狂犬が拾った雷狼竜、元人につき   作:ジンオウガを飼いたい

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勘違いする黒服

カイザーPMCが身柄を拘束していた小鳥遊ホシノが先生たちによって救出される数十分前。

 

 妨げとなる兵士・兵器群を率いる大型モンスター達・先生と廃校対策委員会と共に撃滅したジンは砂漠を突如として離脱。

 先生たちの護衛を大型モンスター達に任せると、唖然とした先生のどうしたのかと尋ねる声に答えもせずに砂塵を巻き上げて奔走し、アビドス高等学校へと戻った。

 

 アヤネがどうしたのかと慌てて出迎えたが、頬をベロンとひと舐めして彼女とのやり取りは終了。

 

 そこで何かを探すように匂いを嗅ぎ回り、とある匂いを見つけ出すとそれを辿ってふたたび奔走。

 アビドス自治区内のとある高層建築物の前にその姿を現す。

 

 砂漠化の進行に伴う人口流出の為か、それとも何者かがジンの来訪を予見して人払いを済ませていたのか。

 太陽が燦々と照りつける真昼時でありながらその建物の周囲には人っ子一人居ない。何の変哲もない建物なのに、人がいないせいで異質な存在にも思える風貌で佇むジンは無表情だ。

 

 最後の確認とばかりに匂いを嗅ぎ、目当ての匂いがここに続いていることを再確認するとジンが動き出す。

 人間用に作られている入口に強引に肉体をねじ込む。周囲のガラスやガラス同士の間にあるフレームを破壊し、そのまま建物内部へと侵入。

 

 ホコリ一つない建物内部に鳴り響く防犯アラームをジンは気にも止めず、匂いを辿って奥へ奥へと突き進んで行く。

 その間にも肉体からは稲妻が迸っており周囲のソファや柱、発券機等の物体を片っ端から破壊する。

 

「ククク……アナタには招待状を送付していなかったのに、まさか来て頂けるとは」

 

 手元にあるパソコンに映し出される監視カメラの映像。

 

 ずらりと並ぶエレベーターの扉を忌々しそうに尾を振り抜いて破壊。

 壁面に鉤爪を突き立て、三角飛びを何度も繰り返しながら登ってくる怪物の姿を見て黒い衣服の男性は笑う。

 

 落ち着いてはいるが、ジンが現れるのは黒服としても想定外の出来事だった。

 彼としては先生と接触をしつつ、以前よりキヴォトス内で暴れているこの未知なる生物に関してはノータッチの姿勢でいるつもりだった。

 

 つまりは人通りが全く無かったのも単なる偶然。彼も『今日はやけに人通りがありませんね』なんて呑気に考えていたくらいだ。

 

「どう立ち回れば言葉を交わせるのでしょう……くくっ、楽しみです」

 

 どのように立ち回ることが最適なのか。

 ジンの関係者であり最近接触をした先生とのやり取りが参考になるかとも思えたが、すぐにそれは参考足り得ないと棄却する。

 

 何しろ相手は先生以上に話が通じない相手だ。他種族間での言語的コミュニケーションがそもそも困難だが、仮に同じ言語を用いたとしても話が通じない可能性が極めて高い。

 

 ジンは後先について考えずに行動し、暴れることが出来る相手だ。

 

 私生活の時点でも大型バスでは比較対象にすらなれない巨体で人通りのあるアビドス自治区内を動き回り、ブラック・マーケットの闇銀行襲撃事件を人目があるのに引き起こせてしまう。

 大勢の人目がある中でもお構い無しにその力を振るう事ができる相手は、言葉を用いて立ち回る黒服にとって相性最悪と言える。

 

 話にならない、意思疎通を図る必要が無いと判断されてしまえば一切の躊躇無く殺害という選択肢を取ることも十分に考えられた。

 

「さて……アナタがどう出るか、見ものですね」

 

 ネクタイの位置を意味もなく整え直し、黒服は席を立つ。

 

