怒らないから前に出なさい!
貴方とは良いお酒が飲めそうです!
「……話を再開させてもらっても?」
「「どうぞどうぞ」」
頭頂部から爪先まで余すところなくヨダレでベッタベタにされながらも、リオは話を続けた。下半身をジンの口に含まれ、逆さ吊りに近い姿勢で。
誰も、何も言わない。何か指摘したらそれを皮切りにして笑い出してしまう気がして、誰も何も言えない。
『あゔるるる♪ ゔぉうふるるるる♪』
ブルーアーカイブをプレイしている際、ジンの最推しは尾刃カンナだった。
女子高校生らしからぬ大人の色香を感じさせつつも可愛らしさも兼ね備え、作中での境遇や立ち回りも癖に刺さりに刺さりまくった。
そんなジンだったが、推しキャラはカンナ1人ではなかった。他にも複数人の推しキャラがおり、その中には調月リオも含まれていた。
「〜……話をッ、続けるわッ」
足裏から膝裏、内ももと下肢の至る所を舐め回されてしまってはリオであっても笑いを堪えるのに精一杯になる。表情が歪み、目元に涙が溜まり始めていく。
彼女にも立場やプライドがある。
ミレニアムサイエンススクールの生徒会であるセミナーの長として、他の生徒達に決して知られてはならない悪事を働いているとはいえ、今の彼女は他生徒の模範として相応しい立ち居振る舞いをしようと努めている。
そんな自分が大笑いする姿なんて、とてもでは無いが晒せない。
絶 対 笑 か す
リオのやろうとしたことは、端的に言えば人殺しだ。許される行為では無い。
だが憎たらしいから、邪魔だからといった下らない理由ではない。
キヴォトスに危機を及ぼす恐れがあると危惧し、それを排除すべく動いていた。大多数の命を守る為に動こうとしていた。
悪行でありつつも善行ともとれる行いであり、それを殺されそうになった当人が許した事で一応の解決となったがジン個人としては少しモヤモヤしていた。
泣 く ま で 笑 か す
結果的に和解も出来たし話も良い方向へと進んだから良かったものの、リオの起こした一連の騒動は結果良ければ全て良しで流せるものでは無い。
時計じかけの花のパヴァーヌ編の最後にリオがヒマリに泣くまでお尻ペンペンをされて『もうコリゴリよ〜!』みたいな、エデン条約編の最後みたいな緩いながらもしっかりとしたオチが欲しかった。
以前のジンは1プレイヤーでありストーリーへの干渉は出来ず、出来たとしても先生であり生徒へ罰を与えるなどあってはならない立場だったが、今は違う。紛れ込んだイレギュラーだ。
それに彼女が死んだ当時はまだリオがプレイアブルになっておらず声も聞けなかったこともあり、動き回るSDも存在しなかった。
やりたいことがやれて且つ推しキャラの実際に動く姿を見れたこと、声を聞けた嬉しさでジンの頭はバグり散らかしていた。
ベロベロベロベロベロベロ…
「わっ、私たちセッ、セミナーはぁんっ!?」
口に咥えられているという逃げ場が無い状況下で、ジンのお得意技であるベロベロ舐め回し攻撃がリオを襲う。
先程までよりも明らかに動きが早く、激しさを増し始めたことで冷静を装っていたリオの表情が更に歪み、声が上ずる。
女子高校生には見えない大人びた体格の彼女が頬を染めながら上ずった声を上げる様は、同性であるユウカ達や歳上である先生でさえも顔を赤らめてしまうほどの艶やかさを帯びていた。
ベロベロベロベロベロベロ……
「みれぇっ、二アムじちっ、くぅ!?」
持っているタブレットを震える手で操作し、ミレニアムサイエンススクールで存在が確認され始めた2種類の小型昆虫型モンスター ランゴスタとブナハブラについて話そうとするが、執拗な舐め回し攻撃がもたらすくすぐったさが話を進めさせてくれない。
ベロベロベロベロベロベロ……
「ないぃっにいぃ! 発生ッしているぅんんッ!!」
手から力が抜け、持っていたタブレットが落ちてしまう。
空中に2種類のモンスターの名前を描いていた雷光虫達が集まり受け止めてくれたので地面への衝突は免れたものの、無事に電源が入るかの確認をする余地が彼女には無い。
タブレットを手放したことで自由になった両手をジンの口周りに当てて体を引き抜こうと足掻いてみても、傷付けない程度にしっかりと咥えているジンの顎からは逃げられない。
ベロベロベロベロベロベロ…
「なぞのおおっ!! しんしゅのこんちゅうにゅうあぁっ!?」
どうにか笑いを堪えているものの、限界が迫って来ているのは彼女の状態を見れば明らかだった。声が上ずるどころかひっくり返り始めており、頬の赤みも強まっている。
謎の新種の昆虫。そう言おうとしたリオだったが、もう呂律が回らなくなり始めていた。
「あっはハハハハハははははは!! やめっ、やめなさい! くすぐったくてお話がうっ、うはハハハハハハハハハハハハハハ!?!?」
調月リオ 陥落
