ミーティアのトレーニングに1人、とあるウマ娘が加わっている。
「さぁ、もうひと踏ん張りだスカーレット君!良いペースで走れているよ!」
「はっ、はい、タキオンさん!やぁぁぁぁ!」
「う~ん、良い調子だ!末はトリプルティアラだねぇ!」
そのウマ娘の名前はダイワスカーレット。大きなツインテールが特徴で、タキオンを尊敬しているウマ娘だ……そして、タキオンもダイワスカーレットのことを溺愛している。普段は結構素っ気ないタキオンだけど、彼女に関しては目に見えて分かるくらいに甘い。
「ちょっと、誰ですの?彼女は」
「……ダイワスカーレット「そっちではありません。あの、明らかに調子のおかしい彼女に対して言っているのです」タキオンだよ」
「アレが?……普段とあまりにも違うのではなくて?いつもならば実験台にしているようなものですのに」
その意見には賛同するよジェンティル。さっきからタキオンはダイワスカーレットが良い走りを見せる度にキャーキャー騒ぐ親みたいな感じになってるし。普段の何倍も楽しそうにしている。
「楽しそうですねタキオンさんッ!良いことですッ!」
「いや、でもかなりキャラ違くないですか?スカーレットさんが関わると」
その辺の事情は分からない。ただ、タキオンにとって彼女はお気に入り、目に入れても痛くないぐらいに可愛がっている……ってところか。
「ミーティアのトレーニングにも度々連れてきてるからね。余程気に入ってるみたいだ」
しかも手厚いケアもやっている。新品でふわふわのタオルを渡すばかりか、僕達の実験の果てに生み出した疲労回復+プロテインの効果が期待できるドリンクを飲ませてるぐらいだからね。あれ、ミーティアメンバーぐらいにしか飲ませないのに。
「あれ?このドリンク飲んだことない……でも、飲みやすいです!」
「安心したまえ、これは私が配合した特別製のドリンクだが、効果はしっかりと実証済みさ!」
「た、タキオンさんが!?やっぱり凄いですね、タキオンさんは」
「ハッハッハ!それほどでもないさ!さ、しっかりと身体を休めたまえ」
……本当に誰なんだろうね、彼女は。普段のタキオンとあまりにも違い過ぎるよ。
トレーニングも終わり、ダイワスカーレットがいつものように丁寧に頭を下げる。
「ありがとうございます、高村トレーナー!チームのウマ娘じゃないのに、いつも丁寧に指導してくださって……」
「構わないよ。教えているのはほとんどタキオンだし、ミーティアのメンバーにとっても良い刺激になるから。いつでも来てくれていいよ」
一応僕も教えるけど、主になるのはタキオンだ。前にトレーナーの教本を貸したことあるけど、もしかしてこのためだったりするのだろうか?
まぁいいか。それよりも気になることがある。
「そういえば、ダイワスカーレットはもう入るチームを決めてたりするのかな?よくウチに来てくれてるけど、チームの練習があったりするんじゃない?」
彼女はチームに加入しているのかどうか。タキオンとしても気になることだったのか、ウキウキ顔で会話に割り込んできた……本当にダイワスカーレットが関わるとテンションが違うね、君。
「スカーレット君、ミーティアのメンバーは君を歓迎するよ!是非とも来てくれたまえ!」
「本当にえらい違いですわね。前に来た子を実験台にしようとしていましたのに」
「スカーレットさんには特別優しいですよね」
「まぁまぁ!微笑ましいじゃないですか!」
ジェンティル達がひそひそと会話をしている。そんな中で、ダイワスカーレットは申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
「ごめんなさい、タキオンさん。実は……もう入るチーム決めちゃってるんです」
ピシリ、と。タキオンが笑顔のまま固まった。手を振って確認するけど……あ、うん。ダメだねこれは。
さて、チームはもう決まっているらしいけど。
「そうなんだ。どこのチームに入ることにしたんだい?」
「えっと、オグリ先輩のチームです!勧誘を受けて、アタシに合ってると思ったので!」
オグリキャップのチーム……ということは、あの人か。
「だから、ミーティアのトレーニングに来るのもこれが最後になります……今までご指導ありがとうございました!」
