狂犬が拾った雷狼竜、元人につき   作:ジンオウガを飼いたい

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先に言っておきますが擬人化はありませんので期待していた方はごめんなさい、擬人化NGな方は喜びの高評価をくだ(殴


霞龍

「なんだこの霧は! 煙幕か!」

 

 アビドス高等学校の自治区を襲撃し、それを迎撃する為に現れた廃校対策委員会へ現実を突き付けてやるつもりで降車したカイザーPMC理事だったが、突如として現れた霧に視界が悪化させられて声を荒げていた。

 

 一瞬。本当に一瞬だった。

 アビドス高等学校の生徒たちが出てきたという報告を受け、自分たちが如何に無駄な事をしているのか前回気絶させられた恨みを晴らす八つ当たりも兼ねて説明してやろうと思った矢先だった。

 

 視界の状態は隣にいる人が辛うじて何とか見えるくらいのものであり、オートマタ兵士たちも視界不良によって攻撃が出来ずにいる。

 こんな状態で不用意に発砲すればフレンドリーファイアを引き起こしてしまう恐れがあるからだ。

 

「いえ、それが……なにやらアビドス高等学校の生徒たちも困惑している様子で」

 

「なに?」

 

 自分たちを攻撃できないようにするアビドス高等学校の作戦かと思っていたカイザーPMC理事だったが、一人のオートマタ兵士からの報告に少し素っ頓狂に片足を踏み込んでいるような声を発した。

 

「皆、大丈夫? こんな視界状態だし不用意に発砲しないでね」

 

 先生たちも、この真っ白な霧に悩まされている。

 

 破壊行為を繰り返している大量のオートマタ兵士を先生の指揮の下なぎ倒していき、ある程度片付けたかなというところで突如発生した濃霧。

 廃校対策委員会の誰もが『誰かが用意したものなのかな』と思っていたが、皆が揃って困惑している様子を見せて先生やアヤネに状況確認を求めた事で、そうでは無いと理解する。

 

「大丈夫だけど…なんなのこの霧! 前見えないじゃない!」

 

「セリカちゃん! あんまり大きい声出しちゃダメですよ〜!」

 

「ん、ノノミ。それは私の頭」

 

 大好きなアビドス高等学校の自治区で好き勝手に暴れてくれたカイザーPMCを許せないセリカは、せっかく相手の攻撃が止まってチャンスが来たのにフレンドリーファイアが起こり得る状況のせいで攻撃できないことに苛立ちを隠せない。

 ノノミになだめられなければ、そのまま一人で突っ込んで行って銃撃を始めていたかもしれない。もっとも、ノノミが撫でているのはセリカではなくシロコの頭なのだが。

 

 誰かが用意したトラップでは無いのなら、カイザーPMCが自分たちを撹乱させる為に用意したのかとも考えたがオートマタ兵士たちも困惑している状態でありそれも違うと理解した。

 誰かが用意したのではなく自然発生したもの。自然現象であると判断するしか無かったが、それは考えにくい。

 

(砂漠の近くで霧なんて起こるの?)

 

 アビドスの土地は大多数が数十年前の砂嵐によって砂に飲まれ、乾燥した砂漠風な気候になっている。

 空気も乾燥しており気温も高め。とてもではないが、霧が発生する気象条件を満たしているとはいえない。

 

 誰かが用意したものでもカイザーPMCが用意したものでも無いとなれば、気象条件を満たしていないとはいえ自然現象として片付けるしかない。

 そうでもなければ、こんな()()()()()()()()()()()()に対しての説明が付かないから。

 

「ひゃん!? ちょ、ちょっと! 私の耳触ったの誰!? ベタベタするんだけど!」

 

 セリカが悲鳴を上げた。視界不良であり警戒心が強まっていた所に濡れた手で耳に触れられたのだ。悲鳴が上がって当然である。

 

 こんな時にイタズラするなんてふざけているのか、とたいそうご立腹なセリカだが皆の反応がおかしい事に気付き、首を傾げることになる。

 

「こんな時にそんなイタズラしませんよ〜?」

 

「私もやってない」

 

「変な事して撃たれたら私死ぬからなぁ……」

 

 この場にいる誰もが、イタズラをしていないと弁明した。

 

