ビヨンド・ザ・ライトレス   作:カニ漁船

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光を超えた先へ

 宝塚記念は第2コーナーへと入る。激しい先行争いはクライネキステが先頭に立つことで落ち着きを見せていた。

 

《第2コーナーを走るウマ娘達。先頭に立ったのはクライネキステ、クライネキステが先頭に立った!半バ身遅れてエフェメロンが追走、3番手以下はちょっと離れていますね。3番手はエフェメロンから4バ身後ろを追走しています》

《無理なペースアップに付き合わないようにしていますね。ジャングルポケットは少し位置取りを下げています》

《そうですね。ジャングルポケットは3番手争いの位置にいましたが、第1コーナーから徐々に下がって現在マンハッタンカフェの外につけています。6番手の位置にアグネスタキオン、8番手マンハッタンカフェ、そしてジャングルポケットと続きます》

 

 先頭2人のウマ娘が後続を離して逃げており、3番手争いには3人のウマ娘。アグネスタキオンはその後ろ、最内の6番手につけている。マンハッタンカフェはアグネスタキオンの半バ身後ろ、外側の位置でマークするように動き、初めは3番手争いの位置にいたジャングルポケットはここまで下がっていた。最初は昂っていたような表情を見せていたが、今は落ち着いてレースを見ている。

 ジャングルポケットからまた2バ身程離れた位置に今度は固まったバ群が追走。ダンツフレームはここにいる。

 アグネスタキオンは周りを見渡し、外につけようとする。しかし。

 

「……っ」

 

 そうはさせまいと、マンハッタンカフェが少しの動き出しも見逃さない。自由に動けないようにされていた。

 先頭から最後尾まで17バ身程離れている展開。向こう正面に入って、ペースは落ち着きを見せ始めた。

 

《向こう正面に入ります、ペースは少しずつ落ち着きを見せ始めたか?ここから足を溜める段階です。ジャングルポケットから2バ身離れた後方集団の先頭はアレスタント、アレスタントが集団を引っ張ります。アクアスプリングにジュエルトパーズ、内にはダンツフレームがつけていますね》

《最初が少し速かったですからね。先頭2人としては、ここで一息をつきたいところですよ》

《ですがそうはさせまいと、3番手フリルドアップルが圧をかけます!ここで前半1000mを通過。タイムはっ、58秒1!58秒1と速いペースだ!さぁ一息つきたい逃げウマ娘、そうはさせないと圧がかかる!クライネキステはたまらずペースを維持、これは苦しいぞぉ!》

 

 先行集団のペースは緩むことなく進んでいく。アグネスタキオンは──つられることなく自分のペースで走っていた。

 

(随分と早いペースだ。こうなると……自滅の可能性が出てくるね)

 

 外へと視線を送るアグネスタキオンの視界に映ったのは、こちらも変わらずマンハッタンカフェの姿。追走するように半バ身後ろを変わらずキープ。なにがなんでも逃さないという気概を感じさせるほど。その後ろにはジャングルポケットが控えていた。

 観戦しているファンは、アグネスタキオンを中心に捉えている。

 

「前と同じだ!マンハッタンカフェがアグネスタキオンをマークしてる!」

「どうかしら?前回は失敗したけど……」

「ここで怖い位置にいるのはダンツフレームだよなぁ。アグネスタキオン達の目には映ってないだろうし」

 

 この展開に一喜一憂する陣営もいる。ダンツフレームのトレーナーである朝霞はハラハラした様子で見守っていた。

 

「頑張れ~、頑張れ~ダンツー!良い感じに行けてるよ~!」

「ファイトですぞー、ダンツちゃーん!」

「フン」

 

 また別の場所では、天城も冷静に状況を把握している。

 

「……さて、そろそろかな?」

「だな。勝つとすれば、ここだ」

 

 天城の呟きに反応するシンボリルドルフ。静かに俯瞰する。

 そして、高村達は。

 

「「バクシンバクシンバクシンシーンッ!」」

 

 サクラバクシンオーとキタサンブラックの2人がいつも通りの応援をしていた。ジェンティルドンナは最早ツッコミを放棄したようである。レースにだけ集中していた。

 ノートを取りつつ、高村は笑う。

 

(なんだろうね……集中的にマークされてて、苦しい状況なのは分かってるけど)

「それでも、楽しみだ」

 

 向こう正面も半分を過ぎる。ここで……レースが動いた。

 

 

 

 

 

 

 それは突然だった。

 

「ッ!」

「なにっ?」

 

 今までずっと私をマークしていたカフェが並んで、さらには抜き去ろうとペースを上げる。ここにきて、私のマークを止めた?私の予想では第3コーナー辺りで仕掛けると思っていたんだがね。

 考えている間にもカフェは位置を押し上げる。徐々にペースを上げ、私よりも前に出た。

 

