狂犬が拾った雷狼竜、元人につき   作:ジンオウガを飼いたい

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ブラックマーケット(黒い市場)?私の相棒は金色だぞ

 アビドス高等学校が多額の借金を背負っている、というのはホシノたちから聞かされており把握している。

 まさかそれが約9億円という莫大な額だと知った時は流石に驚かされたが、街の風景を見ればそれも納得が行った。

 

 砂漠に飲まれた土地。住民がいたであろう家屋も、仕事の場であったであろうビルも、何もかもが砂に飲まれている状態だ。

 それをどうにかしようとして、最終的に闇金へと手を出してしまった。

 

 分からなくもないがその結果が何とかなって取り敢えずハッピーエンドなのではなく、どうにもならなくて借金だけが残ったバッドエンドなのはやるせない気持ちになったよ。

 

「で、では私はこここここれで! 待っ、またたたたたちらららら来月ーーーー!!」

 

 今月分の借金を回収に来たカイザーローンの現金回収員は私たちの背後で見たことがないくらいに荒ぶっているジンに気圧され、壊れた機械のような喋り口調で車に飛び乗っていく。

 

「ゴルルルルルッ! グァグラァヴ! ガウッ、ヴがアアアアアアアァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ッ!」

 

 両前足で何度も地面を殴り付け、飛び掛って噛み付こうとするのをめくれ上がった地面の塊を噛み砕くことで誤魔化している。

 まん丸お目目は眼窩から零れ落ちるのではないかと不安になるくらいに見開かれ、バキバキに血走っている。

 

 怒声も本気で怒鳴るのを我慢しているようだが、それでも私たちは耳栓がなければあまりの音量と声に込められた怒りの感情によって蹲っていただろう。

 

 カイザーローンの車がアビドス高等学校正門前に停車した瞬間、ジンが急に怒り出した。

 ホシノが持っていた返済用のお金を入れたアタッシュケースを奪い取ろうとしたり、降車してきた回収員に襲いかかろうとしたりと、あのイビルジョーと殺し合った時と同等かそれ以上の苛烈な怒りに任せて暴れ狂った。

 

 私と先生が飛び出さなければ回収員は食い殺され、車両も破壊されていたかもしれない。本気でそう思わせられるほどに、ジンは怒っていた。

 

「フシュルルル……フシュルルルルルルァヴッ!」

 

 車が走り出すと私たちの頭上を飛び越え、去っていく車両を睨みながら吠える。二度と来るなと威嚇するように吠え、地面をまた何度も殴り付ける。

 

 恐ろしい、とは思わない。人間と同等の知性を持ち合わせているとはいえ、ジンは元々は自然環境に身を置いて生きてきた野生動物。

 アタッシュケースを奪い取ろうとしたのは兎も角、機械仕掛けの回収員に対して気味悪さを感じて排除しようとしたと考えれば辻褄が合わなくもない。

 

 それに彼女は私たちのことが大好きだ。現金を渡すことで生活が困窮するのを嫌がった、と取る事も出来る。

 

「よしよし……」

 

 私は怯まない。威嚇を続けるジンに歩み寄り、鉤爪をそっと撫でた。

 

 声と触感で私が居ることを思い出してくれたようだ。見開かれていた目が普段の可愛らしいまん丸お目目に戻り、全身に纏っていた怒りの気配が霧散する。

 

「いやぁ凄いね。ジンちゃんの怒りっぷりもだけどあんなに怒ってたのに触りに行けるなんて」

 

 ホシノの発言に私は少しムッとした。触る、とはなんだ。

 彼女は物では無い、人だ。触るではなく触れるだろう。

 

 だが分からなくもない。ジンとホシノはまで出会って日が浅い。私のように巨大な怪物を共に仕留めた事も、湖で泳いだ事も、一緒の布団で寝たこともない(そんなことはしていない)。

 

 ジンとの関係性が浅いからその感想も仕方ないのだ、そう言い聞かせた。

 

「怒っていたとしてもジンはジン。私の大切なパートナー、隣を任せられる相棒だ。たとえ拒絶されたとしても離れるものか」

 

 どれだけジンが荒れ果て、私のことを忘れようとも私の隣を任せられるのは彼女だけ。少なくとも今現在は、だが。

 

 イビルジョーに殺されそうなのを助けられた恩もある。

 彼女が私を殺したとしても、喜んで受け入れられる自信すらある。

 

「そっか……ジンちゃん、愛されてるねぇ」

 

「がう」

 

 ジンもかなり落ち着いた様子だ。ホシノの声掛けにも返事が出来ている。

 

 最初のうちは私たちの声すら耳に届いていないようだったからな。自分の放つ雄叫びと地面を殴り付ける音に掻き消されていたのかもしれない。

 

 しかし……カイザーローンか。名前の通りカイザーコーポレーション傘下の企業だが、かなり悪名高い闇金融だと一部では噂されている。

 私も一度支社に対してガサ入れを試みたことがあったが上層部から止められて叶わなかった。たまたま別件の担当を指示されたのだが、タイミングが良過ぎた。

 

 カイザーコーポレーションはかなり手広く様々な事業を展開し、キヴォトスの経済に深く食い込んでいる。

 特にここアビドスの地では関連企業の広告をやたらと目にするが気にし過ぎ、ではないだろう。

 

「ところで、カイザーローンは何故()()でしか返済を受け付けないのでしょう」

 

