狂犬が拾った雷狼竜、元人につき   作:ジンオウガを飼いたい

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ツンデレケモミミ娘と人間大好きオオカミ

 私たちを助けてくれた先生が悪い人じゃないことは分かっているけど、それでも私は受け入れきれなかった。

 だってそうでしょ。今まで私たちの学校が抱えてきた問題は私たちでどうにかしてきた。借金だって自分たちでアルバイトをしてお金を稼いでそれを宛てていたし、カタカタヘルメット団との抗争だって自分たちで乗り越えてきた。

 

 私たちだけでどうにかしてきたのに、そこにぽっと現れた部外者の先生が『手伝う』だなんて上から目線で偉そうに宣ったのが、私はやっぱり受け入れられずにいる。

 

「がぁふ…」

「あははっ。でっかい欠伸ね」

 

 ずしんっ、ずしんっ、と重みのある足音を立てながら、バイト先である柴関ラーメンへ向かう私の隣をジンが歩いている。

 すれ違う通行人たちが驚いているのも完全に無視して、私の隣から離れようとせずに大あくびをして牙を見せ付けていた。

 

 無警戒っぽく見えているけど、私を守ろうという意思が感じられる。

 ピッタリと隣に並んで離れない。牙を見せ付ける大欠伸も私を襲おうとしているかもしれないまだ見ぬ敵への威嚇……なのかななんて想像したりしてみる

 

 先生が連れてきたジンは最初、いきなりホシノ先輩に襲いかかったものだからてっきりカタカタヘルメット団に次ぐ校舎を狙う暴力組織かと思ったけど、あんな無邪気なじゃれ付きと怒った時のガチ凹みを見たらねぇ………悪い子じゃないってすぐに理解できたわ。

 

「ふわあぁ〜〜……ほらぁ! あくび移ったじゃない!」

「ばう? ぐるるるる……あうぅん」

 

 生活費と借金返済に当てるお金を稼ぐために掛け持ちしてまでバイトをしているせいか、疲れからあくびが出てしまった。

 気恥ずかしくてジンのせいにすると、ジンは『それはちゃうやろ』と言いたげな視線が返ってくる。

 

 先生の事は認められないし、今まで頑張ってきたのを忘れたかのようにあの女性を先生先生って呼び慕う皆も気に入らなくはある。

 昨日だって先生に対して面と向かって「認めないから」って言ったし。

 

 でも認めないだけで、悪い人ではないってことは理解している。

 だって人通りがしっかりある場所でも横に並んで、人目も気にしないで私を守るように付き添ってくれるジンが認めている人だもん。

 

「冗談よ冗談!」

 

「がふぅ……がんっ」

 

 バシバシと足を叩く。私なんか一口で食べられちゃいそうな巨体のオオカミをいきなり叩くものだから通行人たちはギョッとしていた。ちょっと面白かった。

 

 それをジンは呆れたような目をしながらも、避けたり嫌がったりすることはなく受け入れてくれている。

 私が胸の中で先生という頼りになるのは間違いないのに頼りたくないという葛藤とも、こだわりとも取れる悩みに苦しんでいるのを見透かすような知性を、このバカっぽいまん丸お目目からは感じられた。

 

 本当、不思議よねこの生き物。こんなバカっぽくて悩みなんて欠片もなさそうな目をしているのに、人間の言葉も分かるし気持ちも読めるし文字まで書ける。

 サイズ感の違いで一文字一文字がやたらとデカいし書くのが苦手なのかブルッブルに震えてるけど……でも、そこがなんか可愛いのよねぇ。

 

 個人的には撫でている時の姿が一番好き。ぺたんと伏せって気持ち良さそうに目を細め、撫でられている姿が威厳もへったくれも無くてそれはもう可愛いのなんの。

 つい写真を取っちゃったし、なんなら携帯の待ち受け画面の背景にも設定してある。

 

 でも気に入らない点もある。先生に撫でられている時がいっちばん嬉しそうなんだよね。

 ニコニコして尾をブンブン振って……そう思うとやっぱり先生嫌い! 理不尽なような気もするけど知らない! 嫌い!

