狂犬が拾った雷狼竜、元人につき   作:ジンオウガを飼いたい

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銀行を襲うブチ切れ狼

 アビドス高等学校を襲撃するのは失敗に終わったけど、私たちの前に立ち塞がった狼ことジンがいてくれたお陰で大事になるのは回避出来た。

 

 私の言葉を理解したりヴァルキューレ警察学校の公安局局長が居たりあの巨体で本気で凹んだりと予想外のことだらけでビックリしたけど……うん、楽しかったよ。

 依頼を達成出来なかった時は落胆することもあったけど、今回の失敗は不思議と満たされていた。

 

 でも、それでハッピーエンドとは行かない。依頼主は報告書を受け取った上で叱責の連絡と、一週間以内にアビドス高等学校を攻め落とせとの命令をしてきた。

 無茶苦茶なことを言われているのは分かるけど、私たちはお金さえ貰えればどんな依頼でもこなす便利屋68。お金が無いから、なんて言葉は使えない。

 

「ねぇねぇ。アルちゃんの融資、通ると思う?」

 

 社長は融資を受けるとか言い出して、よりにもよってブラックマーケットの闇銀行で融資を受けようとしている。

 

 隣に座っているムツキの欠伸混じりな言葉に、私は首を横に振った。

 社長には融資を受けるのに足りる信頼がある訳でも無いし、担保できる財産も銃くらいしか手元にない。犯罪者として口座が凍結されているくらいだからね。

 

 これじゃ融資してくれる方がむしろ怪しいくらいだよ。これで融資するとなれば、それは絶対裏に何かある手を出してはいけない類の融資だ。

 

「そ、それにしても…あの狼……凄かったです、ね…」

 

 ハルカが言っているあの狼とは、ジンのことだろう。

 

 確かに凄かった。はっきり言って、私たちじゃアレに傷一つ負わせられないと思う。

 それこそ甲殻同士の隙間にハルカが爆薬を取り付けて爆破する、なんて『一発だけ攻撃させてやる』みたいな舐めプをしてくれないと出来ないような芸当じゃなきゃ倒せない。

 

 そんな相手が本気で襲ってこなかっただけまだマシ、と思うしかないね。向こうとの交戦だって止めてくれたのはジンだった訳だし。

 

「ホントねぇ……どうしよっか、あれ」

 

「どうするもなにも、また正面からやり合うしかないよ」

 

 ジンは私たちの言葉を理解している。私たちの目的だって理解している。

 アビドス高等学校を狙うのを辞める、つまりはこの依頼から降りない限り私たちとジンは必ず激突することになる。

 

 それに前回、予告状を出した訳でもないのにジンの方から私たちに気付いて接触してきた。匂いでバレたのか、原因は分からないけど視認していないはずの私たちにジンは気付いている。

 今回もきっとそうなる。向こうからの先手を許して、それを切り抜けたとしてもその先にはアビドス高等学校の生徒たちとヴァルキューレ警察学校公安局の生徒たちの連合軍が控えている、

 

 正直、勝ち筋が思い浮かばない。ここで申請が通って融資が受けられて、その資金で『タダで働いても良い』と言ってくれた民間傭兵の皆用の銃を用意したとしても足りない。

 使ったことは無いけど戦車とか装甲車とか、そういったものも必要になる。

 

「あの…私としては、その……ジンとはやり合いたくないなぁって。いや! アル様が望まれるのであれば全然そんなことは!」

 

「ううん、否定しなくても良いよハルカちゃん。私だってそこは同じだもん」

 

「うん。それに関しては私も同意」

 

 私たちはお金さえ貰えればどんな依頼でもやるけど、今回は少し気分が乗らないね。

 

 ジンのあの泣き顔を見ちゃうと、どうしても気が削がれる。

 仮に上手く出し抜いてアビドス高等学校の校舎を奪い取れたとして、その時のジンがどんな顔をするのかと思うと少し胸が痛くなる。

 

 出来ることならジンにはあの学校から立ち退いて貰いたいけど……絶対にそれは有り得ない。アレは彼処の面々、特にシャーレから来た先生と公安局のカンナにとても良く懐いている。

