狂犬が拾った雷狼竜、元人につき   作:ジンオウガを飼いたい

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あと四日でOBTですよ!今からもうワクワクが止まらなくて心臓が破裂してしまいましたわー!


ココロにヌルッと雷狼竜

「ど、どどど、どうなっているの……!?」

 

 自身が所属しているミレニアムサイエンススクールの生徒会 セミナーの他生徒にも場所を知らせていない自分だけの拠点に篭っていたリオは、開けたばかりの扉を閉める。

 

 ジンが居る。たまたま近くをウロウロしていたのではなく、明らかにリオが潜伏している拠点がここであると的中させて待ち構えていた。

 

『がうっ♪』

 

 入り組んだ路地の最奥に構えている基地ともなれば、そこに至るまでの道中には広い道幅は無い。

 それなのにどうやって入り込んだのか当時はまだ不明だったが、ジンは確かに待ち構えている。

 

 閉ざした扉の向こうから聞こえてくる嬉しそうな鳴き声を聞き、リオは勘違いや見間違いでは無いと理解せざるを得なかった。

 

「……有り得ないわ」

 

 扉を背を預けながらズルズルと床に座り込んだリオは頭を抱えてしまう。

 

『ぐぅるるる?』

 

 扉越しに聞こえてくる「どうしたの?」と心配するような声が、リオの良心を着実に刺激していた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ジンはリオを徹底的に構い倒すと決めて以来、ミレニアムサイエンススクールの校舎内外を問わずにウロウロと移動しまくっていた。

 居住区画から商店街、重要施設近辺や実験棟付近とそれはもうウロウロウロウロと見学するように歩き回っては気に入ったポイントに居座り、日向ぼっこや居眠りを楽しんでいる。

 

 時には広大な範囲を誇るミレニアムサイエンススクールの自治区内で悪事を働こうとする不良生徒を、治安維持組織と協力して捕縛することもあった。

 

 最初のうちは未知の巨大生物が街中を我が物顔で闊歩する光景に驚く人物が大勢居たが、そこはジンの持つ愛嬌と人懐っこさとバカっぽいまん丸お目目によって次第に慣れていったようで声が上がることも無くなった。

 

「はぁ……」

 

 目の下に小さなクマをこさえたリオが溜め息を吐く。最近はめっきり寝不足だ。

 

 ジンはリオの近くに四六時中居る訳では無い。自由気ままにミレニアムの各所を放浪し、思うがままに生活して、リオが時間的余裕を得たであろうタイミングを見計らって戻ってくる。

 

 そう、戻ってくるのだ。それも特定の場所にではなく、リオが居る場所にピンポイントで戻ってくる。

 

 原因は匂いだ。初めて出会った際に散々じゃれついたことで、リオ個人の匂いが記憶されてしまっている。

 狭い路地裏や橋の下といったセーフハウスも場所を記憶されてしまい頻繁に来訪し、出待ちや待ち伏せをしたりとリオの行動が先読みされている。

 

難しいわね…人と動物の共存というものは……

 

 リオはジンを気に入りつつも警戒しており、観察用のロボット犬やドローンを駆使して追跡と観察をしている。

 

 どれだけ人の言葉を理解できる利口な生物であっても、ジンは人間では無い。

 牙や鉤爪、それ等の武器を用いずとも純粋な自重を用いてでも容易に人を殺せる危険生物である。

 

 そんな存在がミレニアムサイエンススクール敷地内外をウロウロしているのを、リオは手放しで受け入れられなかった。

 自分にも懐いてくれているジンが何か問題を起こしたとなれば連れ込んだシャーレとの関係性にも悪影響が及ぶことになるし、何よりリオ個人がジンに非難の声が上がることを許せない。

 

 故にデータを収集し、行動パターンを割り出し、ジンがミレニアム自治区内で問題を起こさないか監視しつつ、生活出来る術や対策を導き出そうとしている。

 同時並行で進めている極秘計画の準備等もリオの日常生活の時間を食っており、彼女は最近寝不足気味だ。

 

「はぁ……」

 

「会長……どうされましたか?」

 

 セミナーの部室で書類と向き合っていたリオの手が止まり、窓の外に視線を向けながら溜め息を吐く姿にユウカが声を掛ける。

 

「今日は溜め息が多いですけど、何か悩み事でも?」

 

「……そんなに多かったかしら」

 

「はい。その席に座って、既に10回以上は溜め息を吐いてます」

 

「そ、そんなに多かったかしら?」

 

 仕事に身が入らないような感覚は感じていたが、そこまでとは思っていなかったリオはまさかの回数に目を丸くする。

 

 無理もない。

 セーフハウスの位置を既に半数近く割り出されてしまい、撒いても撒いても気付いた時には背後や目の前に現れ、それはもう強烈な愛情表現でベッタベタにされる日がもう3日も続いている。

 

 セーフハウスを新たに建造したりジンを寄せ付けない対策を取らないと、自分の身の安全性や秘密裏に進めている計画の進行に間違いなく支障をきたす。

 

