狂犬が拾った雷狼竜、元人につき   作:ジンオウガを飼いたい

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そろそろブルアカ本編に話を移していきます


雷狼竜ジンオウガ

 森の奥から聞こえる激突音と落雷の音、投げ捨てられるゴミのように飛び散る樹木がジンオウガと私を襲ってきたモンスターの激闘具合を物語っている。

 

 くじいてしまった足を引きずりながら、ジンオウガの移動した痕跡を辿る。

 不安だった。いつもの馬鹿面が嘘のように思えるほどに警戒し切った顔付きと、その身に纏っていた怒りの気迫。

 

 それだけでも私を襲ってきたモンスターが、それだけ危険な生物なのだということが分かる。

 

「ジンオウガは…大丈夫なのか…?」

 

 私が向かったところで足でまといにしかならないだろう。それでも、彼女に任せっきりという訳にはいかなかった。

 

 回復薬を飲み、飲みきれない分は足首に直接掛ける。少しは気が紛れるような気がして、足を動かすのが楽になる。

 これが一時的なものかどうかは分からないが、とりあえず動けるうちは問題ない。

 

「しかし凄いな……」

 

 ジンオウガとモンスター、長いからゴーヤにするか。

 その2体が争った痕跡は轟いてくる轟音や飛来する樹木に負けず劣らずの激闘を物語っていた。

 

 どちらが引き摺られたのかも分からない痕跡に、暴れ回る過程で薙ぎ倒されている草花に樹木。

 余程強く踏み締めたのか地面に深々と刻まれる足跡に、そこかしこに飛散している血液。

 

 普通では無い。クマ同士の縄張り争いでもこんなに周囲をグチャグチャにはしないだろう。

 

「ゴガアアアアアアーーーッ!!!!」

 

「グルルルアアアアアアアアアッ!!!!」

 

 雄叫びは止まるどころか時間が経つ度に激しさを増し、鈍い激突音と共に木々を揺らしている。

 

 急がないと。自分に何が出来るかも分からないのに、ただ焦燥感がだけが私の体を動かす。

 冷静で居られない。ジンオウガを助けないと、加勢しないと、そんな考えだけが頭の中をグルグルと回る。

 

 本当に、私らしくない。何時もの冷静な私はどこに行ってしまったのだろうな。

 加勢したところで何が出来るのかも分からないのに。迷惑にしかならないだろうに。

 

「あそこか…!」

 

 ジンオウガとゴーヤが争いながら作り出した道を進んでいると、開けた場所へと辿り着いた。

 私がジンオウガと初めて出会った場所、豪快な音を立てて流れ落ちる滝とそれが生み出す小川が綺麗な場所で、2体のモンスターが睨み合っていた。

 

「ガルル……ハァっ、ハァっ!」

 

 ジンオウガは酷く傷だらけで、特に前腕の甲殻は一部欠損していた。ただ欠けただけでは無い、その一部分がごっそりと引き千切られたように消え失せていて、夥しい量の血が流れている。

 

 息は上がっているものの闘志は衰えていない。

 全身の甲殻が展開し、純白の柔毛を逆立たせ、青白い光を放ちながら目の前に立っている恐竜のような化け物を睨んでいる。

 

(見たことが無い姿だ…あれは、虫を取り込み続けたのか?)

 

 軽々と木々よりも高く飛び上がる、地面を叩き割るといった高い身体能力を持つジンオウガが更にその身体能力を高める方法。

 

 彼女の肉体が生み出す電力を分け与えた特定の昆虫を甲殻や白毛に集め、放電能力と身体能力を強化する。

 それに伴って青白い光を帯びるのは見た事があるが、今の姿は私が知るものよりも更に己を強化した姿なのだろうか。

 

「ガアアァァァァァッ!」

 

 ゴーヤも全身に無数の切り傷や火傷跡を負い、左足からはジンオウガの前腕に負けず劣らずな量の血液を垂れ流している。

 顎の下にまで生え揃っている凶悪さを帯びた牙もその殆どが抉り取られ、ジンオウガの鉤爪による痛々しい傷が深く刻まれている。

 

 こちらも闘志は衰えず、全身の筋肉がパンプアップすることで私を追跡していた時よりも更に禍々しさを増していた。

 