うん、チームが決まったなら喜ばしいことだ。それに、そう言われて悪い気はしない。
「向こうのチームでも元気でね。応援しているよ」
「はい!ありがとうございます!」
「ほら、タキオン。いつまでも固まってないで、ダイワスカーレットの新しい門出を祝ってあげて」
タキオンはようやく動いたけど、凄くぎこちない笑顔を浮かべている。納得できない、それでもダイワスカーレットのために笑顔で見送らないといけない、滅茶苦茶葛藤している……そんな表情。どんだけミーティアに来てほしかったのさ。
「そそそ、そうかスカーレット君。それならば仕方ない、向こうでも元気にやるんだよ」
「タキオンさん……!ありがとうございます!アタシ、頑張りますね!」
それではー!と、元気良く去っていったダイワスカーレット。彼女が見えなくなった後、タキオンは必死の形相で僕に詰め寄ってきた。
「トレーナー君ッ!今すぐヘッドハンティングだ!スカーレット君を引き抜くぞ!」
「バカ言わないでよ。僕を畜生のド外道にするつもり?」
なんで本人が納得してチーム入りしたのに僕が横からかっさらわないといけないんだ。本気で言っているわけじゃないとはいえ、そんなことやったら僕は最低野郎だよ。
「やだやだー!スカーレット君と同じチームが良いー!なんとかしたまえよトレーナーくぅん!」
「無茶言わないで、ワガママ言わないで。ほら、クールダウンしてトレーニング終わるよ」
「あああぁぁぁ!!スカーレットくぅぅぅん!」
この姿をダイワスカーレットが見たらどう思うんだろうか?……絶対見せないだろうけどね。
◇
それからしばらく経って。ダイワスカーレットが加入したチームと合同トレーニングをすることになった。
「よろしくな、高村!」
「はい、よろしくお願いします北原トレーナー」
「前も言ったけど、ジョーでいいぞ?」
「すみません……癖のようなもので」
始まる合同トレーニング……かと思ったが、タキオンが北原トレーナーをジロジロと見ていた。止めなさい。
「ど、どした?俺の顔になんかついてるのか?」
「ふぅン……君がスカーレット君のお眼鏡に適ったトレーナーかい?」
「え?いや、まぁ……確かにスカーレットは担当だが」
じろじろ見ていたと思ったら、今度は畏まった。深く一礼をして、北原さんに頭を下げている。
「スカーレット君のこと、よろしく頼むよ。私の可愛い後輩だ、どうか彼女を導いてやって欲しい」
……驚いた。本当にダイワスカーレットが絡むと別人のようになるね、君。タキオンなりに心配なのだろう。ダイワスカーレットのことが。
一瞬驚いた顔をした北原トレーナーだけど、表情を引き締めてタキオンを見る。
「あぁ。俺があの子を輝かせてみせるさ!」
タキオンは真っ直ぐに北原トレーナーの目を見る。しばらくの間見つめ合い……タキオンは納得したように頷いた。
「……悪くないねぇ。ま、頑張ってくれたまえよ」
そこは変わらないんだね。ひと悶着が起こることもなく、無事に過ぎていった。
改めて始まるトレーニングだが。
「あ、高村。忘れるところだった」
オグリキャップから話しかけられた。多分だけど休憩中だろう。
「どうかしたのかな?オグリキャップ」
「いや、この前のお礼を改めて言おうと思ってな。本当に助かった、礼を言わせてくれ」
この前?……あぁ、商店街で会った時のことか。それぐらい別にいいのに。律儀な子だ。
「あの時も言ったけど、構わないよ。それよりもあの後は大丈夫だったかい?」
「あぁ、問題ない。なにごともなかったし、とても幸せな気持ちで帰ることができた。これも高村のおかげだ」
「なんだなんだ?お前らなんかあったのか?」
あ、北原トレーナーもこっちに来たな。僕とオグリキャップが話していることが気になったのだろう。気づけばタキオン達もこっちに来ている。
さて、どう説明したものかと考えている時、オグリキャップが嬉しそうに答えた。
「実はな──この前、高村にご飯を奢ってもらったんだ!」
オグリキャップの言葉に、その場が静まり返った……あれ?これは僕らのせいだろうか?凄くいたたまれない気持ちになってきたぞ。
「……はっ!?た、高村お前!オグリの言ってることは本当か!?」
いち早く正気に戻った北原トレーナーが僕の肩を掴んでがくがくと揺らす。き、気持ち悪くなりそう……!
