狂犬が拾った雷狼竜、元人につき   作:ジンオウガを飼いたい

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全てを壊し引き裂く鉤爪の竜

 私を助けてくれた巨大なオオカミと、自分とほぼ変わらない大きさの竜がとっ組み合う。

 10何年生きてきたけど、こんな光景を見るのは生まれて初めてだった。

 

「グググクルルルルッ!」

 

「ゴガアアアアアアッ!」

 

 力は完全に拮抗している。多少の押し退けた押し退けられたはあっても直ぐに元通りになって、埒が明かない睨み合いが続く。

 

 激突した時に竜が放った怒声は凄い音量で、オオカミが放った雄叫びが掻き消してくれてなければ鼓膜が壊れていたかもしれない。

 それでも頭はぐわんぐわんする。少し耳も痛いかな……

 

「ガグッ! ガアァグッ!」

 

 竜はオオカミと比べて長い首を活かして、オオカミの角や首に噛み付こうとしている。

 

 オオカミは顔を逸らして噛み付きを避けている。有効打が無いのか、それとも何か狙っているのか。

 あのラプトルっぽい生き物を仕留めた電撃も使わないで、ずっと耐えている。

 

「〜〜〜ッ! ガ、ガアァッ!?」

 

 有効打を与えられなくて苛立ったのかな、竜が大声で怒鳴ろうと首を引いた瞬間にオオカミが仕掛けて、私の視界がぐるんと回った。

 

 押し合いにわざと負けたんだ。それもただ押し負けるんじゃなくて、竜が押す力を利用して体を半回転させることで逸らすように受け流した。

 仕掛けようとした出鼻をくじかれて、竜がズデッと倒れ込む。その右前脚にオオカミが大口を開けて、長い犬歯をギラつかせながら噛み付いた。

 

「〜〜ッ!?」

 

 骨に牙を突き立てたんだろう、ゴリゴリって嫌な音がした。

 相当痛いんだろう、竜がその禍々しい見た目に似合わない悲鳴みたいな声を上げた。

 

 振り払おうと腕を振り回しているけど、オオカミの首の力に負けて腕を押さえ込まれる。

 空いている左前脚に生え揃う鋼みたいな鉤爪で突き刺そうとしたのかな、地面から浮かせて水平に振りかぶっていた。

 

 でも、オオカミはその突き刺しすら許してはくれない。

 

「ヴヴヴヴア”ア”ア”ッ!」

 

 食らい付いたまま唸って、一気に放電する。ラプトルっぽい生き物の長を仕留めた時みたいな見えるかどうかも怪しいものじゃなくって、視界が金色一色に染まる大放電。

 

 竜が悶え苦しんでいる。もう悲鳴にすらならない声を上げてじたばたともんどり打って、四肢を滅茶苦茶にバタつかせている。

 電気に弱いのかな。

 

 このまま放電を続ければ仕留められそうな空気だったけど、竜が悶え苦しみながらも息を大きく吸い出したのを私が見るのと同時にオオカミが放電を止めた。

 

 すごい勢いで飛び下がって、身を屈めて警戒し始める。息を吸い込んだだけ、そう思った私の視界は今度は一瞬で上方に向けて動いていた。

 

「ゴガアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーッ!!!!」

 

 空間が歪む、こんな表現を使う日が来るとは思わなかった。

 

 オオカミがジャンプして避けなかったら、私たちは竜の口から放たれた空間を歪ませる束に呑み込まれていたんだ。

 火を吐いたとかそんなファンタジーなのじゃないながらも、ある意味ではファンタジーに片足を踏み入れている攻撃。

 

 ただの大きい怒声で空間を震わせ、攻撃してきた。

 直撃すればどうなっていたかも分からないし、そもそもオオカミが飛び下がってくれなかったら至近距離であの怒声を聞いて鼓膜を壊されていたかもしれない。

 

 もしかしたらあの時、首を引いたあの時も怒声での攻撃を目論んでいたのかも。

 そう思うとゾッとした。

 

「ガルルアアアァァァァァッ!」

 

 まさかの遠距離攻撃を見せられても、オオカミは怯まない。

 吠えながら地面に乱暴に着地して、自分を中心に周囲の地面を円状に隆起させて足元を掬いに掛かる。

 

 範囲外に逃れようとバックステップをする竜に、波打つように隆起する地面を足場にしながらオオカミが肉薄。

 左前脚を地面に叩き付けて3列の地面隆起を引き起こして、更に竜を追い立てた。

 

「ガグァッ!?」

 

 原理は分からないけど竜を追いかけるように発生した隆起が、竜の顎を真下からかち上げる。仰け反った姿勢を取った所に、オオカミが仕留めに掛かった。

 