 座っている間に出来てしまったかもしれない衣類のヨレやシワを整えていると、彼の目の前の床が純白の雷とそれに伴う轟音によって消し飛ばされる。

 

 破壊はそこだけに留まらない。配管のむき出しな天井すらも突き破り、その更に上にある床と天井にも大きな風穴を穿ち、カーテンによって入り込む場所を失っていた太陽光に浸入口を与える。

 

『グォグルルルルル…………』

 

 床に穿たれた大穴の底から聞こえる唸り声。

 

 その数秒後、巨体に見合わない軽やかな動きでジンが大穴から飛び出してきた。

 くるりと一回転をし、大穴を黒服と挟むようにして着地。その時も重々しい着地音など伴わず、非常に静かだった。

 

「初めまして、ジンさん。アナタに関してはある程度調べが」

 

 警戒心を与えないよう気を付けつつ話しかけたつもりだった黒服の真横を稲妻が走り抜け、背後の壁を破壊する。

 

 視認などできるはずがない。眩い光の線が通り抜けたのと、肌から感じる痺れるような感覚。

 そこにジンが発電能力や発電した電力を操る能力を有しているという基本情報を加味して『真横を稲妻が走り抜けた』と推測した。

 

 冷や汗が伝った。思っていた以上に話を聞く耳を持たない。

 角に隠れて見えにくいが、ジンの瞳があるであろう位置から感じる視線には強烈な怒りの感情が宿されている。

 

『グガァウルル、ヴィヴルルルルッ!』

 

 忌々しそうに唸り、足元が崩落する恐れを考慮するつもりがないのか遠慮無しに地面を叩く。

 

言葉を交わすつもりなどない、ということですか

 

 とてもでは無いがやり取りが成立するような状態ではない。どうしようもない苛立ちや殺意に苛まれて、それを必死に堪えているといった様子だ。

 全身から解き放たれる雷も黒服への直撃は避けられており、周囲の壁面や天井は赤熱した断面を持つ破壊痕だらけになっている。

 

「そう警戒しないでください。私は今、アナタをどうこうしようという思惑はありません」

 

 これだけ警戒されてしまってはやり取りなんて成立するはずもない。

 

 椅子に腰を下ろし、黒服は宥めるような口調で話しかけた。半壊状態のテーブルに両肘をつき、身を少し乗り出すような姿勢で。

 身を乗り出すという行為は相手に対して『自分に対して興味関心がある』という印象を与える。大きく乗り出せば威圧感を与える為、少しに留めた。

 

「どうぞ、アナタもお座りください。その方が楽でしょう?」

 

 椅子はご用意できませんでしたが……と残念そうに語る黒服から邪な思惑を感じないのはジンも理解していた。本当にただ話したいだけ、それは感じ取れている。

 

 だが警戒は解かない。気を許しはしない。

 彼女は知っている。目の前にいる男が何をしようとしているのかを、ホシノを騙したことも知っている。

 

 殺したい程に憎い。大切な可愛い元生徒を騙し、苦しめ、利用するその腐った性根を許せない。

 でも殺す訳にはいかない。同じく殺したい程に憎いながらも今後の展開に欠かせないとして見逃したカイザーPMC理事よりも、黒服が物語の展開において担う役割は大きく、替えがきくものではない。

 

『………グガァウルル』

 

 湧き上がる苛立ちを必死に押さえ込み、ジンは黒服を睨み付ける。微動だにせず、じっと身を留めている。

 少しでも動いてしまえば、そのままの勢いで黒服を殺しにかかりそうだったから。

 

 この先の展開を踏まえればここで離脱されるのは非常にまずいこととなる。

 モンスターハンター世界の生物が生息し、それを悪用する輩がいることを除けば現段階において本家のストーリーと同じ流れを辿っている。

 

 それだからジンも対応が出来るのであって、本来生存しているはずの人物が脱落したことで流れが変化してしまう恐れがあるのは断じて軽視出来るものでは無い。

 だから堪えるしかない。どれだけ憎くても、許せなくても、大切な可愛い元生徒を今後も守り通す為にもコイツを脱落させるわけにはいかないのだと言い聞かせる。

 

