狂犬が拾った雷狼竜、元人につき   作:ジンオウガを飼いたい

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プロローグの流れを失念していて白目を剥くバカオオカミ

 いやぁ……楽 し か っ た !

 

 あ、どうも。シャーレオフィスの外で大人しくお留守番犬しているジンです。暇を持て余してほげ〜っとしてます。

 当たり前だけど私はシャーレオフィスに入れなかった。そりゃそうだよね、人間用に作られてるんだからこんなバカデカ狼が入るなんて想定してないよね。

 

 プロローグはその名の通りでブルーアーカイブの出だしであり、チュートリアルも兼ねているから一番最初にプレイする章だ。

 そのせいで記憶が抜け落ちてワカモ撤退後は、シッテムの箱だのアロナだののやり取りがオフィス内で進行するのをすっっっっかり失念してた。

 

 先生達が中に入っていくのを見て展開を思い出して、そりゃあもう凹んだよね……だって先生とアロナの初対面だよ?

 あの最低保証の悪魔が目覚めるところに立ち会えるんだよ? そりゃ文句の一つや二つ言ってやりたかったさ!

 

 ま、言いたいだけで言わないけど。あんな意味不明な存在に下手なこと言ったら『あれ?あなた転生者ですね?』とか脈絡無しにカウンターパンチぶっ飛んできてぶった切られそうで怖いもん。

 

 ハスミたちとの戦いも無事に怪我無く終わらせることが出来た。力加減もさんざっぱらじゃれ付きまくったことで何となく掴んだ気がする。

 

 それにしても……ハスミの弾丸弾いた時は『やっちまった』と思ったよね。尻もちつくんだもん、弾いた弾丸が当たっちゃったものかと勘違いした。

 無事だったからよかったんだけどね。ついでにじゃれ付いて力加減勉強出来たし翼の匂い堪能できたし。案の定、大変良い匂いでした。

 

「改めて見ても……大きいわね…」

「えぇ。これで今まで世間に知られていなかったなんて、信じられません」

 

 ユウカたちもオフィスの外で待っていて、私に寄り掛かりながら周囲を警戒している。警戒しているのに随分とリラックスしている風だけど……良いんだろうか。

 

(やっぱり、私に銃は効かなかった)

 

 ブルーアーカイブの世界において広く普及している銃が、私にはまるで通用しなかった。

 

 それは対人戦においてかなり私が優位を取れる事を意味すると共に、私以上に凶暴な大型モンスターが出現した際に生徒たちでは為す術が無いことを示唆していた。

 やっぱり、先生に同行しなければならない。私がいる所に大型モンスターが現れるというのも検証の上に成り立つ説ではなくあくまでも仮説、外れている事だって有り得る。

 

ガルガウ(先生にも)ハガルルル(気付けて貰えたし)

 

 私だけが特別な存在だ、なんて思われても困る。私以上に特別で凶暴なやつが存在していると理解してもらわなければならない。

 ヌシ・ジンオウガを含めたヌシ個体特有の身体的特徴である傷跡が赤々と発光するのは相手に対する威嚇みたいな意味合いしかないと思っていたけど、こう役立つとは思わなかったよね。

 

 イビルジョーに噛み付かれた部位とかを全て見せ付ける為に、あえて先生の前で寝転がった。

 いや、じゃれていたのもあるよ? あんな美人さんに撫でてもらえるとか幸せだし私を撫でてニコニコしている姿は眼福も眼福だし。

 

 私を撫でている時、先生の動きがぎこち無くなる瞬間があった。あの瞬間、先生は私以外の大型モンスターの存在を悟った。

 作中でも邪智と策略を巡らす黒服と大人の戦いを演じられるだけの頭脳があるんだ、それくらいして貰えなきゃ頼り無い。

 

「ふわぁあ〜〜う……」

 

「大きい欠伸ですね……ふわぁ〜…」

「スズミさん、つられてますよ」

 

 大きな欠伸をして、晴れ渡った空を見上げる。

 

 始まった。ブルーアーカイブのストーリー、その出だしとなるプロローグ編に何とか間に合うことが出来た。

 カンナだけじゃない、生きたブルアカのキャラクター達と出会うことが出来た。

 

 楽しいし、嬉しい。私のスマホの画面の中でしか会えなかった子達と、生きて出会って触れ合えるこの喜びはいくら言葉にしたとしても語り尽くせない幸福感がある。

 ゲームくらいしか楽しみがなかった前世の私の人生に、彩りを与えてくれた恩人たち。せめてこの世界では楽しく、明るく過ごしてもらいたい。

 