「ほ、本当です。この前、商店街で会った時に、お腹が空いて困ってるみたいだったので……じゃあ僕がご飯を奢ろうか?と」
「マジで言ってんのか!?オグリの食欲、知らないわけじゃないだろう!?てかそれって、××日のことか!?」
「いや、まぁ知ってましたけど……別にいいかなって。後日付は合ってます」
「クソ……!オグリがやたら幸せそうにしてたのはそれが原因か……!」
と、とりあえず離してほしい。凄く気分が悪くなってきた……。
「と、トレーナーさん正気ですか!?財布は大丈夫でしたか!?」
「トレーナー。もし極貧生活を送っているようなら私を頼って欲しい。家に頼んで支援してもらう」
「えぇ~……?オグリさんに奢るって……」
「みんなは私のことを何だと思っているんだ」
ぷりぷり怒っているオグリキャップだけど、そう言われるだけの原因はあると思う。実際かなりの食べっぷりだったし……
どうにか解放されて、息を整える。順序立てて説明していくことになった。
「え~っと、つまり……」
「偶然商店街でトレーナーさんとお腹を空かせたオグリさんが会って、空腹を訴えたところトレーナーさんがご飯を奢る流れになり」
「食べ放題のお店を中心に連れて行ってもらった、と?」
「大体その通りだ。高村のおかげで、色んな食べ放題のお店を回れたな」
誇らしげに語るオグリキャップだが、僕に対する視線は信じられないものを見る目だ。これ、もう1人の同行者について話したらさらにヤバいことになるんじゃないだろうか?
「てか、なんで高村はオグリに奢ろうと思ったんだ?噂は聞いてるだろ?」
「まぁ、オグリキャップの食欲については知ってました。でも、困ってるみたいだったので。じゃあご飯ぐらい別に……と」
「ぐらい、で下手したら破産するところだったんじゃないですか?」
「別にその心配はなかったよ、ダイワスカーレット。正直、僕ってあまりお金使わないから」
使うとしても新聞と雑誌を買ったり、後は本を買うぐらいかな?大きな買い物なんてしたことがない。だから2人分奢るぐらいわけない。たとえその2人の胃がブラックホール並だったとしても。それに、お店も食べ放題が中心だったからね……ほぼ出禁を食らってた関係上探すのに苦労したけど。
事情を聞いた北原トレーナーは平身低頭。さっきから謝り倒している。別にいいのに。
「本当にすまなかった高村!何か別の形でお礼をするから……!」
「別に構いませんが……それならまた合同トレーニングをお願いできますか?みんなのためになるので」
「それぐらいいくらでもやってやる!……にしても、オグリに飯を奢るなんてなぁ」
「?私だけじゃないぞ、北原」
あ、オグリキャップ。その情報はまずい。今この状況で、もう1人の同行者について言及するのはとてもまずい!
だが時すでに遅し。全員がオグリキャップに注目し、次の言葉を待っている。あ、終わった。
「その時はスペシャルウィークもいたんだ!私達は大丈夫か?って言ったんだが、高村は快く奢ってくれた!本当にいい人だ、高村は!」
……さて、僕に対する視線が化物を見るそれに変わったな。どうしようか、これ。
「あ、あれ?私は何かやってしまったのだろうか?」
大丈夫だよオグリキャップ。ちょっと僕が詰められるだけだから。
その後もやたらとお金の心配をされるようになった。
「トレーナーさんッ!もやし生活を送る前に、この学級委員長を頼ってくださいねッ!」
「トレーナー君。いざとなれば料理は私が作ろう。だからお金の管理はしっかりとするんだぞ?ダメそうなら私を頼りたまえ」
「あ、あたしのお小遣いは少ないですけど……それでもトレーナーさんのためなら!」
「いざとなれば私の実家を頼って欲しい」
「貴方の栄養が不足するのは私としても不味いことです。包み隠さず、料理の内容を逐一報告なさい。分かって?」
「トレーナーさん!苫小牧の幸はたくさんありますから!遠慮せずに言ってくださいね!」
「君ら僕のことをお金が管理できない人間だと思ってる?」
普通にお金はあるから心配ないよ。
余談だけど、スペシャルウィークに関しては彼女のトレーナーから奢った次の日に謝罪された。それも猛烈な勢いで。別にいいのにな。
冷静にオグリとスペに飯を奢る高村Tってとんでもないくらいお金持ってるな?