ビヨンド・ザ・ライトレス   作:カニ漁船

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ちょっと話は横道にそれて。


幕間 トレーナーの評判/貴婦人の登場

 トレセン学園には高村聖というトレーナーがいる。

 

「高村トレーナーって、()()高村トレーナー?」

「最年少でトレーナーになった天才児だな。余程努力を重ねたのだろう」

「真面目で責任感がある。歳の割にはな」

 

 高校生ほどの年齢でトレーナー試験に合格し、中央のトレーナーになった人物。ただ、当初はあまり評判が良くなかった、というよりは彼の一部分がどうしても目に付くからだろう。

 

「う~ん……悪い人ではないよ?むしろ良い人。だけど……」

「最初見た時はビックリするよね。だって」

()()()()()()()がないからねぇ……」

 

 ハイライトの灯っていない瞳。くたびれたサラリーマンのような、死んだ魚みたいな目にどうしても驚いてしまう。加えて。

 

「いつもノート取りながらブツブツ呟いてるから近づきづらいよね~」

「しかも終始淡々としているから、感情の起伏が分かりにくいし」

 

 およそ人間味を感じさせない淡々とした態度が近寄りがたさに拍車をかけていた。悪いトレーナーではないのだが、見た目と雰囲気がヤバい。なのでウマ娘達や一部のトレーナーは敬遠していた。それが高村聖の印象である。

 

 

 ──というのも昔の話。時間が経つにつれ、そんな話は少しずつなくなっていった。

 

「案外熱い人だったよね~。バクシンオーさんのトレーナーをして、レースの勝利を喜んでたの!……表情に全然出てないけど」

「相談したら真摯に対応してくれるし、指示も的確だから本当に助かってます!」

 

 雰囲気がアレなだけで、周りとの交流が盛んになると高村トレーナーの人となりも分かってくる。彼は真面目な人物だと。最初は敬遠されがちだったが、徐々に彼を理解する人達も増えてくる。

 特に、一部のトレーナーとの交流が大きかった。シンボリルドルフのトレーナーに始まり、学園で屈指の人気トレーナーであるダイタクヘリオスのトレーナーなどとの関りで彼に対する印象も変わってくる。

 

「彼は真面目な良い子だよ。ちょっと真面目過ぎるけど、それも長所なんじゃないかな?」

「ひじりんはね~、あぁ見えてめーっちゃ熱い子だよ!担当ウマ娘激推し!って感じ!」

 

 この2人が中心となり、話が広まったことで、高村聖に対する認識は変わっていった。それでも初見時の驚きはあるが、昔と比べれば大分マシになったと言えるだろう。

 

「ただ、最初の担当ウマ娘が無敗の三冠を取ったんだからもの凄いよね~……普通、もっと研鑽を積んでからなのに」

「しかもそれがバクシンオーと来たもんだからねぇ……本当に取らせるとは全然思わなかった」

「てか三冠だけじゃなくてNHKマイルも取ったからクラシック四冠なんだよね。しかも同一年にスプリンターズステークスも取ったからSMILE区分全制覇してるし」

 

 ……まぁ、最初の担当であるサクラバクシンオーで成し遂げた偉業がヤバすぎて今度は別の意味で恐怖の対象となっているのだが。純スプリンターと称されたサクラバクシンオーにクラシック三冠を取らせるというとんでもないことをやってのけたので、トレーナー陣は恐れを抱いた。

 

「本当に新人なのか?彼は」

「いくら何でも恐ろしすぎるな……私も世話になったことがあるとはいえ」

 

 良くも悪くも、高村トレーナーには注目が集まっている。誰もが匙を投げたサクラバクシンオーの目標を叶えた手腕に。無理難題と言われた目標を実現させた彼は、今後の動向が注目されていた。

 

 

 

 

 

 

「あなたが高村聖トレーナー、かしら?」

「そうだけど、どうしたの?」

 

 部室の扉がノックされたかと思えば、担当ではないウマ娘が入ってきた。彼女は恭しくお辞儀をすると、自己紹介を始める。

 

「失礼。私はジェンティルドンナ……以後、お見知りおきを」

「ジェンティルドンナ?……どこかで聞いたことがあるな」

「あら、私を知っていて?」

 

 どこかで聞き覚えがあるんだよな、ジェンティルドンナ。記憶を掘り起こして……思い出す。

 

(確か、滅茶苦茶パワーの強い子じゃなかったかな?)

 

 曰く、鉄球を圧縮したとか強度を限界まで高めたキック力測定のマシーンを粉砕したとか、果てには踏み込みで地面にクレーターができたとか色々と噂がある子だ。どこまで真実なのかは知らないけど、それぐらいのパワーの持ち主なのだろう。

 目の前で妖艶に微笑む彼女。どんな用事でここに来たのだろうか。

 

「噂には聞いたことがあるよ。凄い力の持ち主だって。学園でも随一だって聞いてる」

「フフ、お褒めに預かり光栄ですわ」

「ま、単刀直入に聞こうか。どうして僕のところに?」

 

 話を引き延ばしてもしょうがないだろう。早速来た目的を聞いてみることに。

 

「私の力をより引き出すために、あなたが最適だと判断したためです……高村聖トレーナー」

「へぇ」

「噂には聞いていますわ。ウマ娘の適性や能力を見抜くことができる、特異な目の持ち主……まぁその真偽にさほど興味はありません」

 

 ジェンティルドンナはこちらへと手を差し伸べ、僕に手を取るように促してくる。まるでこちらを引っ張り上げるように、リードするように。

 

「重要なのは、あなたの手腕にあります。純粋なスプリンターを長距離で勝たせたあなたの手腕……私の知らない力を引き出すのに、これほど相応しい方はいないでしょう?」

「そうかな?シンボリルドルフのトレーナーとかいると思うけど」

 

