今後もこの手の考察要素を出していきたいと思っているのでストーリー展開以外の考察も是非楽しんでいってください!
わがまま言っていいなら高評価も(殴
私たちの目の前に現れたラプトルのような生物をジンが次々と弾き飛ばしていく姿は、まさに爽快そのものだった。
前腕による叩き潰しや尾で薙ぎ払う範囲攻撃を用いるまでもなく、その巨体から繰り出される猛烈な体当ひとつでも小柄なラプトルは体格差に負け、軽々と弾き飛ばされる。
学校のプールよりも僅かにとはいえ巨大なジンの突進だ、大型バスだって受け止めきれないだろう。内蔵が潰れたのか血反吐を吐きながら轢き殺されるラプトルの姿は流石に哀れだったが、手を合わせようとは思えない。
「ギュイッ、ギャウッ!」
「ギュルルル〜…」
いくら仕留められても次から次へと代わりが現れ、数の暴力で押し返そうとしてくる。
ジンも軽々と屠り去っていくものの牙を用いた攻撃だけはやけに警戒している様子が見られ、意図的に甲殻の取り分け固い部位で攻撃している姿が気になった。
どうしたのか、と聞くとジンは
①口を開いて閉じる
②閉じた口を半開きにし、体を小刻みに震わせる
この2つの仕草を立て続けに行って見せた。
その仕草から考えられるのは、このラプトルたちの牙を用いた攻撃には体を小刻みに震わせる効果、つまり麻痺毒的なものが仕込まれているということ。
(小柄とはいえ私より遥かに大きいのに……そんな巨体で、麻痺毒なんて必要なの?)
ガンダムのアンテナみたいなV字トサカの大型ラプトルよりは小柄でも、180cmある私より一回りも小柄ラプトルは大きい。
人間ならまず相手にならないだろうしゾウやサイ、ライオンやトラとも良い勝負が出来そうな体格だ。
それなのに麻痺毒を持つ理由、得るに至った理由が想像出来ない。
大型ラプトルが群れの長であり且つ共食いの習性があるため護身用に体得した……というのが有り得る線だがジンは大型ラプトルの牙攻撃も警戒している。
麻痺毒を持つ生物、それも見た目が違うとはいえ同種であり体格差もある大型ラプトルに対して護身用になるかと問われれば怪しいところがある。
「ウォォォムッ!」
考察したいけれど、ジンの激しい動きが悠長に思考をまとめることを許してくれない。
本来なら一人乗りの鞍に逃げて来た少女、砂狼シロコを無理やり乗せているせいで振り落とされないようにするのが精一杯だ。
振り落とされまいと堪えながら話を聞くと、シロコは私たちが目指していたアビドス高等学校の生徒でいつも通りに通学していたそうだ。
そこで遭遇したのが、ジンの猛攻に晒されて防戦を強いられているV字トサカの大型ラプトル。まさか恐竜みたいな存在にばったり出会すとは想定もしていなくて、シロコは何も出来ずに固まった。
その姿に大型ラプトルはやけに殺気立った様子で吠え、部下の小柄ラプトルをどこからともなく呼び寄せて大群となってシロコを追いかけて来たそうだ。
呼び出された部下も半数近くが既に手負いであり、中にはシロコを追う最中に力尽きて倒れる個体もいたらしい。
(手負いの生き物が殺気立つことはあるけど…)
死ぬかもしれない、そんな恐怖を一度でも知覚してしまったが冷静でなんて居られない。目に映るもの全てが恐怖の対象となり、逃走を図るか排除を試みるようになる。
まともな判断力が奪い去られてしまう。大型ラプトルから見れば小柄も小柄、空腹時で無ければ食べる必要も無いと判断されそうな大きさのシロコにすら本気で殺しにかかってしまうくらいに。
(でも、なんで? 何にアイツらは襲われた?)