 ノノミの呟きも引っかかる。先生もその発言を聞いて不思議がっていた。

 

 口座からの引き落としの方が手早く借金を回収できて手間がかからない。

 わざわざ受け取りに来ることで仕事に対する真摯な姿勢をアピールする為、と思えなくもないが…それだとジンがいきなりブチ切れた原因の説明がつかなくなる。

 

 彼女は何かを見抜いた。カイザーローンが抱える何か、アビドス高等学校にとって不利益となり得る何かを。

 

 ガサ入れを止められたタイミングといい現金返済に拘る点といい、あそこは何かを抱えている。

 

 『なにか裏がある』と何度も通達してくる私の勘と強烈な怒りを示したジンが、カイザーローンに対する私の疑いの目をより強めていった。

 

□■□■□■□■□■□

 

 対策委員会は今後どうするかについて定例会議を行っている。

 今回そこで名前が上がったのが、昨日の便利屋68とのやり取りの中でも飛び出した『ブラックマーケット』という闇市の名前。

 

 違法な火器や物資が取り引きされる闇市。

 捕縛した民間傭兵が使用していた火器もそこから流れてきたものであり、アビドス高等学校にとっての危機に関わった人物・物資両方に接点があった。

 

 そうとなれば後は現地調査だ。実際にブラックマーケットへと赴き、民間傭兵が使っていた火器を探し出す。

 余っていたアビドス高等学校の制服を借りてヴァルキューレ警察学校の生徒ではないと偽り、私も同行した。

 

 ジンも同行してくれている。建物から建物へと飛び移る様は力強さと軽やかさを併せ持つ雄大さがあり、道行く人の視線を掻き集めてくれていた。

 

 無法地帯というだけのことはあり露店を少し覗けば規制対象とされている物がさも当然のように売りに出されている。

 最初に調べた時はジンに会うことを優先して深く調べなかったが今回の一件が片付いたとなれば、ここもガサ入れに入った方が良いかもしれない。

 

「た、助かりましたぁ〜……」

 

 そんな場所に何故かお嬢様学校であるトリニティ総合学園の生徒、阿慈谷ヒフミがいた。身代金目的の不良に追われており、当然だが身柄を保護。

 

 聞くと彼女が好きなキャラクターの限定グッズが取り引きされているかもしれない、そう思ってわざわざこんな場所にまで足を運んだそうだ。

 

「分かる。分かるぞ、欲しいものは手に入れたいからな」

 

「カンナさん! 分かってくれますか!」

 

 うむ、とてもよく分かる。私もジンの限定グッズが出たとなればありとあらゆる手を尽くしてでも確保するだろう。

 彼女の熱意には見習うべき所、尊敬すべき所があった。ペロロなるキャラクターの良さについては理解が及ばないものの、彼女とは良い烏龍茶が飲み交わせそうだ。

 

 それに彼女、話し口からしてブラックマーケットに相当入り浸っている。

 企業が行っている悪事についても相当に詳しい。うちに欲しいくらいの情報収集能力だ。

 

 銀行と名乗っておきながら犯罪行為に手を染める闇銀行の黒いビルの近くに差し掛かった時、私の耳がバイクのエンジンが吹かされる音を拾う。

 

 ヒフミ曰くあのバイクにまたがる人物たちはマーケットガードという、ブラックマーケット内の治安維持を生業とする組織の中でも最上位とのこと。

 それがカイザーローンのロゴが描かれている現金輸送車を護送しながら現れ、闇銀行のビルの前で停車。

 

 現れたのは廃校対策委員会からお金を回収に来た、あの回収員の姿だった。奴は私たちに気付きもせず、お金の入ったアタッシュケースを闇銀行の職員に手渡すと書類にサインを書き込む。

 

「闇銀行とカイザーローンが……繋がっている」

 

 シロコの呟きの通りだ。彼女たちが学校を守る為に支払い続けていたお金は全て、犯罪資金として掻き集められていたという可能性が出てくる。

 

「カイザーローン!?」

 

 ヒフミは『なんでそんな名前が!?』とでも言いたげな反応を示した。彼女、カイザーローンについても知識があるらしい。

 語ってくれた情報も私たちが手に入れているものと齟齬がない。正しいのだ。

 

 可愛らしい容姿をしておきながらそこまでの知識量……どれだけここに入り浸っているのか、少し心配になる。

 

「だが待て。まだカイザーローンがお前達のお金を闇銀行に渡したという証拠がない」

 

 私たちはその光景を見ただけだ。確固たる証拠がなければ動けない。

 集金の際に発行される受領証明書の発行記録があれば、とも考えたしヒフミからも同様の意見は出たもののそれは既に銀行の中だ。

 

 どうにかして手に入れられないものか。ガサ入れを行おうにも目立つことを避ける為に他の公安局所属の生徒たちは待機を命じておりこの場にいない。

 考え込んでいると、不意にシロコがアレしかないと言い出した。

 

 皆も各々が同意や困惑といった姿勢を示しながらも、シロコ同様に『アレ』としきりに口にする。

 私とヒフミを首を傾げているとシロコが何かを取り出す。

 

「…………おい、本気か?」

 

 私の声は震えていた。目の前の少女、可愛い顔してなんてことを考えるんだ。

 取り出したものはドラマや映画で強盗が犯罪を行う際に用いる目出し帽だった。

 

 

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