狂犬が拾った雷狼竜、元人につき   作:ジンオウガを飼いたい

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狂犬のお巡りさん 怒ってしまって○×△☆♯♭●□▲★※

カンナ……あの子、少し見ない間に随分と逞しくなったというかモンハンに毒されたというか……

 

 捕縛した便利屋68への尋問を行うカンナの後ろ姿を眺めながらジンは推しの変容ぶりに軽く困惑していた。

 

 畑を開墾したと聞いた際は『趣味が増えて良いなぁ』や『麦わら帽子で畑を開墾するカンナマジ天使』といった感想を抱いていたが、ドスジャギィ仕留めたと聞いた時は驚かされた。

 未だに成人を迎えていない女子高校生が10m近い体躯を誇る大型肉食恐竜のような生物を仕留めたと言うのだ。いくら銃火器蔓延るキヴォトスに生きる者とはいえ常識的ではない。

 

 しかも公安局局長権限で高火力銃火器を取り寄せたのかと思えば落とし穴と罠肉を駆使してのモンハン的はめ殺しと、丸太や石を用いての窒息っていうリアル的はめ殺しのハイブリッドはめ殺し。

 

 ジンの中には怖いという感想しか湧かなかった。

 この子いつかモンハン世界の武器とか持ち出すんじゃないかという不安が芽生えていた。

 

「どうだ、凄いだろう。森で採れた鉱石をミレニアムサイエンススクールのエンジニア部に郵送したら極めて良質だと言われてな、サンプルとして定期的に提供する代わりに仕立ててもらった私の愛銃だ」

 

 その不安は見事に開花した☆

 

アイアンアサルト持ち込んでくるとはねぇ……

 

 アイアンアサルトは鉱石素材系ヘビィボウガンの最も初期段階にあたる武器で、ゲーム始めたての時点でヘビィボウガンを使いたい人は一度はお世話になったことがあるのでは無いだろうか。

 鉱石が素材ということもあり強化素材を集めるのが容易であり、新たなエリアが解放されれば一段階は強化が出来て火力の向上が図れる。

 

 これも普通に考えればおかしいのだが、通常弾以外に斬裂弾だの散弾だの徹甲榴弾だの貫通弾だのと様々な種類の弾丸を特別な操作無しに撃ち分けられる銃は普通では無い。

 しかもアイアンアサルトは特殊弾で機関竜弾も撃てるからライフル+ショットガン+機関銃という3種の銃を集約した化け物スペックを誇るトンデモ兵器だ。

 

 もっと言ってしまえば徹甲榴弾は第二次世界大戦時の軍艦や戦車の大砲で使用されていた代物だ。小型化したとはいえそれを扱えるなんて携行武器の中では破格も破格の性能となる。

 

 ヘビィボウガンという名前通り、そして鉱石がふんだんに用いられていることもあり相当な重量はある。

 しかしカンナが取り回す際に悪戦苦闘する様子はない。むしろ先程まで民間傭兵たちから情報を引き出す為にと、機関竜弾を片手で空に向けて乱射し威嚇するというラ〇ボー顔負けのことをカンナはやってのけていた。

 

「ねぇ先生。カンナさんが持ってる武器、見たことある?」

 

「いやぁ…私も大して銃に詳しいって訳じゃないんだけど、それでもあんなトンデモ銃は知らないかなぁ……ホシノは?」

 

「うんにゃ、おじさんも初めて見るよぉ」

 

 セリカからの問い掛けに先生は苦笑しながらも否定、続けてホシノに質問したがホシノも首を左右に振った。

 最初は皆怒っていたのだがその中でもカンナが頭一つも二つも抜けたレベルでブチ切れており、交戦中に鉄の塊であるアイアンアサルトで敵をぶん殴るという凶行に出た姿を見て怒りが冷めてしまった。

 

 当たり前だ、2人が知るはずがはい。そもそもこの世界に存在しない銃であり、存在すること自体が異常。

 それをカンナが持ち出してきたことで異常事態のレベルが跳ね上がっているのだから。

 

「さて…いい加減話してもらおうか。誰の差し金か、何故ジンに銃を向けたのか、立場的にはアウトローを目指すという発言も気になる所だ。さぁ話せ、次はゼロ距離で当てるぞ」

 

 

