ビヨンド・ザ・ライトレス   作:カニ漁船

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※閲覧注意


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それでは、どうぞ。


新薬の効果・前編

 ある日の昼下がり。

 

「トレーナー君!新薬が完成したぞ!」

 

 嬉しそうなタキオンの報告。そして片手にはその新薬とやらが握られていた。それにしても、新薬か。

 

「へぇ、どんなものなの?」

「フッフッフ……聞いて驚きたまえ?パーをポーしてペーをピーしたことによって生まれた奇跡の産物だぁ!」

「情報量0なんだけど」

 

 何その新薬?何一つ分からないのだけれど。

 

「まぁぶっちゃけ私もどういう効果があるのかは分からない。ただ、目指したものはウマ娘と同等の身体能力を得ることができる薬だ。類似する効果が期待できるだろう」

「ふ~ん……まぁいいよ。早速飲んでみる」

「名付けて試験薬“Υ”!ささっ、グイっといきたまえ」

 

 タキオンから受け取って、早速飲んでみる……苦いな。そして効果を期待するけど、不思議と何も起きない?今までみたいに身体の奥底から力が湧き上がるような感覚もないし、倦怠感のようなものもない。本当に何も変化しないな。

 

「なんも変化はないけど」

「ふむ?もしや失敗作か?いや、もしかしたら遅効性かも知れない。1日様子を見ようじゃあないか」

 

 と、1日様子を見ることになった。その後は普通に過ごしてたけど、特に何も起こらず。家へと帰ることになる。

 

 

 変化が訪れたのは夜だった。

 

「うぅ……凄く身体が怠い……。しかも、熱い……」

 

 突然発熱。原因不明と思ったけど……もしかして、これがタキオンの新薬の影響?

 あぁ、ヤバいな……考えが纏まらない。作業なんてしている場合じゃないな、これ。やっておきたいことが少し残っていたんだけど。

 時間は……21時。いつもならまだ起きてる。でもそんなこと言ってられない。

 

(熱が残っているようなら、明日は休もう……)

 

 万が一これが風邪で、担当の子達に移しでもしたら大問題だ。早く寝て治すことに勤めよう。

 布団に入って寝る。凄く寝苦しかったけど、それでも無理矢理寝て。意識は闇に落ちていった──。

 

 

 

 

 

 

 目覚ましの音で起きる。時計を確認すると5時30分。タキオンのお弁当を作らないといけないんだけど……それよりも。

 

(……熱は下がってるみたいだ。だいぶ楽になった)

 

 なんというか、熱なんて本当にあった?レベルで楽になった。うん、やっぱりタキオンの新薬が原因か。一安心かな?

 諸々の準備をするため、ベッドから下りようとする……が。

 

「ぶっ!?」

 

 あ、あれ?踏み外した?顔から思いっきりスッ転んでしまった……おかしい。今までこんなことなかったんだけど。というか、今変な声聞こえなかったかな?女の子の声みたいな。でも、そういう相手はいないし。

 なんとか起き上がると……違和感に気づく。

 

(あれ?服、こんなにぶかぶかだったかな?)

 

 服の袖が余っているし、ズボンなんてズルズルだ。おかしいな、寝る前は普通だったはずなんだけど。後、お尻のあたりの違和感が凄い。なんか、変なものがあるような。

 手でさすってみると……()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ッ!?こ、これ、もしかして尻尾!?」

 

 声を出して、口を押える。待て、今の高い声……もしや僕か!?じゃあさっきの声は、気のせいじゃない!?