 それも不自然だし、何よりもベタベタするというのがまずおかしい。

 ここにベタつくような代物なんてあるわけが無い。校舎に侵入しようとしてきたオートマタ兵士を目覚めたジンが食い止めている間に市街地を目指して飛び出してきたのだから、スライムみたいな玩具を用意する暇さえなかった。

 

 ジンの唾液と違って不快感のあるベタついた液体が何処から現れたものなのか、誰も知らないのだ。

 

「きゃっ!?」

 

 今度はノノミが悲鳴を上げた。突然グンッと体が前に引っ張られ、たまたま隣にいたシロコが背後に回って引っ張ってくれなかったらそのまま転倒していただろう。

 

「シ、シロコちゃん……今の、見ました?」

 

「うん…()()()()()()()()()

 

 見えない何かが居る。そうシロコが判断したのは、ノノミの愛銃であるリトルマシンガンVが有り得ない挙動で霧の中に消えたからだ。

 

 普通、転びかけた拍子に持っていたものを投げてしまったのであれば弧を描いて飛んでいくはず。あるいは突然の出来事に驚いてぶん投げてしまうかくらいだろう。

 それなのにリトルマシンガンVはノノミの手から離れて地面に落ちた後、何かが持ち上げて水平移動させたような挙動で霧の中へと消えてしまった。

 

 普通では無い。見えない何かが自分たちの周りにいて、それがノノミの愛銃を持ち去ったとしか考えられなかった。

 

「ノノミ先輩!? 大丈ぶへっ!?」

 

 ノノミの悲鳴を聞いて駆け寄ろうとしたセリカが何かに激突する。顔面から突っ込み、完全に予想外だったせいで年頃の女子高生が出して良いものでは無い声を発しながら尻もちを着いた。

 

 おかしい。セリカは目を瞑ってがむしゃらに走ったのではなくしっかりと目を開けていた。

 周囲を警戒しつつ走ったこともあり激突した時は前方への注意がたまたま疎かになるタイミングではあったものの、それでも視界の端で『前方には何も無い』ことを確認していた。

 

 それなのに、彼女は何かに激突して尻もちを着いている。

 目の前には何も無かったはずなのに。

 

「これは……」

 

 気象条件を満たしていないのに発生する濃霧。

 

 セリカの耳に触れ、激突されたもの。

 

 ノノミの銃を奪ったもの。

 

 非現実的なシチュエーションといい、シロコの発言こそがこの場の異常さを産み出した元凶の正体を見事言い当てていた。

 その答え合わせをするように、先生の目の前の空間が歪んだ。

 

「ッ!」

 

 目と鼻の先に現れた巨大な目。半透明で、ギョロギョロと動き回り、意志を感じられない異質な雰囲気を纏う目玉。

 

 長大な肉体は廃校対策委員会の皆の間を縫うように置かれており、セリカが激突したのはこの透明な生物の胴体だった。

 口から伸びている長い舌には粘性のある唾液が纏わり付き、ノノミの愛銃が絡め取られている。

 

 セリカの耳を舐めたのも、ノノミを転倒させようとしたのも、武器を奪ったのも全てはこの半透明の生物、霞龍オオナズチの仕業だった。

 

『Kukorrrrrrrr』

 

 鳴き声とも唸り声とも取れる声を発しながら、半透明の生物が廃校対策委員会を見回す。

 

 突然こんな生物が現れたのだから普通なら驚き、固まってしまう。

 だが彼女たちはそうでは無い。警戒心を高め、身を寄せ合い、身構えている。

 

 姿を完全に消してしまう大型モンスターと出会うのは初めてだが、それを除けばただの大型モンスター。

 毒を操ることも自分たちが既に視神経へ作用する毒を盛られていることも知らない彼女達は、ジンという前例があるお陰で固まることは回避出来ていた。

 

『……Korrrrr』

 

 翼を大きくはばたかせ、霧を払う。透明化も解除し、その全容を晒し出す。

 

 それでも先生たちは固まらず、怯まず、惑わない。

 

「全員散開! フォロー可能な位置取りをしつつ警戒!」

 

 先生も、シロコたちも、直感で理解していた。

 固まっているのはまずい。相手はその気になれば、固まっている自分たちをそのままなぎ払えてしまうだけの力が、ジンに匹敵する力があると。

 

 弾丸を一発でも喰らえば死にかねない脆弱な肉体の先生による散開の指示を、誰も何も言わずに遂行する。

 その姿に、オオナズチは感心していた。

 

