狂犬が拾った雷狼竜、元人につき   作:ジンオウガを飼いたい

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これにてアビドス編は終了です。長々と書いてしまった……パヴァーヌ編からはもう少しコンパクトにしたいと思います。出来るとは言わない。

追記 ゲネポスをギアノスと間違えてました 申し訳ありません


一変した生活

「うわはははは〜〜! はやいはや〜〜い!」

 

 私を背に乗せて走ってくれているのは小型の鳥竜種、ジャギィのジャっくん。

 

 先生とジンがアビドス高校から立ち去って数日。私が助けられてからもうそんなに経つんだなぁって時間の流れる速さを痛感するよ。

 

『私たちがやることはもうやったから』

 

 お別れの時にそう話した先生の顔は達成感と寂しさが入り交じったみたいな表情だった。人ってあんな複雑な表情できるんだなぁって少し勉強になった。

 

 もちろん、助けてくれたお礼はしたよ。

 私を助ける為にカイザーPMCに真っ向から喧嘩を売るような危険な真似までして、他校の生徒たちの協力まで取り付けるくらいに奔走してくれたって聞いた時は本当に嬉しかった。

 

 助けてくれたこと自体も嬉しいけど、何よりも私の大切な思い出とか可愛い後輩たちの拠り所であるアビドス高校を守ってくれたのが、何よりも嬉しかった。

 

『わうるるるるるるぅ〜〜』

 

 別に二度と会わないってわけじゃないのにボロボロと大号泣してたジンは、私を頭からパクッと咥えるとベロベロ舐め回すわ口の中で転がすわと散々に弄びながら別れを惜しんでくれた。

 

 助け出された時、私たちはたくさんのモンスターたちに取り囲まれていた。

 どこからどう見ても肉食性の生物がウヨウヨと犇めいて、カイザーPMCのオートマタ兵士やお高そうな兵器を制圧していた。

 

 食われる、と思ったけどそんなことは無かった。

 ジンが説得して助けに来てもらったことを説明してくれたシロコちゃんだったけど、うっかり口を滑らせて反対派的なモンスターと喧嘩して大怪我したって漏らしちゃった。

 

 それを聞いた時、ジンに対して凄く申し訳なく思ったんだ。私は何もしてあげられてないのに、ジンは私を助けるためにそこまでの怪我をした。

 それだけじゃない。ジンはいつだって私たちのためを思って動いてくれていた。ブラック・マーケットの銀行を襲ったのだって私たちを騙していた悪どい大人たちに対して怒りを剥き出しにしてくれて……嬉しかったけど、同時に悲しかったし申し訳なかった。

 

 私はジンを恐れた。大型な建築物をあっさりと更地にして、巨大なモンスターと真っ向から張り合うあの力を恐れて、ジンが優しい心を持っているのに恐れを向けた。

 

 お別れの時に怪我を見せてもらった。尾を角で突き刺されるなんて相当な大怪我なのに、既に傷口は再生が進んで埋まっている。

 甲殻とかの再生も始まっていて、ジンの持つ高い自己治癒能力を示していた。

 

 いくら治り始めているとはいえ、怪我をした事実は変わらない。その原因が私なのも変わらない。

 それなのに、ジンはケロッとしていた。

 謝罪もすんなりと受け入れられた。お前のせいだって毛嫌いもしないで、親切にしたのに恐がりやがってって怒りもしないで、むしろ別れを惜しんで泣いてくれた。

 

 それだけでも十分なくらいなのに、あの二人がもたらしてくれた恩恵はそんなものじゃ済まなかったんだ。

 

「ホシノ先輩。おはよう」

 

「あっ! シロコちゃんだぁ! おはよ〜!」

 

 スポーツウェアを着こなして自転車を漕ぐシロコちゃんと、横を併走していたゲネポスのポーネちゃんと合流。

 

 シロコちゃんが弾丸とミサイルをばら蒔いて相手の動きを止めたところに、麻痺毒を持つポーネちゃんが突っ込んでいって相手を麻痺させる、なんて凶悪コンボを生み出してる……可愛い顔してえげつない戦法取るよねぇ。