 ゲーム開発部が身柄を確保している名も無き神々の王女でありキヴォトスに終焉を招く存在でもあるオーパーツ アリスを抹殺する方法も、抹殺すべきという結論を導き出しこそしてもそれを成し遂げる術がまだまだ未確立だ。

 

 頭を悩ませる要因が目白押し。リオが溜め息を吐きたくなるのも無理からぬことだった。

 

「書類整理にも身が入っていないようですし……ここはコーヒーでも飲んで、少し休憩にしませんか?」

 

「そうね。この書類に目を通してから、いただくわ」

 

 同じくセミナー所属の生徒である生塩ノアからの提案は、頭の中がパンパンになりつつあるリオにとって大変魅力的なものだった。

 

 しかしユウカからの指摘に多少の居心地の悪さを感じ、半ば逃げるように視線を移した書類が速やかに片付けなければならない内容を刻み込まれているものであり、ノアの提案を一旦流す。

 

ヴァルキューレ警察学校 公安局、ね

 

 キヴォトスの治安維持を担う生徒達が在籍するヴァルキューレ警察学校内部の組織 公安局とミレニアムサイエンススクールは、現在ある取り決めを交わしている。

 

 局長である尾刃カンナからもたらされた高品質かつ加工も容易な鉱石資源は、どれもが最先端かつ最新鋭の技術力と知識を保有するミレニアムサイエンススクールでも見た事がない品々であった。

 

 採掘出来る場所はヴァルキューレ警察学校 公安局が抑えており、盗掘に発展するのを考慮し公開していない。

 ミレニアムにはそこから採掘された鉱石素材をサンプルとして提供する代わりに、それ等を加工して装備品を作成してもらいたい というのが公安局のトップである尾刃カンナからの依頼。

 

確かに良質な鉱石資源は役立っているけれど……

 

 ミレニアムサイエンススクールとしても、未知の素材を独占して調査・研究出来るのは有難い話だ。

 

 電子機器や精密機械だけではない様々な素材に触れる機会があり技術もあるとなれば、公安局が頼る相手としても適している。

 

 結果だけを見れば学園全体の反映や活性化に貢献してくれる依頼ではあるのだが、リオは依頼主の名前に頭を悩ませていた。

 

「尾刃カンナ……」

 

 狂犬の異名をとる生徒 尾刃カンナ

 

 話が通じない、すぐ暴力をチラつかせる等のチンピラや不良に似た類の輩であれば依頼を断ってしまえば良いだけの話だった。

 

 だが、そうではない。物事を冷静な視点で見る事が出来、ミレニアム側の立場や思惑を考慮した立ち回りが出来る相手だ。

 そんな相手ともなると、リオも無下には扱いたくない。話が通じる相手とは話しているだけでも気晴らしになり、それが行く行くはミレニアムサイエンススクールへのメリットとなる。

 

 その尾刃カンナを、リオは危険視していた。

 

ジンの制御権を握る人物…厄介ね……

 

 ここで再びジンがしゃしゃり出てくる。

 リオの頭にはバカっぽいまん丸お目目はそのままに、デフォルメされて半開きの口から舌をダランと出しているジンの顔が浮かんだ。

 

 先生と行動を共にしているジンだが懐いているのはカンナだ。先生にもかなりベッタリと懐いているが、カンナ程に手綱を握っているようには見えない。

 

 つまり、このヴァルキューレ警察学校 公安局とミレニアムサイエンススクールが結んでいる取り決めに何かしらの不利が生じた際にカンナには()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が用意されていることになる。

 

「尾刃カンナさんが、どうかされました?」

 

「い、いえ…何でもないわ。気にしないで」

 

 無意識に呟いていた言葉をユウカに聞き取られており、問い掛けられたのに対してリオは苦笑いを浮かべて資料に視線を戻す。

 

 提出元はエンジニア部。カンナからもたらされた素材を用いてヴァルキューレ警察学校に提供する装備品の製造を担っている部活からだ。

 製造は順調に進んでおり、完成品は現在滞在しているカンナ本人の試射も経て認可を得ているという進捗報告の書類である。

 

尾刃カンナをこちらに引き込んで……いや、無理ね

 

 何かしらのトラブルによってヴァルキューレ警察学校 公安局との関係悪化を招けば、ジンという対処不可能と推測される存在の猛威に晒される。

 

 ジンはリオに懐いてくれているものの、濃密な時間を共にしてカンナと築いた深い関係性を加味すれば敵対する可能性は高い。

 

 ならばいっその事、尾刃カンナをミレニアムサイエンススクールに引き込んでしまうのも手段として有りなのでは。

 ふっと浮かんだ作戦は、他でもないカンナ本人とのやり取りを思い出して不可能だと切り捨てる。

 

『私は公安局の局長であることを誇りに思っています』

 

 鋭い目付きにギザ歯という強面に相応な芯の強さを感じさせた彼女の一言に嘘偽りは感じられなかった。

 局長という立場故の悩みや不安を口にしてはいても、その実では公安局の局長という立場に居ることを誇っている。

 

 尾刃カンナを引き込むことは不可能。現状、ジンの制御権を手にすることも制御権の持ち主を抑えることも不可能だった。

 

