カタカタヘルメット団を追い返す事に成功したけど、これで終わりじゃないのが対策委員会編の序盤の流れだ。
今まで弾薬やら物資やらの絡みで防戦を強いられてきた廃校対策委員会がシャーレという後ろ盾を得たことで余裕が出来、一転して打って出る流れになる。
形勢逆転、ここから巻き返しってアツい展開。巻き返した後にセリカ誘拐事件が起こってカイザーPMCが便利屋68に接触して……って風にストーリーが繰り広げられることになる。
でも、私はホシノ達による反転攻勢を容認出来なかった。
カタカタヘルメット団がアジトを奪われるのが可哀想だから、とかじゃない。
彼女たちは学生。その本業たる勉学に少しでも時間を使い、対策委員会として借金返済に尽力して欲しかったのもある。
「ガァヴッ!」
でも何よりも
砂の中から這い出してきたヤオザミをお手で叩き潰し、奇襲をしかけてくるデルクスやガレオスを雷光虫弾で返り討ちにしていく。
砂漠は砂が柔らかいせいで小型モンスター共がうじゃうじゃと潜んでいる。人間からすれば歩きづらい場所を、コイツらはお得意に泳いで襲いかかってくる。
こんな場所にホシノ達を連れてくる訳にも、取り残されているカタカタヘルメット団構成員を見捨てる事も出来なかった。
「ゴルルルルルッ!!」
それにしたって数が多い! やっぱり実際に生きているだけあって処理限界とか関係なしにボンボン湧いてくる!
こんなことなら廃バスとかの屋根食いちぎって即席のカタカタヘルメット団護送籠みたいなの用意すればよかった!
「ひぃいぃぃ!」
大型モンスターの相手なら先生がいてもタイマン勝負だからどうにかなるけど、小型モンスターの群れってなると先生を守り切れない。
だから先生もアビドス高等学校にぶん投げて単身赴いたけど正解だったね。小型モンスターに怯えて動けなくなる子もいるカタカタヘルメット団を守りながら先生にも気を使うなんて余裕、間違いなく無かった。
今、護送籠が〜とか言ったけどそれもやっぱなし。そんなの咥えてなんかいたら噛み付きっていうお手軽必殺技が使えくなっていただろうからね……あの技も。
「止まるな! あの狼が守ってくれてるんだから信じて進むぞ!」
「は、はいぃ〜〜!!」
怯えて立ち止まる子がいても、他の子が発破を掛けて歩みを再会させてくれる。
おかげで想定していたよりかは迅速に、カタカタヘルメット団をアビドス高等学校に避難させることが出来ている。
発破を掛けてくれた女の子が持つ看板には『武器を捨てて二度と暴力組織に与しないのならアビドス高等学校まで護送・保護する』と書いてある。
先生お手製の、カタカタヘルメット団に武装放棄を対価とする救助活動を確約する旨を記した看板だ。言葉を用いてのやり取りができない私が何の為に来たのかを説明する為に用意してくれた。
「ゴフルルルルルルル……」
「あ、ありがとうございます! 助かりました!」
飛びかかってきた小型モンスターを散らし終え、避難するカタカタヘルメット団の少女たちが作り上げる小隊の後方へ移動。
周囲への威嚇を意味する唸り声を上げる。多少の効果はあるが小型モンスターから見ればカタカタヘルメット団構成員は、手頃なサイズ且つ狩りやすさである獲物だ。
私に仲間を殺され威嚇の唸り声を放たれると一旦離れはするものの、一定の距離を維持して張り付いてくる。
諦める気配が微塵も見られない。粘着ストーカーもお手本にするべきだと思うくらいしつこく付き纏ってくる。
そんな中で迷子だの落伍者が出ないのが救いだ。
今まで散々
私も道案内と護衛を同時並行で行える器用さはない。
電気なんて扱い所をミスったら四方八方感電祭りになるからフィジカルでどうにかするか、皆から放たれて放電するしか使用出来るパターンが無い。
「で、出たッ! 三時の方向に赤い玉!」
構成員たちの背後にいるのは『後ろには私がいる』という安心感を与えて歩みを促す効果を狙ったのもあるけど、彼女たちがモンスターの接近を知らせる能力があるからというのも理由になる。
モンハン脳だと小型モンスターは邪魔だから殺す、くらいの扱いになるから狩りの邪魔にならない時は無視してしまいがちだ。
見つける度に殺すなんて、その小型モンスターに良いところを邪魔されて苦手なクエストを失敗したくらいの恨みがないとまずやらないだろう。
小型モンスターに対する無関心。それをこの世界でやると小型モンスターですら相手をするのが難しい彼女たちを守ることにすら出遅れかねない危険な事態を引き起こす。
「アレって、お前をシビレさせた奴じゃないのか!?」
「そ、そうだよ……あれの唾液を浴びたと思ったら、体が痺れて……」