 どう足掻いても引き離すことは出来ない。可哀想だけど、ジンには校舎が奪い取られて泣いてもらうことになるね。

 

「残念ですが、今回はご縁がなかったということで」

 

「…え!? ちょ、ちょっと待ってよ!」

 

 まぁ、それも融資を受けられればの話だったわけだけど。アル社長の声で融資が受けられなかったのは簡単に理解出来た。

 まぁそうだよね、信頼もないし担保できる財産もないんだから受けられるはずがない。

 

 ムツキは「あ、やっぱり〜?」と笑っているしハルカは逆に怒って銃のリロードをしている。

 こうなると資金ゼロでアビドス高等学校を攻め落とさなきゃならないんだけど……そんな上手くいく話があるとは到底思えない。

 

 お金が無理でもどうにか民間傭兵たち用の銃を用意しないといけないな、そう考えていた時だった。

 轟音と共に闇銀行の正面入口が吹き飛んだ。咄嗟にソファーから降りて身を隠し、銃を構えながら何が起きたのかを探るために顔を上げる。

 

「全員武器を捨てて! その場に伏せて!」

 

 天井に向けて威嚇射撃をする青い目出し帽を被った獣耳の女子生徒を中心に、顔を隠した集団が乗り込んできた。驚いたよ、ブラックマーケットの闇銀行に強盗が押し入って来るなんて。

 

 しかも紙袋を被っている強盗以外、声と服装に見覚えがある。

 あれ、アビドス高等学校の生徒たちだ。

 

「か、返り討ちにしちゃいますか?」

 

「いや、ターゲットは私たちじゃないみたい」

 

 あの青い目出し帽の子、たしかシロコって言ったっけ。

 彼女は銀行の受け付けに向かうと銀行員に向けて何かを寄越せと脅しをかけている。

 

 少なくとも現金じゃないっぽいのは分かったけど、ここで何を取りに来たのなんて聞きに行くバカはいないだろう。

 銀行強盗なんてまともな精神で出来る行為じゃない。見た感じだけならしれっとしているけど、内心では殺気立っているかもしれない。

 

 そんなところに声なんて掛けられない。それに他の仲間から敵対したと思われて攻撃を受ける恐れだってある。

 ここは大人しくしているしかない。

 

「で、出来ました!」

 

 程なくして銀行員が黒いバッグに何かを詰めて持ってくる。無線機を使って外部にいる誰かとも話しているようで、独り言のようなものを話している…多分先生だね。

 

 お目当てのものを回収した瞬間にアビドス高等学校の子達は撤退を開始。ほんの数分で銀行強盗を完遂させてしまった。

 でも変だ。ただ撤退するだけなら、なんで()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 最後に残ったシロコは私たちに気付くと驚いたような顔をした。まさかここで会うなんて向こうも思ってなかっただろうからね。

 

 でも、早いところ逃げた方が良いんじゃない? あまりぼさっとしてると援軍を呼ばれるよ?

 顔を軽く動かして正面入口の方に向かうよう促したけど、彼女は逆で私たちの方に歩いてきた。

 

 まさかここで一戦始める気か、と思ったけどその瞳には()()()()()()

 

「急いで逃げて」

 

「え?」

 

 逃げてと言われてすぐに体が動くわけが無い。

 驚いていると、シロコは私の胸元を掴んで顔を寄せて切羽詰まった様子の表情で再度「急いで逃げて!」と怒鳴る。

 

「ジンが! ジンが抑え効かなくて!」

 

 ジンの抑えが効かない。その言葉の意味に理解が追いつかなかったけど、次の瞬間響き渡った窓ガラスの割れる音と闇銀行の壁が破壊される音で漸く理解出来た。

 

 闇銀行の店内にジンが飛び込んできた。私たちを前にして見せたように甲殻を展開した、金色の稲妻を纏った姿で。

 

「ガグルルルルァァァ……ガグァウ!」

 

 明らかにおかしい。何故かジンは最初からブチ切れている。

 

