狂犬が拾った雷狼竜、元人につき   作:ジンオウガを飼いたい

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沢山の誤字報告ありがとうございます。そして申し訳ありません。大変助かっております。


雷狼竜(バカ)でも止められないものはある

 目の前で繰り広げられる光景に便利屋68の自称社長 ゲヘナ学園所属の陸八魔アルは白目をひん剥いていた(例のBGMを添えて)。

 

「わぐるるるるっ♪」

 

 自分の愛銃であるワインレッド・アドマイアーをキャンディーケインを味わうように舐め回し、素人目で見ても徹底的な整備を行わなければ使い物にならない有り様に仕立て上げる巨大な狼。

 

「あははははははははは!!!!!! アルちゃん! アルちゃんの銃! あんなベロベロにうひひひひひひひ!!」

 

「あれは…くくっ、酷いね、うくくッ!」

 

「ア、アル様! あの、その…ふひっ」

 

 呆然とするしかない自分を見て笑いを堪えきれない会社の社員たち。

 全員もれなくヨダレでベッタベタ、髪の毛も例外ではなく顔に張り付いているがそれを不快がる様子はない。

 

「ふぃ〜。ジンが暴れ回ってくれたおかげでだいぶやりやすかったねぃ〜」

「ん、大助かりだった。ありがとうね」

「私のことも守ってくれたんだもんね。ありがと、ジン!」

「後でこれでもかってくらいヨシヨシしてあげますね☆」

 

「「「きゅ〜……」」」

 

 大金をはたいて雇った民間傭兵たちを怪我一つ負わずに壊滅させ、ダウンしている彼女達が持つ武器を回収しながらにこやかに狼と言葉を交わすアビドス廃校対策委員会の面々。

 

 武器を奪われて伸びている傭兵たちも全員がヨダレまみれにされており、そんな状態で倒れているものだからヨダレに砂がくっ付いてしまい酷い有り様になっている。

 

「身柄は私たちが拘束しておきますね! おい皆やるぞー!」

 

「「「おーーーー!」」」

 

 元は校舎を狙っていたカタカタヘルメット団だった面々も今では暫定アビドス高校所属の生徒として、ヨダレまみれで砂まみれな傭兵たちを手馴れた手つきで縛り上げていく。

 

「さて……柴関では不必要な騒ぎを回避する為に見逃したが、ここではそうもいかない。知っている事を話してもらおうか。ゲヘナ学園所属 2年生 陸八魔アル」

 

「ジンに銃口を向けたことも含めてここに来た理由、全部話してもらうまで帰れないと思って欲しいかな」

 

 自分の前に腕を組んで仁王立ちする公安局の狂犬とシャーレの先生。2人は今やジンの玩具にされている銃の持ち主であり、ジンに銃口を向けたアルに対する怒りで額に青筋を立てていた。

 狂犬は折り畳み式鋼鉄製大型弩(アイアンアサルト)を構え、先生は持っているタブレットを握り潰しそうな勢いで握っている。警戒アラートなのか悲鳴みたいな声がタブレットから聞こえた。

 

(ど、どどど、どうしてこんなことにいぃ〜〜〜〜〜!?)

 

 心の中での悲鳴が虚しく響いた。

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 作戦は悪くない、いや完璧なハズだった。

 依頼主からの指示でとある人物の誘拐作戦を失敗したカタカタヘルメット団の拠点を攻め落とし、代わりに校舎を奪って欲しいという指示を受けた。

 

 傭兵を雇ったことで所持金が心許ない中で訪れたラーメン店で店主のご好意により超大盛りのラーメンを頂き、ここの常連だという人達とも話しを弾ませた。

 一人だけ鋭い目付きの人物が居て少し怯えはしたが。

 

 その後に社員から常連だという人達こそがこれから襲撃するアビドス高等学校の生徒たちだと聞かされ、悩みはしたものの自分たちは便利屋、お金を貰えればどんな依頼でもこなすのだと言い聞かせ襲撃を決意。

 

 腹を満たし、敵の情報も少しだが得た。

 大金をはたいて雇った民間傭兵たちと共にアビドス高等学校に向けて進行していたその時、アルたちはまさかの奇襲攻撃を食らうことになる。

 

「あおおおおおぉぉぉぉおおおぉぉおぉぉ〜〜〜〜んッ!!!!」

 

 高らかに響き渡った咆哮。思わず耳を塞いでしゃがみ込んでしまう程の咆哮。

 音響兵器に相当する大声の主は、既にアルたちの手の内を知っていた。

 

 驚いている彼女たちの前に、重々しい足音を立てて砂埃を巻き上げながら猛突進してくる巨大な狼の姿。

 まさかそんなものが出てくるなんて思いもしなかったアルたちは完全に固まってしまって、目の前に狼が止まるまで身動ぎ一つ出来なかった。

 