《まもなく第3コーナーを迎えます。おっとここで!マンハッタンカフェが動きます!マンハッタンカフェがじわりじわりと上がって行く!後続もつられるようにペースを上げるか?ジャングルポケットはまだ動かない、アグネスタキオンも動かない!》

《ロングスパートですか!マンハッタンカフェはステイヤー、スタミナも十分でしょう!》

《さぁ第3コーナーに入ります!先頭で入るのはクライネキステ、1バ身後ろエフェメロン!3番手以下も少しずつ差を詰めてきました、5バ身開いていた差が縮まっています!》

 

 有記念もそうだったが、カフェとしては私よりも先にスパートをかけたいからねぇ。よーいドンでは私に勝てないと分かっているからこその判断だ。ただ……この速いペースで、この段階で仕掛けるのは少し予想外だ。

 

(だが、()()()()()()()()()()()()

 

 当然だ。自滅覚悟でロングスパートをするような相手でもない。なにより、私に勝つと宣言したのだ。そんなことはしないだろうさ。

 第3コーナーを曲がっていく。私の仕掛けどころはすでに決まっているんだ。後はどれだけ差を開かせないか……それだけ。

 

(今回のデッドラインは……6か。下手をすればもっと少ないかもしれない)

 

 カフェがいなくなっても、私のマークが緩くなったわけではない。相変わらず最内から抜け出せずにいた……が、むしろ好都合だ。なにせ、スピードに乗った状態でコーナーを曲がっているんだ。前を走っているウマ娘達は外に膨らんでいる。私一人ぐらい、余裕で抜け出せるような穴が、ぽっかりと開いているわけだ。

 後続も差を詰めてきた。最後の直線に向けて、縦長だったバ群が詰まってくる。そんな時頭に浮かんできたのは……ポッケ君達の宣戦布告だった。

 

(私に勝つ、センターに立つのは自分、これ以上負けてはいられない……か。中々どうして)

「楽しませてくれるものだねぇ……ッ!」

 

 自然と口角が吊り上がる。楽しさが抑えきれない、興奮が収まらない。アドレナリンが噴出し続ける!先へ、もっと先へと気持ちが逸る!

 

《第3コーナーから第4コーナーへ!ここで先頭はクライネキステからエフェメロンへ!さらには3番手集団にマンハッタンカフェが加わります!ロングスパートを決めているマンハッタンカフェ、先頭エフェメロンとの差を詰めていく!》

《ジャングルポケットはまだ動かない、アグネスタキオンも最内で控えたまま!しかし位置は押し上げています、どこで仕掛けるのか注目したいところ!》

 

 けど、まだ抑えなければならない。まだ第4コーナーに入ったばかりなのだから。仕掛けは……最後の直線、200mだ。

 

 

 刻一刻と迫っている。レースの終わりが、私が仕掛けるタイミングに定めた場所が、どんどん迫っているのが分かっている。第4コーナーを走って、もうすぐ最後の直線。

 気づけばポッケ君が私の先を走っている。まだ、動かない。さらに外へと視線を送ると、ダンツ君が上がって行くのが確認できた。私は……まだ動かない。

 

(クックック……ッ!素晴らしい、素晴らしいねぇ!)

 

 私の感情は昂り続けている!こんな気持ちで走れるのも、カフェ達のおかげなんだろう。そして──トレーナー君のおかげだ。

 

(全く、私にここまでしてくれるなんてねぇ)

 

 私は委員長君ほどレースに出走していない。さらには中距離一本に絞って、中距離以外のレースを制限した。一生に一度しか出走できないクラシックレース、しかも日本ダービーの回避を決めても、彼は私が心から望むならと、回避を決めてくれた。

 一度凱旋門賞で満足して、引退でもしようかと考えていた。けれども、彼はそれを良しとしなかった。

 

(結果的に、それが正解だったわけだ。もしあのまま引退していたら、どうなっていたことやら)

 

 少なくとも、このような結果にはならなかっただろう。どこかで燻っていたかもしれない……たらればだがね。

 

《第4コーナーを越えて最後の直線へ!先頭は──マンハッタンカフェ!マンハッタンカフェが先頭に変わった!内からはジャングルポケットも上がってくる!クライネキステとエフェメロンは脱落!》

《さすがにハイペースで潰れてしまったのでしょう。さぁここからが正念場です!》

《アグネスタキオンは最内に控えている!先頭マンハッタンカフェとの差は5バ身差!ここで外からダンツだダンツだ!ダンツフレームが追い上げてきた!》

 

 前の方ではカフェ達が輝きを放って駆け抜けている。おそらくだが、領域へと至っているのだろう。彼女達から感じられるのはただ1つ──勝ちたい、という気持ちだけだ。

 

「私が……ッ!」

「俺がッッ!!」

「わたしがッ!」

「「「勝つッッ!」」」

 

 そう、聞こえたような気がした。

 

(……全く、トレーナー君。君のせいだぞ?)

