すっげぇ胃もたれした……気持ちわりぃ……
アリスの身柄確保は無事に済んだっぽい。
ゲーム開発部の面々がバタバタと部室に引っ込んで行ったし、先生もそっちに付きっきりだから部屋に連れ込んだアリスがゲームのコントローラーやら何やらを口に入れて大騒ぎしている頃合かな。
しっかしまぁ……死ぬかと思ったよね。まさかイナガミだよイナガミ、フロンティア産の古龍種が出てくるとか聞いてないって。
話が通じないとか殺されそうになったとか、色々と面倒な事にはなったけどどうにか切り抜けられた。
結果的に勝てたから良かったものの、あれは運が悪ければ私も先生も殺されていたと思う。
怒りのあまりに理性が飛んで……なんてバトル物でありがちな展開に助けられたけど、今後も同じ展開で危機を脱出できるとは思えない。
力を付けないといけないよなぁ……
極論、ブルーアーカイブのストーリー程度で詰みかけていては後々に控えているラスボス戦 黒龍 ミラボレアスとの決戦では間違いなく生き残れない。
平和的解決が出来るのならそれに超したことは無いけど相手はミラボレアス、生きとし生けるもの全ての敵。
色々とポカをやらかしたりミラルーツにシバかれたりとイメージ像が崩れる情報が出てきてはいるけど、それでも特大の強敵なことには変わりないわけだしねぇ。
あ〜具合わりぃ〜
先生がゲーム開発部の面々とドッタンバッタン大騒ぎ☆している間、私はミレニアムサイエンススクールでダウンしていた。
イナガミは美味しかった。古龍種ということもあってだろうけど、それはもう大変美味しかった。
この言い方は不本意だけど、イナガミと比べるとカンナと一緒に頑張って仕留めたイビルジョーはカスや…
半分くらい食べて残りは置き去りにしてきた。私にくっ付いて来てくれた大型モンスター達への手間賃みたいなものだ。美味しいからね。
それに持ち帰るという選択肢は無し。大型モンスターの死骸なんてここには持ち込めない。
カイザーの一件もあるからね…人間の欲望の恐ろしさを経験してしまった以上、古龍種の死骸なんて危険物は自然に処理してもらうのが1番だわ。
それにしてもさすがフロンティア産の古龍種だね、美味しいだけで終わらない。
がっっっっつり胃もたれしています……
おっかしいなぁ。滅茶苦茶油っこかったって訳でもないんだけど、なんでこうも胃もたれするかなぁ……
『うぉうるるる……』
「よしよし…ジンには胃薬を飲ませられるか分からないから、私にはお腹をさすってやるくらいしか出来ないな……」
久方振りに感じる胃もたれにそれはもう見事にやられている訳ですが、不幸の中に大きな幸せがあった。
ミレニアムサイエンススクールに戻ってきた私を、なんと愛しの尾刃カンナが待ち構えてくれていたのだから!!
しかも! リオ会長と何やら親しげに歓談しながら!
なんだこの光景天国かよ!と舞い上がりそうになったけど体の奥から熱い何か――恐らく胃液――がせり上ってきて、興奮を咎めて落ち着かせてくれた。
ゴロンと横たわる私のお腹を撫でてくれる優しい手……暖かいなぁ……沁みるなぁ……
『ゔぁうるる?』
それにしても、なんでカンナがミレニアムに居るん?
本編でもこんな事はなかったと思うんだけど……アリスを保護した時にミドリの口からヴァルキューレの名前が出たくらいじゃなかったかな?
