ビヨンド・ザ・ライトレス   作:カニ漁船

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こちらタキオン陣営。


向き合い方

 宝塚記念が迫っている今日、タキオンの調整は順調に進んでいる。

 

「ところでトレーナーくぅん、今日はこの薬を飲んでみようじゃあないか!」

 

 ……進んでいる、と思われる。まぁ実験に関してはいつものことだし、変わらない調子で過ごしているので間違いはない、はずだ。

 

「いいけど、飲んだら調整しようか。もう宝塚記念まで1週間切ったし、最終調整に入らないと」

「分かっているとも!ささ、ぐいっ!といきたまえ」

「……」

 

 一応薬を飲んだが、若干疲労が取れたような気がする。本当に誤差レベルで。ロイヤルビタージュースは規制されたし、疲労が取れる薬というのは結構ありがたいな。ただ、それよりも気になるのは。

 

「あ、今日は青色でぼんやり光ってますねトレーナーさん!」

「本当だな。今日は青色なのか」

「もうこの光景に慣れきってしまった自分が怖いですわね」

 

 僕の身体が青色に光っていることだ。今日の副作用はこれなんだね。というか、毎度思うけど副作用で身体が発光するのはどういう原理なのだろうか?僕の身体はどういう理由で光っているのだろうか?深く考えたら負けな気がするから野暮なツッコミはしないけど。

 そんな一幕もあったけど、本番に向けての調整をしっかりとやる。風の噂で聞いたけど、ジャングルポケット達も猛特訓しているみたいだし。こちらも負けてはいられないだろう。

 

「バクシンオー。いつものようにタキオンとへいそ「分かりましたッ!学級委員長が模範的な走りでタキオンさんと併走しましょうッ!いざ、バクシンバクシーーンッ!」やる気があって何よりだよ」

「アッハッハ!そろそろ君に勝たせてもらうよ?委員長くぅん。負けっぱなしというのは性に合わないのでねぇ」

「えぇッ!胸を借りるつもりで挑んできてくださいッ!そう簡単には負けませんよ~ッ!」

 

 併走相手はいつものようにバクシンオー。代り映えはしないと思うけど、バクシンオーは強いし問題はないだろう。タキオン自身のやる気にも繋がっているしね。

 タキオンとバクシンオーの併走が始まる。その間他のメンバーは、2人の併走を見学だ。見て学ぶ、というもの。常に新しい発見があるから、勉強するにはもってこいだ。たまに他のメンバーも併走に加わって走るけど、今回は宝塚記念が近いので2人だけになる。

 色々な策をぶつけるタキオンに対し、その策を真っ向から打ち破るバクシンオー。

 

「いや~、これもダメか~!いやはや、相変わらず暴力って感じがして好きだよ、そのレーススタイル!」

「当然ですッ!いかなる策を弄しようとも、学級委員長のバクシンはとどまることを知らずッ!常に進化し続けますともッ!」

「いいだろう、ならば私も──君のように走ろうじゃないか!」

 

 タキオンが領域を使う。それに続くように、バクシンオーも領域を切った。周りの空気がヒリついて、キタサン達が息苦しそうにしていた。勝負の行く末を黙って見守る。

 結果はというと……バクシンオーの半バ身差勝ち。どうにか肉迫していたタキオンだけど、最後がバクシンオーが競り勝った。

 

「バクシン的勝利ッッ!!」

「ふぅン……まぁいい。差は徐々に縮まっているからね。いずれは勝つさ」

「えぇ、いくらでも挑んできてくださいッ!この学級委員長が受けて立ちましょうッ!」

 

 そういうタキオンの表情は悔しさで歪んでいる。負けて悔しい、次こそは勝ってやるという気持ちがひしひしと伝わってくる。今は脳内で負けた原因を解析しているのかもしれない。口数も少ないからね。

 こんな調子だけど、調整は順調だ。

 

 

アグネスタキオン

 

適性:芝A ダートC

距離:短A マA 中S 長A

脚質:逃げE 先行A 差しA 追い込みF

 

スピード:UF2 1324

スタミナ:S+ 1098

パワー :UG4 1247

根性  :A+ 925

賢さ  :UG8 1281

 

 

 ()()()()()()()()、なんの問題もない。ま、絶対視できるようなものでもないってもう分かってるんだけど。

 

 

 トレーニングが終われば、タキオンとミーティング。

 

「さて、タキオン。これが出走してくるウマ娘達のデータね」

「ほほ~う。君の目に見えるステータスとやらがどうなっているのか、見ものだねぇ」

 

 渡された資料をパラパラめくって確認するタキオン。興味深そうに眺めて、めくる手が止まった。多分だけど、ジャングルポケット達だろう。

 

「……ステータスはあくまでステータス。絶対視するものではないが」

「そうだね。彼女達も格段に成長している。油断はできないよ」

 

 さすがにタキオンに迫るレベル、とは言えないが、それでもかなり高いステータスを誇っている。

 

 

ジャングルポケット

 