「ジッ」

 

 名前を呼びそうになって、咄嗟に口を手で抑えた。幸い2体のモンスターは目の前にいる敵に夢中なようで、私の声は届いていない。

 

 死闘を演じていると心は余裕や癒しを求めてしまいがち。

 私のことが大好きで仕方ないジンオウガに声をかけたら気を逸らさせてしまい、そこを突かれて殺されてしまうかもしれない。

 

「ゴルルルァァァッ!」

 

 ジンオウガが唸り、上体を起こした。右前脚を振り上げ、叩き下ろすつもりらしい。

 そこをゴーヤが動き、間合いを詰める。ヨダレをダラダラと垂らす口を開きながら懐に入り込み、喉元に噛み付こうとしているようだ。

 

 あまりにも隙だらけな攻撃、疲労が祟って判断を誤ったか。

 拳銃を構えて援護を試みた私だが、ジンオウガが相手を見下ろしながら口角をにぃっと吊り上げているのを見てゾッとした。

 

(笑った?)

 

 あまりにも獰猛な笑みに、背筋が凍った。

 

「ガアアァァァヴッ!!」

 

「ギュグゥ!?」

 

 何もしていなかった左前脚が前方を薙ぐように振り抜かれて、ゴーヤの顔面を側面から殴り付けていた。

 私の方を向くようにゴーヤの顔が曲がり、殴られた箇所に鉤爪が切り裂いた傷が刻まれているのが見える。

 

 力づくといった様子で頭の位置を戻すと、負けじと再度食らいつきに行く。その姿は何かこう、食べることに支配されているかのような愚直さを感じさせられる。

 噛み付かれるのは阻止したいのか、ジンオウガは後方に身を捻りながら飛び下がりつつ尾で薙ぎ払った。

 

「ギャウ!?」

 

 だが、今度はジンオウガが1本取られる番だった。

 振り抜いた尾に噛み付かれたのだ。

 

 甲殻を噛み砕くパキパキッという音が響く。ジンオウガからそんな音がしていると思うと、耳を覆いたくなった。

 振りほどこうともがいているが振りほどけない様子だ。大木を軽々転がす怪力を持つ彼女が負傷しているとはいえ四肢全てを使って抗っているのに、それを噛み付く力だけで押さえ込んでいる。

 

「ガッ!?」

 

 噛み付いたジンオウガを、地面に叩き付けた。20m超えの巨体を軽々と首の力だけで弧を描くように振り回して何度も何度も、叩き付けた地面が捲り返る程の力で。

 

 また、私の手足は震えていた。

 ジンオウガでも勝てないかもしれない、ジンオウガが殺されてしまうかもしれないと思うと恐ろしくて、何も出来ない自分が恨めしくて。

 

 息苦しい。目を逸らしたくなるような生々しい生存競争、命と命を賭けた殺し合いの凄惨さが私たちとジンオウガが住まう世界の違いを如実に物語っていた。

 そんな過酷な世界を生きている彼女を『相棒』と呼べるだけの力が自分にはない、そんなネガティブな気持ちが溢れてくるのを抑えられない。

 

「ガヴッ!!」

 

「ジンオウガッ!?」

 

 叩き付けの締めは真上から振り下ろして、ジンオウガの巨体がバウンドする程の威力だった。

 地震のように足元が揺れ、叩き付けられたジンオウガが呻き声を上げもせずに横たわる姿に、私は声を抑えられなかった。

 

 彼女を襲う化け物がチラリ、と一瞬だけ私を見た。

 来るのかと思い身構えたが、すぐに視線をジンオウガに戻す。先に彼女を殺してから私を食う、そのつもりなのだろう。

 

 身動ぎ一つしないジンオウガの腹部に、化け物が噛み付く。

 鱗を牙が噛み砕き、肉まで到達する嫌な音を響かせながら彼女の体を持ち上げた。

 

「まさか…ジンオウガ……お前、死んで」

 

 腹部という急所を食い千切られそうになりながらも微動だにしないジンオウガの姿は、戦いに敗れて絶命したようにしか見えない。

 死んだフリにも限度がある。相当な痛みのはずの噛み付きを受けておいて、黙っていられるとは思えない。

 

 死んでしまったのではないか。

 

