狂犬が拾った雷狼竜、元人につき   作:ジンオウガを飼いたい

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現段階において、投稿は7日までは毎日1話投稿を継続していくつもりです。

OBTが始まると私はワイルズに狂うことになると思うので投稿は終了まで不定期か停止、OBT終了後にまた1日1話のペースを想定しています。

ワイルズが正式リリースされたら?








さぁ?


違法成人2人、語らう

「はぁ……」

 

 セーフハウスに戻ったリオは椅子に腰掛け、モニターを見つめながら深い溜め息を吐いていた。

 

 画面に映し出されているのは1匹の大型モンスター。

 ミレニアムサイエンススクールの近郊にある商店街を構成する建造物群の屋上をぴょんぴょんと飛び回っている。

 

 人間には真似出来ないルートでの散歩を楽しんでいるジンであった。

 

 ロボット犬だけではジンの追跡を万全に行うことは不可能であり、ドローンを用いて空中からの観察も欠かせなかった。

 

「嫉妬心、ね……」

 

 昼食の直前にコユキが言い出した妄言を、リオは否定しきれなかった。

 

 それこそ聞いた直後は慌てつつも一応の否定は出来たものの、その直後に見せられた光景がそれ以上の否定を許さなかった。

 

 調月リオは尾刃カンナに嫉妬していた。

 ジンと親しくしている彼女にヤキモチを焼いていた。

 

 立場や人柄を気にせず懐いてくれているジンに対し、独占欲を抱き始めていた。

 

「有り得ない、有り得ないわ」

 

 ブンブンと頭を左右に降り、髪の毛を振り乱す。

 

 世間一般で見れば確かにこれは嫉妬の類に分類される感情だが、リオはそんな無駄な感情を抱いていると認めたくない。

 

 自分が習得していない技術や知識を持つ者に対しての嫉妬ならば納得出来る。

 その手の嫉妬ならば技術や知識をより深める為の原動力足り得るからだ。

 

 それに対して現在の嫉妬や独占欲は、自分を一歩進ませる原動力として役立たない。何も生み出してはくれない。

 あまりにも無駄な感情であり以前までのリオなら下らない、不必要だとバッサリ切り捨てることが出来た。

 

「なんなのッ…このモヤモヤとした感情は……」

 

 テーブルをダンッ!と強く叩く。

 

 胸の内がグルグルとして落ち着かない。意味不明なモヤモヤ感が不快感を伴って胸中に居座っている。

 

 ジンとの関わりは着実に調月リオという人物に影響を与え、人格や思考回路に変化をもたらしつつある。

 

 現にリオは以前ならば容易く切り捨てられたはずの感情にこうも頭を悩ませ、テーブルに八つ当たりじみた行為をするほどに取り乱しているのだから。

 

「はぁあぁぁぁぁあぁ〜〜……」

 

 深い深いため息がセーフハウスの中にこだまして、消えていく。

 

 ジンばかりに気を取られてはいられない。

 

 エリドゥの建設や戦闘用ロボット アヴァンギャルド君の調整も遅れが生じている。

 ヴァルキューレ警察学校 公安局に提供する装備品の製造はエンジニア部に一任しているが、その両者の間を取り持つ必要もある。

 

 アリスを抹殺する作戦も、そんなことをしたらジンが悲しんでしまうのではないかと思うと気が乗らなかった。

 

「またここでもジンなのね」

 

 名も無き神々の王女は廃墟区画でゲーム開発部と先生によって発見されている。

 不法侵入をして見付けたのではなく、リオからの頼み事をこなす一環で発見した。

 

 その頼み事をした相手の中には、ジンも居た。

 

 キヴォトスにとって最大の危機をもたらす存在を抹殺してしまうと、それを発見したジンに深い悲しみを与えることになるのではないか。

 

 そんな疑念が生まれてしまい、リオは抹殺計画を練り上げる事が出来なくなっていた。

 

 アヴァンギャルド君の調整が遅れているのもジンのせいである。

 お気に入りの戦闘用ロボットがジンと戦うことになるかもしれない、そう思うと調整を行う手が止まってしまう。

 

 どこまでジンに悩ませられれば良いのだと自分自身に対しての嘲笑を浮かべていると、ピロンっという可愛らしい通知音が入る。

 

「モモトークからの通知……げっ」

 

 追跡や逆探知の恐れを排除するためにリオはモモトークの相手を限定している。

 その限定している相手達も進んでモモトークを送ってくるような面々ではなく、誰かと思ったリオは通知の内容を確認。

 

 送り主の名前を見て、彼女らしくない明確に嫌がる声を漏らした。

 

 嫉妬心を向けている相手 尾刃カンナだ。

 

「このタイミングで……狙っているのかしら」

 