 あの人も凄いトレーナーだ。なんてったってシンボリルドルフとトウカイテイオー、2人の担当な訳だし。

 

「興味ありませんわ。私が興味を抱いたのはあなた……もしかして、私の目に狂いがあるとでも言いたいのかしら?」

「そういうわけじゃないよ。まぁ、僕が君の力を引き出すために最適なのは分かった。それで、僕は君になにをすればいいのかな?」

「あら、知らないふりをするのがお上手なのね。勿論決まっているでしょう」

 

 本当に分からないんだけどな。ジェンティルドンナは不敵に笑い、こちらへと手を差し伸べている。

 

「私の手を取りなさい。そして──私のトレーナーになりなさい。まさか、断るつもりはないでしょう?」

 

 あぁ、そういうことか。つまりは担当契約ってことか。

 

「担当契約?いいよ」

「……随分あっさり決めますのね」

 

 目を丸くして驚いているジェンティルドンナ。まぁ断る理由はないし。

 

「断る理由がないからね。それじゃ、早速手続を進めようか」

「……釈然としませんが、まぁいいでしょう。これから私のために尽くしなさい、トレーナー」

 

 こうして担当が1人増えた。5人になったわけだ。

 

 

 早速今日の放課後からトレーニングに加わることになった。

 

「今日から担当する子が1人増えたよ。ジェンティルドンナ」

「おぉっ!新しい担当ウマ娘ですかッ!」

「よろしくお願いしますね、ジェンティルさん!」

「よろしく頼む」

 

 アグネスタキオンは無言。ジェンティルドンナはというと、唯我独尊って感じだ。

 

「私が満足できないようなら、たとえ同じチームであっても容赦なく切り捨てます。よろしくて?」

 

 自分の強さに自信を持っている。傲慢な物言いに聞こえるが、不思議と従ってしまいそうな圧が感じられる。

 

「問題ありませんよッ!それは絶対にありえませんのでッ!

「が、頑張ってついていきます!よろしくお願いします!」

「むしろ望むところだ。誰もが認める最強になるためには当然のこと……そちらこそ、気をつけるといい」

「ところで君、鉄球を圧縮したそうじゃないか!ちょっとここで実践してみてくれるかい?あぁ安心したまえ、ちゃんとここに現物を用意しているからねぇ」

 

 バクシンオー達の我も強いから全く問題ないけど。強いて言うならキタサンブラックがちょっと押され気味ぐらい?でも、キタサンブラックもついていけるだろう。頑丈だし。

 アグネスタキオンはジェンティルドンナにグイグイいってる。鬱陶しそうにしているね。

 

「……ちょっと。何ですのこの方は。あまりにも不躾ではなくて?」

「アグネスタキオンだよ。君の力が気になってるみたいだね」

「それよりもだ!早いところ君の怪力を見せてくれたまえよ!どれだけの力があって、我々にも実現可能なのか調べなければならないんだ!」

 

 うん、ジェンティルドンナが滅茶苦茶めんどくさそうにしている。気持ちは分からなくもないけどね。

 

 

 そして始まるトレーニング。ジェンティルドンナも加わるが。

 

「いざ!ジェンティルさんの加入を記念して、感謝のバクシンバクシーンッ!」

「……なんですの、その掛け声。他の方々もなにか」

「バックシーン!ワッショイワッショーイ!」

「バクシンシーン」

 

 凄い困惑してるね。バクシンオーの掛け声に続くキタサンブラックとドゥラメンテ。味方を必死に探すジェンティルドンナはアグネスタキオンに目をつける。

 

「ちょっと、あなたからもなにか言いなさい。あの掛け声はどうかと思いますわよ」

 

 ジト目で睨むジェンティルドンナに、アグネスタキオンは彼女の肩に手を置く。首を横に振り、抵抗は無駄だとばかりに突きつける。

 

「諦めたまえ。アレは最早我々の手には止められないものだ」

「あ、あなたっ!?」

「そんなことよりも!是非とも君の怪力を私に見せてくれたまえ!あぁその前に、まずはこの装置をつけてもらおうか。これは測定器のようなものでねぇ、君のパワーを計測するのに……」

 

 ただ悲しきかな、アグネスタキオンもアグネスタキオンで厄介なんだよね。余程ジェンティルドンナの力が気になるみたいだ。

 その後もジェンティルドンナは他のメンバーの対応に追われる。バクシンオーが世話を焼こうとするし、アグネスタキオンが実験と称して怪しげな装置を持ってくる。

 

「……早まってしまったわね」

 

 最初のトレーニングでかなり疲弊した様子のジェンティルドンナ。多分、トレーニング疲れじゃないんだろうな、その疲労は。

 息を整えている彼女にもドリンクとタオルを手渡して労う。

 

「トレーニング初日お疲れ様。もうすぐ夏合宿だけど、どうする?このままチームに居残る?」

「……逃げるわけないでしょう。この程度のことで逃げるなど、私は許せません。むしろ、全員を従えてこそですわ」

「そっか。じゃあこのままチームに残留ってことで」

「えぇ、これからもどうかよろしく」

 

 こうして、ジェンティルドンナの正式加入が決まった。彼女の加入でチームはさらに賑やかになるだろう。

 

(うん、これから先が楽しみだな)

 

 後はアグネスタキオンの今後も考えていかないといけないな。やることは山積みだけど、やりがいがある。

 明日も頑張ろう。




ジェンティルドンナ加入!貴重なツッコミ枠!

アニメイトで新時代の扉キャンペーンやってますが、2回買い物行って特典が2回ともタキオンだったので私はモルモットだったのかもしれない。
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