狂犬が拾った雷狼竜、元人につき   作:ジンオウガを飼いたい

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砂漠の只中で、怒りを叫ぶ

 許さない。断じて許さない。

 

 迫り来るカイザーPMCのオートマタ兵士を叩き伏せながら、ジンは怒り狂っていた。

 

 元とはいえ自分の可愛い生徒たちから金を騙し取り、土地すらも奪い取るカイザーコーポレーションにジンは強烈な怒りを抱いていた。

 そしてそのカイザーコーポレーションに与する者に対しても、その怒りは向けられる。

 

「グルアァァァァアヴッ!」

 

 裏拳の要領で前腕を振り抜き、その腕を引き戻すことで前方を切り裂く。殴り飛ばされ、切り裂かれたオートマタ兵士の残骸と小型鳥竜種の死体が乾いた砂の上に転がっていく。

 

 前世のジンではカイザーコーポレーションの悪行に対してスマホやPCの画面越しに事の顛末を眺めることしか出来なかったのが、今のジンは違う。

 自分の力で奴等の悪行をくじき、溜め込むことなく己の怒りを爆発させられるようになった。

 

 確かに彼女は前世人間であり、まだ人間だった頃の倫理観が残っている。じゃれる時はその倫理観もどこかに消えてしまうものの、普段は残っていて判断基準になってくれている。

 

「ゴグルルルルルルルルルルアアアァァァァァァァァァァァァァーーーーッ!!!!」

 

 辿異種ティガレックスを殺した、恐怖を取り込んだことで会得した破壊能力を持つ雄叫びが放たれ、直線上にあるもの全てを吹き飛ばしていく。

 オートマタ兵士も小型鳥竜種も塵一つ残らず、建築途中である施設の正面壁面に風穴を穿つ。

 

 前世の倫理観が判断基準になっているが、カイザーコーポレーションとそこに与する者達に対しては話が別だ。

 

 ゲームにおいては『ストーリー上で少女たちが乗り越える敵』として用意された、いわば『敵として生み出された存在』。

 腹が立ったとしてもそれはストーリーを展開する上で打破されるべき敵として用意されたが故の立ち回りであり、イラつかされはしたけどまだギリギリ認可出来た。

 だが、この世界ではカイザーコーポレーションも実際に生きた奴等によって形成・運営されている存在。己の頭で考え、心で決め、悪い事をやって私腹を肥やすと己の意思で決めた奴等が取り扱っている。

 

「ごぐるるるるぁ……」

 

 大切な人たち(元生徒たち)を苦しめるのであれば、そしてそれが未来有望な子供たちを食い物にする下劣な大人であれば、ジンは躊躇などしない。

 彼女達は前世の彼女のように、特に夢も目的も無しに漠然と生きてきた怠惰な子供たちでは無い。懸命にその日その日を生きている輝かしい若人達だ。

 

 そんなこの世界の未来を担う子供たちから金をせしめる糞共を、己の欲を満たす為に食い物にするゴミ共を、ジンは認可出来ない。

 

「いやぁ……凄いねぇ…」

 

 ブラックマーケットの闇銀行を襲撃した時以上に荒れ狂い、暴れ回るジンの姿にホシノが感想を漏らす。

 ジンの暴れ狂い方が尋常ではなくカイザーPMC側に大打撃を与え続けていること、先の闇銀行襲撃事件によるカイザー側のジンに対する強烈な敵視のおかげで相手の対応優先度がジンに比重をかける事となり、廃校対策委員会への攻撃が手薄になっていた。

 

「今のって…大声で吹き飛ばしたってこと? そんなのあり?」

 

 ひっくり返したかまぼこのような形に抉り取られた地面と直撃を免れたオートマタ兵士の残骸、風穴を穿たれた壁面を見てセリカは顔を引き攣らせた。

 

 グラスを高音な声で割る、なんて動画を見たことはある。声が破壊能力を持つこともその動画を通して理解はしている。

 でも、これはそんなものでは無い。グラスとは硬度の差があり過ぎる金属ですら破片一つ残らずに吹き飛ばし、地面を抉り取ってしまった。

 

 初めて出会って直ぐに見せつけられたカタカタヘルメット団を壊滅させる大立ち回りやブラックマーケットの闇銀行襲撃事件の際にジンが持つ力の一端は見たが、それすらもただの一端に過ぎなかったと思い知らされる。

 

「ガアアアァァァァッ!」

 

 吠えながら右前脚を振り下ろし、3列の地面隆起を発生させて複数のオートマタ兵士と生物兵器を空へかち上げる。

 

 そこに左前脚を地面に叩き付けて隆起をより激しくし更にかち上げ、跳躍して上空にいる敵を尾で薙ぎ払って叩き落とす。

 情けの欠けらも無い凶悪な三連殺によりバラバラに砕けたオートマタ兵士、肉片となった生物兵器が砂の上に飛び散る。

 

「ジンさん……凄い怒ってます」

 

 既にオートマタとしての機能を喪失してスクラップと化しているオートマタ兵士の残骸を執拗に叩き付け、咆哮を放つジンの姿からとてつもない『怒り』の感情を感じ取ったノノミは、肩を抱いて震えていた。

 

 ジンは別に全てのモンスターが好きという訳では無い。オロミドロや極限化ガララアジャラ亜種のような世間一般で『クソモンス』と呼ばれるモンスターは苦手だし、ギギネブラやギィギは気持ち悪くて無理だった。

 狩猟の邪魔をしてくる小型モンスターも嫌いだった。カイザーPMCの手により機械を取り付けられ操られているジャギィも嫌いな部類に属している。

 

