狂犬が拾った雷狼竜、元人につき   作:ジンオウガを飼いたい

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雷狼竜式 メンタルケア方法

 いやぁ……死ぬかと思ったね。色々と。

 

 まあ何とかなったから特に言うことは無いんだけどさ……あれはマズイでしょ。何があんな傷を負わせたのかな、松ぼっくり鳥(セルレギオス)とか鎧裂とかかなって思ったら、まさかの辿異種ティガレックスだよ。

 誰が予想出来んのよ。てかなんでゲネポス共は逃げ切れたんだよあれから。

 

 森にいた時もイビルジョーがゲーム進行度で言えば序盤にポンって出てくるみたいなバグじみたタイミングで出てきたけど、次のボスが辿異種って。

 いくら辿異種の中でも御しやすいと言われたともされる辿異種ティガレックスとはいえ馬鹿じゃないの?テストプレイした?

 

 それに私、アビドスの地にずっと留まっていた訳じゃないんだけど。初めて踏み込んだ地でいきなり2種類の大型モンスターに襲われたんだけど。仮説外れてるやん。

 

 ゲームならインフレしていくのも仕方ないと思うし、仮説も外れてしまうのはありがちだけどもさ……幸い私が辿異種ティガレックスの弱点属性を得意としていたからどうにかなったけど、もー相手したくない。

 当分大型モンスターの相手はお腹一杯、喜んでご勘弁願いたいね。

 

 それよりもアビドス廃校対策委員会の面々だよ!

 

 カンナやハスミたちチュートリアル組を見た時も感動したけど一番最初のストーリーに出てくる『ブルアカの顔』と言えなくもない5人が私の目の前で生きてるよ!

 

 ツンデレ娘のセリカ!眼鏡っ娘アヤネ!ん、銀行襲うシロコ!ガトリング娘ノノミ!おじさん!

 

 5人ともちっこくて可愛いんだこれが! ゲーム中でも立ち絵以外ではSD化してカフェとかをウロウロしていて可愛いけど、そうじゃない!

 デフォルメされていないそのままの姿で私の視界の下を動いているのがもうゲロ吐きそうなくらい可愛いのよ!

 

「よぉくぅもぉ〜〜おじさんを飴玉みたいに舐め回してくれたなぁ〜?」

 

 興奮と感動のあまり思わず食べちゃったおじさんことホシノがシャワーを浴びて戻ってくる。うん、舐め回した。この世界で目が覚めてから一番ってくらいに舐め回した。

 単純にリアルホシノが可愛くて暴走したってのもあるけど、この子色々抱え込んでるでしょ。ユメ先輩のこととか黒服のこととか色々。

 

 ゲームをプレイしてそれを知ってしまっている身としては、少しの間でも良いからそういった悩みから解放されて欲しかった。

 でも悩みなんてそう簡単には消えないし解放もされない。そんなことが出来たら悩みになんてならない。

 

 ならどうするか……どれだけでっかい悩みでも吹き飛ぶくらいの衝撃を与えれば良いんじゃね?と思った。

 だから食べた。ベロンベロン舐め回したしブンブン振り回した。怒られると思ったし実際に怒られたり嫌われたら凹む自信があったけど、そんな我が身可愛さで動くつもりなんてなかった。

 

「わんっ!」

 

「うへぇ。そんな嬉しそうな挨拶されると、怒る気持ちもなくなるよねぇ……」

 

 せめてものお詫びの姿勢として、ホシノと問いかけに臆することなく堂々と答えた。というか臆する必要もなかったんだけどね。

 怒っている風だけど、ニヤケを隠せていなかった。滅茶苦茶にされたけどなんだかんだで楽しんでくれたのかな。

 あるいは私の思惑を読み取ったか……いや、無いね。私がホシノの悩みを知っていると知って、悩みをどうにかするために行動したと読み取るに足る判断材料の彼女には無い。

 

 純粋に楽しんでくれたんだと思う。セリカたちが楽しそうに笑ってくれたのも大きかったと思うな。

 ふにゃっと笑ってくれた口元が大変可愛らしい。

 