 がら空きの喉元に噛み付こうとしたけど、それは失敗。すんでの所で竜が姿勢整えたことで大口を開けて待ち構えられる形になり、顔の側面を右前脚で殴打するのに変更した。

 それでも重い音がして竜の顔が逸れる。首筋が顕になって、オオカミの牙が突き立てられる。

 

「ガヴゥッ! ガアアヴッ!」

 

 噛み付いた状態で前足を伸ばして頭の位置を上げて、その後に振り下ろす。噛み付いている首筋を上下に振り回して牙を深く突き刺そうとしているんだ。

 

 竜も負けじと噛み付きに来るけど左前脚で頭を押さえ付けて、噛み付きを出来なくする。右前脚では竜の左前脚を踏み付けて押さえ込み、首を狙った攻撃を潰していた。

 

「ギュアアアアァァァァッ!」

 

 唯一自由に動かせる右前脚も、頭を押さえ付ける左前脚が邪魔をしているせいで頭や首を狙えない。

 

 せめてもの抵抗と鉤爪で左前脚を引っ掻き始めたが、これがすごく痛々しい音を立てるものだから思わず耳を塞ぎたくなった。

 ゴリゴリ、バキッ、ズシャッ……鉤爪が前脚の甲殻を引っ掻いて、突き破って、下の肉を切り裂いた音。

 

「グヴッ!?」

 

 痛くないはずがない。オオカミが怯んで、首筋への噛み付きをやめてしまった。

 頭の押さえ付けも外れている。竜が自由になって、反撃を始めた。

 

 右前脚を軸にしてその場でぐるんと一回転。尾で薙ぎ払ってオオカミの頭を打ち据えて視界から姿を外させて、飛び掛ってくる。

 オオカミの両前足に鉤爪を突き刺し、頭に噛み付いて怯ませた後に背中にいる私たちを狙ってきた。風除けが噛み砕かれて、目の前に大きな口が迫る。

 

 死んだ、そう思ったよね。死ぬ前には見える景色がスローモーションになるなんて聞いた事があるけど、本当にそうなるんだって身をもって体感した。

 

「ヴオオオオオオオーーーーン!!!!」

 

「ギュグァアァァァァァ!?」

 

 オオカミが放電して、私たちを守ってくれた。

 

 電撃に胸元を焼かれた竜が悲鳴を上げてひっくり返り、そこにオオカミが飛び掛る。

 前脚を振り上げている。頭か喉元か胸か、どこを狙っているのかは分からないけど重要な部位を叩き潰そうとしている。

 

 それを竜も許さない。前足に比べれば貧相にも見えるのに凄い力を秘めていた後ろ足でオオカミを蹴り飛ばして、距離を取らせたその間に起き上がる。

 電撃は効いているみたいだけど、動きが鈍くならない。直撃した時に痛がるくらいで目立ったダメージは首筋への噛み付きくらいしかない。

 

「ゴルルルルルル……」

 

「ガァヴ…」

 

 両者、睨み合いながら円を描くように歩いている。

 どちらも怪物なのには違いないけど、戦い方が違うように見えた。

 

 竜はなんというか、我武者羅に責め立ててくる感じ。自分だけが持つアドバンテージを押し付けて、押し付けて、その果てに殺そうとしてくる感じ。

 

 それに対してオオカミは実践的というか、的確に隙を狙っている感じがする。オオカミもアドバンテージを押し付けはするけど、それはあくまでも手段。

 押し付けて怯ませて、その隙に首や胸元といった生物共通の急所を破壊して一撃で勝負を決めに行く感じだね。

 

 特に、首を狙った攻撃が多いように見える。あの大声が脅威になるってオオカミも理解しているんだ。

 

「これが…ジンの戦いなのか……」

 

 先生も私も、ずっと黙っていた。竜と激突したから今に至るまでずっと。

 気迫に気圧されていたんだ。巨大な生物同士が生き死にをかけて競い合う生存競争、その激しさと力強さに。

 

「凄い……」

 

 先生が喋ってくれたのがきっかけになって私の声も戻ってくる。

 

 動物同士が縄張り争いをする動画が流れてくることがあるけど、どれだけ高品質な映像であっても鮮明な音声が含まれていても目の前で繰り広げられる死闘の迫力には遠く及ばない。

 

「ウォォンッ!」

 

 オオカミが吠えて、突進していく。作戦も何も感じさせないやぶれかぶれの突進。

 

「ガァァグッ!」

 

 竜も吠えて、迎え撃つように突進してくる。走りながらも息を大きく吸い込んでいるのが見えた。

 至近距離で怒声を浴びせてくるつもりらしい。オオカミは気付いていないのかグングンと間合いを詰めていく。

 

 距離が詰まりに詰まって、竜の怒声が放たれそうになった直前。オオカミが有り得ない動きをする。

 

