狂犬が拾った雷狼竜、元人につき   作:ジンオウガを飼いたい

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ミラ一族「おっ?」


継承する滅雷

 ジンが目的を果たす為に捕食せずに放置していた辿異種ティガレックスの死骸を発見したカイザーPMCは、その死骸を兵器転用することに決めた。

 既にアビドス砂漠での活動を邪魔してくる小型生物の死骸を利用しての実験、及び兵器転用のノウハウは得ている。

 その為辿異種ティガレックスの死骸を兵器として活用する為の準備、脳に変わる指揮系統となる機械の開発・取り付けやそこから伝達される指示を全身の各所に届ける配線施行等は滞りなく行えていた。

 

  そうして開発された生物兵器、性能試験によってありとあらゆるものを破壊し引き裂く鉤爪を持つことから『壊裂竜』と名付けられた辿異種ティガレックス。

 弾丸を通さず、爆薬すらも極わずかな擦り傷程度に押さえ込んでしまう頑強な甲殻と鱗も極めて良質であり、生物兵器としての性能の高さからカイザーPMCの頂点であるカイザーPMC理事のみに使用を許された最高級の兵器と銘打たれていた。

 

 辿異種ティガレックスの最大の武器は鉤爪と破壊能力を持つ声だ。前脚を振り抜くと放たれた真空波が相手に癒え無い傷を刻み込み、その怒声はありとあらゆるものを粉砕する。

 弾丸すら通さないジンの甲殻を容易に叩き割り、己より大柄である彼女を振り回せる力強さも武器と言えよう。

 

「グルルルオオオオオオオオッ!!!!」

 

 それが()()()()()()()()()()()()()()()

 施設を再建しなければならないほどに破壊する力を制御するのに苦労した末、カイザーPMC理事が思う通りに動かせる最高の生物兵器でありながら、その性能を活かしきれずに。

 

 ブラックマーケットで商売を行っていた闇銀行を破壊した相手であるオオカミ、ジンを確実に始末することが出来ると見込んだカイザーコーポレーションは、この生物兵器の開発に多額の資金を注ぎ込んでいた。

 死骸の内臓から取り出された発電能力を持つ甲殻と帯電能力に富む毛を解析・参考にして作り上げた試作型レールカノンや電磁シールド発生装置といった追加装備も取り付けてあるというのに、登場から数分しか保たなかった。

 

 当然だ。カイザーPMC理事はジンを恐れていたのだから。

 闇銀行を容易く廃墟へ作り替えてしまった化け物を恐れ、近寄りはせずに肉体に取り付けた銃火器での攻撃に頼った。

 

 ジンの甲殻を叩き割れる鉤爪も、ジンの巨体を振り回せる怪力も、何も活かせなかった。

 大声を武器にするという生態も知らなかったせいで、ティガレックスの最大の武器でもある咆哮を攻撃に使うことも出来なかった。

 

 口から赤い稲妻を纏ったドス黒いスモッグのようなものを漏らして顔を覆い、その中から真紅に染まる眼光を覗かせる巨大なオオカミによって、最強の兵器だと思い込んでいた冒涜の痕跡が破壊されていく。

 甲殻の下に存在する筋肉が極限の怒りに呼応してパンプアップを起こし、肉体の全体的な威圧感も跳ね上がっている。

 

「馬鹿なッ! この兵器は最強の!」

 

「ガルグアアアアアアァァァァァァァァァァッ!!!!」

 

 数度に渡る試験運用で極めて良い成果を収め続けた生物兵器が手も足も出ずに破壊されていくことを受け入れられない、自分の欲望を形にしただけの欠陥兵器だと知らないカイザーPMC理事の声に、ジンはより苛烈に怒り狂う。

 尾を振り抜いて辿異種ティガレックスの側頭部を殴打し、転倒させる。意思もなければ痛覚もない、うめくことも無くかつて殺し合った相手は倒れ込む。

 

 許せなかった。懸命に生きた生物の死骸を私利私欲の為に切り刻み、弄んだカイザーが許せなかった。

 辿異種ティガレックスだけでは無い。カイザーPMCは試験運用と称して他の大型モンスターをも殺し、その死骸を兵器として作り替えていた。

 

