ドバイシーマクラシックの結果は、瞬く間に世界中に広がっていった。
【アグネスタキオンがレコードV!圧巻の9バ身差圧勝!】
【これが世界最強の走りだ!アグネスタキオン鮮やかな勝利!】
【日本が誇るアグネスタキオン!ドバイシーマクラシックを大勝!】
王道の先行策から最後の直線で抜け出しての鮮やかな勝利。加えて、他のウマ娘を全く寄せつけない、抜きんでたスピードを見せての勝利だった。中継を見ていたレースファンもあまりの走りに言葉を失い、アグネスタキオンに目を奪われていた。現地の人達も同様である。
そして、このレースで火が点いたウマ娘達もいる。アグネスタキオンのライバルであるジャングルポケット達だ。
「とんでもないね……また走りが進化しているよ」
「アレでまだ成長途中とは、どういう育て方をしとるんじゃ?高村トレーナーは」
「関係ねぇよトレーナー!」
ギラついた表情でアグネスタキオンのことが書かれた新聞を握りつぶす。その目には、自信が籠っていた。
「俺のやることは変わらねぇ、次戦う時はぶっ倒す!そう決めてんだからよ!」
ジャングルポケットの宣言に、トレーナーとフジキセキは顔を見合わせ──笑った。いつもと変わらない調子のジャングルポケットに、安心感を覚える。
「そうだね、ポッケ。やることは変わらないよね」
「そうっすよフジさん!だから次のレースも「アグネスタキオンの前に、まずは大阪杯じゃ!」わーってるよトレーナー!ダンツも出るし、油断はしねぇって!」
元気よく飛び出してトレーニングへと向かう。ジャングルポケットは闘志を滾らせていた。
ダンツフレームはアグネスタキオンのレース映像を見て、口を開けて固まっていた。トレーナーである朝霞も同様である。
「えぇ……?なんで有馬記念からさらに進化してるの?」
「た、タキオンちゃん強い……」
「わー!?トレーナーさんにダンツちゃんが放心してるー!?」
「揃いも揃ってアホ面を晒しおって」
マチカネタンホイザは驚き、オルフェーヴルは呆れ果てる。だが、すぐに2人は持ち直した。
「け、けど!私達だって強くなってる!うん、強く、なってる……」
「ちょっとぉ!自信失くさないでくださいよトレーナーさぁん!?」
トレーナーの方は自信なさげだが。ダンツフレームは気合が入っていた。
(やっぱりタキオンちゃんは凄い……!わたしも、負けていられないッ!)
「トレーニングしましょう!大阪杯もありますから!」
「そ、そうだね!頑張ろう!」
次なる戦いに向けて気合を入れる。大阪杯ももうすぐだ。
そして、マンハッタンカフェ。チームの部室で、メンバーと一緒にアグネスタキオンの活躍を見る。
「タキオンさん、さらに速くなっていますね」
「あぁ、やっぱり聖君が育てる子はとんでもないなぁ……」
トレーナーである天城は高村の腕に感服する。ここまでのウマ娘に育て上げた彼の手腕に、尊敬の念を抱いていた。
マンハッタンカフェは……決意を固める。
(次は、タキオンさんの得意な、中距離……分は悪い、けど)
「トレーナー、さん」
「……なんだい?カフェ」
トレーナーへと視線を向けるカフェ。自らの考えを、カフェは伝える。
「天皇賞を終えたら、次は……タキオンさんと、戦わせてください」
「……」
「得意な、長距離の舞台で、敗北しました。次はおそらく、中距離で戦うことに、なるでしょう」
「タキオンさんの、得意な距離!」
サトノダイヤモンドの言葉通り、中距離はアグネスタキオンの庭。最も得意とする距離だ。それでもなお、マンハッタンカフェは挑もうとする。
「それでも、負けっぱなしでは終われません……!リベンジの機会を、お願いしますっ」
力強く宣言するカフェに、トレーナーは……笑みを浮かべる。
「分かった!かなりキツい勝負になるけど、勝てるようにプランを組もう!アグネスタキオンに、勝とうか!」
「はいっ」
こちらも腹は決まった。ライバル達もまた、アグネスタキオンとの戦いを心待ちにする。
その頃、アグネスタキオンはというと。
「は~あ、ここのスパは極楽だねぇ」
ホテルのスパを満喫していた。
