狂犬が拾った雷狼竜、元人につき   作:ジンオウガを飼いたい

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ワイルズがあと1ヶ月ちょいに迫りました。第2回オープンベータまでは2週間あるかないかです。

狩人の皆さん、もうすぐ宴です


時計じかけの花のパヴァーヌ編 1
ミレニアム イン ザ バカオオカミ


「えぇ〜〜っと……これ、どういう状況?」

 

 自分が窓の外へとぶん投げてしまったプライステーションがどうなったのか気になった矢先、外がやけに騒がしくなる。

 ミレニアムサイエンススクールに所属している生徒達の悲鳴と、それをかき消せてしまうドスン!ドスン!という大きな足音のような異音。

 

 何事かと部室を飛び出してみれば目の前で繰り広げられていた異質な光景に、処理して受け入れるのに時間がかかりそうなモモイは処理の過程を吹っ飛ばしていきなり答えを得ようとしていた。

 

 問い掛けている相手が不明瞭だが仕方ないだろう。無理からぬ事だ。

 見慣れない格好の女性が、どこから入り込んだのか分からない巨大なオオカミ?化け物?が駆け回っているのをどうにかこうにか止めようと必死になっているのだから。

 

「ジン! ストップ! 走るのダメ! 君の図体だと間違いなく色々ぶつかって壊すから! 何か壊れたら損害賠償がシャーレに来ちゃうからぁぁぁ!」

 

 余程必死に止めようとしているのだろう、大人の女性はほとんど半泣き状態だ。

 

『アヴォォォォォォォォんっ♪♪』

 

 巨大生物が迷い込んできて大暴れ…ではなく大疾走する光景なんて普通に生活していて目にする光景ではない。

 生徒達が何事だ何事だと集まって人集りを形成する中央で、巨大なオオカミ型不明生物は楽しげな雄叫びを上げて駆け回っている。

 

「なにあれー? どゆじょうきょー?」

 

「お、お姉ちゃん……あれ、お姉ちゃんの……」

 

 ポカーンと口と目を丸くしてフリーズしている姉の肩をつついたミドリが、駆けずり回るオオカミの頭部を指差す。

 

 オオカミであれば存在しないはずの部位である角の間に、モモイが放り投げたプライステーションが綺麗に乗っかっている。

 

「あ、ああああああ! 私のプライステーション!」

 

 色々あって放り投げてしまったとはいえプライステーションもタダではない。それなりな値段がする貴重品だ。

 それが巨大生物に乗っているとなればフリーズしていた頭が無理矢理再起動を引き起こし、ハッとしたモモイが大声を上げる。

 

 そ れ が い け な か っ た

 

『……うおんっ♪』

 

 びたっと巨大生物が動きを止め、顔をモモイの方へと向けた。

 

 知性を感じさせつつも「バカっぽい」という感想を抱かせてしまうまん丸お目目をしているが、可愛らしいのはそこだけで後はもう怖いを固めたような容姿をしている。

 見上げる様な巨体。体高だけでなく、全長も大型バスが比較対象にならない程に巨大。

 

 そんな生物に凝視されたとなれば、言葉も失せて硬直してしまうのが感情を持つ生物として当然の反応だった。

 

「ジ、ジン……? どうしたの?」

 

 大人の女性もジンと呼んでいる巨大生物の起こした突然の急停止、及びどこか1点への凝視に困惑している。

 

 何を見ているとかとジンの視線を辿ろうとして、彼女もそこでようやく頭に何かを乗せていることに気付く。

 一目でそれをゲーム機だと見抜き、なんでそんなものが乗っているとかと不思議に思う間もなく。

 

『あおおおおおおおおんっ♪』

 

 ジンが爆走した

 

 巨体相応の自重を全く感じさせない軽やかな足取りで肉体を前進させ、設置されているベンチや自動販売機はジグザグ走行や跳躍して回避。

 

「ジン!?」

 

 先生 驚愕

 

「走り出したぞー!」「逃げろー!」

 

 ミレニアムサイエンススクールの生徒達 大混乱

 

「うわあああああああああ!?」

 

 標的にされたと直感したモモイ 大号泣

 

「お姉ちゃん逃げてぇぇぇ!!」

 

 姉が狙われていると理解したミドリ 銃乱射

 

『うわおおおぉぉぉぉんっ!!』

 

 ちんまくてめんこい子を見つけたジン 超大興奮

 

 浴びせられる弾丸なんてなんのその。回避するまでもなく全身で受け止めながらも爆進し、あっという間に大号泣中のモモイの前へと立ち塞がった。

 

 遠目で見ても巨大だったのに目の前に立たれてしまうとなればそのサイズ感はより鮮明に、凄まじい威圧感と共に彼女へと理解を迫る。

 

『ぐぉうくるるるるる……』

 

 見下ろしているジンは首を左右へと傾げながら、ゆっくりと彼女の目の前へ頭を下ろしてくる。

 

 可愛い目には似合わない恐ろしい顔付き。

 口元の棘と赤い口腔内に揃っている牙がチラッと見えるだけでも、モモイが感じる恐怖は限界突破寸前であった。

 

「ひぇ…っ、あのっ、た、食べないでぇ……」

 