 

 先生が言うことには、この土地に住む小型・大型のモンスターたちはジンの統治下にあるんだって。

 アビドス自治区内の生態系ピラミッドの頂点に座し、人間を襲うこともあるモンスター達をその腕っ節の強さと存在感によって統括。

 

 私を助けに来る前に戦った三又角の竜がジンの代理として留まり人間への攻撃や捕食も禁止し、その上で共生している。

 

 ジャっくんとかポーネちゃんみたいな小型鳥竜種はペットとか私みたいにライドさせてくれる存在として、まだまだ一般の人達からは恐怖されているけど既にアビドスの地に馴染み始めていた。

 

「ギュアウッ!」

 

 ジャギィとゲネポスは種族こそ同じ鳥竜種だけど、私たちに人種の差があるみたいに差がある。

 そんな両種族が鉢合わせたとなれば野生環境下なら縄張り争いとか殺し合いになっているかもしれないけど、ジンっていう圧倒的頂点が君臨するこの土地だと話が変わる。

 

 まるで小さな子供が元気な挨拶をしているみたいな雰囲気で吠えたジャっくんに、ノアちゃんが頭を擦り付ける。

 

 殺し合いも縄張り争いもなく、完全に打ち解けているんだ。

 今のアビドスの地には、ある意味で凄い平和が訪れている。

 

「ホシノ先輩! シロコちゃん! おはようございます☆」

 

「ギュォォォォォォォんっ!」

 

 聞き慣れたノノミちゃんの声と、彼女を運んできてくれた大型モンスターの重々しい足音と鳴き声。

 

 すんごいでっかい昆虫みたいなモンスター、砲甲虫ゲネル・セルタス亜種ことゲネちゃん。

 普通の虫なら気持ち悪いけど、こんな見上げるくらい大きいとむしろどこか機械っぽさみたいなのを感じてカッコイイとすら思えるよねぇ……

 

 ゲネちゃんはノノミちゃんの相棒で、彼女を背に乗せて尻尾が挟み込んで固定することで銃を乱射させながら突進してくる戦車みたいな立ち回りを見せてくれる頼れる私たちの姉貴分って感じ。

 今はいないけど、場合によってはオス個体の斧甲虫アルセルタス亜種ことルルくんを呼び出して共に戦ったりもする。

 

 そうなるとルルくんにノノミちゃんが乗って飛び回りながら乱射、そこにゲネちゃんが突っ込んで暴れ回るとかいう恐ろしいデスコンボが始まったりする。

 いやぁ……怖いねぇ……

 

「ノノミちゃんおはよ〜。ゲネちゃんもね〜」

 

 挨拶を返すと二人とも嬉しそうに頷いてくれた。ゲネちゃんは顔を寄せてきて、顔を保護している顎みたいな甲殻を寄せてきて、それを撫でて上げると体を振って喜んでくれた。

 なんだろう、ノノミちゃんもゲネちゃんも包容感があるし気が合ったのかもねぇ。

 

 そこにドタドタとゲネちゃんよりかは軽いけどそれでも重量感のある足音を立てながら突っ込んできたのは土砂竜ボルボロスのにぼくん。

 背中には泥まみれでプンプン怒っているけどどこか楽しそうなセリカちゃんが乗っていて、にぼくんの背中をバシバシ叩いていた。

 

「もぉ〜〜! 泥まみれじゃない!」

 

「ぐおぉう!」

 

 結構いい音がするくらいの力で叩いてるけど、弾丸を受け付けないくらいに頑丈な甲殻に守られているにぼくんには意味がない。

 マッサージくらいにしか思われてないんじゃないかな? ゼロ距離で銃を乱射してもダメージにならない気がする。

 

 2人ともよく突っ走るタイプの性格をしているし、やっぱりどこかしらウマが合うんだろうね。

 

「皆さ〜ん! おはようございます!」

 

『オハヨー!』

 