 別に嫌っている訳では無い。

 立場に誇りを持っている姿は尊敬に値するし、言葉を交わしていても不快感を感じさせない。

 

 とはいえ嫉妬心を向けている相手であることは事実であり、その感情を受け入れられていない現状ではあまりやり取りをしたくない相手でもある。

 

 なんで私は彼女とモモトークの連絡先を交換したのだ……

 後悔の念を抱きながら画面に視線を戻すとそこには『今から1杯 いかがですか?』という文言と、商店街の少し外れにある屋台の位置情報が送付されていた。

 

「……サシ飲み、というやつ?」

 

 あんた、まだそんな事する歳じゃねぇだろ

 

 発言にそうツッコミを入れてくれる人が不在のセーフハウスに、リオの声は吸い込まれる。

 

 数分後、そのセーフハウスは照明もモニターも消され、無人になった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ミレニアムサイエンススクールの商店街は、最先端の技術が集まる学校特有の近未来的な風貌を呈している。

 

 そんな中、リオが訪れた屋台はリヤカーを改造して作られたレトロで味わい深い見た目をしていた。

 2人か3人で腰掛ければ満席かという狭い座席の上には『おでん』と書かれた青い暖簾が風を受け、隣にぶら下がる提灯と共に揺れている。

 

 座席の背面には木材に達筆な文字で『貸し切り』と書かれた、これまた味のある看板が立てかけられていた。

 

「急なお誘いでしたのに来ていただいてすみません。今日は私がお金を出しますので」

 

 既に注文を済ませていたカンナはリオが到着したのを確認すると、店主に相方が来たことを伝えて注文していたおでんを出してもらう。

 

「お誘いというのは大体が急なものよ。気にしなくて良いわ」

 

 大方、ヴァルキューレ警察学校 公安局の装備品を用意してくれていることへの感謝の意味を込めて食事に誘ったのだろう。

 

 思惑を予想し、そこに接待のような意味合いを感じさせないカンナの姿に安堵を感じたリオは軽く息を吐く。

 

「あと、別にそこまで畏まらなくて良いわ。私はそこまで敬われる人ではないのだし。それと、割り勘よ」

 

「……ふふッ。それは助かる。実を言うと今、かなり金欠でな」

 

 砕けた口調に変わったカンナの口から金欠という言葉が飛び出し、金欠ならなんで食事に誘ったのだと問い詰めるような目でリオは彼女を見た。

 

「良いカメラを買ったんだ。最新式でかなり綺麗な写真が撮れる。これでジンのベストショットをだな」

 

「なにすっとぼけたことを言っているのよ。私は何にそんなお金を使ったのかではなく、どうして金欠なのに私を食事に誘って代金を持つなんてことを言ったのかって聞きたいの」

 

 視線に含まれる意味合いを勘違いしたカンナが早速ジンの名前を出したせいで、リオは食い気味に言葉を被せてしまった。

 

 モヤモヤさせられる相手の名前を、別の意味でモヤモヤさせられる人物から聞かされてリオの気持ちは一気にザワついた。

 

 屋台を訪れるまでの道中も、ミレニアムサイエンススクールに入学した当初に行った発表会並に緊張していた。

 それをどうにかして落ち着かせていたのに、ものの数分で再び掻き立てられてしまった彼女の心中は穏やかではない。

 

 怒っているようにも見えるリオの反応を見て、カンナは確信を得たように笑う。

 

「私に向けられる怖い顔の正体を暴きに来た、と言えば良いか?」

 

「…見透かされているわね。ハァ……」

 

 相手はヴァルキューレ警察学校の公安局構成員で、そのトップである局長の座にいる人物だ。

 

 人間観察は得意であり、その観察眼が培われて居なくともリオがカンナに向ける視線が特別なものであることくらいは読み取れた。

 

 カウンターに肘を付いて頭を抱えるリオの横で、カンナは少し勝ち誇っているようにも見える雰囲気で切り分けた大根を口に含む。

 

「どうやら、ミレニアムでは私が貴女に嫉妬しているというウワサが流れているらしいわ。根拠も何も無いのに、ウワサとは凄いものね」

 

「ん? 事実だろう?」

 

「ぐふっ!?」

 

 仮初の冷静を取り繕ったリオの発言に、カンナの情け容赦のないツッコミが入る。上がり始めていた頭がまた下がった。

 

「貴女はジンと親しくしている私に嫉妬している。そのウワサを耳にしたのは今が初めてだが、そう言われれば貴女の怖かった目線にも合点が行く」

 

「そ、そんなに怖い目をしていたの……?」

 

「それはもう。昼ドラで浮気した主人を刺し殺そうとする主婦の鬼気迫った表情に相応しいくらいには怖かったな」

 