 雌火竜リオレイア、角竜ディアブロス、斬竜ディノバルド、千刃竜セルレギオスといった生態系において上位に位置する大型モンスターですらカイザーPMCは機械化した辿異種ティガレックスによって殺害。

 死体を機械によって強引に操り、施設内部にまでカイザーPMC理事が押し込まれた際に解き放ってジンを襲った。

 

「あれだけの機竜シリーズも全滅!? 認めない! 認めてなるものか!」

 

 リオレイアはサマーソルトを真っ向から噛み付いて受け止め、地面に引き落とした後に頭を叩き潰した。

 

 ディアブロスは角を用いた突進をその角に噛み付くことで受け止め、わざと激しく横転することで首を捻り切った。

 

 ディノバルドは振り下ろされる尾を角で逸らして地面に埋没させ、背を駆け上って脳天に角を突き刺した。

 

 セルレギオスは急降下しての蹴り付けを放つ前に飛び掛ることで無力化し、首に噛み付いた状態で地面に落下して顎の力と衝撃で食い千切った。

 

 壊裂竜の損傷を避ける為にもこの4頭で大型モンスターの死骸回収は中止していたが、その4頭全てがジンによって葬り去られてしまった。

 例え意思も痛覚も残っていないのだとしても、死の瞬間という苦しみがなるべく早く終わるようにと頭部を破壊して。

 

 そして亡骸が再度兵器として使わせないない為に電撃が浴びせられ、ボロボロに炭化させられてしまいこの世から形すら無くなった。

 

「グギュゴルルルルッ! ゴルルガゥッ!」

 

 ジンはモンスター。人間にとっては未知の存在、即ち恐怖。

 機械によって操られたモンスター達も同じく恐怖である。

 

 そして恐怖と恐怖がぶつかるとなれば、起こり得る結末は一つだけだ。

 

 機械化したモンスター達(片方の恐怖)ジンというモンスター(もう片方の恐怖)によって打ち倒される(飲み込まれる)

 飲み込む、それ即ち『同化』であり『継承』である。

 

「ゴグルルァァァヴ! ゴガゥ、ギュグラルル!」

 

 リオレイアからは尾に生える毒棘を。

 ディアブロスからは角の肥大化と湾曲を。

 ディノバルドからは尾の側面を覆う甲殻の刃化を。

 セルレギオスからは頭頂部から伸びる角を。

 

 彼等という恐怖を打ち負かし、取り込んだジンは彼等を継承し、より激しい恐怖へとその地位を高める。

 金色の雷を白色へと変色させ、頭部への打撃によりカイザーPMC理事からの指示を受け付ける役割とそれを全身へ伝達する役割を兼ねる機械が破壊された事で動けなくなった辿異種ティガレックスを見下ろしている。

 

「凄いな……まるで自然現象を見ているみたいだ」

 

 地面に転げ落ちたカイザーPMC理事へ襲い掛かるのではなく、赤い稲妻を帯びた黒いモヤと眼光に隠れる静かな瞳で見つめるジンの姿にカンナは声を漏らした。

 

 競い合い、殺し合い、敗者が勝者の糧として取り込まれる。

 人間が人間という生物として長い年月を重ねていくうちに忘れ去った野生動物としての生き方、その生き方が形作る自然の在り方。

 

 それをジンが体現しているように、神秘的とすらカンナには見えていた。

 

「そうだね…良いも悪いも無い、自然現象そのものだ」

 

 先生も同様の感想を抱きながらも、その心中は穏やかではない。

 

 ジンの怒り様は常軌を逸している。闇銀行を襲撃した際も、何かしら事情があったのだとしてもやり過ぎだと思える程に怒り狂っていた。

 

 その有り様はまるで善も悪もない、恩恵や脅威という結果に与えられるラベルすらも受け付けないもの。

 自然現象が持つ『全てを無にしてしまう』という無情さ、崇高さすら感じさせられていた。

 

「な、なんなんだ……こいつは一体、なんだって言うんだ!? なんでコイツが、こんな奴が!」

 

 カイザーPMC理事はすっかり錯乱しており、その大柄な体躯を隠しきれない瓦礫の陰に転がり込んで頭を抱えていた。

 

 聞いていない。銀行を襲撃した存在がここまでの規格外な存在だなんて聞いていない。

 

 体感してしまった。自分に向けられる恐ろしい殺意を、雄大で尊大にすら感じる程に巨大な怒りを。

 自分たちが用意した何もかもを滅ぼしてしまう、眩しい純白の滅雷を。

 