 そう考えるとモンハンのモンスターたちも恩人ってことになるけど……あの人たちは話通じないからなぁ。それにエンカウントすると即殺し合いだし、恩返し=殺害みたいになるのが末期も末期で笑えない。

 

(頑張っておくれよ若人たち…なんちゃってね)

 

 前世の私の年齢から見れば、どれだけ大人びていても色気があろうともまだまだ若者だ。

 

 この先に待ち受けている色々な出会いや気付き、疑念、そして別れ。それ等全てが無意味なんかじゃなくて、大なり小なり意味を持つ。

 それに一喜一憂して時に笑って時に泣き、苦しんでもがいて、その過程で紡がれる青い春の物語。

 意図しようとしまいと紡がれ続ける青い春の物語の果ての果て、そこに待ち受ける大団円を掴み取るのに立ち会えることが嬉しくて仕方ない。

 

(先生にも頑張ってもらわないとねぇ……)

 

 私はモンスター、雷狼竜ジンオウガの特殊個体。転生者という立場的にも肉体の変異具合的にも、本来なら存在しないイレギュラー。

 

 そんな存在では、生徒たちを導くなんてことは出来ない。言葉が通じても種族の壁があって、それを乗り越える暇は彼女たちには与えない。

 私は見れるだけでも満足なんだ。満足しておくべきなんだ。

 

 彼女たちを導くのは先生であるべき。そう思っているからこそ、あの先生には期待している。上から目線で申し訳ないけどね。

 

(さて……)

 

 立ち上がり、体を揺らす。起き上がる前にも体を揺らしたから、ユウカたちも私が動きたいのだと察してくれて離れてくれた。

 寝てばかりでは番犬として機能していないと思われるだろうから少しはそれっぽい姿勢を示さないと。

 

 お座りの姿勢で入口の横に座り込む。

 喧騒が収まってきたのもあってか、チラホラと人の姿が見られるようになってきた。屋内で大人しくしていたのか避難用シェルターから出てきたんだろうね。

 

 皆、私を見ると一様に驚いていたよ。ま、当たり前か。避難して静かになったら出て来てみれば、見慣れないバカデカ馬鹿面狼がポツンと座ってるんだからさ。

 

「くわぁ〜〜………あぅん…」

 

 欠伸をし、アスファルトに顎を擦り付ける。なんか痒かった。

 

 そうしていると、私の聴覚がこちらに近づいてくる足音を拾った。頭を上げると目の前に居たのは、可憐な和装を着こなす狐面の少女。

 ワカモだ。ユウカたちも突然のワカモ襲来に驚きつつも身構えたが、彼女が非武装状態なのを視認して少し困惑した様子だ。

 

「一応、お礼を申し上げようと思いまして」

 

わぅ(お礼)?」

 

 目と目が逢う〜瞬か〜ん お礼。予想なんか出来るはずないよね。

 

 ここにいるって事は先生とエンカウントして一目惚れ撤退をした後ってことで良いのかな。

 いや、そうだとしてもお礼って何? あっ、まさか純粋なお礼じゃなくてヤクザのお礼参り的な意味でのお礼か!?

 

 それなら有り得るぞ……脅して撤退させたみたいなものだ、彼女のプライドを傷付けていたっておかしくない。

 うわぁ……そこ考えてなかったなぁ……このバカっ! 頭足らず! オタンコナス! バカオオカミ!

 

 ここで暴れられたら流石に本気で相手にしないと被害が尋常じゃなく拡大する。気を引き締め、警戒心を高めると何故かワカモの体がビクッと震えた。

 

「そ、そんな警戒しないでくださいな。お礼参り的な意味でのお礼じゃありません」

 

 ホッ…良かった。

 

 深いため息を吐いていると、ワカモは腕に引っ掛けていたビニール袋に手を入れて中身を私の前にポンっと置いた。

 

 …………待て、なんだこれ。待って、なんで?

 

 いや、これ女子高生が手を出していい代物じゃなくない? どこで買ってきたのこんな代物(でっかいロースブロック)? なんか値段5000円とかってなってるけど?

 

「こ、これ……凄くいいお肉じゃない!?」

 

「アナタが止めに入ってくれたお陰で、私はあのお方への攻撃をあれ以上続けずに済みました。それだけではなく、お慕うことが出来ましたわ。ですのでこれは、僅かばかりのお礼の品です。アナタの体では腹の足しにもならないでしょうが……」

 

 あ〜……なーほどね。

 

 ゲーム本編ならワカモが途中で離脱して話が進むけど、こっちの世界だと私の乱入がきっかけになったのか。

 ワカモから見れば私は攻撃の手を止めさせた存在ってことになり、私が来なければあのまま交戦し続けていたかもしれないって思考になっちゃったのか。

 

 なんだろう、厄災の狐なんて言われる割には真面目っ子というか……うん、めんこい!