「ぎゅぐあああああアアアアアア!?!?!?」

 

 左の角に比べて倍くらい大きい右の角を、怒声を放つ為に大きく開かれた竜の口の中に突っ込んだんだ。少しでもタイミングがズれれば正面衝突も、怒声を超至近距離で浴びるのも有り得たのに。

 

 竜の姿勢の関係で喉を突き破ることは無かったけど、喉の内側をかなり酷く傷付けたみたいで角を伝って血液が流れてくる。

 

 偶然そうなったって感じじゃない。オオカミに動揺が見られない。

 大声が武器になるのだから、それを潰してしまえば良い。オオカミは最初からそう考えて喉を狙っていたんだ。

 

「ぎゃうっ!」

 

 激痛に悶えながらも振り回された竜の鉤爪がオオカミの顔面を引っ掻いた。暗緑色の鱗が裂けて、左目の下に横一線の傷が刻まれる。

 

 オオカミも怯んでしまい頭を引いて、角を喉から引き抜く。

 顔面を引っ掻いたのは竜も想定外だったみたいで、角を噛み砕こうとした口がバグンッ!と凄い音を立てて閉じられた。

 

 また双方向かい合って円を描くように睨み合ながら歩く。壮絶って言葉は、この時のためにあるんだと思った。

 お互いの一撃一撃が死に直結し得るのに、お互いに相手を殺すことを諦めない。

 この場で殺し切らないといけないって思っているみたいに、傷つけられても殺意が衰えない。

 

「ガルゴルル……アオォォンッ!」

 

 オオカミが吠える。地面を叩いて、威嚇している。

 ゆっくりと歩いて、竜が仕掛けてくるのを待っている。

 

「ガグルアッ、ゲボッ! ガボッ、ガハッ!」

 

 竜が吠えようとしてむせ込む。角を突き刺されたのが効いているんだ。

 これでもう大声は出せない。

 

 お得意技の一つを潰されたのが竜は気に入らなかったみたい。忌々しそうにオオカミを睨みながら、腕を振り抜いて飛ぶ斬撃を放ってきた。

 多分だけど、これが大きいラプトルっぽい生き物の体の横に傷を付けた技なんだと思う。

 

 オオカミは回避を選ぶ。直撃すれば受け切れないってオオカミも感じたんだ。

 ジャンプして避けて、顔面に飛びかかる。これは竜がバックステップで回避して避ける。

 

「ガアァ!?」

 

 飛びかかりを避けられて着地した瞬間、オオカミが苦しそうに呻いて姿勢を崩した。

 

 甲殻を引き裂かれた前腕が、着地だのダッシュだのと酷使されて限界を迎えたんだ。傷口が開いて大量の血液が吹き出す。

 その血を見た竜の瞳の色が、なんだか変わった気がした。

 

 戦い方も変わる。肉薄してきてフィジカルにものを言わせた肉弾戦を仕掛けてきていたのに、遠距離から斬撃をひたすら飛ばす戦法に切り替えてきた。

 オオカミは前脚の痛みが動きを鈍らせて回避がぎこちなくなる。避けては着地の痛みに怯んで次の斬撃をギリギリで躱す。

 躱してはまた怯んで、次の回避がさらにぎこちなくなる……この負の悪循環に陥った。

 

「ジン! 逃げろ! このままじゃお前が!」

 

 先生が逃走を指示してもオオカミは受け入れない。

 

 逃げたところで追い付かれて殺される、そう考えている気がした。

 

「ガルルルルルルルアアアアアアッ!」

 

 竜が喉の痛みに顔を顰めながらも吠えて、両前腕をクロスするように振り抜いた。

 ‪✕‬の形で飛来する斬撃。前腕の損傷が回避を許さない。

 

 だからこそ、オオカミは防御を選んだ。

 体を起こして二足歩行になり、前腕をクロスさせる。損傷した前腕を前にし、斬撃を受ける。

 

「ギャウグゥッ!?」

 

「ジンッ!!!!」

 

 ズバン。鋭い音がして、鉤爪で付けられた縦線型の傷に×の形の傷が重ねられた。甲殻が切り裂かれて、鮮血が噴き出す。

 

 私も先生も、飛来する斬撃とそれを受けようとするオオカミに気が取られていた。避けなくて平気なのかという疑念、死んでしまわないだろうかという不安がそうさせた。

 

 そのせいで竜が動いていたのが、斬撃を放った後に猛スピードで突っ込んで来ていたのに気付くのが遅れた。

 

「グルルアァッ!」

 

「ギュぐぅぅぅぅ〜!?」

 

 甲殻が切り裂かれた前腕に竜が噛み付いて、亀裂の走っていた甲殻を食い千切ってしまった。

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