 襲撃され、施設を破壊された落とし前をつけてやるという小粒程度の意地を残し、彼の頭は恐怖によって埋め尽くされていた。

 

「ゴブルルルァァァァヴッ!」

 

 瞳の雰囲気とは相反する怒りの籠った怒声を上げるジンだが、肉体は急激な変化に伴う疲労を招いている。

 素体となっている雷狼竜ジンオウガが持つ帯電状態の際は疲労に陥らないという特性も、肉体が急速に作り変わっていくのに伴う疲労は掻き消せなかった。

 

 怒りだけではなく、疲労しているという弱みをカイザーPMC理事にも先生たちにも悟らせまいという意地が込められた怒声。

 それでも、肉体は疲労に抗えない。割れそうな頭痛が止まらない。心臓の異常な拍動が静まらない。

 

 がくりと傾き、慌てて踏ん張ることで途切れ掛けた意識を繋ぐ。

 

まだ、倒れられない

 

 頭を振って繋いだ意識を鮮明にし、倒れ伏す辿異種ティガレックスを見下ろす。

 

 モンスターハンターフロンティアはしっかり遊んだことがないにしても、練り込まれている設定が好きで全てのモンスターを知っていた。

 父に似て厳格で気難しかった兄が楽しそうにプレイする姿に、感動すら感じさせられた。

 

 シロコを狙った事は許せなくても、大好きなゲームが脈々と続けてきた系譜の中の一つを彩ってくれた存在でもある。

 その恩への感謝と弄ばれた悲劇への労いをしないままに倒れるなんて、ジンには出来なかった。

 

おやすみ。どうか、ゆっくりと休んでね。

 

「ゴガルルルル……グオォォォォォォオォォンッ!

 

 動かない辿異種ティガレックスの魂が静かで安らかに眠れることを願いながら放たれた白い雷が、弄ばれた肉体を影も形も残らず焼き尽くす。

 弱りを感じさせない咆哮は乾き切ったアビドス砂漠へと轟渡り、恐怖によって限界を迎え意識を失う直前のカイザーPMC理事が電話相手に放った叫びすら掻き消した。

 

 一度目の殺し合いで、ジンは辿異種ティガレックスの武器である咆哮を得た。

 そして今回。二度目の殺し合いで、自分を苦しめた辿異種ティガレックスの鉤爪を継承した。

 

 辿異種ティガレックスとジンが集中して戦えるようにオートマタ兵士とジャギィを相手にしつつ、ジンの放つ放電に巻き込まれるのを回避する為に施設の外にいたホシノ達の横をジンが通り過ぎる。

 

 施設を跡形もなく破壊し尽くしたいが、それでは後々のストーリー展開が歪む。

 既にジン(自分)という本来存在しない生物が介入してしまった。これ以上引っ掻き回しては、自分の知らない展開へと進みかねない。

 

 そうなれば対応出来ない恐れがあるからジンは施設の破壊を堪えた。

 カイザーPMC理事の殺害を断念した。

 

「……」

 

 誰も、何も言わない。

 

 恐ろしくないわけが無い。闇銀行を襲撃した時以上の暴れぶりを見せ付けられて、恐ろしく感じないわけが無い。

 

 でも拒絶出来ない。あのバカっぽいまん丸お目目と無邪気にじゃれついてくる姿が脳裏に焼き付いていて、遠ざけたいとも思えない。

 

 そんな彼女達の視線を浴びながら、ジンは即席ソリの牽引用ロープを咥えて『乗れ』と言うように短く唸る。

 黒いモヤを消して、今まで何度も見てきたあのまん丸お目目で。

 

「……」

 

 乗った後も、誰も何も喋らない。カイザーPMC理事の最後の悪あがきによって借金の金利が跳ね上げられていることにも気付けない程の重い沈黙がのしかかる。

 

 彼女達が声を発したのは、アビドス高等学校までソリを牽引してくれたジンが校舎屋上へと飛び乗った後に倒れ伏して動かなくなった時の困惑の声だった。

 

 そこからジンは一晩を、死んでしまったかのように静かに眠り続けた。

 ホシノとカンナがアビドス高等学校から立ち去ってしまったことにすら気付かない程に深く、深く、深く……

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