狂犬が拾った雷狼竜、元人につき   作:ジンオウガを飼いたい

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尾刃カンナを魔改造したかった 後悔はしていない


幕間 2
尾刃カンナ改造計画1-1 技術編


『ウウォォォォォォンッ!』

 

 森の中に轟く大咆哮。

 

 それを聞いて近寄ってくるものはいない。敵対したとなれば抗うことすら許されず、その圧倒的な力によってねじ伏せられ、食い殺されることが目に見えているから。

 

 私と相対している生態系ピラミッドにおいて頂点捕食者に座する生物に、進んで挑んでくるなんてそれこそイビルジョーくらいなものだろう。

 

「くぅッ、容赦ないなッ!」

 

 軽く掠っただけでもえぐり取られそうな鋭利さの鉤爪が振り抜かれ、それを身を屈めることで潜り抜ける。

 ただの引っ掻き攻撃ならそれで終わりだが、ジンは回転しながら放つことで振り回された尾による追撃を放ってくる。

 

 これも仰向けに寝転ぶことで回避。目の前を頑強な甲殻で覆われた尾が通り抜けていくのを視認する。

 直撃すれば良くて即死、悪くても即死だろう。そんな一撃を回避出来た安堵感にうつつを抜かす暇もなく、うつ伏せへと体制を変更。

 アイアンアサルトを構え、引き金を引く。射出された弾丸はジンの尾を凶器としてより破壊力を高めさせている刃状の甲殻に着弾し、情けない音を伴って弾かれた。

 

「有効打にはならないか…」

 

 通常の弾丸ではかすり傷も与えられない。ショットガンやガトリング砲、スナイパーライフルの類でも至近距離でなければ傷は追わせられないだろう。

 

 アビドス高等学校とその自治区を取り巻く問題が解決したのか、ジンが森に戻って来てくれた。

 朝起きてドアを開けたら目の前にジンが居るのだから、最初は夢でも見ているのかと思ったものだ。ジンニウム欠乏症が見せている幻覚という線も疑った。

 

 でも現実だ。ジンは戻って来てくれた。

 この森を出る前よりも逞しく、大柄になって。それだけでも嬉しいのに、私に稽古まで付けてくれている。

 

 銃すら通用しない強大な存在を相手にし、攻撃を避けつつ攻めの手を継続させられる立ち回り方について。

 

『グルアァッ!』

 

 滑るような動きで間合いを詰め、頭を右から左へと振り抜く動作をする。

 顔の周りを虫が飛び回って嫌がる、みたいな仕草だがこれだけでも下手な当たり方をすれば大怪我は免れないだろう。

 

 イビルジョーと真っ向から競い合うだけの筋力があったのだ、今のジンはその数倍の力はあると見るのが妥当なところ。

 飛び下がって距離を取ろうとしたが、アイアンアサルトの重量が一瞬わたしの動きを遅らせた。

 

 足が地面から離れた、と思った次の瞬間。

 私は放り投げられ、エリア2の中央を流れる小川の中に転がっていた。

 

「ぶファッ!? ハァ、ハァ、ハァッ!」

 

 何があったのかは理解している。

 砂利の上に放り投げられ転がったことで痛みを訴えている体に鞭打って立ち上がり、原因となったアイアンアサルトを拾い上げる。

 

 アイアンアサルトにジンの角が引っ掛かり、投げ飛ばされたんだ。

 飛び下がりが始まったタイミングとジンが角を振り回すタイミングが悪い意味で重なってしまった。

 

『ウォルルルオォォウッ!』

 

 私が体勢を整える猶予を与えつつ、次の攻撃に移る準備も済ませたかったんだろう。

 摩擦なんか知るかと言わんばかりの回転を見せながら後退したジンが唸り声を放ち、上体を起こす。

 

 右前脚が振り上げられており、あの巨体を支えて俊敏な走りを可能とする強靭な前脚を叩き付けてくるのがわかった。

 

 横薙ぎからの尻尾による薙ぎ払いはタイミングを読み切れず、不格好な回避に終わった。

 角を振り回すのに対しては誤った回避方法を選択したせいで、放り投げられ怪我する失態を晒した。

 

 でも、アレなら読み切れる。

 動きが単調な分、叩き下ろされる速度に気を付ければ良いだけだ。

 