なんで?と問い掛ける声を投げ掛けるとカンナはニコッと笑って、背負っている獲物の方に視線を向けた。
「アイアンアサルトの調整をお願いしていてな、元々今日取りに来るつもりだったんだ」
そういやそうだ。
エンジニア部に森で取れた鉱石を送ったとか言っていたし、個人的なのかヴァルキューレ全体なのかはともかくカンナはミレニアムサイエンススクールとパイプを持っているのか。
「こちらとしても良質な鉱石を送って貰えるのは感謝しているの。加工難度も然程高い訳でも無く、それでいて素材として優秀だわ」
私の角を撫でながらリオも嬉しそうな顔をしている。
いやぁ……推しの2人に撫でてもらえるとか前世の私はどんな徳を積んだんだろうね。
特に聖人みたいな生き方も仙人みたいな過ごし方もしていたつもりはないんだけども。
『ぐぁうふるる……』
さて、2人に構ってもらえて色々と落ち着かせることが出来た。まだまだ胃もたれして気持ち悪さは残っているけど、ここでくたばっている暇なんて無いからさ。
体を起こし、リオに視線を向ける。
「…どうしたのかしら?」
私にド至近距離で凝視されて怯んだ様子のリオも可愛いなぁ……どうしたのかと心配そうな顔をするカンナも可愛いなぁ……
て、いかんいかん。気が緩んだ。
『ぐぅるるるる……』
リオはこの後、ヒマリと結託してあるゴタゴタを引き起こす。
秘密裏にゲーム開発部の部室へ連れ込んだ天童アリスは複数のゲームを通して機械的な話し方から、人間味のある話し方や人格を構築。
部員として認められるに至るが、それでも廃部の危機は脱することが出来ずにG.Bibleを求めて再度廃墟区画へ向かいこれを確保する。
だがパスワードが分からずヴェリタスを頼ると、今度は鏡と呼ばれるものが必要でありそれは生徒会に没収されたと知る。
結果としてゲーム開発部はC&Cと激突。それによってリオとヒマリはアリスを無名の司祭が崇拝するオーパーツであり、名も無き神々の王女であると断定。
ヒマリは可愛い後輩としてアリスを見たが、リオは世界に終末を齎すとして排除に掛かる。
その顛末がセミナーからの失踪かぁ……
一連の騒動で自責の念を抱えることになったリオは辞表を残してセミナーから失踪してしまう。
最終章でリオとアリスのわだかまりは解消されるものの、時計じかけの花のパヴァーヌ編から最終章までの間を彼女がどう過ごしたのかが分からない。
バッドエンドも有り得る、透き通る世界観とは何ぞやとツッコミたくなる割かしヘヴィな終わり方をした世界線も存在するブルーアーカイブという作品の性質上、描写が無いだけでリオは再登場するまでに色々と苦労したのかもしれない。
『がうっ♪』
「きゃっ!? え、なにまたなの!? もう着替えが残り少なわっぷ! こらっ、やめなさいって!」
軽く頭を振ってリオにバランスを崩してもらい、尻もちを着いた所に追撃。鼻先を押し当てて仰向けに寝転がらせ、ベロベロと舐め回す。
舐め倒されている可愛らしい女の子だけど、その本質は合理主義を突き詰めてコミュニケーション障害まで拗らせてしまっているなんちゃって独裁者。
人間の情動やら感情やらを知識として理解はしていてもそれを下らないもの、取るに足らないものだと切り捨ててしまう子だ。
避けたいなぁ、それ……
人気キャラクターである天童アリスを殺害しようとしたということもあってある程度嫌っている人も居た印象を受ける調月リオだけど、彼女を推していた私としては原作通りの顛末を迎えさせるのは避けたい。
無論、仮に私が好き勝手に暴れて展開をしっちゃかめっちゃかに掻き回した事でツケを払うことになるのは理解しているし覚悟もしている。
それに極論を言ってしまえば私という存在がこの世界に介入し、大型モンスターと小型モンスターもわんさかいる現状ではブルーアーカイブ本来のストーリーが展開されると考える方が無理筋って奴なのかも分からんね。
「ちょっ、カンナさんッ! この子に舐めるの、やめさせて」
「済みません、ジンは1度舐め始めると止まらないのです。それに彼女に舐められるというのは、それだけ気に入られているという証拠。甘んじて受け入れた方が幸せになれますよ」
よし、ストッパーであるカンナが手出無用のスタンスを取ってくれたのは大きい。
リオが現在のゲーム開発部の状態をどれだけ把握しているのかは分からんけども、アリスの事を知るのは時間の問題だろう。既に把握しているかもしれない。
彼女がアリスの正体や危険性を探るために動き出す……とまでは行かずとも、色々と調べる為に準備を始めてもおかしくはない。
それを止めるのは難しい。
『ぐふぁうるるるる♪』
「受け入れるのが幸せって、怪しい宗教みたいなッ!! あ〜もう! もうっ、可愛いわねあなた!」
高校生とは思えないくらいに大人びた肉体を覆っているスーツみたいな制服は私のヨダレでベタベタになり、綺麗な黒髪もリオの額や頬に張り付いている。
力では勝てない私から逃れようという意思は感じられない。
成されるがまま、私が満足して舐めるのを辞めてくれるのを待つ算段らしい。
口では可愛いと言っているけど目が笑っていない。私のことをまだ信用し切れないって感じだね。
こうなったら、もう色々ぶっ壊すしかないよなぁ?