 最悪の結末を妄想してしまった私の耳が、微かに聞こえるスパーク音を聞き取った。

 

「ヴァオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!」

 

 持ち上げながらジンオウガが吠えて、全身から放電した。彼女を中心に四方八方へと撒き散らされる電撃は化け物に襲い掛かるが、決定打にはならない。

 

 鬱陶しそうにジンオウガを投げ捨て、追い打ちを仕掛けるように飛び掛っていく。

 立ち上がりは出来ても数度に渡る叩き付けと腹部に対する噛み付き攻撃が響いているらしく、回避が出来ない。

 

 飛び掛りの勢いも乗った踏み付けが頭に炸裂し、流れ落ちる滝が生み出す小川に顔を沈められてしまった。

 

 苦しそうに四肢をバタつかせ、放電するが相手は顔を苦痛にしかめながらも攻撃を緩めない。

 もう片方の足で執拗にジンオウガの背中を踏み付け、抵抗する力を奪おうとしていた。

 

(………許して、なるものか)

 

 ジンオウガが助けてくれたとはいえ、怯えはまだ私の中に残されている。

 

 恐ろしくもあった。私が知る限りでは最も強い存在と言える彼女を追い詰める相手だ、恐れるなと言うのは酷と言える。

 

 でも、私は大人しくしていられなかった。ジンオウガを傷付けられた怒りと、守ってもらっている自分の無力さに怒っていた。

 

 拳銃の持ち手を握る。追跡中に暴発するのを避ける為にかけていたセーフティを外し、トリガーに指をかける。

 

「う、うあああああああああああァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!」

 

 怯えと恐れを掻き消す怒声を放ちながら、化け物の顔面に狙いをつけて発砲した。

 

 数発は目の周辺、一発は目に直接ヒット。

 執拗な踏み付けの最中に横槍を入れられ、目に弾丸をお見舞いされた化け物は怯みながらも狙いを私へ切り替えた。

 

「ゴルルルルル………」

 

 ジンオウガの頭から足を下ろして、顔を私の方へ向ける。彼女はぐったりしているが、私へと注意が向いた途端に閉じていた瞳を開いてまたニタリと笑って見せた。

 

 奇襲を仕掛けるつもりなのだろう。なら、少しでも成功率を高めるために加勢する。

 一度は騙されたのだ、相手も二度目を警戒して私とジンオウガの両方を警戒するはず。

 

「この化け物めッ、私が相手だァァァァァァッ!」

 

 拳銃を乱射しながら左右に細かく動き回り、怒声による威嚇と鬱陶しさと動きで注意を引き付ける。

 

 地面に噛み付いて捲り返し投げつけてくる攻撃はスライディングで回避、その最中にリロードを済ませてひたすら顔面を狙い続ける。

 

 最初は邪魔者を仕方なく相手取っている様な雰囲気だったが、私が繰り返す挑発行為に段々と攻撃がヒートアップしてくる。

 ジンオウガの前から離れようとしないのは、仕留めた獲物の傍から離れたくないからか。

 

「ガヴァァァッ!」

「グァッ!?」

 

 まだ息の根を完全に止めたと確認していないのに、私を相手にし過ぎだ。

 

 左足にジンオウガが噛み付いた。化け物が目を白黒させて呻きながらも、私からジンオウガに注意を戻す。

 右足を上げて体を逸らし、口を開いて牙を叩き付けようとしたみたいだが、自重を支える足の片方が(支柱)にヒビを入れられたようだ。バランスを崩し、慌てて右足を接地させる。

 

 その隙にジンオウガは足への噛み付きをやめ、体を起こし化け物の顎下に噛み付いた。

 自分がやられたのをやり返すように、弧を描く軌道で小川の中へ化け物を叩き付ける。そのまま押さえ付け、溺死させようとしている。

 

「……凄まじい」

 

 在り来りな、飾り気のない感想しか出なかった。

 

 皮膚を食い千切り、鱗や甲殻を噛み砕き、相手が命を落とすまで続けられる殺し合い。

 人智を超えた力がぶつかり合う姿は野生の力強さと雄大さを感じさせ、繁栄している人間ですら容易く殺せてしまう自然の恐ろしさを体現しているように思えた。

 