 散々大号泣していたのにいざ口の中を見せ付けられた途端、モモイの涙は引っ込んでいた。泣いている余裕すら吹き飛ばされた、というのが適切かもしれない。

 

 こんな牙で齧られたらどうなってしまうのか。そんなもの、想像しようと思うまでもなく勝手に頭が想像してしまっている。

 

 それでもどうにか言葉を振り絞った。

 ガクガクと震えている顎を何とか震えを押さえ付けて、消え入るようなか細い声で食べないで欲しいと願った。

 

『ぐくるるるる……あおんっ』

 

「ふえ?」

 

 ジンが唸る。

 それを聞いてモモイは懇願虚しく食われるのだと諦めかけて目を瞑ったが、頬に鼻先を押し当てられるという予想外の行動に間抜けな声を漏らして目を開いた。

 

『うるるるる♪』

 

 グリグリと、体格差や鼻周りの甲殻や鱗の硬さを理解しているとしか思えない絶妙な力加減で鼻先を擦り付けている。

 声色も甘えるような気配を帯び、鼻息がかかるせいで少しくすぐったい。

 

「っ、あはははっ! なになに!? くすぐったいよぉ!」

 

 食べられると思って身構えたのに梯子を外され、そこにくすぐったさが不意打ちで訪れたのだからモモイはもう我慢の限界だった。

 緊張の糸が切られてしまい、鼻息が頬や首筋に吹き掛けられる感触に笑いを堪えきれない。

 

「お、お姉ちゃん? 大丈夫なの?」

 

「うん! なんか甘えてるっぽいよ!」

 

 油断させたところを一口で……なんて危険性を想像していたミドリも、ジンの顎周辺を撫で回しながらじゃれ始めている姉の姿を見ると警戒する気が削がれてしまった。

 姉の数秒前まで大号泣していたとは思えないケロッとした様子に呆れもしていた。

 

「はぁ……はぁ……全く……いきなり爆走しないでよ…はぁ……ご、ごめんね2人とも……怪我はない?」

 

 ジンの後を追いかけて全力疾走した大人の女性もようやく追い付き、肩で荒い呼吸をしながらモモイとミドリに謝罪と怪我の有無を問う。

 

「私は大丈夫! ミドリも大丈夫だよね?」

 

「う、うん……あの、先生ですよね?」

 

 元気いっぱいに答えるモモイと、困惑しながらも大人の女性が先生なのではないかと問いを返すミドリ。

 姉と妹 立場と性格が逆なようにも見える姉妹だった。

 

「うん、そうだよ。私がゲーム開発部からの手紙を受け取ってシャーレから来た先生で、こっちは相棒のジン。よろしくね」

 

『わうばうっ!』

 

 穏やかな口調で答える大人の女性 先生とは対照的に、ジンは飼い主に構えとアピールする犬のように元気ながらも短い声を上げる。

 

「あ、ちょっと待ってね……んしょっ、と。はい、これ」

 

 自己紹介を終えた先生はパンと手のひらを打ち合わせると、ジンの顎に足を掛けて頭の上へと手を伸ばす。

 

 手にしているのはモモイが窓の外へとぶん投げてしまったプライステーション。汚れや目視で確認可能な範囲での損傷が無いか確認すると、それをモモイへ手渡した。

 

「私のプライステーション! 先生ありがとう!」

 

「いいのいいの。ジンってばいきなりはしゃぎ出しちゃってね。プライステーションが頭に乗っかったのに驚いちゃったのかとも思ったんだけど……多分、君たちを誘い出そうとしたのかもね」

 

「誘い出す?」

 

 プライステーションが無事だったことに目をキラキラさせるモモイに代わって、ミドリが先生の言葉に耳を傾けていた。

 当事者であるジンはというと、伏せの姿勢をしながら大欠伸をしている。

 

「ほら、この子みたいなのが走り回ったら大騒ぎになるでしょ? そうなれば気になって見に来るのが人間っていう生き物だからね。それにジンは鼻が利くし、頭にプライステーションが乗った時に君たちの匂いと同じ匂いを嗅ぎ取ったんだと思うよ」

 

 犬が嗅覚に優れる、という話はよく聞く。

 なら犬の原型ともいえるオオカミも同様と考えられなくもないが……

 

「……こんなバカっぽい目をしているのに、ですか?」

 

『ぎゃうん!?』

 

 如何に巨大で、屈強で、厳しい風体をしていようとも、可愛いともバカっぽいとも言えるまん丸お目目のせいで説得力が皆無だった。

 少し間を置いた遠慮のないどストレートな発言に、ジンが可哀想な声を上げる。

 

「あ〜…その、ジンは人の言葉が分かるんだよ。それに人が大好きだから……バカっぽいって言われると……」

 

「え!? あっ、そうなんですか!? その、ごめんなさい!」

 

 先生が歯切れ悪く伝えるとミドリも顔を青くした。

 

 慌てて謝罪するも、既に後の祭り。ジンの心にクリーンヒットしている。

 

『くぁん……』

 

「拗ねちゃった!」

 

 伏せていたジンは四肢をだらんと投げ出し、力無く地面にぐでぇ〜っと横たわってしまっていた。

 

 

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