適性:芝A ダートG

距離:短G マA 中A 長A

脚質:逃げG 先行C 差しA 追い込みB

 

スピード:UG2 1227

スタミナ:A+ 973

パワー :SS+ 1176

根性  :A+ 998

賢さ  :S+ 1057

 

 

 他もジャングルポケットとそう変わらないステータス。マンハッタンカフェはスタミナが高かったり、ダンツフレームは根性が高かったりとそこはまちまちだ。

 適性Sに加えて一番高いスピード。タキオンが負ける要素はないように思えるだろう。けど……レースに絶対はない。負ける可能性だってある。

 

「そして、それを踏まえた上での対策だけど」

「あぁ、聞かせてもらおうじゃあないか。君の理論を」

「まずジャングルポケットだけど……」

 

 こうして詰めていく。宝塚記念、絶対に勝つために。

 

 

 

 

 

 

 トレーナー君との作戦会議も終わり、後はもう帰るだけだね。荷物をまとめて帰るとしよう。そんな時だった。

 

「少しいいだろうか?タキオン」

「おやおやぁ?どうかしたのかい、ドゥラ君」

 

 ドゥラ君に呼び止められた。随分珍しいねぇ。

 

「あなたと少し、話がしたい。良いだろうか?」

 

 ほほう?これまたさらに珍しいね。私と話とは。別に彼女と話さない、なんてことはないのだが……彼女の真剣なまなざし。余程の用事なのか、果たして気になるところだ。

 ま、時間はある。構わないだろう。

 

「良いとも。少し話そうじゃあないか」

「感謝する」

 

 ドゥラ君と2人、部室を出て少し歩く。三女神像近くのベンチに腰掛けて話すことにした。

 

「さて、ドゥラ君。君は私に何のお話があるのかな?」

「……」

 

 俯いて黙ったままのドゥラ君。これは少し時間がかかりそうかな?ま、これも悪くはないだろう。彼女が話すその時まで待てばいい……我ながら、随分と変わったような気がするねぇ。

 ドゥラ君が喋り出すまでそう時間はかからなかった。

 

「タキオンは、怪我への恐怖心があると聞いた。それがタキオンの領域を、妨げていたと」

 

 ……ま、この話題じゃあ言い出しにくかったのも納得できるが。好き好んで話したくはないだろう、こんな話題。

 

「だが、今のタキオンは問題なく使えている。それは、どうしてだ?」

「恐怖を克服した。それだけの話だよ」

「……私には、そうは思えない。怪我への恐怖は誰もが持ちうるもの、そう簡単に克服できるものではない」

 

 ドゥラ君は拳を強く握りしめている。確かドゥラ君は……アスリートの家系だったか。それならば、今まで()()()()()()を見てきてもおかしくはないだろうねぇ。だから、尚更か。

 

「教えて欲しい。どうやって怪我への恐怖を失くすことができたのか。また、タキオンがどうして可能性の果てへ至ろうとしているのか?私に……教えて欲しい」

 

 懇願するようなドゥラ君。別にそのような態度をしなくても、知りたければ教えるというのに。なんともまぁ不器用というか。

 ふむ、そうだねぇ……語るとするか。

 

「まず、君の言葉を訂正させてもらおうか。私は別に、怪我への恐怖がなくなったわけじゃないよ」

「ッな!……ならば、何故領域を使える?100%の領域、恐怖で使えなかったものを、どうして今は?」

「そうだねぇ……一言で言えば、探求だよ」

「たん、きゅう?」

 

 おっとぉ?呆けた表情のドゥラ君じゃあないか!これは珍しいねぇ!彼女のクールな表情からは想像ができないほどにキョトンとした顔、中々悪くない!

 

「前の私は、リスクばかりを恐れていた。最悪の未来が頭に浮かび、それによって私の行動は縛られていた……領域はそんな私の深層心理が表面化したものだったのさ」

「……今は、どうなんだ?」

()()()()()()()()()()()()()。私の──ライバル達のようにね」

 

 頭に浮かぶのはポッケ君とダンツ君の言葉。彼女達もまた、私という恐怖を抱えていた。皐月賞で刻まれた光に飲まれ、苛まれていた。

 けれど今の彼女達は問題なく走れている。それはきっと、恐怖との向き合い方を変えたからだ。

 

「あるウマ娘は恐怖に真っ向から立ち向かうと言った。またあるウマ娘は恐怖を受け入れて前に進むと決めた。向き合い方はそれぞれだ。答えなんてものはない」

「……ならば、タキオンは?タキオンは、恐怖とどう向き合っているんだ?」

「私かい?私はねぇ……」

 

 我ながらとんでもない解決方法だ。これも委員長君にあてられたせいかもしれないねぇ。

 

恐怖を飲み込むことにした。恐怖という感情を、さらに強い別の感情で塗りつぶすことで、無理矢理抑えつけているのさ」

「……それが、もしや?」

「あぁ、探求心さ。幼い頃から抱き続けている、ウマ娘という神秘への探求。この感情で私は、恐怖を抑えつけている」

 

 気づけば今は、恐怖はあまり感じなくなっているね。そりゃあ怪我は怖いが、それ以上に楽しいから走っている。意識の変え方ひとつでこうなるとは、いやはや面白いものだ!