 化け物も殺されまいとジンオウガを蹴り飛ばしにかかるが、川に沈められた状態で食らわされた電撃と胸部に対する執拗なストンプ攻撃が効いているのか動きがぎこちない。

 そこに落雷のような形で電撃を叩き付けられ、水没していない腹部側にも痛々しい火傷跡を幾つも刻み込まれていく。

 

「グルルルアアアアアアアアアアッ!!!!」

 

 化け物の力が抜け始めた。ぎこちない動きは更にぎこちなさを増し、絶命が迫っているのを感じさせる。

 

 そこを、ジンオウガは追い詰める。化け物の喉元に食らい付いたまま持ち上げると、滝に目掛けて巨体を放り投げた。

 流れ落ちる水を切り裂き、着地によって大量の水を巻き上げる。

 

 うつ伏せに倒れ伏した化け物に飛び掛って間合いを詰めると右足で項よりやや下の辺りを、左足で鼻先を押さえ付けて頭頂部に噛み付く。

 化け物の目に牙を突き立てたのか、弱々しい呻き声が化け物の口から漏れ出た。

 

「ガッ……グ、ゲボッゴボッ」

 

「ジンオウガ! 大丈夫か!!」

 

 攻め立てていたジンオウガが苦しそうに呻き、口から大量の血液を吐き出し始めた。化け物による猛攻がやはり響いていたらしい。

 

 それでも、化け物を押さえ付けるのは辞めない。

 最後の力を振り絞っている、そんな鬼気迫る気迫で。

 

 私の声掛けにも反応すら示さない。聞こえているはずなのに私の声に反応する余裕が無いらしい。

 

(どうする! なにか、何か出来ることは!)

 

 このままジンオウガに力を使わせ続け、化け物へのトドメまで任せてしまったら限界を超えてしまい絶命してしまう気がした。

 

 しかし私に出来ることは何か分からない。破壊力がある手榴弾は置いてきてしまったし、残弾もさほど多くはない。

 仮に残弾が潤沢にあったとしても、こんな豆鉄砲でトドメが刺せるとは……

 

「ッ……あった!」

 

 何か出来ることがないかとジンオウガと化け物を何度も交互に見るうちに、攻略の糸口が見付かった。

 

 足が訴えてくる痛みを無視して全力疾走し、拳銃のグリップを強く握り締める。

 

 小川の中に潜む大小様々な石が足取りを遅くするがそれすらも無視して、押さえ込まれながら唸り声を上げ続ける化け物の顔へ肉薄。

 そこでジンオウガも私の姿を視認し、何をする気だと問いかけるような視線を向けてきた。

 

「私がトドメを刺す! 押さえ込み続けてくれ!」

 

 拳銃を指差してから続けて化け物、私も目を指差す。それでジンオウガは全てを察してくれた。

 

「ガヴッ」

 

 血液混じりのガラガラした返事。

 

 痛々しくて、血の匂いが混ざった吐息が全身を覆う傷と相まって、私の声に返事をしてくれたのに素直に喜べなかった。

 

 悲しいが、悲しむのは後。

 

 ジンオウガが噛み付いてくれたことで穴が開き、目としての機能を果たせなくなっている化け物の目に腕と拳銃を突き入れた。

 

 如何に化け物であっても、脳への直接攻撃なら耐えられないだろう!!!!

 

「これでトドメだァッ!」

 

 引き金を引く。

 

 何度も感じた反動があり、化け物の巨体が僅かに震えた。

 

 呻き声も無い。目から大量の血液を吹き出した後に、化け物は動かなくなった。

 

 死んだ。脳への弾丸直撃、これに耐えられるはずが無い。

 

「グァッ、グググ……ヴアァッ!!!!」

 

 だがジンオウガは油断しない。化け物の頭にかぶり付くと、鱗や骨を噛み砕く音を立てながら反り返らせて力づくで食い千切ってしまった。

 

 食べるでもなく頭を投げ捨てると、血まみれになった顔で私を見る。

 子供が適当に描いたような真ん丸な目の、いつも通りの馬鹿面で。

 

「……お疲れ様」

 

 労いの言葉をかけてやると、ジンオウガは嬉しそうな唸り声を上げた後に白目を剥いて崩れ落ちてしまった。

 

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