どーしようも無い頑固者で独裁者じみた立ち回りをするリオの事だ、今こうしている間にも自分が成すべき事はこうだと固く決めている。
この決意はそう簡単には砕けない。砕くには、彼女の弱みに付け込んで内側から破壊するのが1番手っ取り早かろう。
『ぐふるるるるる……がぅあうっ♪』
調月リオさんよぉ、あーたは勘違いしてるぜぇ?
私が推しキャラを合法的にベロベロ舐め回せるってなって、あっさりと満足して辞めてくれると思って貰っちゃあ困るなぁ。
ましてや、あーたは私が死んだ時点でプレイアブルじゃなかったんだ。声すら付いていなかったんだ。
そんな推しキャラが私の目の前で生きてくれていて、私の耳に声を届かせてくれてンだからよぉ……私がどれだけ感動に打ち震えて暴走してっかなんて知らねぇよなぁ!?
「ちょっ、ねぇ、なんか激しさ増してっ!?」
リオを舐め回す勢いを早める。本気で舐めると肉を削いでしまうかもしれないから、ある程度加減はしているけどね。
彼女の『アリスを危険な存在として取り扱い、排除する』という決意を揺るがせるには外部からの働きかけでは遅い。
原作では先生達の活躍やゲーム開発部とアリスの絆といった物を見せ付けることで彼女も折れてくれたが、それは機械仕掛けの花のパヴァーヌ編の終わりも終わり。
そこまで言ってしまえばリオは自責の念に耐えられなくなり、ミレニアムから疾走してしまうだろう。
そんな展開は認めない。そこまで行き着いてしまうよりも前に彼女の決意を粉砕する。
「これは……ジン、お前…」
カンナは私がただ単にじゃれているのでは無いと見抜いたみたいだ。さっすが私の相棒、目ざといね。
「相当リオ会長を気に入ったんだな」
「嬉しいけど、止めてッ! ほんとっ、くすぐったいから! ほら、人も見ているのだから止めてっ!! 私にも恥じらいはあるのよっ!?」
この子は他人を駒として扱うような悪い子でありつつも、自分の行いを誰かに認めて欲しいという欲求も併せ持つ多感な時期相応の1人の女の子なのだ。
そんな子が立場を失うことになるなんて、あってはならない。
だからそこに取り入る。リオを構い倒して、私がどれだけリオを好いているのかをこれでもかと叩き込んで、誰かに愛されるという幸せを彼女に実感させる。
自分の理解者がいるという幸せを味わってもらい、誰もが皆その幸せを享受しているのだと理解させる。
アリスも自分と変わらない1人の女の子だと理解すれば、その理解に至る前にリオ自身が理解されて愛される幸せの心地良さを分かってくれれば、アリスの始末を留まってくれるかもしれない。
勝負だぜぇ調月リオォ!
頑固独裁者ガールとバカオオカミの根比べだ!
「も、もう無理うひゃあああはははははははは!?」
羞恥心とくすぐったさが限界を超えたみたいだ。
絶叫に爆笑を一体化させたような大声を上げて、リオは私に抑え込まれながらジタバタと暴れていた。
楽しみだ。この無理矢理笑わされている顔が、幸せによって自然と緩んでしまう光景を見るのが今から楽しみだァ!