いくらジャギィを呼び寄せても私に傷を与えることは出来ず、呼べば呼ぶだけ殺されて食われる光景にドスジャギィも何時しか仲間呼びをしなくなっていた。
私とまともに殺し合ったら勝てない、そう分かっていたのだろう。ひたすらに部下を呼んでは私を襲わせて、私の手の内を読んで付け入る隙を探したのかもしれない。
それがまるで役に立たないって学んだらしいね。長いこと生きて長になったならそれくらいの状況判断は出来るだろうし、賢明な個体だったのかもしれない。
「グルルルル……アゥン」
まぁ、それでもジンオウガである私には勝てなかった訳だが。敗北して命を落とし、こうして私に食われている。
部下を殺し尽くされ、煽る為に死骸を投げつけられ、怒りに任せて飛び掛ってきた所をジンオウガの代名詞であるダイナミックお手で叩き落としてそのまま頭も叩き潰した。
ゲームでは後方にぶっ飛んでから絶命するドスジャギィが一撃でピクリともせずに即死する光景は新鮮味があった。
いや、3Gでイビルジョーが乱入してきた時も飛び降りてきたアレに踏み潰されて即死していたっけ。あまりにも呆気なく死んだから乾いた笑いが出たのを思い出す。
(ふぅ……お腹いっぱい)
ドスジャギィは体格が大きいのもさることながら、その体躯を支えるだけの筋肉があって歯ごたえのある肉質をしていた。
噛み潰している間に満腹中枢が刺激されてお腹が膨れる感覚があり、ドスジャギィの死骸を食べ終えた頃にはすっかりお腹も満たされていた。
血塗れになった顔や鉤爪を小川に突っ込んで綺麗に洗い落とす。血塗れなのは不衛生だし、いくら馬鹿面ジンオウガでも無駄におっかなくなるからね。
(思い付きでやってみたけど、上手くいって良かったよ)
雷光虫に力を貸してもらう方法は、公式では『静電気を分け与える』くらいの記載しかなかった。どうやって分け与えるのか、方法に関しての記載はナシ。
チャージとか格好良くて気にしなかったけど原理不明だからね。立ち止まって吠えるだけで雷光虫呼び寄せるってどういうメカニズムなんだろうか。
あれ、発電しててそれを目当てに集まって来てるのかな。だとすればその意図的に発電する方法も調べないとなぁ……
帯電毛を振って貯めていた静電気を撒き散らすなんて思い付きでやった行為だったけど、雷光虫たちはそれに食い付いてくれた。
お陰でジンオウガといえばコレという現象を堪能できた。良い経験になったよホント。
でも、これはこれで不安が残った。
ゲームでは『ジンオウガ=超電雷光虫の力を使って超帯電状態になる』とシステムで決められているから闘技場みたいな虫がいない場所でも、チャージをすることで超帯電状態に移行出来る。
それに対して、私は実際に生きているジンオウガだ。システム云々で特定のモーションを行えば確実に超帯電状態に移行できる訳じゃない。
超電雷光虫がいなければ、私は素のフィジカルだけで歩んでいくことになる。
(さて……どうしよ)
いや、素のフィジカルだけで既に相当なものなんだけどね。
ツルギとかヒナとかネルとかミネとかミカとかアリスとか、そういったブルアカ世界でもフィジカルが狂ってるレベルの人達以外なら多分負けないだろう。
それでも自分の力をより強められる要素が使えない環境に身を置く恐れがあるのは、少しばかり心もとない。
いっその事、私の体を使って雷光虫を養殖とかしてみようかな。蓄電殻や帯電毛と雷光虫が隠れられる場所が私の肉体にはそこかしこにある。
そこで雷光虫を匿って繁殖してもらえれば場所を気にする必要はなくなる……試してみようかな。餌になる電気は私が生きていれば勝手に生み出されて供給されるわけだし。
新たに試してみる事を決めながら体を綺麗に洗い、やりすぎちゃった現実を直視する。
(やっちゃったなぁコレ)
エリア2はひどい有様だ。地面が捲れ返って、そこかしこにダイナミックお手やら背面ボディープレスやらで作った陥没痕が出来ている。
当たり前っちゃ当たり前だけど、ゲームと違って破壊された地形は勝手には戻らない。
小川なんて私が殺したジャギィとドスジャギィの血液が混ざったせいで薄ら赤く染まってるし。
帯電して気分が上がったとはいえ流石にやり過ぎた。ジンオウガのパワーすげぇや。
幸い、水辺だったこともあって草花が私の放電で引火してもその後のバタバタで撒き散らした水がかかって消火出来ていた。
火災にまでは発展せず、緑が一部焦げた程度で済んでいる。
(モンスターパニック映画でも中々見ない絵面だよね、これ)
川を赤く染め、地面を捲り返したり陥没させた張本人が馬鹿面で佇む。それも数秒前まで殺した獣を貪り食いながら。
うん、下手なホラー映画なんかよりよっぽど怖いね。
これをヴァルキューレ警察学校の生徒たちに見られたら怯えられそうだな……見せられないよって看板作った方が良いかな。
なんてことを考えている場合じゃない。あの子たちの事だから私が暴れ回っている音とかテンション上がって落とした雷とかを見て駆け付けてくるに違いない。
早いところ、ここを立ち去って皆の元に帰ろう。
アプトノスが大丈夫かも気になるし、毛繕いもそこそこに立ち上がった私の視界の奥。
鬱蒼と茂る木々の隙間からこちらを見るヴァルキューレ警察学校の生徒たちと、その先頭に立つ1人の生徒の姿が目に飛び込んで来た。
(あ、あれは……まさか!)