彼女が追われていた理由はわかったけど、追われる原因となった大型ラプトルを殺気立たせて小柄ラプトルに打撃を与えた存在が分からない。
目的は恐らく縄張り争いか捕食だろう。仲間の助けがあって一命を取り留めたのか、身体に噛み傷がある個体もいる。
そのほとんどが恐怖に駆られてわけも分からずにシロコを追いかけ回した先にいた捕食者、ジンの猛攻によって拾ったはずの命を落としていく姿は世の無常観を的確に表しているように思う。
噛み傷は小柄ラプトルの背中側から腹部まで到達するものもあり、そこから逆算してもジンよりやや小型くらいな大きさの何かに襲われたことになる。
陸上生物としては最大の身長を誇るジンに匹敵しうるサイズの捕食者。そんな生物の存在が示唆されてしまったとなると、私も背筋に寒気が走るのを感じた。
「ゴルルルルアァァッ!」
ジンが放った怒声にハッとする。見れば私たちの周囲を1口大の団子くらいの大きさに纏められた雷の玉が浮かんでいた。
私たちがシャーレオフィスを目指している時に立ち塞がった少女、狐坂ワカモを威嚇して追い払う際に見せた技だ。
雷の玉は回転しながらそれぞれが小柄ラプトルたちに狙いを付け、射出されていく。
コンクリート造りの建築物を容易く破壊する威力があるものを受けて、小柄ラプトルの肉体が耐えられるわけが無い。
内側で爆薬が爆発したみたいに木っ端微塵に吹き飛んでいき、あっという間に何百といた小柄ラプトルの数は片手で数えられるくらいにまで減少した。
「ギュラルルルッ!」
手下である小柄ラプトルを散々押し付けてきた大型ラプトルも手駒が減少し過ぎたことにより、本格的に攻撃を仕掛けることを余儀無くされた。
体を起こして頭を振り回し滅茶苦茶に吠え散らかす姿やジンを見る目には、恐怖や怒りに混じる怯えが見て取れた。
真正面から向き合うと見上げることになる、自分よりも明らかに巨大な捕食者を前にして怯まない方がおかしい。
ごく自然の反応であって、故に少し可哀想に思えた。別にこの大型ラプトルだって襲いたくてシロコを襲った訳では無い。なにかに襲われて死への恐怖に苛まれ、我武者羅になっているだけだ。
見逃してあげて、そう言いたくなるくらいの悲壮感を纏っているがジンにその言葉を伝えることは無かった。
「ゴルルルルル………ガアヴッ!」
ジンは大型ラプトルを完全に敵視している。
殺して、自分たちの目の前から消し去るつもりでいるのが普段の可愛いまん丸お目目ではなく、殺意と決意によって固められた鋭利な目付きから簡単に読み取ることが出来る。
大型ラプトルが吠えたのに対抗するようにジンも吠え、右前脚を前方に振り抜いて薙ぎ払う。
それを大型ラプトルは薙ぎ払う方向に合わせてサイドステップを連続して放ち、進行先に姿を捉えさせながらも空振りさせるという驚異的な手段で回避してしまった。
振り抜き終え、ジンが硬直する。そこを上手く狙って大型ラプトルが飛び掛り、口を開いて麻痺毒が含まれている恐れのある牙を見せつけた。
長い。歯茎の外、見ている部分だけでも10cmはある。
あんなもの、麻痺毒を流し込むまでもなく突き立てるだけで相手の皮膚を切り裂いて肉体を貫通するだろう。
ジンとて頑強な甲殻の隙間にでも突き立てられたら、相当な痛みとそこから流し込まれる麻痺毒に苦しめられる。
回避して、と言おうとした私が目にしたもの。それは大型ラプトルの身体側面に深深と刻み込まれた横一筋の切り傷。
ジンの前脚薙ぎ払いが実は当たっていたのか、とも思ったが彼女の背に乗っている私が攻撃を躱されたことをしっかり視認している。
(随分と酷い怪我だ。出血量も相当だろうに……)
シロコを追跡してきた経路にも血痕が残されている。横一筋の切り傷から流れ落ちたものだ。
これだけの傷、自然治癒は見込めない。ジンに出会っていようといなかろうと、遅かれ早かれこの大型ラプトルは死んでいた。
野生動物は人間よりも死が身近な存在であり、それ故に死の気配には極めて敏感だ。
きっと『部下をなにかに襲われた』、『そのなにかに殺されかけた』という恐怖だけではない。
『生き延びはしたものの受けた傷が原因で死ぬ』という逃げられない現実が、この生き物を錯乱の局地に追いやってしまったのだろう。
「ギャグゥっ!?」