我慢がとうとう利かなくなり、彼女らしくない声を上げての大笑いが始まってしまった。
一度でも笑い出してしまえば再び我慢するというは、原型が残らない程に大決壊したダムを即座に再建するくらいに到底無理な話である。
バシバシと口周りを叩いて解放を懇願するがジンは受け入れない。
頭がバグり散らかし過ぎていて解放を懇願されているのに気付いてすらいない。
『ぐふるるるるるる♪』
「あばばばばばばばばば」
気に入ったおもちゃを振り回すように、リオの肉体が振り回されている。
豊満な胸がそれはもうバルンバルンと揺れ動き、顔や上半身に付着しているジンの唾液が巻き散らかされてそれはもう酷い有り様だ。
ユウカ達もあまりに酷い光景に絶句してしまって言葉が中々絞り出せず、真っ先に動けるようになったのは先生だった。
「ジンそろそろストップ! いくら肉体が頑丈なキヴォトスの人でもそろそろ危ないから! ストップしてストップー!!!」
彼女の悲痛な叫びが青い空に吸い込まれていった。
□■□■□■□■
「ごめんなさいね…見苦しい姿をお見せして……ウプッ」
先生の懸命な呼びかけによってジンのバグも修正され、下半身を舐め回されながら振り回されるという強烈な羞恥プレイからリオは解放された。
話を続けようにも酷く振り回されたせいで具合は悪いし、唾液で衣類も肉体もベタベタになってしまい話を続ける以前の問題となり、リオは一度離れてシャワーを浴びて装いを新たに戻ってくる。
とはいえ滅茶苦茶に振り回されて具合は悪いのだろう、顔色もどこか良くないし口元を手で押えている。
周囲は人払いが行われ、残されているのは先生とジン、ユウカとリオ、モモイとミドリだけである。
『ぐぁうるるるる……』
色々とはっちゃけ過ぎたとジンも己を振り返り、すっかりしょげて伏せてしまっている。
いきなり襲いかかって来ておもちゃにされたリオは説教の一つを垂れるか、そこまで行かずとも睨み付けてやるくらいの権利は有していると分かってはいても、どうもその気にならない。
「そこまで気にしてはいないわ。だからそこまで縮こまらないでもらえるかしら。私とて罪悪感は感じるのよ?」
ミレニアムサイエンススクールにて発生しているランゴスタとブナハブラの出現はリオの耳にも届いている。
彼女は彼女なりに使える手段を用いて発生源の特定や、外来の生物なのだとしたらどこから流れ込んで来ているのかの断定を進めていた。
それ等を終えたのと、先生とジンがミレニアムサイエンススクールを訪れたのはほぼ同時期。
シャーレが先生だけではなく巨大な生物も保有し、その1人と1頭がアビドス高校自治区内で活動した事を把握しているリオとしては、先生とジンの双方を頼る算段を立てていた。
「さて。では気を取り直して……初めまして。私はミレニアムサイエンススクールの生徒会 セミナーの会長を努める調月リオよ。現在我が校で発生している事件については、既にご理解いただけたかしら?」
「うん。飛行性昆虫型モンスター ブナハブラとカンタロスの発生及び繁殖だよね」
ユウカの説明通り、カンタロスとブナハブラによる直接的な被害は出ていない。
それ等に襲われてパニックになった生徒達が逃げる際に転げたり何処かに体を擦って擦り傷を作る程度の軽度な被害に留められている。
「そう……この2種類はそういう名前なのね。ちなみに、命名したとは先生?」
「ううん、命名したのはジンだよ。彼女、モンスターについて凄い詳しいからね」
自分が命名したカブトモドキとガモドキよりしっくり来る名前を付けられ、少しムッとしたリオの問い掛けへの返答は彼女の想定外のもの。
自分をおもちゃにした怪物が命名者だと知り、目を丸くしながらジンへと視線を向けた。
「……この子が命名をしたの?」
ユウカの報告によってジンが高い知能を有していることはリオも把握していたが命名まで行える程だとは思っていなかった。
信じられないと言いたいのを言葉の代わりに視線で伝えてくるリオの前で、ジンがスっと立ち上がる。
『ぐぁうぶふるるる……』
見上げるような巨体を揺らしながら迫るジンの姿は、リオに威圧感を与える。無意識に足が後退しそうになり、それをどうにか押さえている。
それなりに距離はあったはずなのだが、如何せんジンが巨体相応に大きい歩幅でもって近寄るせいであっという間にリオとジンの間の距離は縮まってゆく。
『……あぅん』
リオの目の前でお座りの姿勢を取ると、頭を深々と下げた。
身長差があり過ぎて頭を下げてもリオにぶつかることは無く、腕を上へ伸ばしてようやく角の先端に手が触れるかどうか。
(まさか、怪物に頭を下げられる日がくるとはね)
人生には色々な出来事が待ち構えているものであり、それ等に対して己の持ち得る技術や立場を用いて対策を講じてきたリオだが、流石にこれは想定していなかった。