「フゥ……ッ!」

 

 アイアンアサルトを構えたまま、叩き付けを受ける。

 人体なんか一撃でミンチにしてしまえる破壊力の叩き付けを無防備に迎え入れようとしている風にも見えるだろうが、違う。

 

 ジンは私を鍛えてくれている。私を攻撃するなんて稽古であっても嫌だろうに、心を鬼にして。

 

 ならそれに応えなければならない。ジンが求めているものを掴み取らなければならない。

 

 強大な存在が攻撃を放つ瞬間。攻撃後の隙を最大限活かす為に、攻撃が直撃する瞬間で回避する。

 余裕をもって回避すれば身の安全は確かなものとなるが、こちらかの攻めの手に対して相手が対応してくる恐れがある。

 

 それに対して攻撃が直撃する瞬間で回避することが出来れば、回避成功後すぐに反撃へ移れる。

 攻撃を終えた瞬間ほど、気が緩む瞬間はない。

 

「ここだァッ!」

 

 集中に集中を重ねる。

 呼吸することすら集中を阻害してしまう。息を停め、叩き下ろされる前脚を凝視する。

 

 集中がある程度の域に到達したのか、残像が見えるほどの速度であるはずのジンの叩き付けがスローで見えた。

 

 ベストタイミングを肌で感じ取ったのと、私の肉体が動いたのと、口から私らしくもない荒々しい声が出たのは完全に同時。

 叩き付けが直撃すると感じた瞬間、体が勝手にアイアンアサルトを右後方へと引いて左肩を突き出すような姿勢を取っていた。

 

 肩で受け止める、なんて非現実的な思考に陥ったつもりはない。

 困惑しつつも、これで良いのだという変な確信があった。そして叩き付けが直撃したと感じた瞬間、後方へと転がる形での回避を行う。

 

「ハァッ、ハァッ、ハアァッ!! い、今のは……」

 

 私としてもあんな声が出るのも勝手に肉体が動いたのも予想外だった。

 回避に成功したのが信じられず、自分の肉体が全く意図しない挙動をしたことに困惑させられる。

 

 息を止めていたせいで酸欠気味になり荒い呼吸をしている私は困惑しているのに、ジンは予想の範囲内だったらしい。

 

『ガウラウラゥ♪』

 

 叩きつけを避けられたのに、その姿勢のまま笑っていた。

 上げられた顔には、どこか安堵しているような雰囲気が纏われている。

 

 叩きつけを放った前脚の鉤爪で地面をガリガリと削り、何か文字を書き込む。

 

「ブレイヴ……イナシ?」

 

 ジンの感覚で書くものだから相当大きい字ではあったが、鉤爪が以前のものよりも鋭利になったのか切り口が綺麗で読みやすかった。

『がぅあヴっ!』

 

 ブレイヴ…勇気や勇敢、の意だったか。イナシとは攻撃をいなす、といった使い方をすることのあるあの『イナシ』のことだろう。

 私も叩き付けをいなした。即死レベルの攻撃だったのに強めの打撃を受けたくらいの痛みしかない。

 

 それに、体に力がみなぎる。

 とてつもない破壊力を秘めるあの一撃をいなせた事が自信になったのだろうか。

 

『ぐこるるるる♪』

 

「うわっぷ…ハハッ。私に避けられたんだぞ? 悔しくないのか?」

 

 ご満悦、といった様子でジンが顔面をベロベロ舐め回してくれる。

 

 久しぶりにこの森でジンと触れ合えた。それだけでも泣きそうなくらい嬉しくて、それを我慢して声が震えてしまうのを抑え込むのには苦労させられたよ。

 

 攻撃をいなされたというのにジンは嬉しそうにしている。

 声だけではなく尻尾もブンブン振り回しているし、あの可愛らしいバカっぽいまん丸お目目をキラキラさせている。

 

「イナシの感覚を私に掴ませたかったのか?」

 

『ゔぁうっ♪』

 

 子供が先生の問いかけに返事をするみたいな、元気のある鳴き声が森に轟く。

 

 軽く角でどついたり前脚を裏拳気味に振るうといった威力の弱そうな技でイナシを連続して成功させる訓練が始まった。

 そこで気付いたがイナシをしようとすると肉体が極度の緊張状態に陥るのか、体力がジリジリと削られていく感覚がある。

 