 

「グルっ、がルルルルル」

 

「それは、笑っていますの?」

 

 頷いて、彼女に顔を寄せた。

 

 厄災の狐なんて言われるだけあって、笑っていると理解したワカモからは怯えの色が見られない。

 本当は狐のお面の下に隠れた可愛い顔を見たいけど、彼女からお面を剥ぎ取るなんて無粋な真似はしない。

 

 彼女には自分の意思でお面を外して欲しい。本人が望まないのなら、それはそれで良い。

 お面越しに頬へ顔を擦り付け、感謝の意を示す。

 

「……ふふっ。撫でても、よろしいでしょうか?」

 

「がうっ!」

 

 ワカモの手が喉に触れた。手触りを楽しむようにゆっくりと、喉を覆う甲殻が撫でられていく。

 

 この子絶対良家の出だよ、なんか撫で方に気品みたいなのを感じるし。

 悪くない……けど、やっぱり私はワシャワシャ撫で回される方が好きだなぁ。カンナの撫で方が一番しっくりくる。

 

 私が死んだ時点では来歴とかの掘り下げがなかったから妄想するしか無かったけど、いつかはそういったことも知る事が出来たら良いな。

 

「……はぁ。今回だけは目を瞑りましょう。ジンも敵意がないようですし」

 

 ハスミたちも今回ばかりはワカモを捕らえようとか、撃退しようという選択肢を取らないでいてくれるようだ。良かった良かった……

 

「おまたせ〜」

 

 アロナとのやり取りを終えたんだろうか。先生がシャーレオフィスから出てくる。

 サンクトゥムタワーの諸々の権限を取り戻すだの細々した用事が終わったらしい。なんだかひと仕事終えたって感じの顔付きだ。

 

 ワカモを見ると、先生を視認した途端に固まっていた。

 ああ、こりゃ惚れてるわ。恋する乙女って感じの可愛らしいぽわぽわーっとした雰囲気が出ている。

 

「あれ、君は」

 

「あっ、あのえっと、その……し、失礼しましたーー‼️」

 

 先生が声をかけ終える前に、ワカモの頭が限界を迎えたっぽい。バビューン!と効果音が聞こえそうな勢いであっという間に走り去って行っちゃった。

 

 ユウカたちからおぉ〜、と歓声が上がったけど…なんか変な誤解してんじゃないかな? 面白そうだからいいけど。

 そのユウカたちもサンクトゥムタワーの権限復活を確認すると先生と私に挨拶をして、各々の学校に戻っちゃった。

 

 あぁ、なんか寂しい。あの子たちも各々にやることがあるんだから仕方ないとはいえ、これで暫くはお別れかぁ。

 次にこの4人の中で再会できるのはアビドス対策委員会編でのチナツだったかな。敵対して、だけど。

 

「ガヴルル」

 

 さて、と。私も一旦ここを離れますかね。

 あまり長居しても近隣住民の人達が安心出来ないだろうし、ぶっちゃけあまり居心地が良くない。

 変な大型モンスター湧いても困るしね。

 

 ワカモから貰ったお礼のお肉の包装を剥がして、口に放り込む。どこかの稲穂に宿る賢狼も言っていたけど、狼は頬がないから丸呑みしか出来ない。

 良いお肉なんだから勿体ないとは思う。なんなら先生に譲ればちゃんと料理もしてもらえるんだろうけど、それだとワカモに対して失礼だ。

 

 だからいきなり丸呑みするのではなく、舌の上で転がして少しでも味わうことにするよ。

 良いお肉なだけあって、舌の上に乗せているだけで良い味が伝わってくる。さすが5000円のお肉だよね……ワカモの財布大丈夫かな。

 

「君はどうするんだい?」

 

 先生の問いかけに、私は何も答えない。

 

 こういう時にジンオウガの肉体は不便だ。言葉は発せないし、地面に文字を書くとしても鉤爪がデカすぎて上手く書けない。

 

 それでも何か伝えないと先生も寂しいだろう。だから、鉤爪をアスファルトに突き刺して削り取ることで最低限の意図を伝える。

 

「マタ、アウ……また会う、なるほどね」

 

 端的にも程があるメッセージだったけど、先生には伝わった。

 優しく頷いて、顎の下を撫でてくれる。

 

 今生の別れって訳でもないのに、中々どうして名残惜しい。

 不覚にも泣きそうになるのを堪えながら、私はシャーレの前から立ち去りプロローグ開始以前に潜んでいた地下貯水槽を目指して走り出した。

 

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