死に迫られながらも生きたいというシンプルな理由で足掻く大型ラプトルの口から、悲痛な呻き声が上がり真後ろに吹っ飛ぶ。
ジンが何かをした形跡はない。迎撃やカウンターも放っていない。
完全に不意打ちを食らった、そんな感じの声に吹っ飛んだ大型ラプトルの様子が気になって視線を向ける。
「痙攣している!?」
「いや、これは……麻痺か!」
口を半開きにして体をビクビクと震わせている。ジンが麻痺毒の存在を表した仕草と全く同じだ。
でもどうして。大型ラプトルの声からジンによる不意打ちの類であることは想像出来ても、では何をしたのかとなると疑問だ。
何か答えとなるものはないか、そう思って顔を上げた私の視界に映り込んだもの。か細く、青白く光る無数の線。
「そうか! 電気を用いての麻痺か!」
「がう」
正解だ、と答えるようにジンが短く鳴いた。
麻痺毒による麻痺は当たり前だが毒によるもの、それに耐性があったとしても『毒による麻痺』に対しての耐性であって『電気が原因である麻痺』に対しての耐性では無い。
失念しかけていたが、ジンの得意領域はその卓越した身体能力を活かした肉弾戦だけではない。先の小柄ラプトル一掃時にも見せた電撃を用いる中遠距離にも対応している。
疑問に対する答えを導き出せた時の喜びは特別なものがある。それをかみ締めたかったが、麻痺させた大型ラプトルに歩み寄るジンの姿がそれを許さない。
トドメを刺すつもりだと、理解出来た。
前脚が振り上げられる。私は咄嗟にシロコの目を隠し、耳を塞がせた。
ズドンッ! ブチャッ!
前脚を叩き付けた重々しい音と、大型ラプトルの頭が弾ける嫌な音が響いた。
小柄ラプトルが自分たちの長を殺され、指揮系統と戦意を喪失してシロコを追跡してきたルートを引き返していく。
自分たちを殺そうとした捕食者が待ち構えている、そんなことを考える余裕すら彼らには無いのだろう。
シロコにもう大丈夫だ、と言おうとしたが。
体が前に倒れ込む感覚に、私は口を閉ざした。
「グルッ…グゥ……ガヴッ…」
食べている。皮と肉を引き裂き、骨を噛み砕く音が嫌に響き渡る。
ジンが、己の仕留めた獲物を捕食している。
忘れていた。彼女は人の言葉を理解できるとはいえ肉食動物。刃向かってきた相手を殺したとなれば、その次に待っているのは捕食だ。
やはり潜伏先にいる時は満足に食事を取れていないのだろう。なにかに急かされるように、ジンは猛烈な勢いで大型ラプトルの死骸を食べ進めていく。
10m近い大きさがあった大型ラプトルの死骸は、ものの2、3分で骨も残さず食べ尽くされてしまった。
「……グルルルルッ、ガルルルルルルル!!!!」
腹を満たしてご満悦か、と思った私の想定をジンは強い警戒心を込めた唸り声で否定する。
逃げ出したはずの小柄ラプトルが戻ってきていた。一心不乱に、何かから逃げるように。
何が起こっているのかすぐに分かった。シロコに襲いかかるに至った元凶、ラプトル一味を襲撃した捕食者が追い付いたのだ。
小柄ラプトルの後ろから砂煙を巻き上げて何かが突っ込んでくる。
純粋な好奇心で、私は双眼鏡を覗いてしまった。
砂煙の主、ラプトル一味を襲撃した捕食者を見たくて。
「ひいぃっ!?」
誤りであったと直ぐに気付かされたよ。
四足歩行の竜だ。白銀に輝く巨大な鉤爪を前腕に生やした竜が猛スピードでこちらに向かって突進してきている。
その口には、餌食となった小柄ラプトルが数体咥えられている。抵抗している様子がなく、既に絶命しているらしい。
「ガアァァァァァッ!」
ジンもその存在に気付いていた。大型ラプトルを急いで食らい尽くしたのも、この捕食者を迎え撃つ為だったのだ。
荒々しい雄叫びを上げ、ジンが突進していく。
雄叫びを聞いて捕食者も激高したらしい。前腕を振るい、原理は不明だが三日月形の斬撃を飛ばしてくる。
それを難なく飛び越え、ジンは突進の速度を加速させていく。
あれも殺すつもりなのだ。立ち塞がったのだから、仕留めて先に進むつもりなのだ。
恐るべき捕食者、
「「ゴガアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」」
両者、負けじと雄叫びを上げて前腕を叩き付け合う。
ドズンッ、という鈍い衝撃音が私の鼓膜を叩き、緊張感を強引に高めさせていった。