 だが、それでもジンはジャギィの扱いに対して怒り狂っていた。

 

 自分たちの長であるドスジャギィや生息域に住まう他の大型モンスターといった生態系を形成する上で従わざるを得ない存在ではない、人間の欲望によって従わされる扱いが気に入らなかった。

 本来の生態から外れている行為を強いられている事に対して最初は怒っていたが、攻撃の際にジャギィと触れたことで際限ない人間の欲深さを知り、カイザーPMCが引き起こした卑劣極まりない蛮行へと怒りの矛先が移った。

 

「これ……冷たい…」

 

 ジンの持つ比類なき怪力によって爆発四散した生物兵器の肉片に触れたシロコが、ついさっきまで動いていたとは思えないくらいに冷え切っている事に顔を顰めた。

 

 武装込みでなら100キロを超えるであろうオートマタ兵士を乗せて足場の悪い砂漠を駆け回っているのだから、その過酷な運動量に比例して肉体は熱を帯びていく。

 

 それが死亡してしまったとなれば発熱する機能が失われ、肉体が冷えていくのは至極当然。

 しかし、この肉片は数秒前まで過酷な運動をしていたはずなのに()()()()()()()()()()

 

「冷たいって……まさか!? アヤネ! 敵の動きってどんな感じ!?」

 

 先生の背筋にゾクリと寒気が走った。

 

 確信はない。でも散々動き回っておきながら冷たいという感想が現れたとなれば、有り得ないとは切り捨てられない。

 震えた声でアヤネに確認を求める。現地にいる先生とは違い、アビドス高等学校校舎から現場を見ているアヤネはより客観的な視線で事態の動きを観察することが出来ていた。

 

『列を成して突撃してきています! 余程訓練されているのでしょうか……列を乱す事も、ジンさんに対して怯む様子も見られません!』

 

 ジャギィは本来人間と相容れる生物ではない。調教を受け入れるより、調教を試みる相手を食い殺そうとするくらいの凶暴性がある。

 

 そんな生物がオートマタ兵士を背に乗せることに嫌悪感を抱いていない。

 自分たちが遥かに強大な力を保有している捕食者のジンに向けて、長であるドスジャギィもいない状況で突き進んで行くのは普通では無い。

 

「やっぱりか! カンナ! あの小型生物を狙ってみて!」

 

 アイアンアサルトに機関竜弾を装填したカンナによる弾幕攻撃が放たれ、ジャギィたちに襲い掛かるが回避する素振りが()()()()()

 

 肉体に穴を穿たれて倒れ込むと、足掻くことももがくこともなく静かに横たわる。

 最初から死ぬことを望んでいるか、死ぬというものが何か分からないかのような静かな最期だ。

 

 カンナもその倒れ方に気味悪さを感じた。

 むしろこの場にいる人物の中でジンを除けば、最も小型モンスター・大型モンスターとの交戦経験がある彼女だからこそ、その気味悪さは一際強く感じられた。

 

「なんだコイツら……」

 

 足元に倒れ込んできたジャギィの瞳には生気がない。当然だ、死んでいるのだから。

 

 でも、何か違う。

 死にたての瞳では無い、まるでずっと前に既に()()()()()()()()

 

「…多分、操ってるんじゃない。いや、操ってるのは操ってるんだけど……この生き物達に、意識はないんだと思う」

 

 考えたくはないが、それしか考えられない。

 

 ジャギィの小柄ながらも重量のあるオートマタ兵士を背中に乗せて駆け回れるタフネスと、足場の悪い砂漠においても問題ない挙動を可能とする身体能力。

 分厚い装甲でも傷を付けることが出来る鉤爪と牙、群れでの生活と狩りを行う性質上個体数も相当に多い。

 

 それ等を兵器として生かせるのであれば魅力的ではあるが、有り余る危険性がそれを許さない。

 

 なら、触れ方を変えれば良い。

 何も無理に調教して従わせなくとも、その()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

「先生…それってまさか」

 

「うん。カイザーPMCは機械で()()()()()()()()()()。モンスターの()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 自分を殺せる弾幕を前にしても怯むどころか回避行動すら取らず、ジンという捕食者の存在を認識しても止まらず、弾丸により動けなくなったとなれば即座に冷え切った骸に変化する。

 

 そんなもの、既に死亡している亡骸が動かされているとしか説明が付かなかった。

 

「ウオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーッ!!!!!!!!」

 

 雄叫びとも遠吠えとも異なる鳴き声。

 

 悲痛さを帯びたその声は慟哭と怒声。

 

 人間の醜い欲望によって殺され、死後の亡骸すらも弄ばれるジャギィの哀れな姿に対する慟哭。

 

 醜い欲望に突き動かされてジャギィを殺し、その果てに得た亡骸すらも玩具にするカイザーコーポレーションに対しての怒声。

 

「グルルルオオオオオオオオォォォォォォォォォォーーーーーーンッ!!!!」

 

 地面を何度も何度も叩き付け、体を捻って首を振り回しながら怒りと悲しみに満ちた鳴き声を放ち続ける。

 

 それは自分が穿った施設の大穴から這い出てきたヒナからの報告にもあった存在、ジンによって仕留められた後に『先生をアビドス高等学校に送り届ける』という任務を優先する為に放置していた因縁の相手にも向けられていた。

 

 カイザーPMCの頂点に立つ人物。

 大柄のロボットであるカイザーPMC理事が跨る機械の左目と鋼鉄の板で塞がれた右後頭部が特徴的な大型モンスター、辿異種ティガレックスに向けても。

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