狂犬が拾った雷狼竜、元人につき   作:ジンオウガを飼いたい

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増援確保に奔走する雷狼竜?

 私たちが街の異変に気付いたのはハルカが発したものではない爆発音と逃げ惑う人達の悲鳴、あの聞き慣れた唸り声だった。

 

 低くて深い唸り声。少し違和感はあったけど、それがジンの物だと気付くのにそう時間は掛からなかった。

 新たな居場所を探そうと準備をしていた私たちだったけど、ジンの唸り声を聞いたら最後に顔が見たくなったんだよ。

 

 見た目は怖いけど、とっても優しい子。私たちに甘えるのが大好きで、甘えている時は本当に楽しそうに身を委ねてくれていた。

 

「ゴグルルルアアアアアアッ!」

 

 そんな子が、本気で怒鳴っていた。機械仕掛けなオートマタ兵士の悲鳴と、地面を叩き割る轟音。

 逃げ惑う人達の悲鳴が戸惑い混じりの感謝へと変わる、日常ではどれ一つとして聞くはずがない音の数々。

 

 何が起きているのか気になって顔を出してみれば、大通りへと続くルートを埋め尽くすようなオートマタ兵士がジンの猛攻によってスクラップに作り替えられていく。

 街を攻撃しているのもオートマタ兵士で、それに対してジンは容赦の片鱗すらも感じられない猛攻を仕掛けていく。

 

「何あれ!? ジンってあんな感じだったかしら!?」

 

「いやぁ……あんなじゃなかったよね?」

 

「はい…なんか、以前よりも…こう……」

 

「随分と厳つくなったね」

 

 社長やムツキたちの反応も無理ないよ。変わり過ぎだもん。

 

 棘みたいなのが生えて横薙ぎに振り回せば相手を切断出来そうな形に変化した尾とか、左右のサイズ差はそのままに太くなり湾曲した角とか、その間に反り立っている刀みたいな第三の角とか、真っ白な雷とか。

 

 私が知るジンも体格とか色味とか諸々の兼ね合いで相当に厳つい容姿をしていたけど、それの厳つさを軽々と超えてきた。

 

 しかも……なんか、気配が変だ。

 いや、怪物の気配なんだから変なのは当たり前なんだけど。なんだろう、気配を放っているのはジンだけなのに、そのジンの気配の中から更に複数の気配を感じる……みたいな。

 

 そんなのが大暴れしているんだからオートマタ兵士なんかじゃ相手にならないし、オートマタ兵士の破壊工作に巻き込まれた住民たちが困惑しちゃうのも無理のない話だね。

 

「ゴグルルルル……ゴグルアァァヴ!」

 

 最後のオートマタ兵士を踏み潰したジンは勝ち名乗りとも、忌々しいものを踏み潰してしまった事への嫌悪感を示しているとも取れる唸り声を放った。

 そして何度も頭を斜め後方へと振り上げる仕草をする。あれは避難を促している……のかな。

 

 攻撃によって逃げ惑っていた人達からすれば自分たちを助けた巨大な生物なんて、どんなにパニックになっていたとしても目に付く存在。

 それが避難しろと仕草で訴えていれば嫌でも視界に入ってくる。ジンの後方へと雪崩込むように人混みが移動していく。

 

 それを見下ろしながらジンは鼻をヒクヒクさせ、周囲をキョロキョロと見回す。

 オートマタ兵士の破壊行為と銃の乱射によって周囲は土埃と火薬の匂いが充満しているけど、それでもジンの嗅覚は誤魔化せない。

 

 私たちの匂いを覚えていたらしく、人混みから離れた位置にいた私たちの方へと顔を向けてきた。

 鋭かった目付きがあの見慣れたバカっぽいまん丸お目目に変わって、苛立っているような雰囲気が吹き飛んだ。

 

「あおーんっ!」

 

 威圧感なんて欠片も感じられない雄叫びを上げたかと思うと、ジンは走り出した。

 人混みを吹き飛ばさないように跳躍して周囲の建築物や瓦礫、バス停の屋根なんかを蹴り飛ばして宙を軽やかに舞いながら私たちの目の前にすとん、と着地する。

 

 見た目の変化のせいで目の前に立たれると以前以上の圧迫感を感じちゃうけど、私の中では『大きくなったね』という感動みたいな感情の方が上回っていた。

 手を前に出してみると、巨大な口に飲み込まれてベロンベロンに舐め回される。

 

「ジン! あなた随分と大きくなったわね!」

 

「角も太くなったねぇ! かっこいい〜!」

 

「雷もき、綺麗ですね…うわっ、鉤爪凄い……」

 

 社長たちもジンに触れて変わり様に対して言及する。

 

 確かに見違えるような変化を起こしてはいるけど、ジンはジンだね。撫でられて嬉しそうに目を細めている顔を見ていると見た目が変わっても、中身が変わっていないって感じられた。

 

 撫でられるのを堪能していたジンだったけど、振り払うように身体を震わせながら私の手を吐き出した。

 そして私たちから視線を外し、ある方向へと顔を向けて動かなくなった。

 

「……銃声?」

 

 ジンが向いている方向から聞こえてくる銃声。それも銃撃戦が起こっているのが音だけでも分かるくらいに間隔が短い。

 

 一瞬また風紀委員会が私たちを捕らえるって名目で先生確保に乗り出したかとも思ったけど、それは委員長のヒナが許さないはず。

 風紀委員会の可能性は消えた。ここはアビドス高等学校の自治区で、そこを攻撃するオートマタ兵士に攻撃を仕掛ける存在となったら、私はアビドス高等学校の皆しか思い浮かばなかった。

 

「もしかして、あの子たちが戦っているの?」

 

「ごるるる……」

 

 社長の問いかけに頷いてくれた。

 

 でも、変だ。あの子たちが戦っているのに、なんでジンは助けに行かない?