 ()()()()()()

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 空を見上げ、飛び回っている銀翼の凶星(天彗龍バルファルク)に向けて舌を振るって合図を出す。

 彼女達は役に立つ。永い年月を生きてものを見る目が肥えているオオナズチの判断にバルファルクは納得し、誰にも気付かれないまま飛び去って行く。

 

「なっ、なんだあの化け物は!?」

 

「構えろっ! 理事を守れ!」

 

 それに対して……この甲殻に包まれた二足歩行生物?機械?はダメだ。

 

 目の前に鎮座する見定め役を見て狼狽え、ザワついている。

 どうするべきか分からず、取り敢えずといった様子で理事と呼ばれた大柄な個体を守ろうとしている。

 

 確かに、自分たちを束ねる存在を守ることは大事だ。それが群れとして生存確率を上げる事に繋がる。

 だが相手を見て自分たちの長を大挙して守るか打って出るかを適切に判断しなければ、群れを一網打尽にされて全滅してしまう。

 

 その見極めが出来ないのであれば、この先には必要ない。

 

殺してしまおう

 

 群れも大した強さは無い。守られている長も強者ではない。

 身なりだけは一丁前でも力が無いのなら、我が身を守り相手を破壊する力がないのであれば、それは役立たずに過ぎない。

 

 舌を振り回す。空を割く音を伴って、打ち据えられたオートマタ兵士たちが粉々に粉砕される。

 

「ひいっ!?」

 

 間一髪、しゃがむことで舌による攻撃をかわしたカイザーPMC理事だが目の前にはオオナズチが迫っていた。

 

 機敏とは違う、ぬるりとした挙動で一瞬で間合いを詰められた。

 自分を見下ろす目からは意志を感じられない。言葉を投げかければ理解してくれそうな知性を感じるのに、やり取りが成立する気が微塵もしない。

 

 口が開かれる。食い殺されるのか、そんな不安が心の奥底から湧き上がってきたカイザーPMC理事は『助けてくれ』と言おうとしたものの、恐怖が喉の自由を奪っている。

 

「た、こっ、ころっ…しにっ!」

 

 助けてくれ。殺さないでくれ。死にたくない。

 

 大の大人が情けない命乞いを試みても、恐怖がそれを許してくれない。

 

 オオナズチの顔が迫る。このまま食い殺されるのか。

 命乞いも出来ず、何も出来ずに死ぬのか。

 

 オートマタ兵士も援護射撃が出来ない。下手をすれば援護対象のカイザーPMC理事に流れ弾を食らわせてしまう。

 かといって肉薄して助けるかといえば、それも出来ない。オオナズチが持つ古龍特有の威圧感に気圧され、誰も動けない。

 

「……」

 

 先生たちも同様だ。自分たちを見ていた時のオオナズチと、カイザーPMC理事を見下ろすオオナズチが纏う気配があまりにも違い過ぎる。

 

 足が動かない。辛うじて立っている、そんな錯覚を起こさせるほどの威圧感と殺気。

 

 確かにカイザーPMC理事は気に入らない相手だ。アビドス高等学校の自治区を襲い、不当に金利を引き上げ、生物を弄んだ。

 それでも殺されてしまうのは少し哀れだし、目の前で殺戮ショーが繰り広げられるのは勘弁願いたい。

 

 でも声が出ず、体も動かない。

 オオナズチを止められない。カイザーPMC理事が殺されてしまう。まだ謝罪も聞けていないのに。

 

 場の空気は緊迫しており、オオナズチの機嫌を損ねれば自分たちが次は殺されるという漠然とした確信が皆の動きを封じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グルルルルルルルオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!」

 

 物語が正しく進むことを何よりも望んでいる、あのオオカミ以外は。

 

 緊迫した空気を切り裂く大咆哮と、晴天でありながら雷鳴が鳴り響く。

 

 周囲の建築物や瓦礫を足場にし、巨体に見合わない俊敏性と身軽さを駆使しながらジンが駆け付け、オオナズチの前に降り立った。

 

 呆気にとられているカイザーPMC理事を咥えて後方に投げ飛ばすと角に乗せていた便利屋68たちに後方のカイザー陣営を相手取ってもらい、ジンは目の前にいる古龍と相対した。

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