「ごるるるるる♪」

 

「おぉ〜よしよぉ〜し♪ オオカミの〜♪ 気持ち良いとこどっこかなぁ〜♪」

 

 鼻を頬に押し当てるとふにゃっふにゃの歌声で即興の歌を歌いながら顎の下を優しく撫でてくれる。

 色んな人に撫でられて体感したことだけど、撫で方って結構その人の性格とか人柄を反映している。

 

 アビドス高等学校の5人だと……

 

アヤネ→丁寧。だけど特別なにか個性的という訳では無い。真面目な印象。5人の中では一番好みから遠い撫で方だけど悪くない。

 

セリカ→激しい。ハキハキとした活発感が感じられる。荒さがカンナの撫で方に似ていて一番好み。

 

シロコ→マイペース。おっとりとしているけど力強さも感じる。撫で方で好みとは違うけど不思議と肌に合う感じ。

 

ノノミ→優しい。抱擁感を感じさせる母親みたいな温もりがある。心地良いけど年下の子にバブみを感じるのはヤバイからちょっと苦手。

 

ホシノ→まったり。ぼけーっとしながら撫でられようものならまず間違いなく寝落ちする。

 

 こんな感じに分けられる。ちなみに一番好みなのはカンナ。こればかりは揺るがない。

 

「あおーん♪」

 

 それでも気持ち悪い訳では無い、抜群に気持ち良い。

 

 お風呂に入っている時とか気分が落ち着く時、鼻歌を歌ったことがあるんじゃないだろうか。

 それに似た意味合いのやる気のない遠吠えを放ち、ホシノの桃色な髪に鼻を押し込む。

 

 すんごいいい匂いがする。お布団の匂い、眠くなる匂い。

 これはゲームやってるだけじゃ分からないわ……今どきの女の子ってこんなに良い匂いするんだねぇ……

 

「覇気のない遠吠えだぁ。おじさんでもそれなら出来るよ〜……うんんっ、わおーん♪」

 

 ホシノが私の遠吠えを真似してくる。なんだこのおじさん可愛すぎんだろ食べるぞ?

 

 グパッと口を開いて見せると、おじさんは若干だけど体をビクッとさせた。また食べられると思ったんだろうね。流石に少しは抵抗感があるかぁ。

 

 ま、食べるつもりは無いけど。ベロンと頬を舐め、グリグリと顎を擦り付ける。

 

「うわっぷ!? そんなにおじさん美味しいの?」

 

「わんっ!」

 

「そうなんだ……おじさん食べられるのかな…

 

 はいそこ。私が原因とはなんてことを言うんだ失礼な。

 

 私は肉食生物になったし味覚もそっちに合わせられているけども、思考回路や好き嫌いの判断基準は人間だ。

 世の中色んな性癖の人、趣味嗜好の人がいるけど私は人を食べたくなるカニバリスト的な気は持ち合わせていないよ。

 

「がごるるるる……」

 

「冗談だよ。君が人間を食べ物として見てないことくらい、私にだってわかるよ〜」

 

 冗談を言ってくれるのは嬉しいけど、いきなり冗談をかましてくれる程に気を許されたとは思っていなかった。

 それ故に予想していなかったし、つい少し本気めの不服を示す唸り声を上げてしまった。

 

 先生たちに視線を向ける。アヤネたちもホシノだけが口の中で弄ばれて私と触れ合えなかったからって、私とホシノを2人きりにして話を聞いている。先輩想いのいい子たちやでホンマに。

 支援要請が受理されたことを証明する書類を受け取るっていうゲーム中でも見たやり取りから、今後の支援についての流れや留意点の説明を受けるといったより現実味のあるやり取り。

 

 いやぁ……先生が生徒たちに囲まれている姿、良いものだなぁ。ゲームだと立ち絵だけで分かりづらい生徒と先生の距離感が、とてもしっかりと見られる。

 

「……ねぇ、ジン。あの人はさ、良い大人かな?」

 