 この子の戦闘能力は異常の一言に尽きる。それこそ、ヒナとタイマンを張っても余裕で勝ってしまいそうなくらい。

 

 それだけの力があって、あの子たちに対しても懐いているジンが自ら進んで助けに行かないのは不自然。

 オートマタ兵士がジンの嫌がる匂いを散布していたり超音波を放っているのかな、とも思ったけどその手の搦手に対する不快感を示しているようにも見えない。

 

「私たちじゃなきゃダメ……そう言いたいんだね?」

 

 今度は無言の頷き。

 

 自分ではダメ。何があるのかは分からないけど、ジンは自分の手で助けることを望んでいない。

 そうなれば、ここは私たちが動くしかないよね。柴関ラーメンを吹き飛ばしてしまった事に対する大将とアビドス高等学校の子たちへの謝罪にも付き合ってくれたし、風紀委員会からの攻撃を庇ってくれた恩もある。

 

「にしし! なら行くしかないよね! メガネちゃんたちを襲った罪、ぶっ殺されて償わせなきゃ!」

 

「アル様、爆薬の設置は済んでいます…あ、あとは指示さえあればいつでも!」

 

 ムツキとハルカもやる気十分。私は声には出さなかったけど、やる気に満ちる気持ちが勝手に肉体を動かしてマガジン内の弾薬を確認していた。

 

「わかったわ! ジンの頼みだもの、お代はいつか一日中撫でくり回す権利を要求するわ!」

 

「がゔっ!」

 

 アビドス高等学校の皆を助けるという依頼を引き受ける上で欠かせない代金に関してのやり取りも、普段これくらいすんなり進めば良いのにと思うくらいスムーズに終えられた。

 

 ジンが体を伏せ、角を突き出してくる。肥大化したお陰で私たち4人くらいなら問題なく乗れそうだ。

 社長、ムツキ、ハルカ、そして私の順に乗り込む。私は右角に乗ることになり、よじ登る為に手をかけて空を見上げた。

 

(……なにあれ?)

 

 何かが空を飛んでいる。

 

 飛行機なんかよりも遥かに上空を、戦闘機が紙飛行機に思えるような急旋回を繰り返して円を描きながら。

 

(綺麗……まるで紅い彗星ね)

 

 もう少し見ていたかったけど、そうもいかない。これだけのオートマタ兵士がここに居たのだから、アビドス高等学校の皆もこれと同じくらいの量を捌いているはず。

 

 角をよじ登り、しっかり掴まったことを叩いて知らせる。

 人間4人を乗せているとは思えない、軽々とした動きでジンが頭を上げた。

 

「いたぞ! あの化け物だ!」

「ほ、報告よりデカくないか!? 見た目もなんだか!」

 

 オートマタ兵士が全滅したことを聞いたのか増援が現れる。

 凄い数だね、通りを埋め尽くしている。武器も構えているし避難中の人達なんかお構い無しって感じだ。

 

 あ〜あ……私、知らないよ? ジン、怒るよ?

 

「ゴグルルルルアアアァァ……」

 

 巨大な鉤爪がアスファルトを粉砕する。身が屈められて、走り出す前の予備動作なのがわかった。

 

「皆しがみついて! 多分ジン、このまま全力疾走するつもり!」

 

 咄嗟に叫んだ。社長たちもコアラみたいに角にガッシリと手足を絡めてしがみつく。

 私もそうした。目を閉じ、全力疾走への備えが終わった次の瞬間、魂だけが置いていかれそうだと感じる程の急加速でジンが走り始めた。

 

 目なんか開けたら風圧で潰れるんじゃないかって不安があったから、開けたくても開けられなかった。

 どしんッ、どしんッ、という図体の割には軽い足音と空を斬る音、バチバチというスパーク音が耳に届く。

 

「ダメです! 稲妻のドームに弾丸が砕かれぎゃああああああ!」

 

「しびれれれられれれれられらられ」

 

 自分は弾丸を食らったところでダメージにもならないけど、私たちに当たれば怪我もする。自分狙いの攻撃が逸れて私たちに当たるのを阻止してくれているんだろう。

 

 うっすら目を開けると、ジンをすっぽりと覆うように稲妻のドームが形成されていた。それが飛来する弾丸を破壊して、触れたオートマタ兵士を感電させていく。

 

 ただでさえ頑丈な鱗と甲殻に守られてて攻撃が通らないっていうのにこんなバリアまで身に付けるなんて……前みたいに敵対したとなれば、また厄介なことになるね。

 

「ウオオォォォォォォォォォォンッ!!」

 

 走りながらジンが吠える。

 

 自分の存在を主張するように、何度も何度も。

 

 揺られながら空を見上げた。

 

 空に、まだ紅い彗星は留まっている。

 いつの間に発生したのかも分からない、真っ白な霧の中でもそれはハッキリと見えていた。

 

(私たちを見ている?)

 

 視線を感じた訳じゃないけど、何となくそんな気がした。

 

 有り得ない話だけど、根拠も無いのに有り得なく無いと思えた。

 

 何かが動いているような気配がする霧の中で、私はその紅い彗星をジンに揺られながら見上げ続けていた。

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