「それで良いのかも、しれないわね」

 

 書類から目を離したリオは小さく呟いて微笑む。

 上に立つ者として、カンナの立場に対する誇りは尊敬に値する。

 

 それにジンの制御権を握る、という表現はミレニアムの安全を優先するならば適切ではあるが心地良いと思えなかった。

 無邪気にじゃれついてくれる、邪念や思惑を感じさせない純粋無垢な愛情を感じさせてくれるジンに対して、意のままに操ろうとしているかのような表現は気に食わなかった。

 

「もしかして、噂のジンさんについて悩んでいたんですか?」 

 

 目の前に淹れたてのブラックコーヒーが置かれたリオは、ノアの発言に目を丸くして彼女の方を向いた。

 

「……声に出ていたかしら」

 

「直接お名前が出た訳では無いですが、尾刃カンナさんの名前や最近の出来事を踏まえると消去法でジンさん関連の事なのかなぁと思いまして」

 

 そこまで分かりやすかったとか、とリオは気恥ずかしくなって用意されたブラックコーヒーを口に含む。

 湯気の立っている淹れたてのブラックコーヒーの苦味がいくらか気恥ずかしさを誤魔化してくれた。

 

「隠すのは……無理そうね。そうよ、ジンについて悩んでいたわ」

 

 ジンに関して頭を悩ませているのは事実。

 

 セミナーの会長としてミレニアムの安全と、リオ個人としてジンの平穏な生活を願う二重の悩み。

 

 自分だけではどうにも結論が導き出せないような気がして、彼女は素直にノアへ対して頭を悩ませている存在がジンであると白状した。

 いざ白状してしまうと胸がなんだか軽くなり、ブラックコーヒーを口へ含む。

 

「あっ! それって今ウワサになっている()()()()()()()()()()()()()()と関係あったりするんですか!?」

 

「ぶふっ!?」

 

 コユキの爆弾発言に、リオはブラックコーヒーを噴いた。

 咄嗟に顔を横に逸らしたことで書類を汚してしまうことはなかったが、今まで築き上げてきた調月リオという人物像を木っ端微塵に粉砕する光景にユウカとノアが今度は目を丸くしていた。

 

「げほっ!ごほっ!何そのウワサは!?」

 

「リオ会長がヴァルキューレ警察学校から来ている尾刃カンナさんに対して嫉妬しているってウワサ、聞いたことありませんか?」

 

「ないわそんなの!! どういうことよ!」

 

 胸ぐらを掴まれてブンブン揺さぶられながら問い詰められたコユキが言うには、噂の中でのリオはジンと親しいを通り越して仲睦まじいとすら言えるレベルで深い絆で結ばれているカンナに対して嫉妬しているというのだ。

 

「わ、私が嫉妬!? あっ、ありえないわ! そんな無意味なこと、私がする訳ないじゃない!」

 

 嫉妬なんて無意味な感情が自分の内に存在している。

 

 あまりにも荒唐無稽なウワサに火が付きそうなほど恥ずかしい気持ちになったリオだったが、彼女の耳が小さな異音を聞き取る。

 

どったどった…どたばた……

 

 外から聞こえるその音は、ジンが駆け回る際に立てる足音だ。

 

 防犯用に取り付けられているカメラを起動すると、背中にカンナを乗せたジンが走り回っている光景がスクリーンへと映し出される。

 

「こっちで会った時より大きくなっている気がするわね……」

 

「先日、街中で初めてお会いしましたけど凄かったです。ビルの屋上から屋上へと軽々飛び移っていて、思わず写真を撮っちゃいました」

 

「私もこの前反省部屋から出た時に鉢合わせて、ぺろぺろ舐められちゃいました! ベタベタになったのに気持ち悪くなくて、なんだか不思議な気持ちでしたー!」

 

 イナガミを捕食して帯電毛が長く発達したことでシルエットが大きくなったジンの姿に、ユウカは眉間をピクピクさせる。

 

 ノアは人工物にまみれたコンクリートジャングルにおいても逞しく生きているジンの姿を思い出し、過酷な環境で生きている生物の力強さを再認識した。

 

 コユキも初対面で舐め回されたのに不愉快な気分にならなかったことを不思議に思いながらふと、沈黙しているリオが気になって顔を覗いた。

 

「……にはっ☆ ユウカ先輩、ノア先輩、見てください」

 

「……あらあら」「これは……」

 

 コユキに名前を呼ばれたユウカとノアもリオの顔を見て、ウワサが本当なのだと理解させられた。

 

「嫉妬なんか…嫉妬、なんか……」

 

 そこには悔しそうに親指の爪を咥えて、ジンの背中で風を浴びているカンナを羨ましそうに見つめるリオの姿があった。

 

 否定していても心は正直だった。

 

 立場による遠慮もなく邪念もない無邪気で強烈なじゃれ付きという愛情表現は、確かにリオの精神に食い込んでおり彼女の中でジンという存在の大きさを強めている。

 そしてジンの存在が大きくなればなるほど、自分よりも近い位置にいるカンナに対する嫉妬が芽生えていた。

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