 散弾を装填してアルに銃口を突き付けるカンナ。その目は完全に据わっており、今の脅しが本気だと馬鹿でも理解出来る気迫を帯びていた。

 

 便利屋68に雇われていた民間傭兵たちはただ雇われただけであり、得られる情報がなくジンも『帰してあげて?』と言いたげな表情をしていたこともあり全員が解放されている。

 だがアルたちは傭兵たちを雇ったとアルが口を滑らせたことで襲撃未遂の主犯と断定、ジンが止めたのもブチギレた狂犬のお巡りさんは止まらず尋問を受け続けていた。

 

「あわっ、あわわわワワワワわわわわわわ」

 

 対するアルは白目を剥いてわなわな震えている。ジンを前にして啖呵を切った時の気迫はどこへやら。

 こうなることが分かっていたジンも啖呵を切った時と今のアルの姿の落差に哀れさを感じてしまい、アビドス高等学校を狙った事へのお仕置だから静観しようという当初のスタンスを貫けなくなった。

 

「ごるるるあう」

 

「分かった、すぐ行く」

 

 ゆったりとお座りの姿勢で呆けていたジンが唸ると、カンナはアイアンアサルトを折り畳んで背負った。アルたちに無警戒に背を向けてジンの元へと小走りで向かう。

 仮にアルたちが抵抗しようとしたとしても、アビドス廃校対策委員会の面々とアビドス高等学校暫定所属の元カタカタヘルメット団構成員が取り囲んでいる現状では何も出来ない。

 

「どうしたジン。今お前をうわっぷ」

 

 駆け寄ってきたカンナを迎え撃つようにジンが顔面を舐める。怯んだ所でさらに追撃する。

 飛び掛って押し倒すと器用に前足を使ってアイアンアサルトを背中から外し、逃げられない状態にした上で思い切りじゃれ付いた。

 

 甘える鳴き声を放ち、鼻や角を擦り付け、マーキングするようにベロンベロン舐め回し始めた。

 

 カンナは激務疲れとジン欠乏症を引き起こしていた所にジンが写ったネットニュースを見て、本来なら申請の受理を待たねばならない所を無視して飛び出すくらいに追い詰められていた。

 そんな彼女が一晩を共にした程度で癒し切られる筈がなく、こんなにも熱烈にじゃれ付かれたとなれば溢れ出る幸福感に耐えられる筈も無く。

 

「ふひぃ〜……」

 

 数分間に渡る強烈なじゃれ付き攻撃は防御6段階ダウンしたLv1かくとう・ドラゴンタイプに剣舞3回積みようきLv100ザシ〇ンの急所じゃれ付きを命中させたレベルで効果抜群であり、カンナは漲る幸福感でトんでしまった。

 

 この場で最も怒り狂っていた相手が大人しくなったことで周囲に漂っていた重い空気がアビドス特有の乾いた風に吹き流されていく。

 

 アルたちもほっと溜め息をついたが、まだ何も解決していない。周囲を取り囲まれ、取り上げられた武器はジンが腹の下に隠す形で座っていたから距離があり回収不可能。

 依頼主に関しての情報は一切漏らしていないが、それでは一向に解放されない。どうにかして切り抜けたい所だが妙案は浮かばなかった。

 

「ごぶふるるるる……」

 

 気絶してしまったカンナを角の上に掬い上げたジンは振り返り、自分が隠していた便利屋68一行の武器を牙で挟み、持ち上げる。

 

 噛み砕いて破壊する気かと誰もが思ったが、ジンはそうしない。自分の手で育てた事のある生徒たちの武器を破壊するなんて真っ当な理由がなければ絶対にしない。

 ヨダレが内部にまで染み込んでしまったアルのワインレッド・アドマイアーもノノミ、シロコ、アヤネの3人の手によって一度分解され、尋問の最中に手入れが行われて無事に完了している。

 

 それ等を咥えたジンは便利屋68の前に立つと、目の前に愛銃たちを落としていった。

 この場にいる皆がその行動に驚かされたが、ジンの性格を踏まえれば納得だとすぐに驚きは消えていく。

 

「ふぇ?」

「何を企んでるの」

 

 アルはまさかの出来事に変な声を上げ、性格を知っている筈がないカヨコは何か裏があると踏みジンに低い声で問いかけた。

 