やっちまった、見られちゃったと思ったのもほんの一瞬。
先頭に立っている生徒に、私は見覚えがあったし極度の興奮を起こしていた。
鋭い目付きにうっすらと青みがかった灰色の瞳。
ピンと可愛らしく立っているケモ耳。
女子高校生が出せるものでは無い独特でアダルティな雰囲気を纏う少女。
私がブルアカをやっていた理由でもある生徒、尾刃カンナだ。
本物の尾刃カンナが私の目の前にいる……マジか? あれ本当にマジモンの尾刃カンナか?
「言葉は分かるな、私は彼女たちの上司である尾刃カンナ。ヴァルキューレ警察学校公安局局長の」
「
聞き間違えるはずがない。ホーム画面で何度も何度も聞いた声だ。
ホンモノだ! ホンモノの尾刃カンナだ!
まさか会えるなんて思わなかった! 嬉しい!
気付いたら私は全力疾走でカンナに駆け寄って、巨体が突進してくるのにビックリしていた彼女を押し倒していた。
「うわわわわ!? なっ、何をするんだ!! 辞めないかッこら! そんなべろべろ舐めるな! 頬を擦り付けるな!」
オオカミだから合法的にカンナをべろべろできる! 私の匂いを擦り付けてマーキングも出来る!
可愛いしなんかいい匂いがする!
うっはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ可愛いよォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!
カンナだカンナ! ホンモノのカンナだよ!
爪とか綺麗にしておいて良かった! ヴァルキューレ警察学校の生徒たちを怖がらせないようにしようと思った数十秒前の私グッジョブ!
「ガウッ! バウアウッ!」
嬉しさとテンション爆上がりのせいで喜びの鳴き声が止まらない。尻尾が勝手に左右にブンブン振られる。
凄いよ! 本当にホンモノの尾刃カンナが私の目の前に居るよ!
嬉しいなぁ! どうにかして会えないかなぁとか考える前に向こうから来てくれるなんてこれはもう運命って奴だよね!
どうしよ笑いが堪えやれない。うへ、うへへへへへへへへへへへへへへへへへへ。
「凄いですね局長。いきなり懐かれてますよ。何か美味しいものとか隠し持ってたりします?」
「私がそんなことをするわけないだろう!? 隠れてお菓子を食べるタイプの人間に私が見えるか!?」
「仕事のストレスで……とか?」
「ぐ…否定しにくい例を持ち出してきたな……というか! そんなことを言っている暇があったらコイツを説得してくれぇ!」
うんうん、狂犬とか言われて恐れられているって設定のカンナだけどこうして慌てているとそんな感じは欠片も感じられないね。
むしろ部下とワイワイやり取りしてて嬉しいくらいだよ。
でも、そろそろ一旦じゃれつくの止めようか。これ以上じゃれついて混乱を助長させたらカンナも武器を抜きかねない。
効くかどうかは分からないけど……弾丸が跳ね返ってカンナに当たった、なんて見たくないからね。
押し倒すのをやめて後退りをし、距離をとる。いきなりじゃれつくのが止まったことに、それはそれで驚いたみたいで体を起こしたカンナは目を丸くしていた。
「あおんっ!」
お座りをして、軽く一鳴き。口を開いて舌を出し、馬鹿面も駆使して『人間が大好きなバカでかいバカオオカミ』を演じてみる。
いや、演じるというか人間は好きなんだけど。元とはいえ同族だし。
立ち上がり、ヨダレでベタベタな上着を眉間に皺を寄せながら脱いだカンナが私を真っ直ぐ見つめ返してくる。
いやぁ……美人さんだよねぇ。なんだろ、おっぱいの付いたイケメンってこんな感じの人のこと言うんだろうね。前世じゃお目にかかることもなかったよ。
「……なるほど。知性を感じる目をしている。お前、私に警戒心を抱かせないようバカっぽい演技をしているな?」
「ワンっ!」
当たりだ。流石公安局の狂犬、嘘は簡単に見抜かれる。
肯定の意を込めた短い鳴き声を上げて、頭を伏せる。警戒心も敵意も無いよ、そうアピールした。
伏せながらも舌は出し、尻尾も振る。カンナにデレデレなのを表情でも仕草でも示して、彼女から感じる警戒心を取り払おうとする。
「………はぁ。確かに、こんな仕草をされては警戒心も解されるな。お前たちもこれに籠絡されたわけか」
「いや……なんか私たちと出会った時より格段にデレデレですよ?」
そりゃヴァルキューレ警察学校の生徒たちも可愛いけど、やっぱカンナの方が私としては可愛いと思う。
それに何より推しキャラの一人だったからね、実際に生きて会えたとなればこうもなりますよ。
神絵師とか好きな声優さんに会うと握手求めたり、平伏したくなるでしょ? それよ。
それに私が本気でじゃれついても大丈夫そうなのがまた嬉しい。
手加減をしなきゃいけない、そう思うだけでも結構なストレスだ。
私だって推しキャラ愛でたい!
思い切りじゃれ付きたいんだよ!
「私たちの言葉を理解出来る、もしそうなら」
「きゃんっ♪ わんわんっ♪」
理解出来るなら何か仕草で示せって言いたいんでしょ? そんなのみなまで言わなくても良いのに!
その場でクルクルと回って見せた。
自分よりもデカいオオカミが楽しそうな声を上げて自分の尻尾をドタバタ喧しく追いかけてその場をグルグル回る。
熱を出した時に見る意味不明な夢の内容みたいな私の行動に、あのカンナが笑いを堪えて顔を逸らした。
コレは……もう一押しってやつでは?
こうなったら……もう、加減は要らないよなぁ?
馬鹿面だけじゃない、推しキャラに出会えてテンション壊れたオタクの限界化した行動……見せてやんよ!