 

「着いたわ。ここが私のバイト先、柴関ラーメン!」

 

 そうこうしているうちに私がバイトをしているラーメン店、柴関ラーメンの前に到着していた。

 

 美味しいラーメンを求めて常連客が出入りをしていた所に店より大きいかもしれないジンが登場した事で、唯一の出入口付近はビックリした人達で固められて出入りが出来なくなってしまった。

 

 さっきまでスムーズだった客の出入りがいきなり滞ったのを心配して柴関ラーメンの店主、柴大将まで出てきてしまった。

 

「ほおぉ〜……こりゃまた随分とでっかいお客さんだな。うちにラーメンでも食いに来たのかい?」

 

 流石は大将ね……全く怯む様子がないわ。何しに来たとかじゃなくて飯食いに来たのかって自分よりデカい狼に言うセリフ?

 

「ぐるるぁう。がうががふ、うがるるるる」

 

「なんだそうか! うちのバイトをボディーガードしてくれてたのか! いやぁすまねぇな!」

 

 そしてジンと言葉を交わしているわ……嘘でしょ、ジンの発している唸り声がどんな意味を含んだものなのか、理解しているって言うの? バウ〇ンガル要らないじゃない。

 

 にこやかに笑って「ありがとうよ」と右手を差し伸べた柴大将の顔面を、ジンはこれまたお決まりのべろべろ攻撃でヨダレまみれにしてしまう。

 飲食店を経営する上ではあまりにも不衛生だけど、その光景は大将とジンの見た目のせいで大型犬2頭がじゃれ合っているような奇妙な微笑ましさがあった。

 

「なぁセリカちゃん。どうだ、この嬢ちゃんうちの看板犬にしてみねぇか?」

 

 その提案はどうなんだろう……確かにこんなに大きな狼が看板犬になるってなれば怖いもの見たさで入店する人の増加が見込めるかもしれないけど、先生がそれを許すかなァ……

 

 あの人、ジンが一人でカタカタヘルメット団のアジトを潰しに行った後に思い切り挙動不審になってたんだよね。

 怪物に襲われないかーとか、古傷が痛んで動けなくなったりしないかーとか、あっちへウロウロこっちへウロウロ。嫌ってるとかそういうの抜きで、純粋に気持ち悪かったわアレ。

 

「えぇ〜っと……その人、犬、狼?はある人の家族、ペット、相棒?みたいな存在で…聞いてみないとなんとも……」

 

 どう答えたら良いものか分からなくて、私は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「そうかぁ……受けると思ったんだがなぁ、残念だ。でもまぁ今日会えたのも何かの縁だ。また時間があったら来てくれよ。その時は特大ラーメン作ってやるからさ! あ、お前そもそもラーメン食えるのか?」

 

「わぐるるるるる……わがるる、ばうあう!」

 

「そうだよなぁ、狼は頬がねぇからすすった麺を受け切れねぇもんなぁ…廃棄予定のチャーシュー、か。分かった、シャワー浴びた後になるからちょっと待っててくれ」

 

「あう? がるがるるぁ、ががう」

 

「良いんだよ、ここで出会ったのを祝してってやつだ。気にせず持って行ってくれよ」

 

 柴大将がジンとさも当然のように言葉を交わしている姿に、さらに私の苦笑いは引きつったものになった。

 だってジンの言葉って先生でも何となくのニュアンスで理解している風なのに、大将は翻訳に困るような様子も無いんだよ? いくらなんでもおかしくない?

 

 大将は全身にべったり塗り付けられたジンの唾液を落としてくると私にお店を任せて、店舗の後ろにある大将の居住空間に戻っていっちゃった。

 まさかの丸投げにビックリしたけど、私も柴大将にはアルバイトをさせて貰っている恩もある。ここはキリキリ働いて少しでも恩返ししなくっちゃ!