 牙を見せびらかし、執拗に地面を殴り付け、柱やソファーを噛み砕いている。

 銀行強盗が収束しかけた銀行内に再び恐怖とパニックを撒き散らしていた。

 

 私たちを相手にした時には見せたことの無い殺意に満ちた双眸が、闇銀行の銀行員たちに向けられる。

 

「何あれ!? なんであんなに怒ってるの!?」

 

「分からない! とにかく逃げて! 今のジン、何をするかまるで予想ができないから!」

 

 親しい仲のはずのシロコがここまで言うんだから、ジンが普通の状態じゃないことはとりあえず分かった。

 

 受け付けで腰を抜かしている社長を背負って闇銀行を飛び出す。やたら滅多に暴れ回り、銀行の中は既に廃墟のような有様になっていた。

 

 もう少しで出口だっていう時に、振り返った私は見た。

 

 ジンが大きく息を吸い込む姿を。

 その瞬間、肉体が危険信号を発した。マズイ、逃げろ、飛び込めって。

 

「っくぅ!」

 

 咄嗟に私はジャンプして、顔面から地面に飛び込んでいた。

 鼻や額をアスファルトに擦って痛かったけど、その行為が正しかったと直ぐに理解することになる。

 

『グルルルオオオオオオォォォォォオオオォォォォォーーーーンッ!!!!!!!』

 

 空間を震わせる雄叫びが放たれて、黒いビルの中から稲妻の柱が立ち上る。

 天井を突き破り青空に向けて伸びる柱はジンが纏う稲妻と同じく金色で、目を奪う美しさと背筋を凍らせる恐ろしさを両立していた。

 

 それだけに留まらない。稲妻の柱は細さと形を変えて、ビルの壁を内側から撃ち抜いていく。一度だけではなく何度も何度も。

 数分前までは利用しようとする人を威圧するような黒く立派なビルだったのに、今では稲妻によって破壊し尽くされて今にも倒壊しそうな有り様だ。

 

「ね、ねぇあれってジンよね!? なんであんなに怒ってるのよ!?」

 

「分からないが…彼女は、恐らくここを恨んでいる」

 

 社長もこの前の交流会でジンと触れ合い、優しい子であるとは理解していた。帰る途中で『良い子だったわねぇ』とふやけた顔で言っていたのを覚えている。

 

 それだけに今のジンの荒れ狂い様に完全に混乱して、何故いるのか不明なヴァルキューレ警察学校公安局局長のカンナに掴みかかっていた。

 それを咎めることも無く、カンナは破壊行為を繰り返すジンに対して悲しそうな顔を向けている。

 

「彼女は意味もなくこういうことをする人ではない。無意味に人を傷付ける人でもない。だが……こんなにも暴れるとは思わなかったよ」

 

 その悲しそうな顔は、果たしてどういう意味合いの表情なんだろう。

 暴れているジンに対してのものなのか、ジンを止められない自分の無力感によるものなのかな。

 

『ウオオオオォォォォアガアアアアアアアアアアアアッ!!!!』

 

 喉が張り裂けるのではないかと心配になるような雄叫びを放ち、ジンが放った電撃が黒いビルを内側から粉々に砕いていく。

 

 怒りの籠った怒声を初めて聞いたからかな。この前の甘えたがりな姿がまるで嘘のように思えた。

 

 砕かれ飛び散った破片が巻き上げる煙の匂いにむせり、周囲の逃げ惑う人々の悲鳴を聴きながら私たちは呆然と暴れ狂うジンの姿を眺めていた。

 その後、ジンはビルが倒壊するまで暴れ続けた。途中で駆け付けたマーケットガード部隊を壊滅させ、街中なのにも関わらず戦闘装甲車や戦車が出てくるまで止まることは無かった。

 

 その戦闘装甲車や戦車も駆け付けたもの全てが破壊し尽くされ、そこまでやって漸くジンは落ち着いたのか私たちを一瞥した後に跳躍。

 建物から建物へと飛び移り、銀行強盗を行ったシロコたちへの追っ手を惹き付けるかのようにして姿を消してしまった。

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