狂犬が拾った雷狼竜、元人につき   作:ジンオウガを飼いたい

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タイトルに狂犬ってついてる割に狂犬が出ない……


私は案外強面なのでは?雷狼竜は訝しんだ

「ガウアウッ!」

 

 いきなり甘えている感のない声を上げたものだから少女たちはびっくりしていた。

 隊長なんか唾液まみれで目を丸くして私を見上げている……ゴメンよ、あんまり美味しくなかったけど楽しかった。

 

 ゆっくりと振り返り、聞こえてくる足音の主を待ち構える。

 かなり大柄だ。人間なんかより明らかに巨大。

 

 そして足音の間隔がやけに不規則だ。ドタッ、ドタドタ……ドタ、みたいに一定のリズムが存在しない。

 傷付いている個体なのだろうか。そうなると気が立っている恐れもある。エンカウントして早々に襲いかかってくることも有り得る。

 

「隊長、足音が…」

「全員武器を取れ。セーフティはまだ外すなよ」

 

 ヴァルキューレ警察学校の生徒たちにも足音は聞こえたみたいで、全員が放り投げていた銃を拾い上げて身構える。

 嬉しいことに、私の両サイドに陣取ってくれた。じゃれ合ったのは数分だけど既に彼女たちの中で、私は仲間としてカウントされているらしい。

 

 無双の狩人が仲間を引き連れている。ゲームだったら嫌なシチュエーションだけど、実際にジンオウガとして生きる身となれば嬉しいことこの上ない。

 それも銃なんて高火力な武器まで装備してくれているのだ。嬉しい上に頼りになる。

 

(そうなると、私の立ち回りはタンク兼アタッカーかな)

 

 キヴォトス人は弾丸に対しては強固だが刃物や打撃の類には弱い変わった体質をしている。

 大型の生物にどつかれたとなれば、それも普通に彼女たちにとっては致命傷になりかねない。

 

 なら、私がやることは単純。

 出てくる大型の生物に襲いかかって気を引くことでヴァルキューレ警察学校の生徒たちに注意が向かないようにしつつ、ダメージを与えて可能なら仕留める。

 

 鼻をヒクつかせ、匂いを嗅ぐ。目の前の木々の奥から香る獣の匂いと鉄臭い匂い。

 水浴びもしていないのか汗の匂いも混ざり酷い匂いだ。

 

(やっぱり手負いの個体だ……殺し合いになるかも)

 

 ありがちな奴だ。巨大な存在を攻撃したら激高させてもっと被害がでかくなるヤツ。

 追い詰められた生き物は何をするか分からない。生き延びようとして死に物狂いで暴れるだろう。

 

 雷光虫の力を借りられない私がどれだけやれるかは分からないが、せっかく出会えた仲間を傷つけさせる訳にはいかない。

 身構え、目の前に現れるのを待つ。

 

 数分経ち、ソイツはフラフラとしながらもようやく私たちの目の前に姿を現した。

 

アヴ(えぇ)ッ!? ガウアアウ(アプトノス)!?」

 

 出てきたのは大型な小型モンスター*1、草食竜アプトノスだった。

 

 私がびっくりしているのが伝わったらしく生徒たちもびっくりして、私の声に驚いたアプトノスもびっくり。

 この場にいる全員が驚き、固まっていた。

 

(酷い傷だ……)

 

 フラフラしているのが納得出来るくらい、目の前にいるアプトノスは傷だらけだった。

 鋭い鉤爪にあちこち引っかかれ、そこから血が流れている。

 ムチで打たれた痕みたいな蚯蚓脹れも出来ているし、見るからに痛々しい。

 

 立っているのがやっと、そう思わせる佇まい。

 捕食者である私を前にして倒れれば食われる、そうなってたまるかとギリギリ残っている気力を振り絞っているのが丸見えだ。

 

(助けられないかな)

 

 私はモンハンの中でもワールドとアイスボーンをやりこんでいて、その中でアプトノスだけは殺さないように立ち回っていた。

 過去作をやっていた時はなんとも思わなかったけどワールドになってから、アプトノスがやけに可愛く思えて殺せなくなってしまった。

 

 大型モンスターを狩猟している時に間違えて攻撃した時は『ごめん!』と画面越しに謝罪したり、アプトノスを狙いに行った大型モンスターを絶対に殺したり、意味も無く探索ツアーを受注してアプトノスの背中に乗り続けたり……