 

 最早彼女達は私のことなど眼中にないだろう。いや、もしかしたら……上がってくることを信じて、待っているのかもしれないねぇ。

 

(君のせいで私は……100%()()()では満足できなくなってしまった)

《アグネスはまだ来ないのか!?アグネスはまだ来ないのか!アグネスタキオンはまだ来ない!残り200を切ろうとしている!先頭はマンハッタンカフェ、ジャングルポケット、そしてダンツフレーム!アグネスタキオンはここまでかぁ!?》

 

 残り200、か。ならば──切ろう。私が持てる全力を……私がもたらす、光を!

 

「刻みたまえ!君達の脳裏に、記憶に!」

 

 グッと力を入れて踏み込む。今まで以上の力で、全ての力を注ぎ込める。

 

「私がもたらす走りを、光の軌跡を!」

 

 蹴り上げる。地面を抉る感触が襲う。見えてきたのは──暗闇。一寸先すらも見えないような暗い闇だ。その暗闇を切り裂くように──閃光()が走る。

 

「これが──アグネスタキオンだッ!」

 

 光すら追いつかせない、私の走りは──(100%)すら超える。そう、これこそが。

 

 

領 域

 

 

最光速、その先へ

 

 

 フィナーレと行こうじゃあないか!

 

 

 

 

 

 

 残り200を切る。瞬間──最内から爆発的な勢いで、アグネスタキオンが上がってきた。

 彼女は……速い。ただただ、速い。見ているファンは、彼女の走りに魅了されていた。

 

《き、来ましたぁぁぁ!ここで来ましたアグネスタキオンンッッ!最内から爆発的な加速を見せている!先頭マンハッタンカフェを捕まえようと、5バ身はあった差をあっという間に詰めにかかる!》

《は……速い……!いえ、本当に速いですね!ドバイシーマクラシックの時のようです!》

《さぁ役者は揃いました!アグネスタキオンがあっという間に差を詰める!ここから届くか!届くのか!?マンハッタンカフェが粘るが、ジャングルポケットが前に出る!ジャングルポケットが前に出る!ダンツフレームはいっぱいいっぱいか!?少し苦しい!》

 

 大歓声に包まれる阪神レース場。誰が勝つのか?誰が抜け出すのか。誰が勝っても……祝福しなければ。そんな思いに駆られる。

 トレーナー達も拳を強く握りしめる。担当ウマ娘が勝てるようにと、1着を取ってくれると信じて、拳を握る。

 

「頑張って、ダンツ!」

「負けるな、カフェ!」

「気張れポッケぇ!もう少しじゃあ!」

「……勝て、タキオンッ!」

 

 猛然と差を詰めるアグネスタキオン。残り100を切ろうとしたその瞬間──マンハッタンカフェ達に並んだ。そして。

 

《アグネス追いついた!アグネス追いついっ!?い、いや!アグネスタキオン抜き去った!アグネスタキオン抜き去った!マンハッタンカフェ、ジャングルポケット、ダンツフレームをまとめて躱す!アグネス先頭アグネス先頭!》

《っ、決まったッ!》

 

 並ぶ間もなく、抜き去った。

 ジャングルポケットは痛感する。

 

(あぁ、クソ……!やっぱはえぇわ、タキオンは……けどッ!

 

 マンハッタンカフェは歯を食いしばる。

 

(あなたは速い……ですがっ!

 

 ダンツフレームはがむしゃらに走る。

 

(タキオンちゃんは凄い。でもッ!

 

 3人の思いは、いや。この場にいる全員の思いは1つ。

 

「「「負けないッ!」」」

 

 勝利を目指してひたすらに走っていた。

 走るウマ娘達の思い、ファンの熱意が阪神レース場に伝播する。ファン投票によって託された願いで満たされている。

 抜け出しているのはアグネスタキオン。けれどその差は僅かクビ差。すぐにでも追いつきそうな、少し手を伸ばせば届くような距離に彼女はいる。後続のウマ娘達も、どれだけ差が開こうと全く諦めていない。ただ、己の脚を信じて走っている。

 最後の局面。誰が勝つのか全く予想がつかないこの状況。アグネスタキオンは──笑っていた。

 

「──私の、勝ちだねぇ」

 

 残り200mから加速し、あっという間に追いつき、抜き去って。宝塚記念に出現した光は──ゴール板を誰よりも速く駆け抜けた。

 

《阪神レース場を光が走ったアグネスタキオンンンッッ!宝塚の舞台を、光が駆け抜けました!あっという間の逆転劇!残り200mからのぶっこ抜きィ!5バ身あった差をあっという間に詰めて!軌跡を残したアグネスタキオン1着ゥゥゥ!

 

 宝塚記念を制したのは──アグネスタキオン

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