 

「可能性の果てを目指す理由もありふれたものだ。ただ気になるから……私の手で解き明かしたいから……そんなものだよ」

「そう、か。そうか……」

 

 ドゥラ君はどこか納得したような表情。疑問が1つ氷解したような顔をしていた。

 だが、次の瞬間にはまた浮かない表情をする。やれやれ、なにを考えているのやら。

 

「どうしたんだい?私の答えに、納得がいかないのかな?」

「そういうわけではない。ただ……私も、同じようにできるかどうか、少し不安になってしまった」

 

 ……まぁドゥラ君が言ったように、怪我というリスクは誰もが恐れるものだ。怖くなるのも仕方ない。

 

「怪我への恐怖を拭えるイメージが湧かない。この先大きな怪我をしてしまったらどうしよう?と、そればかりを考える」

「ふぅン」

「無論、トレーナーは信頼している。常にリスク管理を怠らず、私に最適なトレーニングを提示してくれる。脚のケアもそうだ」

 

 それでも不安になる、と言ったところだろうね。私もそうだった。だからこそ、ドゥラ君の気持ちは分かる。

 

「私は……大丈夫だろうか?いつかきっと、タキオンのように乗り越えられるだろうか?」

 

 縋るような目、不安を抱えている表情。あぁ、彼女もまた、私と同じか。怪我を恐れ、脚が竦み、立ち上がれなくなったらどうしよう?と考えてしまう。似た者同士、なのかもしれないね。

 ならば、答えは簡単だ。

 

()()()()()()。ドゥラ君が恐怖を乗り越えるかどうかなんて、私には分からない」

「……そうか」

「ただ、1つアドバイスをしてやろう。自分だけの恐怖の向き合い方を見つけたまえ」

 

 私がそうしたように、ドゥラ君にはドゥラ君の向き合い方がある。それを模索するのが、彼女にとって最良の選択だ。

 

「どんな形でもいい。恐怖との向き合い方を見つけるんだ……私がそうしたようにね」

「恐怖との、向き合い方」

「恐れることは悪いことじゃない。言い換えれば、リスクをしっかりと考えることができる、ってことだからね」

 

 ベンチから立ち上がり、ドゥラ君を見下ろす。すでに辺りは暗くなっていて、電灯の光が照らしていた。

 

「君には君のやり方がある。自分のやり方で──最強へ至る道を見つけたまえ。君だけの最強を、君が思い描く最強を、ね」

「私が思い描く、最強」

「そうだ。君は最強を目指しているのだろう?」

 

 ドゥラ君の目指す最強に、恐怖という感情は避けては通れない道。いつかはきっと、向き合わなければならない日が来る。だからこそ、教えておかねばならないだろう。

 

「私は恐怖を飲み込んで走る。君が恐怖とどのように向き合うか……楽しみにしているよ」

「……」

「ま、君ならば見つけることができるさ。自分だけの向き合い方を、ね」

 

 ブツブツと私の言葉を反芻するドゥラ君。ま、先にデビューした先輩として中々良い恰好ができたんじゃないか?これはトレーナー君にご褒美を催促しないといけないねぇ!う~ん、今から楽しみだ!

 ドゥラ君はフッと笑う。どうやら、良い方向に進んだようだ。

 

「感謝する、タキオン。おぼろげながらも道は見えた……気がする」

「そこは確約してくれると嬉しかったんだがね」

「すまない。だが、私はこれからだ……これからきっと、私だけの向き合い方を見つけてみせる。そして」

 

 ドゥラ君は私を真っ直ぐに見据える。これは、挑戦者の目だ。私を敵と認識している、いつかきっと、挑みに行くという目。あぁ、成程。

 

「私は最強へと至る。あなた達を超えて、私こそが最強だと……誰もが認めるような頂へと至ろう」

 

 随分と面白いじゃあないか……!私に対して挑発とは!つまりドゥラ君はこう言いたいわけだ。いつかきっと、私や委員長君さえも倒してやろうと!そう言っているわけだ!面白い、実に面白い!

 

「ハーッハッハッハ!良いだろう、その時を楽しみにしているよ!」

「あぁ。楽しみにしていてくれ」

 

 私とドゥラ君の会話はここで終わる。寮に戻って就寝した。いやはや、それにしても宣戦布告まがいのことをされるとは!

 

(楽しみが増えたよ。彼女達が私に挑んでくる日が……楽しみでならないねぇ!)

 

 ま、その前に宝塚記念だ。カフェ達は強敵。もっとも?負けるつもりは毛頭ないがね。楽しみばかりで心が躍るよ!

 

「た、楽しそうなタキオンしゃん好き~!推せる~!」

 

 隣のデジタル君が何か言っているがまぁいいだろう。さて、寝るとしよう。宝塚記念は……もうすぐだ。




次回 宝塚記念。
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