欠損奴隷を治したら、俺を崇める宗狂団体が設立されてた   作:破滅

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01話 異世界召喚

 意識が、混濁している。

 

「オーホッホッホ! 勇者召喚に成功しましたわ! 褒めて遣わすわ、ケッヘル!」

 

「姫様。勇者召喚は、術者の生命を代償に発動させる禁呪でございます。ケッヘルはもう既に……。うぅっ……」

 

 ごってごての装飾を着けた金髪縦ロールのお姫様が高らかに笑い、隣の禿げた老人は哀しむ素振りだけ見せながらもその口元を悪そうに吊り上がらせている。

 

 近くには魔導士のローブを着た男の死体が5つほど転がっていた。

 

 ケッヘルって人はこの5人のうちの誰かなのか、それともこの5人全員がケッヘルなのか……。

 

「ですが姫様! 勇者を手下とすれば、戦争に勝ちこの国を更に豊かにすることが出来ましょう。ケッヘルは、国の未来の為に殉職致したのです」

 

「そう……ですわね! ケッヘルもきっと天国で喜んでるに違いありませんわ! だって、我が国の発展の礎になれたんですもの! オーホッホッホ!」

 

「ええ、ええ。そうでしょうとも! 死んだケッヘルの分まで、我々は豊かになりませんとなぁ!」

 

 これは、状況から推察するに……異世界召喚ってやつなんだろうか?

 

 さっき『勇者召喚』がどうのって言ってた気がするし、俺のこと勇者って呼んでるっぽいし。

 

 俺、仕事サボって無料のWEB小説読むのが趣味だから詳しいんだ。そういうの。

 

 詳しい俺から言わせて貰えば――うっ。頭が痛い。……考え事をすると、思考に靄が掛かったようになって次第に何も解らなくなる。

 

「そんなことよりも、折角多大なコストを払って召喚したんですわよ! 勇者の能力を早く確認致しますわよ!」

 

「ええ、そうですな! そうしましょうぞ」

 

「早速『神託の水晶』を持ってきなさい!」

 

「ええ、そうおっしゃられると思いまして既に用意しております」

 

 禿げた爺はしたり顔で、懐から紫色の布に包まれた綺麗な水晶を取り出した。

 

「……ところで、姫様。『絶対服従紋』はちゃんと掛けられていますかな? 異世界から召喚した勇者は強力なスキルと膨大な魔力を持つ反面、精神が軟弱ですから、ちゃんと紋で縛っておかないと使い物にならないと聞きますぞ」

 

「そうですわね。反抗されても厄介ですし、少し確認してみますわ」

 

 ……クソッ、さっきから頭がぼんやりするな~って思ってたけど『絶対服従紋』ってやつのせいだ!

 

 さっきの会話を聞いてた感じ、この姫もジジイも人の命を何とも思ってないようなクズっぽいし、これかなりマズいぞ。……知らない世界で身体を操られるまま戦争に出されて死ぬなんて絶対に嫌だ!

 

 とはいえ『絶対服従紋』とやらがある中でどうすれば……うっ、頭がッ。

 

「『絶対服従紋』発動。手を前に突き出し、神託の水晶に魔力を流しなさい」

 

「仰せの通りに」

 

 ……!?

 

 意図してない言葉が口から出たと思ったら、身体が勝手に動いて、右手が水晶の方に伸びる。

 

 いや、でも俺は魔力の流し方なんて解んないぞ!?

 

 解んないはずなのに、身体が勝手に俺の体内に流れるエネルギーの源みたいなものを動かして、水晶の方に流し込んでいく。

 これが、魔力? 俺、魔力を流し込んでいる……?

 

 へぇ、凄いな。この『絶対服従紋』って命令された側がやり方解んないことでもさせることできるのか。使い方によっては便利……っていや、感心している場合か!

 

 俺、操られてるんだぞ! しかも出来ないようなことも無理やり出来るようになるってことは、脳が無意識で掛けてるリミッターとか無理やり解除させられて、バーサーカーみたいに戦わされるかもしれないってことなんだぞ!

 

 それ、ちょっと格好いいかも……思ってしまう、平和ボケした自分の感性がちょっぴり憎かった。

 

「水晶が、光りましたわよ!」

 

「ええ。……しかも、これまでで一番強い。……これは、期待大ですな!」

 

 水晶が太陽光のような強烈な白い光を放ったと思った次の瞬間には、ゲームのステータス画面のようなものが目の前に浮かび上がっていた。

 

名前 谷川 治太郎

職業 救済者(メサイア)

年齢 25

レベル 1

スキル なし

魔法 なし

固有スキル 『治す』

 

 名前も年齢も合っている。職業は派遣社員だから間違っているけど……これが召喚されたときに付与されたこの世界での職業ってことなのか……?

 

 レベルは何もしてないから当然1。スキルと魔法もなし。固有スキルの『治す』は回復系のスキルってことなのか?

 

 ゲーム的な思考だと、MP消費なしで小回復とかそんな感じだろうか?

 ……序盤はかなり重宝するけど、終盤は微妙とかそんな響きあるけど大丈夫かな? ちゃんと、レベルがあがったらスキルも成長するよな……?

 

「『救済者』『治す』……勇者でないのは惜しいですが、回復要員としては使えないこともないのでしょうか?」

 

「う~ん。この『治す』の効果次第と言ったところですが、現状払ったコストに釣り合っているかというと微妙というのが感想ですな」

 

「やはり、下賤の生まれだからでしょうか? ……次の召喚はもうちょっと出自の良い者に――」

 

「そうしたいのは山々ですが、良い家柄の優秀な魔導士を生贄にするのは政治的にも――ああいや、とりあえず考えるべきは目の前のこの男の処遇でしょう」

 

「そうですわね。まあ恐らくは後方支援送りになりそうですが……」

 

 後方支援……!

