狂犬が拾った雷狼竜、元人につき   作:ジンオウガを飼いたい

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百竜行軍

 小鳥遊ホシノを奪還すべくアビドス高等学校の廃校対策委員会が追撃を仕掛けてくるのは、カイザーPMC理事も予測していた。

 

 どれだけ絶望的な状況下に叩き落としたとしても諦め悪く、いくら駆除しても駆除しきれない羽虫のように追いかけて来る廃校対策委員会の諦めの悪さ、運の強さは彼も認めていた。

 

 故に、極めて癪だが彼も手を抜かない。掻き集められるだけの兵力を掻き集め、兵器という兵器を配備し、対デカグラマトン部隊すらも動員。

 まさに総力戦。彼が集められるだけの兵力を全て掻き集めて、追撃してくるたかだか数名の廃校対策委員会を迎え撃った。

 

 戦力の差は歴然。兵器の質でも比べるまでもなく勝っている。

 索敵範囲内に現れた際にはやけに数が多く少し不審に思ったが、裏切り者の便利屋68や寝返った元カタカタヘルメット団の面々を引き連れての即席軍だと決め付けて大して気にも止めなかった。

 

「な、なんだ……これは…!」

 

 力の差も分からずに攻め込んできた馬鹿どもを迎え撃ち、嘲笑ってやる為に現れたカイザーPMC理事だったが、今の彼は虚しいまでに乾き切った砂の上に膝を着き、目の前で繰り広げられる地獄絵図に言葉を失っていた。

 

 廃校対策委員会が引き連れていたのは即席軍なんてものでは無い。

 最高品質な兵士や兵器を用意したとしても勝ち目が無い、無数の大型モンスターたちの大群だったのだから。

 

「ギュルルォォォォッ!」

 

 緑色の竜、雌火竜リオレイアがサマーソルトを放ちオートマタ兵士を吹き飛ばす。

 

「ゴギュアァッ!」

 

 剣のような尾の竜、斬竜ディノバルドの横薙ぎが射程範囲内のもの全てを切り裂く。

 

「きゅるるるぁぁぁっ!」

 

 黄色い小柄な竜、千刃竜セルレギオスのライダーキックが地面を抉りながら薙ぎ倒していく。

 

「グオオオォォォ!」

 

 砂漠の暴君、角竜ディアブロスが巨大な双角で装甲車の車体を易々と貫く。

 

「なんだ…これは……私は夢でも、悪夢でも見ているのか!?」

 

 自分が私利私欲を満たすために殺した生物の同族が復讐に来た。知性も何もない獣が敵討ちに来た。

 

 悪夢としてはまぁまぁな出来だが、残念なことにこれは夢では無い。

 カイザーPMCにはツケを払う時が来たのだ。生物の生命と尊厳を弄び、外道の限りを尽くして気持ち良くなったツケを。

 

『グォグルルルル……ヴオオォォォォォォォンッ!』

 

 純白の稲妻を纏った巨狼が吠えると、大型モンスターたちの攻撃はより苛烈となる。

 

 カイザーPMCにとっての悪夢はまだ終わらない。

 

 赤甲獣ラングロトラとドスゲネポスが兵士を痺れさせ、そこに土砂竜ボルボロスが突っ込んで行く。

 尾晶蠍アクラ・ヴァシムと盾蟹ダイミョウザザミが地中から奇襲を仕掛け、兵士を砂の中へと引きずり込む。

 

 轟竜ティガレックスと潜口竜ハプルボッカが競い合うように兵士を噛み砕き、丸呑みにしていく。

 喰血竜バルラガルと毒妖鳥プケプケが自慢の舌を振り回し、周囲を薙ぎ払っていく。

 

「見付けた!」

 

「ホシノ先輩を返してもらいますよ!」

 

 そこに、あの忌々しいアビドス高等学校廃校対策委員会の面々が立っている。周囲の生物に襲われる様子はなく、彼女たちも安心しきった様子で銃をカイザーPMC理事に向けている。

 

 下手に動けない。彼女たちを攻撃しようとすれば周囲の化け物共が自分に牙を剥くことくらい、追い詰められていながらそれを認められない顔面真っ赤なカイザーPMC理事でも理解出来た。

 とてつもない無力感が飛来する。力はあるはずなのにそれを振るうことが出来ないもどかしさ、虚しさ、悔しさ。

 

 拳を握り締め、怒鳴り付けたいのを必死に堪えて、睨むことしか出来ない。

 

『グォラルルル……』

 

 忌々しい狼、ジンが地面を叩いて唸り声を放つ。

 

 彼女は許さない。自分の大切な元生徒である小鳥遊ホシノを騙して連れ去った上に、廃校対策委員会の皆を散々苦しめた。

 それでいて睨みつけるなんて、到底許される所業では無い。

 

 殺してやりたい程に憎いが、それをすればこの後の流れが狂う。一時の感情に身を任せ、世界に破滅をもたらす存在の降臨を早めてしまうのは避けたい。

 

 故に殺しはしないが、死ぬほど怖い目に遭わせる。

 

「くこるるるるる?」

 

「ギュイィーーーッ!」

 

 掻鳥クルルヤックと砲甲虫ゲネル・セルタス亜種が詰め寄り、見下ろす。

 

 それだけでカイザーPMC理事は睨むことすらも出来なくなり、その場で項垂れてしまった。

 今の彼の耳には、展開していた他の部隊が壊滅させられたという報告すらも届いていない。耳元から聞こえてくるはずなのに、脳がそれを処理出来ない。

 

 戦闘行為が起こるまでもなく、カイザーPMCは無数の大型モンスターたちとアビドス高等学校によって完全鎮圧されてしまった。

 

「ん、私たちの勝ち」

 