今回現れたのは大型モンスターの中では小柄な部類に入る、ゲーム進行度で見ても序盤側で狩ることになるモンスター、赤甲獣ラングロトラだ。
赤い玉、しびれ、唾液。この三点がしっかり当てはまる。私も視認した、あの真っ赤なたまっころは間違いなくラングロトラである。
モンハンだとダメージの入り方の善し悪しこそあっても
甲殻同士の隙間みたいな柔らかい部位を狙わないと、彼女たちの武器ではかすり傷も負わせられない難敵となる。現に構成員の中には、ラングロトラがトラウマになっている様子の子もいた。
「アオオオォォォォォォォンッ!」
雄叫びを上げ、走る速度を上げながら構成員たちの後方から離脱する。
そのまま3時方向へと全力で疾走。ラングロトラからすればたまたま移動経路の先に構成員たちが居た、という感じなのだろう。
爆速で突っ込んでくる私を視認して驚いたような顔をして、アリクイの威嚇みたいな姿勢で固まっていた。
あまり走り過ぎて構成員たちから離れると、そこを小型モンスターに狙われる。
こちらを襲う意図がないのだとしても、怯えや恐怖を振り撒いて足止めの原因となるのならば排除する。
走る速度を落としつつ、
頭を後方へ反らせながら歯を食いしばり、 数秒後に前方へ振り下ろしながら口を開いた。
「ゴギュルルルルルルルアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」
全力で吠えた。喉が張り裂けるんじゃないかと自分でも思うくらいの大音量、轟音が放たれる。
その咆哮は
私が新たに得た技、辿異種ティガレックスを含めたティガ族の得意とする破壊能力を帯びた咆哮だ。
シロコ救出後に試した訳では無い。感覚的に、私もあれが出来るという確信があった。
(私は……)
ジンオウガの肉体に、人の精神が宿った存在。
荒唐無稽でバカバカしい、創作物のような存在。
存在するのは極めて不自然だが……この世界、ブルーアーカイブの世界には私の在り方に少し似ている存在がいる。
ペロロジラ。ブルーアーカイブオリジナルのキャラクターであるペロロに、日本が誇る特撮映画に登場する怪獣の王ゴジラを混ぜ込んだパロディのような存在。
(アレと私は、おそらく同種だ)
The Library of Lore.止め処無い奇談の図書館とデカルコマニーは言った。
都市伝説や階段、クリーピーパスタといった本来無意味とも言える物語たちが形を得た存在。
私の存在はそれに当てはまる。
ブルーアーカイブの世界にジンオウガが迷い込む。しかも人の精神を宿らせ、カンナたちブルーアーカイブ世界の住民と関わって行く。
奇談も奇談だ。
それにブルーアーカイブの世界において正史となるのはゲーム本編でのストーリー。
この世界はそのストーリーを下地として発展した、出来の悪い二次創作とも言えるだろう。
「ひっ」
ラングロトラを消し飛ばして後方に戻ってきた私に対して、誰かが悲鳴を上げた。
自身の知識で理解できない存在を恐怖する、と作中でも明言されていた。
人の身の丈を優に超える巨体で暴れ回り、人ではあがきようのない力を持ち、ただ在るだけの存在。
ラングロトラやドスジャギィみたいな序盤に戦うものからイビルジョーや辿異種ティガレックスのような後半のやり込みに含まれるものまで、この世界では偏に『恐怖』だ。
(私もそうなんだろう)
先生やカンナたちといった理解者が居ても、この世界全体で見れば私もまだ恐怖として存在しているモノだ。
人から恐怖が失われることは無い。知識を持ってしまった以上それに当てはまらない存在は恐怖であって、この世の全てを知る存在なんて存在する訳が無いから恐怖は決して消えない。
その『消えない恐怖』を消すのは
私は後者だ。
イビルジョーの持つ絶大な力を
「ガルルルル……」
強くなったのだから良いでは無いか、と空っぽな頭で考えるには私の存在は無理がある。
元より難解な世界観を下地に持つブルーアーカイブの世界において、私の存在はゲマトリアたちが並べ立てる難解な文言の羅列に含まれるものなのだろう。
つまりはいずれ、先生たちにとっての脅威になり得る存在ということになるのではないか。
そう思うと辛いし悲しいし、何よりも難解過ぎて頭が痛くなる。
私とは何か。前世でも深く考えたことの無い疑問に頭を悩ませながら、私は砂を踏み締める。
悩みながらでも進まなければならない。今の私には構成員たちを守り、アビドス高等学校にまで届けなければならない役割が与えられている。
今は、この役割を遂行しよう。見事に成し遂げ、先生やホシノたちに褒めてもらおう。
楽しい光景を夢想することで無理やりに意識を切り替え、私は目の前にいる構成員たちを見守りながら砂漠を進んで行った。