 戦闘スキルで前線に押し出されるよりはまだ生き残れる可能性は高そうか?

 

 というか、さっきから黙って聞いてるけどこいつら本当にクズだな。

 

「まずは『治す』の効果を見てみましょうぞ」

 

「ですわね。ではそこの騎士、懐刀を渡しなさい」

 

「……はっ」

 

 何をするつもりなのか、縦ロールの姫は近くにいた騎士に差し出された短い刃物をひったくるように手に持って、その鋭い刀身を眺める。

 

 何を思ったのか、縦ロールの姫は何の躊躇もなく俺の手をその刃物で切りつけた。

 

 あぐっ、い、痛ってぇぇええええ!!!

 

 冷たい痛みが走った手先がジンジンと熱くなっていく。痛い。すっごく痛い。

 血がボタボタと流れ、痛みのあまり鼻水と涎が垂れていくのが解る。だけど、これも『絶対服従紋』のせいなのか叫び声一つ上げられず、身動ぎすら出来ない。

 

 痛い。痛いッ!

 

「『絶対服従紋』発動。ジタロー、『治す』でその傷を治してみなさい」

 

 縦ロールの姫に命令されて、俺は左手で切られた右手に触れる。

 『治す』が発動したのが解る。傷が治っていく。――傷だけじゃなくて、ずっと頭の中にあった白い靄のようなものまで晴れたような気がした。

 

「うがぁぁあ、痛ってぇぇ! 何すんだ、クソッ! マジでぇ!!」

 

 声が響いた。俺の叫び声だった。

 

「お、おい、勇者が動いているぞ! 姫様! 『絶対服従紋』はどうなっておる!?」

 

「な、何事ですの!? 『絶対服従紋』発動! 黙りなさい! 静まりなさい!」

 

「…………」

 

「……と、止まりましたわ」

 

 縦ロールの姫様に切られた手は綺麗さっぱり治っていて、痛みも治まっていたので叫ぶのを止めた。

 

 ……だけどこれ、解けてるよな『絶対服従紋』ってやつ。

 

 俺、今操られてないよな。

 自分の意志で身体を動かせるし、喋れるし、考え事をしても頭が痛くならない。

 

 俺はちらりと縦ロールの姫の方を見る。

 

 近くにいる全身鎧の騎士は剣を抜き、警戒した様子で俺を見ていた。

 なんか『治す』ってスキルで『絶対服従紋』ってやつは解除出来たっぽいけど、絶体絶命のピンチって状況は依然として変わってない?

 

 っていうかレベル1で戦闘スキルもない普通の日本人だった俺が『治す』ってスキルだけでこの状況を解決することって出来るの?

 

 次『絶対服従紋』っての掛けられたら『治す』で解除するのも難しくなるだろうしかと言ってこっから逃げれる気もしない。俺、足は遅い方だったんだ。

 

 詰み? ……もしかして俺、詰んでますか?

 

 俺が蹲っている間、騎士たちは近づいてこない。動かない俺が何をしてくるか解らなくて警戒しているのか。

 かと言って、俺の方もこの状況を切り抜ける打開策が思い浮かばず動けずにいた。

 

 5分、10分。或いは一時間経ったのか。

 

 緊張によって時間感覚すら失いそうになるような、長い膠着状態は意外な形で打ち破られた。

 

 ……女神様が降臨したのだ。

 

 天井に突如として出現した蒼白い光の魔法陣。

 そこから出てきたのは、絶世の美女だった。この世のものとは思えないほど端正な顔立ちと透明感のある蒼い長髪。

 露出の少ないきっちりとした法服に包まれた身体はなだらかで慎ましく、風紀ある上品さを感じさせる。

 

 右手には金色の天秤、左手には銀色の剣が持たれていた。

 

「我が名はアストレア。この世界の『均衡』と『調律』を司る法理の女神。異世界の人間を召喚する禁呪を……私利私欲を満たすために使用した愚かなる人間に、裁きと相応しい懲罰を与えに降臨した」

 

 アストレアと名乗った女神様がゆっくりと右手を突き出すと、金の天秤がカタカタと傾き始める。

 そして――ガタンッ、と音を立てて右に傾いた。

 

「判決を言い渡す。――死刑。斬首の罰を与える」

 

 アストレア様はそう言って、禿げたジジイの方を見た。

 

「ひぃっ! な、何事ですじゃ!? め、女神様! こ、これはまちがでげべふっ!?」

 

 迫るアストレア様を前に顔を青褪めさせ必死に言い訳を並べ立てようとしていた禿げジジイの首が宙を舞った。

 アストレア様の左手にある銀の剣の刀身が僅かに血で濡れていた。

 

 ……見えなかったけど、あの剣で首を斬られたのだ。あのジジイは。

 

「ひぃぃぃっ! 爺や? いやっ、ち、違うんですの! き、聞いておくんなまし、女神様! こ、これは全部、この爺やがやったことですの! 私は悪くないんですの! 手違いですの!!」

 

 目の前でジジイの首が刎ね落とされ、次は自分の番であると悟った縦ロールの姫は早口で禿げジジイに責任転嫁し始めた。

 その顔は真っ青で、大量の汗が流れている。

 

「――私は人の子の声を聴かぬ。ただ、この天秤をもって公正な裁きを下すのみ」

 

 アストレア様は、淡々と冷酷無慈悲に左手を突き出す。

 

 ガタンッ。

 

 金の天秤は、無情にも、右に傾いた――

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