もっと言えば、シャーレの先生に頼ることはあったとしてもその相棒である怪物にまで頼る日が来ようとは思ってもみなかった。
「……ふふふっ。図体は立派なのに随分と可愛らしいのね、貴女は」
ハチャメチャにされはしたが気にしてはいない。むしろ、人生には面白い事が控えているのだと教訓を得る良い機会にもなった。
それに何よりも、自分へじゃれついている時に感じた純粋無垢な好意をリオは心地良いと思えている。
ミレニアムのビッグシスター等という悪名を与えられ、それでも良いと独善的な姿勢を貫きつつも己のことを認めて欲しいという矛盾した願望を持つリオにとって、この純粋無垢な好意は長く求めてきたものであり心地よいものだ。
自分よりも世界を良くしたいという善の思考回路を持ちつつも人間の機微等を軽視する傾向がある、独裁者として相応しいとも言える彼女でも、ジンの好意は拒絶しにくいものであった。
「そこまで気に病まないで? 私は気にしていないし……自分を許せないというのなら、これからお願いすることを手伝ってくれればそれで良いわ。どう?」
軽く背伸びをしながらジンの角に触れて優しい手つきで撫でる。
人が好きで、元先生という立場もあり生徒が大好きなジンは撫でる際の手つきでその人の性格や考えが何となく読み取れる。
リオが怒っていない事が感じ取れて、ジンも頭を上げる。
「話が逸れたわね。私はドローンを使ってカンタロスとブナハブラを観察してどこから来訪したのか、どこに巣食っているのかを調べたわ。そして、それを突き止めた」
雷光虫が地面との激突を食い止めてくれたタブレットに電源を入れ、先生達に見せる。
表示されているのはミレニアムサイエンススクールを上空から見下ろす形でのスクリーンマップであり、近郊のある1箇所に赤いピンが刺されていた。
「この2種類の怪物はミレニアム近郊の領域、廃墟と呼ばれている区画から出てきているわ。しかも連邦生徒会長が失踪する数日前から、廃墟の
「廃墟の自然環境が……変容?」
タブレットを更に操作するとマップが消え、複数のモニター映像が表示される。
打ち捨てられた建造物が年月の経過を感じさせる風化具合を晒し出すその光景は、人工物の比率が多くを占めているミレニアムの自治区とは思えないモノへと書き換えられていた。
「木が生えてる!?」
「なにか鳥みたいなのもいない!?」
「会長! この映像は本当なんですか!? こんなの、私も知らないんですけど!」
同じくセミナー所属であるユウカでも知らない映像に彼女はリオへ食って掛かろうとしたが、そこをジンが2人の間へ角を割り込ませて止める。
「混乱を招く恐れがあったから公言は避けたの。
廃校は突如として、そのあり方そのものを変えてしまった。どこから流れ着いたのか土による地面が構築され、建造物の残骸を残しつつも木々が生い茂り、生命の息吹も確認されている……
危険だからと立ち入りを禁止していたお陰か変容に巻き込まれた生徒はいなかったけれど、それでもこの変わり様は異質よ。有り得ない、と断言しても良い」
モニター映像が消え、リオが軽く溜め息を吐く。
「部外者に頼むことになるのはセミナー会長として心苦しいけれど、その道の知識や経験を持つ貴女達以上の適任者を私は知らないわ。だからお願い、カンタロスとブナハブラの巣を叩いて破壊して欲しいの」
タブレットを抱き抱えながらリオは腰を曲げて、深々と頭を下げた。
「どのような生態を持つのか、どのような能力があるのか、それ等が分からない相手にいきなり手を出すのはリスクがあった。そのリスクを気にし過ぎた結果がコレよ…カンタロスとブナハブラの繁殖を許してしまった。
もしかしたらもっと危険な生物が繁殖しているかもしれない。でも、それなら尚更このまま放置しておく訳にもいかないの! お願い!」
「うん、分かったよ。私とジンが見てくる」
「へ!?即答!?」
危険なお願いをしたというのに全く悩む様子のない即答に、下げていた頭を跳ね上げながらリオは素っ頓狂な声を上げた。
冗談を言っているような顔ではない。目の前の大人は生徒の頼みだからと快く引き受けたのが、その目を見れば一目で分かった。
『ヴァルルル……アオウッ♪』
ジンもノリノリで承諾している。依頼をしておいて、この1人と1頭には危機感と呼べるものがないのかとリオはいささか不安になった。
こうして、わずか数日でその在り方を変容させてしまった廃墟区画の調査が開始されることになった。
目的は出現した小型昆虫モンスター カンタロスとブナハブラの調査と可能ならば殲滅及び巣の破壊。
未知の生物を相手取るという危険な行為を、知識を持つ専門家としてシャーレの先生とジンを認識して依頼した。
「貴女達も同行してちょうだい。実際に目にしたという人物が入れば、何かしら役立つこともあるでしょう」
「「え!?」」
ゲーム開発部の2人を巻き込む形で。