「な、なんだこいうわあああああ!!」

 

 一人の傭兵が銃を構えたが引き金に指をかけるよりも先に頭から丸呑みにされ、ヨダレまみれにされて吐き出される。

 怪我をした訳では無いが攻撃をされたと皆は判断して銃を構えるも、引き金を引くことは叶わない。

 

「なっ……なんて可愛い目なのっ」

 

 巨体に見合わないまん丸お目目、キリッとした顔付きに似合わないバカっぽい目。そんなのに見つめられて攻撃する気にはならなかった。

 

 狼も攻撃する気は無いのか自分たちの前に立ち塞がり、威嚇にしては可愛らしい唸り声を上げながら見下ろしてくる。

 

「何この生き物、新種? 見たことないんだけど」

 

「いやぁ…見たことある無いの話じゃなくない? あんな大きい陸上生物ってアリなの? へたなクジラよりでっかい気がするんだけど」

 

「爆弾…効くのでしょうか。硬そうですが……」

 

 可愛らしい目に意識が向いているアルとは違って、カヨコたちは目の前に立ち塞がる怪物を倒せる見込みがあるのかを話し始める。

 

 自分たちは怪物を鑑賞しに来たのではない。この先にあるアビドス高等学校を制圧しに来たのだ。

 その為にもこの怪物は追い払わなければならない。とはいえ手荒な手段に打って出れば手傷を負わせて追い払うどころか逆に激昂させ、暴れ回られてしまう恐れもある。

 

「取り敢えず…一旦、私がやってみるよ」

 

 カヨコがそう言うと歩を進め、怪物の目の前に立つ。

 

 それに対して警戒心を示す所か、怪物は無警戒に巨大な顔を彼女へと近付ける。少し動けば触れそうな位置に寄せられた顔にカヨコは内心で少し恐怖を感じつつも、溜息を吐いて自分を落ち着かせる。

 

「私たち、この先に用事があるの。通してくれない?」

 

「ぐるるぁう」

 

 なるべく優しい声色で語り掛けたが返答は拒否。顔を離してから左右に頭を振り、心底嫌がっているような声色の唸り声を放つ。

 

 その仕草に驚いたカヨコは一瞬だけ、その双眸を大きく見開いた。たまたまでは無い、自分の言葉を理解した上で拒否している。

 

「私の言葉が分かるの?」

 

「あうっ!」

 

 次の問いかけには肯定の鳴き声と頷きが返ってくる。

 カヨコが振り返るとムツキたちも驚き、そして頭を抱えている。

 

 言葉が分かるのなら目の前でどうするああすると作戦は練れない。そんなことをしても全て筒抜けになるからだ。

 怪物はどっかりと座り込み、自分たちの目の前から退く気配が見られない。呑気に大欠伸をしているがその際に見せつけられた鋭い牙が、それだけで強力な威嚇として機能している。

 

「ど、どうするんだよ! こんなの出てくるなんて最初聞いてなかったぞ!」

 

 民間傭兵からも不満の声が出始めている。目の前に怪物がいるという現実から目を逸らしたい、というのもあって最初からかなり怒ってしまっている。

 あまり悠長にしていては折角大金をはたいて雇った戦闘力がそのまま謀反を引き起こしかねない。

 

「アルちゃん……どうする? このままじゃアビドス高等学校を奪うなんてとても出来ないよ?」

 

 ムツキも判断しかね、アルに判断を委ねた。

 白目を剥いて呆然としていたアルも己の名前を呼ばれ、判断を委ねられていることには気付いている。

 

 頬を叩いて気を取り戻し、目の前の怪物を見つめる。

 退く気配は感じられない。ゆっくりと日向ぼっこをするようにくつろいではいるものの、その目はアルたちを見据えて動かない。

 

 退いてもらうことは叶わない。

 なら、自分たちが取るべき手段をアルは()()()()()()()()

 

「アナタ、私の言葉が分かるのよね。ならいいわ、そのまま聞きなさい」

 

 歩み寄り、語りかけながら得物であるワインレッド・アドマイアーの銃口を怪物へ向ける。

 

 怪物は動かない。沈黙し、突き付けられる銃口とその持ち主であるアルを凝視している。

 

「私たちはアウトロー、便利屋68。金さえ貰えばどんな依頼でもこなすの。そして私は陸八魔アル! 退かないのなら追い払うまでよ!」

 

 明確な排除宣言。常識の枠に収められない存在への挑戦状。

 

 自分たちのボスがそれを叩き付けたとなればムツキたちは従うだけ。各々の得物を構え、怪物の前に立つ。

 自分たちを雇用した人物が己の信念を貫き立ち向かうと決めた姿勢は民間傭兵たちの心も掴み、奮起させる。

 

 逃げ腰の者は居なくなった。皆、得物を構えて怪物に敵対姿勢を示した。

 

(あわわわわわわ!! だっ、だだだだ大丈夫なのかしら!!)