 

 そんな私だから、目の前に現れた手負いの獲物を仕留めて食べるという選択肢が現れなかった。

 

「隊長…このオオカミ型モンスター、何か悩んでいます」

 

「攻撃するかどうかを見定めているんだ……下手なことをするんじゃないぞ」

 

 生徒たちも私の出方次第でアプトノスへの対応を決めるらしく動く様子はない。問答無用で襲いかかるバーサーカーじゃなくて本当に良かったよ。

 

 周囲を見回す。モンハンはモンスターを狩ることだけが全てじゃない。回復アイテムの素材をフィールドワークで狩りの合間に集める事も醍醐味の一つだ。

 

 キョロキョロと周囲を見回して、お目当ての植物を見つけた。

 細長い葉を生やし、長い茎の先端に三つ葉のクローバーを咲かせる植物。

 

 傷付いたハンターが体力を回復するのに使う飲料、回復薬の素材である薬草だ。

 

「なんだ?」

 

 隊長格の生徒の肩を顎で優しく押す。爪で押すと傷付けそうだったから。

「ガウ」

 

「……あの植物を取ってこい、と?」

 

 見つけた薬草の方に視線を向けると、隊長は私の意図を完璧に読み取ってくれた。

 ヴァルキューレ警察学校の生徒の中で隊長を任されるのだから、この手の洞察力も高いのだろうか。

 

 薬草を取ってきて欲しいのは事実。でも、あれだけじゃ足りなさそうだ。

 使う相手は大型な生き物だから素人目線で見積もっても……普通の10倍は必要だろう。

 

 それも伝えなければいけないけど、10倍だなんてどうやって伝えれば……あ、そうだ。

 

「なになに……バツと10? いや、『かける』と10か。あの植物を10株持ってこい、そういうことか!」

 

「アウ!」

 

 え、何この子頭の回転良すぎない? モンスターとコミュニケーション取れてる自覚ある?

 それと薬草って1個2個じゃなくて1株2株って数えるの? 人間だった頃の私より賢くない?

 

 困惑しつつも意図が通じた私は頷いた。それを見た隊長が他の生徒に薬草の捜索・回収を指示。

 本人も薬草を探して森の中に入っていった。

 

 匂いは覚えている。

 あまり遠くには行かず、近場で探してくれているのが分かった。

 

「……ガゥ(ねぇ)

 

 アプトノスに声をかけてみたが、種族が違うせいか通じない。ビクッと身体を震わせ、怯えた様子で私を見ている。

 

 なんだ、図体でかいだけで相当な馬鹿面オオカミだぞ?

 いくら手負いとはいえそこまで怯えなくても良いと思うんだが……あれか? 人間的視点から見ているから馬鹿面っぽく見えるだけで、自然界じゃこれでも案外コワモテなのか?

 

「ハァ……」

 

 ため息を吐き、頭上をみあげる。困った時に空を見上げるみたいな、そんな感覚だった。

 

 見えるのは私たちを覆い隠す植物の屋根。気持ち良い木漏れ日を生み出すその屋根と、屋根を生み出す木々の枝に実る果物。

 

 ん、待てよ? 果物自生してるの?

 

「…ガァウッ!」

 

 そうとなれば私も動こう。

 跳躍して木の幹を蹴り、3角飛びの要領で生えていた果物を口に咥えて枝からもぎ取る。

 

 それをアプトノスの前に置いて、爪を使って半分にカット。

 まさか捕食者から果物を貰うなんて思いもしなかったアプトノスは困惑してカチコチに固まっていたけど、横に腰を下ろして背中の上に尾を乗せて無理矢理座らせた。

 

 痛かったのか小さく呻かれて少し罪悪感が湧いた。

 でも仕方ないじゃん。言葉通じないんだし。

 

「ガグッ」

 

 本当に食べて良いのか、食べている隙に食う気じゃないのか、そんな疑念が含まれている視線を向けてくるアプトノス。

 失礼だな、そんなことする訳ないじゃないか。とは思っても言葉にした所で通じはしない。

 

 せめて態度で示そうと、私はアプトノスから顔を背けた。そのまま伏せて、寝たフリを決め込む。

 え、この場面で寝る?と言いたげな視線をひしひしと感じながらも寝たフリを続行。

 