動く気配がない…よほど私を警戒しているのでしょうか

 

 あれだけの滅茶苦茶な暴れっぷりが嘘に思えるほどに、ジンは微動だにしない。ゴルゴーンと視線を合わせてしまったのか、そんな有り得るはずがない疑問が浮かぶ程だ。

 

 気味が悪いくらいに静かな空気が流れる。張り詰めた緊張感が漂う中、黒服は目の前の怪物が何を考えて停止しているのかを考察することにした。

 声掛けにも反応は無く、軽く体を動かしてみても発生するアクションは頭を動かすくらいの微々たるもの。

 

熱い視線ですね、照れてしまいます……なんて言えば殺されそうですね

 

 射程範囲内に収めた獲物に飛びかかる隙を伺う肉食獣のような視線に、黒服の全身に怖気が走る。

 

 不用意、不必要なアクションは死に直結し得る。椅子に腰かける、その姿勢以外の動きは許さないと言われた訳でもないのに彼の頭はそう判断していた。

 まだ死ぬ訳にはいかない。解き明かしたいものはまだまだ尽きず、それを道半ばに放棄するなんて勿体ない真似は例え錯乱していたとしても出来ない。

 

 故に、黒服も動かない。ジッと見つめてくるジンを見つめ返し、何故目の前にいる怪物が沈黙しているのかを考察する。

 

あれだけ暴れたということは私に対する怒りや憎悪がある、ということでしょう

 

あれだけの力があるのだから、こうして目の前に現れずとも私を殺せていたはず

 

何故殺しにこない? 目の前にいるのに、容易く詰められる距離にいるのに、何故アレは私にその鉤爪と牙を突き立てない?

 

 ブラック・マーケットの闇銀行を破壊した際、ジンは建物を貫く雷の柱を生み出すという芸当を見せた。

 落雷とは真逆の現象、昇雷とでも呼ぶべき自然現象にも匹敵する大技。

 それを使えば建築物内部に侵入したと同時に、黒服を殺害することが出来ていたはず。

 

 それを用いないこともまた不自然だった。

 殺したという確証が得られないから直接殺すつもりなのだろうか、とも思ったがその場合は目の前で何もせずに沈黙しているのが引っかかる。

 

 殺す手段など無数にあるはずなのに。牙や鉤爪を用いずとも、ただのしかかるだけでも黒服を殺せる能力がジンにはある。

 体当たりでも尾での殴打でも前足による打撃でも、なんだって黒服を殺害する道具・手段になるのに用いない。

 

何もしない……なぜ?

 

 彼は知らない。目の前にいる生物がこの世界において生物が誕生するあらゆる法則から逸脱した経緯で生まれた生物だと。

 

 この世界が辿る進展を知り、それを守る為に溢れ出そうな殺意や憎悪を押し殺していることを。

 

 知らないからこそ気になり、推測する。

 言葉もなく、目立った反応もなく、そうなると彼に与えられる判断材料は相手の立ち姿と視線くらいしかない。

 

「……なるほど。そういう事ですか」

 

 微動だにせず、ただジッと視線を向けてくる。

 

 それだけの判断材料でジンが何を考えているのかを読み取った

 

 気になっていた

 

()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 違う、そうじゃない

 

 黒服は盛大に読み間違えていた

 

 だが無理のない読み間違いでもある。

 相手は何もせず、ただ黙って見つめてくるだけ。

 

 それを黒服は

①何もしない→意思表示

②黙って見つめてくる→同意を求めている

①+②=私は何もしないんだからお前も何もするな

 

 こういう風に頭の中で組み立ててしまった。

 

 普段の彼ならまずやらかさないような早合点だが、暴れ回るのに一切の躊躇がないジンが目の前に鎮座しているというシチュエーションが余計にコレを後押ししてしまった。

 

(なぁんか変な勘違いしたぞコイツゥ?)