 

 挑戦状を叩き付けた張本人が内心白目をひん剥いていることには誰も気付かない。目の前にいる怪物以外は。

 

「……がはるるるる」

 

 呆れたような溜息を吐いた怪物が立ち上がる。

 姿勢を低くし、体を小刻みに震わせながら両前腕を伸ばして頭の位置を上げていく。

 

 何かをしかけてくるつもりか。怪物が放つ初撃に対して身構えている皆の周りに、気付けば光を放つ虫が大量に飛び回っていた。

 

「なにこれ…ホタル?」

 

「ホタルにしては大きいです……見たことがありません」

 

 見慣れない虫たちは震えている怪物へと殺到し、柔らかな毛や堅牢な甲殻の隙間へと入り込んでいく。

 

 甲殻が動いた。ゆっくりと展開され、見た目の厳つさが増していく。

 肉体からは金色の光が漏れ、肉体の周囲に稲妻が纏わり付く。怪物が本格的に敵対姿勢に入ったと察するのには十分過ぎる変化だった。

 

「ゴルルルルル……」

 

 唸り声も低さが増している。

 

 本来の目的(ラスボス)の前にバグで裏ラスボスが出てきてしまってそれとエンカウントした、そんな感じの気分になりながらも便利屋68と民間傭兵たちの士気は下がらない。

 

 来るなら来い、と誰もが警戒心を高めていたその時。

 

「あでっ!?」

 

 一人の傭兵が狙撃されて倒れた。怪物が何かをしたのかと疑ったが確認するよりも先に、その怪物の背後から無数の弾丸が飛んでくる。

 

 怪物が仕掛けてくるとばかり思っていたところに奇襲を受け、慌てて周囲の遮蔽物の陰に身を隠したアルたち。

 そこに銃撃を仕掛けて来た相手の姿が現れる。

 

「ジンが飛び出して行ったと思ったら……なに、私たちの仲間に何か用事?」

 

「あ、貴女は柴関さんの!?」

 

 柴関ラーメンで注文受付をしていたアルバイトの生徒、黒見セリカの姿にアルが目を見開く。カヨコたちもあちゃあ〜と額に手を当てていた。

 

「言っとくけど、ジンが何か仕掛けてきたって話は嘘だと判断するからねぇ〜。この人、意味無く人に襲いかかる人じゃないっておじさんたち信じてるしさ」

 

「ん、何かを企てていたのをジンが察して止めに来た。私たちの見解はこう。違う?」

 

「ジンちゃんが止めに入るってことは私たちにとって不利益になることを企てたってことですね? もしそうなら容赦しませんよ〜☆」

 

 セリカだけでは無い。柴関ラーメンで出会ったアビドス高等学校の生徒たちが、大勢の元カタカタヘルメット団構成員を引き連れて現れた。

 全員、聞く耳を持っていない。大して怒ってないよ的な雰囲気を醸し出しておきながらその目は確かにキレていた。

 

「お前たち、ゲヘナ学園所属の便利屋68だな。私はヴァルキューレ警察学校公安局の局長、尾刃カンナだ」

 

「ウソぉ!? なんで公安局なんているの!?」

 

 しかも予期せぬ人物のオマケ付きだ。それも明らかにブチ切れている。親の仇を睨むような目だ。

 その体躯に対して巨大過ぎる鋼鉄製の折畳式大型弩を構えて、犬歯を剥き出しにして怒っている。

 

「お前たちは私の大切なジンに武器を向けた。私の大切なジンに対して怪我をさせてやると脅したんだ。分かるか、脅しだ。許さない…局長だろうと知ったことか、絶対に許さんぞ犯罪者ども!! じわじわと追い立ててやる!!!!」

 

「なんか宇宙の帝王みたいな事を言ってますアル様ァ!」

 

 私欲まみれのブチ切れにハルカが思わず突っ込むも、それを拾う余裕は誰にもない。

 戦力数の差はほぼ互角。戦力差でいえば怪物とヴァルキューレ公安局の存在によりむしろ不利と言える。

 

「私は先生だ。君たち生徒を助け、守るのが私の役割……でもそれだけじゃない。悪い事をしたのならキッチリと叱らないといけないんだ」

 

 そこにもう1人の乱入者。

 

 タブレットを握りしめる成人女性

 

 シャーレの先生 参戦

 

「皆、行くよ!」

 

「「「はい!」」」

 

 彼女の号令と共にアビドス高等学校及びヴァルキューレ警察学校公安局所属生徒連合軍が、便利屋68及び民間傭兵連合軍に突撃していった。

 

「ごるるるる……」

 

 ある意味ではこの激突の引き金になったとも言える怪物、ジンはその光景を呆然と眺めていた。

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