段語ることはない。

 

「ん?あ~……そういえばそうだったねぇ」

「雑ッ!?本人なのに!」

 

 驚くキタ君だが、私としてはそこまで興味のあるものじゃない。一番凄かったウマ娘というのはまぁ嬉しいが、誇示するものでもないからねぇ。

 キタ君は信じられない表情をしている。そこまでかい?というか、年度代表ウマ娘なら委員長君だってなっただろうに。

 

「タキオンさん満票での選出だったのに……」

「満票でも変わらないさ、タルマエ君。強いて言うなら……新しい勝負服が貰えたぐらいかな?嬉しかったのは」

「それは、早速ドバイシーマクラシックで着るんですの?」

「そのつもりだよ」

 

 年度代表ウマ娘、さらには凱旋門賞を制したことで、私に新しい勝負服が貰えることになった*1。今回のドバイシーマクラシックはこの衣装を着て走ることになる。お披露目会もかねて、ね。

 一つの話題が終われば、新たな話題が追加される。特にキタ君にタルマエ君が次々と話題を出してくれていた。

 

「そうだ!この前ダイヤちゃんから聞いたんですけど……」

「ちょっとみなさん聞いてくださいよ!この前あったことなんですけど……」

 

 それに適当に相槌を打つ私とジェンティル君。興味深そうに聞く委員長君。そしてレースの話題になれば食いつくドゥラ君。トレーナー君はというと……ボーっと空を眺めていた。

 そして話題が尽きれば、みんな眠ってしまった。私も眠くなってきたことだし、寝るとしよう……。

 

 

 

 

 

 

 ドバイワールドカップミーティングが開催される国に到着し、宿泊先で休む。次の日からは早速トレーニングだ。

 

「ふぅン、日本とそう変わらないのは助かるね。VRウマレーターを使わなかったのはこのためか」

「そうだね。日本と変わらないから、ドバイは走りやすいと思う」

 

 軽くならして走るとしよう。今日はウォーミングアップ程度だ。

 周りには他のウマ娘が練習しているのが見える。彼女達は自分のトレーニングに集中しているようだが、私がターフへと足を踏み入れると……視線が一斉にこちらへと向いた。

 全員が私を睨んでいる。一挙手一投足、細かい動作も余すことなく逃さないように観察している。警戒を強め、ギラついた目をこちらへと送っている。

 

(ククッ、随分とまぁ熱い歓迎だ……そこまで怖いかい?私という存在が)

「た、タキオンさん凄い注目されてますね」

「当然だ。タキオンは現・世界最強のウマ娘と言っても過言ではない。警戒度は段違いだろう」

 

 ドゥラ君の言う通りで、私に対する警戒が強いのは当然だ。なにせ、私は凱旋門賞を制したウマ娘。現・世界最強候補と目されているウマ娘だ。その警戒度は段違いだろう。私という存在をしっかりと対策してレースへと臨むためにも、これぐらい注目されるのは予想がついていた。

 ……上等じゃないか。是非とも私を対策したまえ。私の弱点を探りたまえ。もっとも?そう易々と見つけさせはしないが。

 

(私のやることは変わらない。ただ1つ……そのことごとくを私はねじ伏せるだけだ)

 

 レース本番が楽しみだねぇ、どこまで私に立ちふさがってくれるのか!新しい私に、どこまで食らいついてくれるのか!

 

「クックック……しっかりと対策したまえよ?そして、私を更なる高みへと導きたまえ!」

「こっちもいつも通りですわね。どこにいっても変わりありませんわ」

「それがタキオンの良いところだからね」

「さぁタキオンさんッ!しっかりとバクシンしましょうッ!学級委員長に続けーッ!」

 

 委員長君が我慢できずに走っていってしまったねぇ。別に彼女は出走するわけでもないのに。ま、これも彼女らしいというか。

 

 

 トレーニングが終われば、宿泊先のホテルでトレーナー君と作戦会議だ。有力なウマ娘のチェックを始める。

 

「特に注目されているのは、英チャンピオンステークスを勝ったハイガルだね」

「私と同じ世代で、クラシック級ながらシニア級との混合戦を制したウマ娘、か」

 

 凱旋門賞の後に開催されるイギリスのチャンピオンステークス。ここを勝ったウマ娘がドバイシーマクラシックに出走してくるらしい。トレーナー君にステータスとやらを見せてもらったが……総合的に私の方が高かったね。

 

「ステータスで勝ってるとはいえ、油断は禁物だよ。あくまで指標の一つでしかないから」

「分かってるよ。総合的なステータスで劣っていても勝てるなんてことは、自分が良く知っている」

 

 凱旋門賞の私がそうだったからね。油断はしないさ。

 後はドイツダービーを制したウマ娘に香港ヴァーズ2着だった子、さらには日本からもきているらしいね。しっかりと対策をしなければ。

 トレーナー君と対策会議をしていると、凄まじい足音を鳴らしながら何かが近づいて……なな、なんだい!?何が来るんだい!

 

「トレーナーさんッッ!!」

「うわっ、ビックリした」

 

 何だ委員長君か……。凄い足音だから何かと思ったよ。そして、なにを焦っていたのだろうか?

 

「どうかしたのかい?委員長君。トレーナー君なら「失礼しますッ!」私と話して……」

 

 えっ?委員長君が急にトレーナー君を持ち上げたんだが?トレーナー君もなにがなんだか分からない表情を浮かべているんだが?

 

「そろそろ寝る時間ですッ!私が部屋までお送りしましょうッ!」

 

 ……あ、本当だ。もうそんな時間だったみたいだねぇ。話しているのに夢中で気づかなかったみたいだ。なら、お開きにしよう。

 

「うん、わかったからバクシンオー。下ろしてくれると助かるかな?時間にも気づいたし、自分の脚で戻るから」

「ダメですッ!トレーナーさんにはしっかりと睡眠を取ってもらわないと!私がしっかりと部屋までお送りしましょうッ!」

「いや、だから自分の脚で「いざ!トレーナーさんの部屋までバクシンバクシィィィィンッ!」僕の意見は聞いて……」

 

 トレーナー君は委員長君に連行されてしまった。もういい時間だしね。トレーナー君は自分で歩くと抗議したが……まぁ受け入れられるはずもなく。あまりにも信用がないねぇ。

 

(まぁ彼はつい最近やらかしたから仕方ないか)

 

 ロイヤルビタージュースの一件がまだ尾を引いているようだ。だから仕方な「失礼します、タキオンさん!」おっと?なぜか私も掴まれているぞ?

 全く、誰だい?私を持ち上げているのは?と目を向けると……キタ君だった。とても良い笑顔を浮かべているねぇ。

 

「キタ君?下ろしてくれると助かるのだが?」

 

 私にはちゃんと脚があるんだ。そろそろ戻ろうとしていたし、離してくれると助かるのだが。

 キタ君はというと……それはもう素晴らしい笑顔だ。

 

ダメですッ!そろそろ良い時間なので、タキオンさんも寝ましょう!あたしが部屋まで送ります!」

「いや、今から戻るところで「ワッショイワッショーーイ!!」下ろしたまえぇぇぇぇぇ!?」

 

 待って欲しい!私にはちゃんと脚があるんだ!それに今からちゃんと戻るところだったから!だから下ろしてくれ!部屋に戻って寝るから!

 ……私の願いは聞き届けられることはなく。おんぶで部屋へと運ばれて、無理矢理寝かせられた。ちゃんと寝る気だったのに、この仕打ちは何だい!

*1
3着目のΣ Experiment衣装を想像してもらえれば




キタバクコンビに連行される2人であった。
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