 ガンっと疲れが一気に来るのではなくジワジワと、疲れているような気がするようなしないような……みたいな感覚。

 イナシが成功すれば疲労に見合うだけの結果は得られるが、しくじるとただ体力を消耗し怪我もする。使い所は図り損ねられないな。

 

『ヴオオオォォォォォォォォンッ!』

 

「ははっ! それにも対応できるのか!!」

 

 それに、イナシはジンの咆哮にも対応できることが分かった。

 

 彼女を含め、この森に生息する複数の大型モンスターは思わず耳を塞いでしまいたくなるほどの声量の咆哮を放つ。

 無防備に喰らえばこちらは動けず、身構えることも出来ずに一撃を食らいかねない。それにもイナシで対応出来るというのは攻撃を大幅に軽減出来るのと同等かそれ以上に大きい収穫と言えるな。

 

 それに、前方以外からの攻撃や威力が高すぎる攻撃はイナシで対応できないという弱点すらも知覚させてくれた。

 ジンの咆哮も破壊能力が最大となる至近距離ではイナシが出来ず、ある程度の距離がなければ対応出来ない。

 

 イナシをものにしたからと慢心していては足を掬われ、相手の誇る大技に粉砕されるという危険性もジンは私に叩き込んでくれた。

 

「うおっ!? 火花が!?」

 

 ジンが身構えた。

 まだ感覚を掴む練習を続けるつもりなのかと思い、イナシの構えを取ったは良いもののジンは仕掛けてこない。

 

 何の目的があって身構えたのか……そう訝しみながらイナシの構えを解いた瞬間、アイアンアサルトが火花を噴いたのだ。

 

 まさかの出来事に素っ頓狂な声が上がる。

 このタイミングでまさかの故障かと疑ったが、ジンは首を横に振る。それで合っている、というように鉤爪でアイアンアサルトを軽く小突く。

 

『ごぅあるるる』

 

 ジンがイナシの構えを取り、目の前で軽いスパークを起こす。アイアンアサルトが噴いた火花の再現だろう。

 スパークが発生したのと同時に左前脚を右前脚の前方へ置き、右前脚を後ろに引くような仕草をした。

 

 アイアンアサルトのリロード工程を示しているのはすぐに読み取れた。

 火花が発生するのと同時にリロードをしろ、という意味か。

 

 弾薬を抜き取り、イナシの構えを取る。今回は攻撃が来ない為、すぐに解除。

 構えが解け切るその瞬間、アイアンアサルトが火花を噴いた。

 

「ここっ!」

 

 黙っていてもタイミングを外すことは無かっただろうが、口が勝手に動いていた。

 

 リロードが終わる。普段のリロードとは何やら違う動きでリロードを行っていたような気がするが、何がどう違うのかは自分でも分からなかった。

 

 分かるのは、アイアンアサルトが何やら熱を帯びているような不思議な感覚だけ。

 

「これは…」

 

 ジンが頷いているのだから故障ではない。作成を依頼した私ですらも知らない未知の現象なのに、彼女はまるで最初から知っているみたいだ。

 

 やはり、ジンはすごいな。私よりも長い年月を生きてきたのだろう、知識や技術では遠く及ばない気がする。

 

『ぐあぁうるるる……』

 

 感心しているとジンが欠伸をし、どしんっと座り込んだ。

 まさか、寝る気か? せっかくイナシを身に付け、この謎のリロードについても知ったばかりだというのに?

 

 もう少しだけで良いから訓練に付き合ってくれ、と言いたかったがジンの視線がそれを制していた。

 

「ジンさん、姉御に休んで欲しいんじゃないすかね。ほら、怪我してるし」

 

 救急箱を持って待機していてくれたコノカに言われて初めて気づいた。

 

 腕を怪我している。袖口から血が流れ出ているのを視認して初めて気付かされた。

 袖が捲られると転がった拍子に石に擦り付けたのか薄らと擦過傷が出来ている。

 

「……まだまだ鍛錬が足りないな」

 

 強くなった気でいたが、とんでもない。

 私はまだ弱いんだ、そう学べたのも今回の大きな収穫か。

 

 怪我の手当てを受け、消毒液がしみる痛みに顔を顰めつつも私は苦笑した。

 

 

 

 

 

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