◇
温泉から上がってきたタキオンとレースの反省会。とはいっても。
「ようやく完成したね、領域。思わず驚いたよ」
「いやはや、君の驚いた表情は中々に傑作だった!……ところであのぎこちないサムズアップは何だったんだい?」
「……テンションが上がっただけだよ」
ようやく完成した領域についての話が主だ。サムズアップについては忘れて欲しい。どうすればいいのか、なんて返せばいいのか分からなくて、迷った結果やってしまったことだから。タキオン、そんなニヤニヤした表情で詰められてもこれ以上は教えないよ。恥ずかしいから。
タキオン曰く、もう領域は完成したらしい。今まで見えていた幻影は消え去って、元に戻ったとのこと。
「怪我への恐れがなくなったわけではないがね。ただ、それ以上の気持ちで抑えつけた。そんなところかな?」
「それは良かった……本当に」
「心配をかけたね。だがもう大丈夫だ」
タキオンは嬉しそうに報告する。これで彼女の目指す果てに辿り着いた……いや、違うな。
(まだまだ満足していない、って表情だね)
タキオンは走りたそうにうずうずしている。頭に新しい理論でも浮かんだのか、それともただ走りたいのか……まぁレースが終わってまだ数日しか経ってないから走らせないけど。
「いやはや、次のレースが非常に楽しみだよトレーナー君!私の新しい走りを、カフェ達に見せる時が楽しみだ!」
「次のレースはどうする?中距離だと……宝塚記念になるのかな?」
「そうだねぇ……うん、宝塚記念でいこう。私にはもってこいの舞台だ」
これで決まりだね。次走は宝塚記念だ。発表する時またざわつくんだろうけど、もう慣れた。
反省会も程々に、次走も決まった。後はどうするか……なんて思っていた時。
「ところでトレーナー君。髪をとかしてくれるかい?」
「本当に言ってるの?」
なんで僕が?というか自分でやらないのだろうか?
「おいおいトレーナーくぅん?私のために尽くしてくれるんじゃなかったのかい?」
「……そんなこと言ったかな?実験に協力するとは言ったけど」
「これも実験のようなものだよ!ほら、早くやりたまえ!私の身だしなみを整えたまえ!」
駄々をこね始めるタキオン。こうなるともう止まらないし、仕方ないからやるしかないか。
そんなわけでタキオンの髪をとかすのだが……いかんせん上手くいかない。そりゃそうだ。今までやったこともないんだから。
「君、下手だねぇ」
「……そりゃやったことないからね」
下手という割には上機嫌のタキオンだけど。鼻歌まで歌ってご機嫌だ。なにがそんなに面白いのか、僕には分からない。
髪をとかすことに悪戦苦闘していると、急にタキオンが口を開いた。
「トレーナー君、ついに見えてきた」
「……君の目指す果てが、かい?」
「あぁ。その一端に触れることができた。私の実験は、成功したと言っても過言ではないだろう」
果ての一端に触れたことを喜んでおり、楽しげに語る。こっちも嬉しくなるような、そんな声。
「これも君のおかげだ。君という存在がいたからこそ、私はここまでこれたんだ」
「そう言ってもらえると嬉しいかな」
「君は大したことのないように受け取っているかもしれないが、これは紛れもない本心だ。君は、どんなことがあっても私についてきてくれた、道を示してくれた。今の私がいるのは、君のおかげだ」
だからこそ、言いながらタキオンは僕の手を払いのけて、こちらを向く。僕と同じようにハイライトのない瞳が、僕を捉えていた。
彼女は笑う。
「私は
その答えはもう、決まっている。
「当然だよ。僕は君のトレーナーだからね。モルモットでもあるけど」
僕の答えを聞いて、タキオンは笑った。楽しそうに、嬉しそうに。
「それでこそ私のトレーナー君だよ!さぁ、今宵も語り明かそうじゃあないか!」
「またバクシンオーとキタサンが来るから止めた方がいいよ」
「……そこは嘘でも乗るところだろう、君ぃ。ま、いいがね」
こうして、反省会は終わった。次は日本に帰って……宝塚記念に向けて調整を進めないとね。
君ら随分仲良いっすね()。