 クルルヤックとゲネル・セルタス亜種の間から姿を現したシロコが銃を突きつけ、勝利宣言をする。偉ぶるでもなく勝ち誇るでもなく、淡々と。

 

 ようやくこの面倒事に蹴りを付けられると安堵すらしているその表情に、カイザーPMC理事は不快感を感じずにはいられなかった。

 

「貴様ァ……! 私を見下ろして」

 

「あまり乱暴な言葉は使わない方が良いよ。ジンが怒ったら私でも手に負えないからね」

 

 何とか言葉を絞り出したものの、それはジンの背中から降りてきた先生の冷たい表情と声色によって止められてしまう。

 

 周囲を見回せば、既に戦闘は終結していた。自分が掻き集めた兵士も兵器も、その全てが巨大な生物たちと廃校対策委員会の手によって破壊し尽くされている。

 そして、それ等が円陣を組むようにしてカイザーPMC理事を取り囲む。逃がさないと言いたげな激しい敵意が四方八方から浴びせられ、彼の精神に圧をかけていく。 

 

『グオルルルル……』

 

 ジンの冷たい視線が孕む強烈な殺意。堪えきれない怒り。

 

 自分を容易く殺してしまえる生物に取り囲まれる恐怖、そんな生物と横並びになっている廃校対策委員会への恐怖、それ等を率いるジンと先生に対する恐怖。

 

 三重の恐怖はカイザーPMC理事の精神をゴリゴリと削り、意識を保つことがやっとなほどの精神状態へと追い込む。

 

 

 本来なら、このような現象は発生しない。

 生息地域の環境が似通っているだけで種族的共通点もなければ共生関係もない、遭遇すれば縄張り争いや一方的惨殺が行われるパワーバランスの大型モンスターたちが、一個体によって統率されて群れを成して押し寄せるなんて生物としてまずおかしい。

 

 カムラの里を襲う百竜夜行と酷似していながらも、その性質は全くの別。

 百竜夜行は風神竜イブシマキヒコによってヌシ個体へと変化した大型モンスターによって群れが率いられているが、今回の大型モンスターたちの大進撃は全くの別。

 

 様々なモンスターを下し、古龍種との接触によりヌシ個体や2つ名個体にも匹敵する存在へと成り上がった『ジン』というモンスターのもとに集い、群れを成している。

 百竜夜行が恐怖と怒りに呑まれたヌシ個体の気迫に呑まれ、あるいは感化されたモンスターの群れだとするのならば、これはジンを『従うだけの力がある』と認めた大型モンスターたちが自然と群れたものだ。

 

「…ないっ、認めないぞ……!こんな、こんな馬鹿げた光景!」

 

 カイザーPMC理事が錯乱したように叫ぶが、それも無理のない話だ。

 

 ただの大型モンスターだけでは無い。砂漠という環境に適応しているという制限を満たしている()()()()()()()()()()()()()()()()()が殺到しているのだから。

 

 ジンが大型モンスターの大群を率いるに足る存在だと認められることとなった強敵である二つ名モンスター、鏖魔ディアブロスが彼女の隣に立っていることからもこの大群の異質さが見て取れるだろう。

 

 ディアブロスの番ですら縄張りから追い出してしまうといった種族の特徴、小型モンスターにすら襲いかかる鏖魔ディアブロスの獰猛さといった性質すらも無視して群れを形成させ、それでいて一心不乱に何処かを目指すのではなくジンの目的に沿った動きを各々が考えて行動に移す。

 

 恵まれた体格やオオナズチとの接触により他のモンスターと言葉を交わす能力を得た彼女は在り方自体が異質であり、モンスターハンターを心から愛している彼女だからこそ、この百竜行軍を形成するに至った。

 

「グォルルル、ヴルルル?」

 

寝ぼけてるのか?

 

 地面を殴り付けてぼすんっ、と軽い音を立てたカイザーPMC理事をジンは嘲る。

 

 鏖魔ディアブロスとも初対面こそ殺し合い──厳密には鏖魔ディアブロスが一方的に殺しに行き、ジンがいなした──に発展したものの、最後は語り合いによって認められた。

 

 古龍種や古龍級生物といったイレギュラーな存在からは認められていないものの、ジンは砂漠環境において生態系の頂点に最も近い存在となった。

 そんな存在が『カイザーPMC気に入らないし大切な人を奪われたから奪還に手を貸してほしい』と頼めば、断れるはずがない。

 

 故に徒党を組み、群れを成し、押し掛けた。

 百竜夜行ならぬ、百竜行軍として。

 

「クソッ…こんなの、有り得ない! これは夢だ……悪い夢に違いない!」

 

 カイザーPMC理事の心は折れている。明確に言葉にはしていないものの、ジンたちを直視出来ない時点で負けを認めているようなものだ。

 

 シロコがジンに視線を送る。それに対して『え?なに?』と言いたげに普段のバカっぽいまん丸お目目になったジンだが、何を求められているのかすぐに察した。

 

「ゴホン……スゥ〜………ッ!!」

 

 咳払いをして、大きく息を吸い込む。

 

 両前足を肩幅に開き、下から上へと半円を描くように頭を動かす。

 

『ウオオオオオオオォォォォォォォォォォォォ〜〜〜〜〜〜〜ンッ!!』

 

 晴れ渡った青空に響く、ジンの勝鬨の雄叫び。

 

 周囲の空間すらも震わせるその雄叫びは、増援に向かおうとしていた他部隊を引き受けていたゲヘナ学園の風紀委員会やトリニティ総合学園所属の覆面水着団リーダー ファウストにもしっかりと聞こえていた。

 

 こうして、カイザーPMCとアビドス高等学校の間で続いていたゴタゴタはいとも容易く、実にあっさりと幕引きを迎える事になってしまった……

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