 ここまですれば騙す気が無いことくらい伝わるだろう。野生に生きるアプトノスは臆病な性格をしているし、この手の相手の感情には敏感なはず。

 

      シャクッ

 

 果実を噛み潰す音が聞こえた。食べてくれたらしい。

 

 そうなれば、果実一つでは足りないだろう。もう少し集めてこようかと思った矢先、生徒たちが明らかに10株どころじゃない数の薬草を両脇に抱えて戻って来た。

 

 なんか、凄いいい笑顔してる。いい仕事したぜぇ、みたいな。

 しかも隊長は大きめな岩も持ってきたし。

 

「ハァ!ハァ!集めたぞ!すりつぶす用の土台になる石も持ってきた!」

 

 ……何この子、優秀過ぎない?

 

 ポカーンとしている私とアプトノスの前に岩が置かれ、その上に集められた薬草がドサドサと積み重ねられる。

 軽く50株はあるよ……多いって。ありがたいけどさ。

 

 集めてくれたのだから有り難く有効活用させてもらおう。体を起こし、前足を上げる。

 ダイナミックお手なんかしたら薬草も岩も吹き飛んじゃう。山積みの薬草の上に前足を置いて、ゆっくりと押し潰した。

 

 グリグリと擦り付け、すり潰す。潰れた植物が放つ興味深そうに生徒たちが覗き込んでくるのがなんだか微笑ましい。

 

「これは……傷薬の類か。それでその生物の傷を癒そう、と」

 

「隊長。その生物、果物を食べてます。多分頭上に生えてるのをオオカミ型モンスターが取って与えたものかと」

 

「わかった。全員、あの果実を採取しろ! お客様は大柄で大食漢ときた! 大量にな!」

 

 もう怖いよこの人たち! 洞察力もすごいのに行動力も凄い!

 

 というか木登り早! 何あの子たち猿の遺伝子か何か入ってるの!?

 

 びっくりさせられながらも薬草をすり潰し、零れそうになったら鉤爪で押し戻し、丁寧に中の成分をすり出して行く。

 その間に皆は集めた果物を半分に切ってアプトノスの口元に置いて、警戒心を与えないようにかニコニコと優しい笑顔で見守っていた。

 

 シャク…シャクッ、シャク……

 

 食べる速度が上がった。私たちが本気で助けようとしているのだと理解してくれたみたいだ。

 

(こんなものかな)

 

 すり潰し終えた薬草は、すり潰す前の原型がほとんど分からないくらいになっていた。

 これを後は塗るだけだが……私の手では逆に傷付けてしまいかねない。

 

 つまり頼れるのはヴァルキューレ警察学校の生徒になるわけだが……チラッ

 

「よぉし! 全員、傷口を消毒した後にこの傷薬を手に取って傷に塗るんだ! 優しくだぞ!」

 

「「「おおお〜〜ッ!!!!」」」

 

 なんかもう、慣れた。

 

 常に持ち歩いているのか消毒液が入った霧吹きを手に、生徒たちがアプトノスを取り囲んで傷口に消毒液を吹きかけていく。

 あの独特な痛みに少し気分を害したみたいだが、私が顔を見つめると大人しくなった。

 

 やっぱりまだ怯えられている気がする……まぁいいか。それで大人しく処置を受けてくれるのなら。

 

 消毒を終えると今度は私がすり潰した薬草を手に取り、傷口に塗り込んでいく。

 手が届かない背中はアプトノスの上にロープを投げて反対側にいる生徒に掴んでもらい、そのロープをよじ登って手早く背中へ到達した。

 

(若い子ってすごいなぁ……)

 

 私も小さい頃はこんな風に元気いっぱいだったのに、気付けば随分と擦れてしまったものだよ……悲しいなぁ。

 

 アプトノスもかなり落ち着いたみたいだ。傷薬を塗り込まれるのが心地良くすらあるのか、目を閉じながら果実をもっちゃもっちゃと食べている。

 

 さて、なら私も動くとしよう。この場に相応しくない巫山戯た連中が近付いてきている。

 追い払うついでだ、少し頂くとしよう。いい加減お腹も空いたしね。

 

*1
意味不明な表現だが事実だ、10m超を小型は無理がある

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