 自分の可愛い後輩が大人と言葉を交わす姿に思うところがあるんだろう。おじさんとしてのガワを被っている時のふわふわした時の話し方じゃない、素の彼女の声で問いかけられた。

 私を見上げるホシノの瞳に光は無い。昔のホシノを思わせる暗く重い瞳だ。

 

 ここで首を縦に降るのは容易い事だ。現に先生は良い人だしね。緊急事態だったとはいえ一人乗りの鞍に無理やりシロコを乗せちゃうくらいだし。

 

 でも、ホシノは私が人間の言葉を理解することを知っている。私がご機嫌取りの為に頷いた、と邪推されてしまってもおかしくはない。

 この先、黒服に囚われた際に『また』大人に騙されたというホシノのセリフがある。また、つまりは2度目か3度目かは分からずとも以前に大人に騙された経験が有る、ということ。

 

 大人に対する警戒心、猜疑心はそう簡単には消せない。

 

「がぅ」

 

 本来ならホシノが先生を真に信用するに至るイベントを経て関係を深めさせるのが得策だろう。

 でも、不安がっているのならそれを払うことこそが私の役目。導くことは出来ないけど、導かれることに対する不安を少しでも軽減出来るのであれば手を貸す。

 

 短く吠えて頷き、私は立ち上がる。

 向こうも話が一段落付いたんだろう。先生が顔を上げて私が近づいてくるのに気付き、ぱぁっと明るい笑顔を浮かべて手を振ってくれる。

 

 セリカたちがその姿を見て私の接近を察してくれた。道を譲るように左右に分かれてくれるのは有難かったけど、また個人的に話したいことがあったかなぁと思うと少し罪悪感。

 

 隣に腰を下ろし、体を擦り付ける。固い鱗や甲殻で脆弱な肉体を傷付けてしまわないように優しく、慎重に。

 

「どうしたの?」

 

「がうがうっ♪」

 

 角を撫でてくれる先生に笑顔を見せ、大きな欠伸を一つ。

 寂しい時や悲しい時に甘えるのはありがちな行為だけど、何も甘えるという行為に理由は必要ない。

 

 甘えたい時に、甘えたい相手に甘える。それで良いのだ。

 リラックスし切っている姿を隠しもせずに晒し、ホシノに示す。

 この大人は隣でこんなにリラックスしていても、甘えていても不安にならないくらいには頼りになる大人だよって。

 

「……そっか」

 

 大人に騙された経験があるホシノは心配そうな視線を送ってきていたけど、私が進んで甘えに行く姿に多少は先生に対する警戒心を解いてくれたらしい。

 

 頷いて、明るい表情に切り替わる。

 先生とは仲良くしてもらいたい。本当に良い人だから、怪しい大人なんじゃないかって怪しむ時間すら勿体ない。

 

 このままホシノが自ら進んで先生に手を差し伸べて握手をしてくれたらな、なんて思っていたけどそれは許されない。

 人の足音が聞こえてきた。1人2人ではなく大勢だ。

 

「ガルルルルル……」

 

「ジン?」

 

 体を起こし、唸り声を放ちながら正門の方向を振り向く。先生が不思議そうに見上げてきたけど、私がいつもの馬鹿面をしていないのを見て緊急事態だと察してくれた。

 

 何が来たのかは想像が付いている。ゲーム中でも先生がアビドス廃校対策委員会の面々と出会い、支援要請受理に関するやり取りをしている時に乱入してくる存在がいた。

 

 カタカタヘルメット団だ。不良生徒たちで構成される暴力組織であり、ホシノたち対策委員会の皆がずっと相手をしてきた存在。

 

 折角良い雰囲気だったのに彼女達のせいでぶち壊しだ。ホシノと先生が手を握り合うシーンとか眼福も眼福だっただろうに、それを彼女達は邪魔した。

 これはねぇ……キッついお仕置をくれてやらんといけないのなぁ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もちろん、殺したりはしないよ? カタカタヘルメット団のみんなだって可愛い生徒だし。

 

 じゃれ付きまくって、舐め回しまくって、戦意喪失させるだけだからね?

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