 恐る恐る頭に触れる。そこには──ふさふさの耳の感触があった。

 

「ち、ちょっと待ってくれ……ッ!」

 

 思わず洗面台に駆け込む、が。あまりのスピードにビックリしてまた変な声が出た。なんとかはやる気持ちを抑えて、早歩きで向かう。ズボンは多分途中で脱げた。でもそんなこと気にならないレベルで僕は焦っていた。

 洗面台で自分の姿を確認する。そこに立っていたのは──いつもの姿ではなく。

 

「……嘘でしょ」

 

 黒い髪をロングヘアにした、ウマ娘が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 トレセン学園校門前。いつものように理事長秘書である駿川たづなが立っていた。

 

「おはようございま~す!」

「はい、おはようございます。今日も元気に頑張ってくださいね」

 

 ニコニコと笑顔で生徒達と挨拶を交わす。いつもと変わらない朝の光景が広がっている。

 

「……あら?」

 

 しかし、その日はいつもと違った。視線の先に、見かけない()()()がいたのである。

 黒く長い髪、学園の生徒ではないのだろう。黒いスーツを身にまとっている……のだが、袖や裾を捲っている。しかも、かなり。明らかにサイズが合ってないことが見てとれる。ウエストのあたりもぶかぶかで、ベルトで無理矢理止めている感が否めなかった。

 なにより特徴的だったのは目だ。

 

(……高村トレーナーみたいな目をしてますね、あの子。あんなに若いのに、なにかあったのでしょうか?)

 

 死んだ魚のような目、社会に疲れ切っているような目をしているのだ。明らかに年若いウマ娘が。目も相まってダウナー系のような雰囲気を感じる。きっと過去に苦労したことがあるのだろうとたづなは推測する。

 果たして一体誰なのか?しかも学園に足を運ぼうとしている。もしもがあってはいけないので、たづなは声をかけた。

 

「申し訳ありません。部外者の方は許可証がないと入ることはできません。失礼ですが、どなたかのアポはお持ちでしょうか?」

「……」

 

 ウマ娘の目がたづなを捉える。()()()()()()()()()視線にたづなはたじろぐが、相手の反応を待つことにした。

 しばらく見つめ合った後、ウマ娘はゴソゴソとポケットを漁る。そして、名刺のようなものを取り出したかと思うとたづなに手渡した。

 

「これ、どうぞ」

 

 丁寧に受け取って名前を確認し……固まった。そこに書いてあったのはありえない名前である。

 高村聖──トレセン学園のトレーナーであり、男性だ。断じて目の前にいるウマ娘ではない。たづなはウマ娘を問い詰める。

 

「あ、あの~……こちらの名刺が入っているケースはどこで拾いましたか?」

「私物です」

「……いやいや!そんなことはありえません!だって、明らかに姿が一致していないじゃありませんか!」

 

 ウマ娘はこともなげに言うが、たづなは信じることはできない。当然だ。性別も何もかもが違う人物の名刺を差し出されて信じることなどできるはずがない。たづなは目の前のウマ娘を警戒した。

 対してウマ娘は……やっぱりか、とばかりに溜息を吐く。

 

「睡眠時間約3時間」

「ッ!?」

「あの日、凄く怒られましたね、僕。いや、当然なんですけど」

 

 たづなは目を見開く。あの日の説教を知っているのは、高村とたづな、そして高村が担当しているウマ娘達しか知り得ないことだ。何故このウマ娘が知っているのか?と驚愕する。

 

「それと、そろそろロイヤルビタージュースの補充をお願いしたくて……」

「いえ、それはダメです……じゃなくて!どうしてあなたがそれを!?も、もしかして本当に……ッ!」

 

 信じられないという表情をするたづなに、ウマ娘は諦めたように目を伏せた。

 

「はい、高村聖です……タキオンの薬を飲んだら、こうなりました」

 

 沈黙が流れるトレセン学園校門前。いつの間にか周りには人だかりができており、何事かと注目していた。そんな空気の中で──たづなの叫びが木霊する。

 

「えぇぇぇぇぇぇッ!?」

 

 トレセン学園が誇る名トレーナーの1人高村聖。ウマ娘になる。

 

 

 

 

 

 

「「えぇ~ッ!?」」

「ちょわぁっ!?ほ、本当にトレーナーさんなのですか!?」

「ほほ~う、こんな効果が生まれるとは!実に興味深いねぇ!」

「貴方はもう少し反省なさいな」

 