 頭上を影が通り抜ける。何かが通り過ぎて行ったなぁと思ったらアヤネちゃんの声が聞こえて、それを真似した声っぽい鳴き声が続く。

 

 アヤネちゃんは彩鳥クルペッコことペッコさんがパートナー。元々アヤネちゃんは後方支援をしてくれてたけどそこにペッコさんお得意の鳴き声支援が重なることで、物資支援だけじゃなくて戦意向上とか道具を用いない回復なんかが出来るようになった。

 

 前までならこの5人しかいなかったのに、気付けばアビドス高校もかなりの大所帯。

 カタカタヘルメット団も大多数は解体、うちの生徒ととして転入している。思い入れがあるからってまだ結構な人数がカタカタヘルメット団を名乗ってはいるけど、もう敵対関係は無くなった。

 

 そこにプラスで小型・大型モンスターたちがわんさかいる。

 

 アビドス自治区は劇的な変化を遂げつつある。

 特に郵送業なんかは高い飛行能力を持つ飛竜種の皆が参入したことで空輸が目立つようになってきた。

 

 飛行機なんかよりも遥かに格安で自衛力も高いから安全も確保されている。それに飛竜種には賢い子が多いからなのかな、トラブルも今の所ゼロだ。

 

 少し前までは街中にぽつんとジンがいる光景に少し異端さを感じていたけど、そんなの比較にならないくらいに人とモンスターが入り交じる魔境へと変化し始めていた。

 受け入れている人はまだそう多くないけど、受け入れられるのも時間の問題だと思う。

 

「ぎゃうあう!」

「きゅううぅ。がぅあ?」

 

 小型モンスター同士が仲良く体を擦り合わせている。

 

「ぎゅおおぉん!」

「ぐぉうるるる♪」

『ヨイテンキ! ヨイテンキ!』

 

 大型モンスター同士が楽しげに会話をしている。

 

 こんなに穏やかな姿が見られるんだから、日々のストレスも癒されるだろうってものだ。

 

「ホシノ先輩! 急がないと学校遅刻するよ!」

「それ、にぼさん構って遅刻しかけてるセリカちゃんが言う?」

「ホシノ先輩☆ ゲネちゃんの背中に乗っていきませんか? 安定感抜群で落ち着きますよ☆」

 

 可愛い後輩たちも、大切な校舎と大切な土地で元気に過ごしてくれている。

 

 そして何も告げずに目の前から立ち去ろうとした私を受け入れて、今までと変わらない接し方をしてくれている。

 

 ユメ先輩が見たかったんだろうなって思う光景が、私の目の前に広がっている。

 

「ん、急ごうホシノ先輩」

「んへへぇ〜。可愛い後輩たちに急かされたら急ぐしかないよねぇ」

 

 ジャっくんの横っ腹をポンと軽く叩く。全力疾走の合図だ。

 

 待ってましたと言わんばかりにジャっくんが爆走。

 残された皆が揃いも揃ってぽかんとした顔をして、その数秒後に私の後を猛追してくる。

 

「……ありがとうね。先輩、ジンちゃん」

 

 この場に居ない2人にありがとうなんて言っても聞こえないのは分かっているのに、私の口は勝手に言葉を紡いでいた。

 

 いや、聞こえる聞こえないはどうでもよかったのかもしれない。

 これは感謝を伝えるための言葉じゃない。

 

 これは決意表明みたいなもの。自分を奮い立たせるための言葉だ。

 

 2人にはとっても迷惑をかけたし、どれだけの年月を費やしてもお返しが出来ないくらいの恩が出来た。

 それを現状で恩返しし続ける唯一の方法が、2人によって助けられて大幅な好転まで遂げたアビドス高校と自治区を守っていくことだ。

 

「私、頑張るよ。今度こそ守ってみせるから……だから」

 

 また、遊びに来てね

 

 これこそ2人に直接告げないと意味が無い言葉なのに、変な確信があった。

 

 2人はまた来てくれるって、そんな確信が。

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