 昼ドラを見た事がないリオにはいまいちピンとこない例えであったが、ドラマの監督がOKサインを出すくらいに恐ろしい目線だということは何となく理解した。

 

 そんな視線を向けてしまったことが恥ずかしく、そんな視線を向けられる感情を抱いていることに驚かされ、リオは顔が上げられない。

 

「…悪かったわね。私、そんなつもりは」

 

「分かっている。立場等々のしがらみを気にせず突っ込んでくるジンが気になって仕方がないのだろう? そして、そんなジンにベッタリな私が羨ましい。違うか?」

 

 話の主導権を握られ、リオは少し不服そうにカンナの言葉に頷いた。

 

 ここまで来れば認めざるを得ない。ジンからの愛情を一身に受けているカンナが羨ましかった。

 

「あの子は私に、今までの人生で経験したことがない刺激をくれたわ。邪念も何も無い純粋で無垢な愛情を感じたのなんて……何時ぶりかしらね」

 

「ジンは賢く、人をよく見ている。そして優しい子だ。きっと貴女の胸の内にも気付いているのだろう」

 

 胸の内にも気付いている。この発言がリオには刺さった。

 

 それは気持ちを見透かされているという意味合いなのだろうが、秘密裏に様々な物事を進めているリオにとってはそれ以上の意味合いを持つ。

 

 エリドゥ建設やアヴァンギャルド君の調整、名も無き神々の王女抹殺計画。

 その他、必要となれば()()()()()()()()()()()()()()にも着手する用意をしている事を見抜かれているかも。

 

 そう思うと、リオの手は本人の意思とは関係なしに震え始めてしまった。

 

 もしかして、散歩だと思っていたジンのミレニアム自治区内散策は逃げ場を探しているからなのでは……そんな見当違いも甚だしい推測が彼女の脳裏を駆け巡る。

 

「貴女は優しいからな、思っていることが顔に出る」

 

「……え?」

 

 徳利に注がれている烏龍茶をお猪口に移し、くっと景気よく飲み込んだカンナの()()()という言葉にリオの目が丸くなる。

 

「私が、優しい?」

 

 無い。それは無い。断言出来る。

 

 リオは自分を非道な人間だと思っている。人の機微や感情をくだらないと切り捨てて、合理主義を突き詰めた人間。

 

 それに優しいのであれば、アリスの抹殺計画を企てたりジンを殺せる兵器の開発に着手する可能性を考慮するなんてことは無いはずだ。

 

「ああ、優しいな」

 

「何を、世迷いごとを」

 

 まだ出会って日の浅い相手に向けて放つものでは無い発言を、カンナは何かしらの確信を感じさせるしっかりとした口調で放った。

 

 動揺したリオは震える手で割り箸を操り大根を4等分に切り分け、そのうちの1つを口に放り込む。

 皿に取り分けられて少し時間が過ぎたこともあり、大根は口に入れても熱過ぎず冷た過ぎずな絶妙な塩梅の温度になっていた。

 

「私は職業柄、色々な犯罪者や犯罪者予備軍を詰問することがある。狂犬だなんだと言われるくらいに突き詰めていくと、相手の目を見れば大体のことは分かるようになった」

 

 嫌な特技だ

 

 カンナは本心では無いとひと目でわかる柔らかい笑みを浮かべながら呟き、三角形に整えられたこんにゃくを一口齧る。

 

「どれだけ決意で凝り固めても、嘘で塗り固めても、目は口ほどに物を言う。調月リオ、貴女の目もそうだ」

 

 問い詰めるのでも糾弾するのでもなく、世間話をするようにリラックスした雰囲気でのカンナの語りが、返ってリオに居心地の悪さを感じさせていた。

 

 逃げ出したくなるが、それは出来ない。自分を見つめているカンナの目が、それは許さないと口に代わってリオに釘を差している。

 

「何かを決意していたのに、それが揺らいでいる。ジンという存在によって、彼女の優しさや彼女に対する優しさが揺らぎを招いている……余程、その何かしらの決意は硬かったんだろう? だからこそ、揺らぎが大きい。ひと目でわかる程にな」

 

 カンナの発言は不確かな物言いが大多数を占めていた。

 

 曖昧で不明瞭な、占い師がそれっぽいことを言って相手に『合ってるんじゃんね!』と信じ込ませるのに似た手法。

 ある意味では詐欺と捉えられなくもない、カンナの立場として少しマズイのではと思えなくもない物言いだったが、今の心が揺れ動いているリオにとっては効果覿面だった。

 

「……」

 

 沈黙は肯定、という言葉がリオの頭からは抜け落ちている。

 