 トレーナー室。メンバーみんなが驚きの声を上げていた……約一名を除いて。まぁ驚いて当然だろう。なんせ、昨日までは男だった僕が急にウマ娘になったんだ。逆の立場だったら僕だって驚くよ。タキオンは心当たりがあるから驚いてないし興味深そうにしているけど。

 今の僕はというと、トレセン学園のジャージを借りている。別にスーツのままでもいいってたづなさんには言ったんだけど。

 

「丈の合ってないスーツを着るよりも、学園のジャージの方がまだよろしいと思われますよ?」

 

 ……動くのに支障があったから何も言い返せなかった。なので仕方なしにジャージを着用。大分動きやすくなった。

 タキオンはこちらをジロジロと観察し、耳や尻尾を触り始める……くすぐったいな。

 

「耳も尻尾も本物だねぇ。まさか、ウマ娘と同等の身体能力を得る試験薬“Υ”がこのような副作用をもたらすとは!」

「ほ、本物なんですか?……失礼して」

 

 キタサンもタキオンに倣うように僕の耳を触り始める。ウマ娘の耳を……君達と大して変わらないんだから触っても面白くないと思うけどね。

 

「わ、わ~……!本物です!あたし達と一緒ですよ!」

 

 後、ウマ娘になって聴覚が凄く良くなったな。キタサンの声がいつもよりさらに大きく聞こえる。成程、これがウマ娘の聴覚か。

 

「そうなのか?……なら私も」

「私も失礼して……」

「委員長も興味ありますよッ!」

 

 キタサンの言葉に興味を持ったのか、ドゥラ達が一斉に触り始める……くすぐったいんだけど。

 

「みんな、くすぐったいから止めてくれると嬉しいかな」

 

 僕の言葉に、みんながハッとしたように離れた。申し訳なさそうな表情をする。

 

「ご、ごめんなさい!遠慮せずに触っちゃって!」

「……すまない。自分達が良く分かっているはずなのに、軽率な行動だった」

 

 うん、そこまで申し訳なさそうにしなくてもいいんだけど。にしても、結構敏感なんだなウマ娘の耳って。新たな知見だ。

 さて、ウマ娘になってしまったわけだけど。問題はいつ戻れるか?だ。この先一生戻らないなんてことはないだろうけど、今できることをやっておかないと。元々はタキオンの実験の一環だから。

 

「ところでタキオン、コレって効果はどれくらい続くのかな?」

「う~ん……まぁ1週間ほどだと思われるよ。どんなに長くてもそれ以上は続かないだろうね」

 

 1週間、か。結構長いな。

 

「……ハァ。まぁいいや。そんなわけだから、みんなこれから1週間はコレでよろしく」

「中々愉快ですわよ?貴方のお姿」

「嬉しくないよ」

 

 ジェンティルは楽しそうに笑って、こちらへと歩み寄ってくる。そして、顎クイというヤツをしてきた……なんで?

 

「私とそう変わらない身長だった貴方が、今は私よりも小柄になっている。私と話す時に、目線を合わせようと見上げる姿……ふふ、愛らしいわ」

「……やってて楽しい?これ」

「それなりに」

 

 こっちはなにが楽しいのかよく分からないけどね。少しやったら満足したのかジェンティルは顎クイを止めたけど。

 さて、色々とあったな。

 

「ひとまずトレーニングをしようか。後は……タキオンは実験もやろう。せっかくだしね」

「ほほ~う!殊勝な心掛けだ!では、早速実験を始めようじゃあないか!」

「タキオンさんはもう少し反省した方がいいと思いますよ」

 

 タルマエ、多分言っても聞かないと思うよ。




ぶっちゃけやりたかったこと。前後編になってしまった。


高村聖(ウマ娘の姿)

身長が152cmと小柄に。スレンダー。ウマ娘化しても目は変わらない模様。たづなさん曰くダウナー系の雰囲気。黒髪のストレートロングである。ウマ娘になって一番驚いたことは人参が甘く感じたことらしい。
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