目覚めたら雷狼竜でした
私は死んで、そして転生した。死因は信号無視したトラックの衝突、異世界転生トラックにやられたって訳。
死ぬ直前まで私はあるスマホゲームをやっていた。1つがブルーアーカイブ、透き通った世界観で女子高校生が銃をぶっぱなす青空グラセフなゲーム。
そこに出てくる尾刃カンナが大変癖に刺さった。ギザ歯強面ケモ耳って属性盛り過ぎでしょ、好きにならんわけが無い。
モチベーションバク上がりだった所にもう一つのスマホアプリ『モンハンnow』が出て来て、そっちもどハマりした。
元々モンハンは好きだった。アイスボーンとか1000時間はやったかな…社会人だったのに良くもそんな時間確保出来たものだよ。
モンハンnowはポケモンGOをモンハン版にしてみました、みたいな感じ。
課金しろって圧がそこかしこで感じられて少し嫌な気分になることもあるけど、ちまちま課金してガッツリ遊べる良ゲーって認識だった。
重ね着機能の追加で見た目グチャグチャだったキメラ装備を直視しなくて済むっていうのが良いよね。見た目が整うキメラ装備なら良いけど混沌としてるのは本当、見るに堪えない。
「ガゥ……」
モンハンnowだとガロン装備とジンオウ装備が見た目好き過ぎて、重ね着作ろうと躍起になっていた。
丁度ジンオウガ大量発生期間だったし、大連続狩猟も寄生気味だったけどガッツリ回して素材溜めまくった。
そろそろ装備が作れるかな、重ね着作りに本腰入れられそうかなって時に、トラックに轢かれて死にました。
残念無念、なんて思ったのも数分前の事。もっとびっくりする光景を見せられて残念とか無念とか全部吹っ飛んだ。
死んだはずの私は廃墟の中にいた。随分と長いこと放棄されているのか埃が積もった暗い廃墟の中に寝転んでいた。
轢かれた衝撃で吹っ飛んで転がり込んだのかとも思ったけど、それにしては体が痛くない。
声を出そうとしたが、声が出ない。なんか獣の唸り声みたいなのが漏れるだけで、人間らしい言葉が出てこない。
それに、なんかデカい。体がやけにデカい。そして四足歩行になっている。
「グルルル……」
視界の高さも死ぬ前より何倍も高い。グイッと背筋を伸ばせば遠くまで見通せる、それくらい体が巨大化している。
実を言うと自分がどうなったのか、何になっちゃったのか、なんとなく分かってはいる。自分の今の全身像を見た訳じゃないけど、確信がある。
そりゃ自分の前足に立ち並ぶ黄色の甲殻やら白色の体毛やらを見て聞き慣れた唸り声を聞いちゃえば、自分の今の姿なんてアイスボーンであのモンスター100頭捕獲とかやった私なら直ぐに分かるよ。
廃墟の中を宛もなく彷徨い歩いて数十分。雨でも降ったのか水溜まりができていて、そこに自分の姿を写し出して覗き込んだ。
「
胴体を覆う碧色の鱗、頭部から前方に突き出た一対の角、オオカミっぽい整ったフェイスに場違いなまん丸で馬鹿そうな目。
あまりに馬鹿そうな顔付きをしているけど間違いなく、私は雷狼竜ジンオウガへと転生してしまっていた。
それもただジンオウガに転生した訳では無い。モンハンらしさが微塵も感じられない廃墟の中で1人ぽつんと、私はジンオウガに転生してしまったようだ。
「……
いや、ナイナイ。異世界転生モノとか見たりするけどジンオウガに転生しました、なんて見たことがない。
当たり前か。そんなのCAPCOMが許さないだろうし……いやでもストファイにレウス装備持ち込んだり化け物みたいな顔したヨ○・フォージャー作る会社だからなぁ……悪ノリしてワンチャン、とか有り得なくもないのかも。
というか見たことある無いじゃなくて、ジンオウガに転生って何? しかも幼体に生まれ変わるとかじゃなくてこれ思い切り成体個体だよ?
なんか色々大切な工程すっ飛ばしてない? お手とかサマーソルトとかならまだしも発電方法とか知らないよ?
「…ハァ」
もう一度水溜まりを見下ろす。ジンオウガ……なんだけどかなりの馬鹿面だ。
顔は良い。ジンオウガ特有のオオカミっぽさがあるキリッとしたフェイスラインは良い。
目が酷い。雑に丸書いてチョンではい!目です!とやったみたいなまん丸の目をしている。
ジンオウガの格好良さ台無しだ。なんだこのジンオウガ、バカ犬じゃないのか?
モンハンの中じゃ1番好きなモンスターのジンオウガに転生したのは嬉しいけどこの目は無いよなぁ……
「…
あれやこれやと悩んでみたけどどうしようもないし、悩むのはやめた。
死んだと思ったら大好きなモンスターに転生していました、これでいいじゃないか。
せっかくジンオウガになれたんだ、ゲームじゃバランス云々考えて出来なかっただろう挙動とか色々試してみたい。試せる機会を得たんだから試さなきゃ損だ。
この廃墟は巨大な病院だったみたい。受け付けみたいな場所を破壊して奥を覗いた時にカルテっぽい物が散らばっていたし。
大きなエントランスもそうだけど廊下も広い。ジンオウガが全力疾走しても壁にぶつからないくらい広いし、人の気配も匂いもしない。
ハンターとかいう人型モンスターと殺し合っているせいか人間に対して少し敏感なのかもしれない。
「
何をしようかと考えるまでもなく、ジンオウガとして生まれ変わった私が真っ先にしたい事は決まっていた。
エントランスホールに残されている古ぼけた病院案内図を見てルートを覚え、身をかがめて力を貯めた後に全力疾走。
凄い。自動車なんかよりもずっと速く走れるのに全く疲れを感じない。高速道路を走っている時よりも断然速い。
これが無双の狩人、雷狼竜ジンオウガの身体能力か。これと殺し合うハンターとか人型モンスターだろ、体の細いラージャンか何かでしょ。
「ハッ、ハッ、ハッ!」
軽く息を吐くだけでグングン体が前に進む。
放棄された車椅子やらストレッチャーやらを吹き飛ばして、床に散乱した貼り紙を舞い上がらせて、人間が使うことを前提にしている狭い階段に体をねじ込む。
階段の段差を踏みしめるなんてことをしなくても、壁を蹴飛ばして3角飛びの要領で上へ上へと駆け上る。
8階建ての大型病院を1階から屋上まで駆け上がるのに15分も掛からなかった。邪魔な天井を頭突きで破壊し、雲ひとつ無い満点の星空の下に身を晒す。
「…………」
見惚れた。都会の夜空をギラギラと照らすネオンとは違う、自然が生み出す絶景。
澄んだ空気が鼻腔を通って体内に流れ込み、内側から冷やしてくれる。
そこに浮かぶ大きな満月。雄大で、優しい月光で私を照らしてくれている。
ゾワゾワする。項の辺りから頭に向けて何かが、吠えたいという欲望が登ってくる。
自然と口が開く。後ろ足を下ろして座り込み、前腕はピンと伸ばして月を見上げた。
「アオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!」
全力疾走を行っても疲労感を感じさせない肺活量に物を言わせて、喉の奥から月に向けて雄叫びを上げる。
空気が澄んでいるせいか、雄叫びは遠くまで轟いている。
気持ち良かった。イライラした時に大声を出すのとは比べ物にならないくらいにスッキリして、頭の中がクリアになっていく。
「グルォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!」
再び、私は吠えた。何も考えず、月に向けて雄叫びを届けようと本能に任せて吠え続けた。