「くぅん……」

 

「あー、カヨコちゃん凹ませた! 可哀想〜」

 

「いや凹むなんて普通思わないでしょ、この図体だよ」

 

 叱られただけでもガチ凹みをかますジンがそんな声を向けられて無反応でいられる訳が無い。

 元先生ということもあり『可愛い元生徒に本気で警戒された』という事実を受け止めきれず、案の定ガチ凹み。伏せて泣き目になってしまう。

 

 それを見てムツキがカヨコをからかい、まさか本気で凹むとは予想すらしていなかったカヨコが頭を抱えてしまう。

 ハルカは戸惑いながらも凹んだジンの姿に保護欲的なものが掻き立てられ、硬い下顎部を撫でて慰めていた。

 

「はぁ〜……ごめんって。別に怒ってるとかそういう訳じゃなくて、ほら。取り上げられた武器がいきなり返却されたから驚いただけ」

 

「いやぁ〜ごめんね? カヨコちゃん顔は怖いし声も低いけど悪い子じゃないんだよ。ただちょっと誤解されやすいってだけでさぁ♪」

 

 自分よりも遥かに強力であろうジンを慰めながら弁明するという意味不明な行為に戸惑いを隠せないカヨコ。それを見てさらに揶揄うムツキ。

 

「あぅん……」

 

「よ、よしよ〜し……ふふっ、可愛いです…」

 

 ガチ凹み継続中のジンと、撫でている手に顎を押し当ててくる仕草にキュンキュンしてニヤけが止まらないハルカ。

 

 どう頑張っても警戒するなんて出来なかった。

 廃校対策委員会の面々も元カタカタヘルメット団構成員たちも武器を下ろしていた。

 

「…がう」

 

 カヨコの弁明とハルカの励ましのおかげでジンは何とか立ち直った。泣き目のままカヨコを見上げる。

 

「づっ…その目はズルだって……」

 

 そんなものを見せられたら手を出さずにはいられない。ハルカの真似をしてエラの辺りを優しく撫でると涙目が細められ、心地良さそうに首をゆったりと振って見せた。

 

「なんて可愛いの!」

 

「アルちゃん立ち直り早いねぇ…私も混ぜて♪」

 

 アルとムツキも撫でるのに参加。鼻先や顎を撫で始め、便利屋68一行による撫で回し大会が開催された。

 

「むうぅ〜……私も行ってくる!」

 

「待ってよセリカちゃ〜ん! おじさんも行くぅ〜!」

 

「ん、私も」

 

「皆さんズルいです! 私も行きます!」

 

「じゃあ私も☆」

 

 廃校対策委員会の面々もジンが撫で回される姿を見たら黙っていられなくなり、武器を置いて駆け出していく。元カタカタヘルメット団の構成員たちも同様だ。

 

「ふっ、流石ジンだな。人を惹き付ける能力は最強と言える」

 

 いつの間にか復活していたヨダレ&砂まみれのカンナも無論参加する。

 

「あららら…当初の目的は何処に行っちゃったのやら…まぁ、楽しそうだからいっか!」

 

 唯一ストッパーとして機能する可能性が残されていた先生も参戦。

 

 あっという間に便利屋68に対する尋問の時間はジンとの触れ合いによる交流会へと変化してしまっていた。

 数分前まで睨み合っていた両陣営も歳が近い者同士。お互いの趣味や学校について語り出せば止まることはなく、和気あいあいと情報が飛び掛っていく。

 

 その中でもカンナは情報を抜き出そうと時折本職の顔にナリはしたが、その都度ジンがベロンベロン舐め回すことで阻止。

 日が暮れ始めて漸く交流会はお開きとなる。

 

 アビドス廃校対策委員会が得られた情報はほぼ無いに等しいがカヨコが「ブラックマーケットに行けば何か分かるかも」と話してくれた。

 公安局による調査でセリカ誘拐に使用されそうになった車両もブラックマーケットからカタカタヘルメット団の手に渡ったことも明らかとなっており、次にどうするかの指針は定めることが出来た。

 

「ウヘヘヘヘ…すべすべしてて気持ち良いねぇ……」

 

 カンナの尋問で白目を剥きながら泣いていたアルはすっかりジンの甲殻に夢中となり、愛銃が整備し終えられている事にも気付かなかった。

 

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