 

「よしっ! 今日も頑張るぞ〜!」

 

 頬を叩いて気合を入れ、私はジンを見上げる。

 

 バカっぽくまん丸お目目をにこっと湾曲させて、私から離れると柴関ラーメンが入っている建物と隣の建物の間にスポッと体をはめて座り込んでしまった。

 

 お座りみたいなすぐに動き出すことを想定しているものとは違う、当分は動く気がなさそうなドッシリとした座り方だ。

 

「なに? バイト終わりまで待ってくれるの?」

 

 冗談のつもりで言ったのに、ジンは無言で頷いた。

 あのまん丸お目目が引き締められた鋭い目付きに変わっている事に気付いて、本気で私の身を案じてくれているのが分かる。

 

 嬉しかった。唯一の同級生であるアヤネちゃんやシロコ先輩たちに心配してもらうのとはまた違う、頼もしい人に守られているという安心感があった。

 

 柴大将からの信頼がなければ出来ない店の丸投げを完璧にこなそうと張り切っていたところに、この安心感はとても心強かった。

 入店してバイト用の部屋に移動し、衣類を着替える。

 

 既に何度もバイトをしているお店だから勝手は分かっている。柴大将が用意した廃棄予定の山盛りチャーシューを美味しそうに食べるジンの姿が、客寄せパンダとしての役割を果たしていたのか今日は客の入りがいつもより多く感じた。

 

 途中でホシノ先輩たちと先生がお店にやってきた時はびっくりし過ぎてぎこちない動きになっちゃったけど、その時以外は我ながら完璧に動けたと自負しているわ!

 

 バイトを終えて店を出る直前に「あの先生はいい大人だ」と柴大将にも言われて少しモヤッとしたりもした。

 

「がう」

 

「本当に待っててくれたんだ……ふふっ、ありがとうね」

 

 でも、店の横でずっと私を待ってくれていたジンの姿を見ると胸のモヤモヤもすっかり取れてしまっていた。

 

 帰宅の途中でシロコ先輩と出会って少し言葉を交わす。

 話の中で先生の名前が出たことであのオトナに関しての悩みが蘇って気持ちがまた落ち込みそうになったけど、それもジンが強烈にじゃれ付いてくることで少し気が楽になった。

 

「ふわあぁ〜〜〜う……ごるるるる」

 

「まぁた大きい欠伸なんかして…くあぁ〜…ほらまた移った」

 

 寝ずに待ってくれていたんだろう。大きな大きな欠伸をして眠そうにしている仕草もまた可愛らしかった。

 

 アヤネちゃんと先輩たちが認めて、柴大将が良い人じゃねぇかって褒めて、これだけ優しいジンが懐く大人の人。

 認めても良いのかもしれない。手を借りても良いのかもしれない。悪い人じゃないんだし、私たちを助けてくれているのには間違いない。

 

「着いたわ。ここが私の住んでるマンションよ」

 

 街灯と自動販売機くらいしか明かりのない暗い夜道を歩き、マンションの前に辿り着く。ジンにここが私の住んでいる場所だと説明すると、周囲をキョロキョロと見回し始めた。

 

 周りの風景ごと記憶しようとしているようにも、周囲を警戒しているように見える。

 しばらく挙動不審を繰り返した後に、ジンは私を見下ろしてベロンと舐めてきた。その後に軽くひと鳴きし、軽々と跳躍。周囲の建物の壁面を蹴り付けて、巨体からは想像が出来ない軽やかな身のこなしで姿を消してしまった。

 

 お別れの挨拶のつもりだったのかな。今日一日付き合ってくれてありがとうってお礼も言えなかった。

 明日、会ったらしっかりお礼を言わないとなぁ。先生ともちゃんと向き合って話をしなきゃ。

 

「おやすみなさいジン、先生」

 

 この場に居ない2人へ安眠を願う言葉をかけ、私も自室へ入っていった。

 

 夕食は柴大将の出してくれた賄いで済ませてある。制服を脱いで着替えを用意し、浴室でお風呂に浸かる。

 

 シャワーを浴びている最中、上の方からドンっと変な物音がした気がした。

 確かめようかとも思ったけど疲れていたのと、明日に備えて眠ることを優先してやめることにした。

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