 ミレニアムとキヴォトスの平和を願って昔から続けてきた構想や練り上げた計画が、ジンから与えられる無償の愛と優しさで狂い始めている。

 

 気付けばリオもジンがミレニアムの地で問題を起こしたり巻き込まれることがないよう気にかけ始めている。

 名も無き神々の王女と同等か、あるいはそれ以上の壊滅的被害をもたらし得る存在に対して、リオは優しさを発揮し始めていた。

 

「きっ、極めて曖昧で不明瞭ね…ゆらぎなんか、これっぽっちもないわy」

 

「ジン」「っ!?」

 

 認めてしまっては負ける。

 どうにか切り抜けようとしたリオの言葉に、今度はカンナが被せてきた。

 

 しかも意味を成さない『ジン』と一言だけ。

 そのたった一言で、リオの体は悪事が親に露呈した子供のように跳ねた。

 

「カメラがどうたらの下りで、私が放ったジンの名前。それを聞いた途端にリオは言葉を被せてきた。動揺……したんじゃないか?」

 

「………………はぁあぁぁぁぁあ…流石は狂犬ね」

 

 降参よ、とリオは両手を上げた。

 

 話術では勝てそうにない。ペースを完全に握られてしまっている。

 

 自分の意見を論破されてしまった時のような敗北感はあったが、不思議と不快感は無い。

 あーあ、こりゃ勝てねぇわ とサッパリ負けを認められる、奇妙な清々しさを伴う敗北感だった。

 

「そうよ。私が今進めている様々な計画が、ジンの存在で狂い始めている。ずっと以前から練り上げていた物が音を立てて崩れる寸前にまで破壊されて……それを、良いのではないかと思い始めているの」

 

 何を行っているのかはさすがに言えない。横領や殺人未遂、表沙汰になればセミナーの会長の座には座れなくなるし何より目の前の正義の味方にとっちめられる。

 

 でも認めてしまうと、それはもうスルスルと言葉が出てくるものだ。

 

 色黒になるまで味の染みた卵を2つに割る手つきに、震えはなかった。

 

「困ったものよね。私が私では無い別の似て非なる人物に作り替えられていく感覚……と言えば良いのかしら。しかも、一気に作り替えられないからこそタチが悪い」

 

「以前のままの自分と変わり始めた自分、その2つの板挟み……という訳だ。なかなかどうして、骨の折れそうな難題を抱えているな」

 

 カンナは空になった徳利に烏龍茶を注いでもらいながら、憑き物が取れたような明るい表情のリオを横目で見ていた。

 

「そこまで言うのならジンと1日だけで良いから2人きりにして欲しいわね。1日中モフり倒して構い倒したら、少しは気が晴れると思うわ」

 

「確かにオススメの気晴らしだがオススメはしないぞ。彼女は甘えるのが好きだが甘えられるのも好きと来た……1度甘えるとな、何倍にもなって返ってくる!」

 

 どれだけ強烈なカウンター(甘え返し)を食らったのか、酔っ払いの如く顔を赤らめて潤んだ目をしているカンナの姿が、リオに生唾を飲み込ませる。

 

「あれはもう、言葉で表現するには私のボキャブラリーが貧弱過ぎる! 兎に角幸せなんだ! 戻れなくなる…私のように…!」

 

「何よ、ケチ臭いわね。同じオオカミに頭を焼かれている者同士、戻れなくなるとこまで付き合うわよ」

 

 透明なコップに麦茶を注いでもらったリオが、そのコップを掲げる。

 

「ぶっちゃけてしまうと、最初は貴女とビジネスパートナー的な付き合いになると想定していたわ。まさか2人きりで、接待でもなくただ単に飲みに来ることになるなんて思わなかった……これからよろしくね」

 

「フッ、こちらとて同じだ。ミレニアムサイエンススクールのトップとこうして話を弾ませる間柄になるとは思っていなかった。こちらこそ、これからよろしく頼む」

 

 掲げられたコップにお猪口が触れる。

 

 そこからはもうグダグダだ。

 ジンとの出会いをカンナがタラタラと語り、都度リオが食ってかかる。

 

 別に酔っ払っている訳でもないのに場の空気と興奮で顔が真っ赤っかになったミレニアムサイエンススクールとヴァルキューレ警察学校 公安局のトップ同士のサシ飲みは、日が落ち外が暗くなるまで続いた。

 

『……ゔぁうるるる?』

 

 カンナとリオの匂いを追って現れたジンも、語りと興奮で疲れ果ててグッタリしている2人の姿には「なんだコイツら?」という感想を隠しきれなかった。




時計じかけの花のパヴァーヌ編とエデン条約編の間にオリジナルストーリーを挟む想定でいます

更新が不定期になった際は、そのオリジナルストーリーとやらの展開を練っているとお持ちます
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