 

 ジンも呆気にとられていた。自分が知る黒服というキャラクターとは乖離しているとも思える読み間違いだ。

 

 そもそも彼女が黒服の元を訪れたのに大した理由は存在しない。

 威圧してやろう的な思惑もあるにはあったが、いざ目の前にするとどうしようもない怒りや殺意が芽生えてしまってそれどころではなかった。

 

 否定しようかとも思ったが、その『否定する』という行為に移った拍子に殺しに行ってしまうのではないかという不安があって何も出来ない。

 

 それに好都合な読み間違いでもある。

 

「確かに私の動きは目障りでしょう。何もしないというのは私たちの存在意義に反するものではありますが……それによってアナタの機嫌を損ね、殺されるのは私としても喜ばしいことではありません」

 

 黒服に襲い掛かる理由が減るのであれば、それに越したことはない。

 嫌がらせ的な意味合いでの威圧だったが、もっと効果的な結果になりそうだ。

 

 物言い的には大人しくすることを受け入れそうな雰囲気だ。

 それを聞き届けてからでも撤退は良いのだが、ジンの肉体は意思と反した動きを取りたくてウズウズしている。

 

 目の前の憎い奴を殺したくて仕方がない。呆気にとられながらも消えてくれなかった殺意と憎悪が、その呆気のせいで制御下から外れかけている。

 

(撤退しますかぁ)

 

 これ以上この場にいては抑えが効かなくなる。

 

 ジンは撤退を選択した。前足を肩幅に開き、頭を右下に下げながら大きく息を吸い込む。

 

 微動だにしなかったジンがアクションを起こしたことで黒服にも緊張が走った。表情は亀裂の入った黒豆みたいな面構えのせいで分からないが、雰囲気から緊張しているのはジンにも伝わっていた。

 

『ギュオオオアアァァァァァァッ!!』

 

 普段のものとは異なる雄叫びを放ち、雷の柱を立ち登らせた。

 天井には大穴が穿たれ、巨大な風穴が生まれる。

 

 差し込む日差しに照らされたジンの肉体は白い帯電毛と稲妻、赤く煌めく傷跡によって神秘的にすら思える輝きを帯びていた。

 

「………美しい」

 

 黒服ですら見蕩れるその風貌。

 

 それを阻害する影が頭上に現れ、何が来たのかと見上げるよりも先に影の主が舞い降りる。

 

「ぎゅグルルル」

「ぎゅあうるるる?」

 

「赤い……竜?」

 

 ジンが放ったのはジンオウガのものでは無い、レウス種の咆哮だ。

 

 砂漠には彩鳥クルペッコがいる。鳴き真似をすることで他種族の大型モンスターを呼び寄せることが出来、その鳴き真似の上手さはあのイビルジョーですら呼び寄せてしまえるほど。

 

 その能力をジンは得ていた。

 クルペッコのような拡声器の役割を果たす嘴もいらない、辿異種ティガレックスを下したことで手に入れた暴力的とも言える肺活量で強引に鳴き真似を轟かせることで赤い竜、火竜リオレウスを呼び寄せた。

 

 帯電状態が解除され、逆立つ帯電毛がぺたんと横たわる。

 パンプアップと甲殻の展開で刺々しい威圧感を放っていた背中もどこか大人しい気配を帯び、そこに呼び寄せられた2頭のリオレウスが着地。

 

 鉤爪を甲殻に引っ掛け、2頭が力を合わせることでジンの超重量を誇る巨体が浮かび上がった。

 

「……まいりましたね。あの生物が空から飛来する恐れもあるということですか」

 

 別れの挨拶もなく、ジンはリオレウスに空輸される形で黒服の前から姿を消してしまった。

 

 残された黒服は緊張が解けたことで自由を取り戻した肉体を椅子に預け、穿たれた大穴から見える雲ひとつ無い青空を見上げてため息を吐くことしか出来なかった。

 

 今後の様々な計画にジンが乱入してくる恐れがある、その最悪な可能性を踏まえての計画の練り直しをする気力すら失っていた。

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