欠損奴隷を治したら、俺を崇める宗狂団体が設立されてた   作:破滅

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17話 正に聖人の所業

「う、腕がぁぁああ! あぎゃぁぁぁあああああ!」

 

 腕を切り落とされたセッカマが潰れた鼠のような悲鳴を上げる。

 剣道の経験すらない素人の俺が、鉄のナイフの防御を貫通して腕ごと切り落とせてしまう――相変わらずの切れ味だ。

 

 流石、アストレア様の権能と言ったところか。

 

「止め! 止め! 戦闘を止めです! 貴方はD級の資格があると認めます!」

 

 斬られた手首からドバドバと流れる流血を必死に止めているセッカマを庇うように受付が割って入ってきた。

 

 俺としても、試験の最大値であるD級に認定してもらえるならこれ以上戦う理由はない。俺は、下衆なこいつらのように相手を甚振って喜ぶような趣味はないのだ。

 

「ぐぬぉぉおお! こんなので、終われるかよぉ! お前はここで死ねぇ!」

 

 裁きの剣を収めようとしたとき、セッカマは怒り狂いながら切られていない方の左手でナイフを拾い、自分を庇う受付の後ろから俺目掛けて投げる。

 投げられたナイフの狙いは正確で、俺の心臓の位置を的確に貫いた。

 

 いや、本来なら貫けるはずだったのだろう。

 

 投げられたナイフは法服の守りに阻まれ、俺に何の痛痒も与えることなく落ちた。カランカランと虚しい音が響く。

 

 流石、アストレア様が仕立て直してくれた法服だ。セッカマは実力だけならBランクにも勝るらしけど、そんな彼のナイフ投擲すら無傷で抑えてくる凄まじい防御力。

 軽くて着心地が良いのに、鋼鉄製のフルプレートメイルに勝るとも劣らない素晴らしい防御力だった。

 

 アストレア様、本当にありがとうございます。

 

「…………は?」

 

 セッカマは愕然としていた。

 

「不意打ちとは卑怯だな。これは天罰だ」

 

 剣を振り下ろし、もう一本の腕も切り落とす。

 

「あぎゃぁぁぁっ!」

 

 セッカマがまともな人間性なら『治す』で元通りにしても良かったんだけど、ニケ達によからぬことをしようとした上に、不意打ちまでしてきたんだ。

 

 逆恨みで復讐されるかもしれないし、治してやる義理もない。

 

「腕がぁ、俺様の腕がぁっ!!」

 

「ちょ、も、もうやめてください! 殺しはご法度です。これ以上は問答無用で失格にしますよ!」

 

「今のは、不意打ちしてきたこいつが悪いだろ?」

 

「そ、そうかもしれませんが……。いえ、とりあえずギルドマスターの元まで案内するので着いてきてください。そこの奴隷たちも一緒に」

 

 先ほどまでギャハハハと下品に盛り上がっていた冒険者たちは静まり、空気は凍りついていた。

 

「流石ね、ジタロー様。圧倒的ね!」

 

「剣が強かったんだよ」

 

 ニケに褒められる。悪い気はしないけど、浮かれないようにしないとな。

 

 強いのは剣であって俺じゃない。あんな素人丸出しの太刀筋でもセッカマに――あれ? そう言えばダマカスを斬った時は身体が勝手に達人みたいな動きをしたけど、今回は動きは普通だったな。

 

 地味に剣も前回は銀だったけど、今回は銅だし。

 

 違いは何だろ?

 

 考えている間に、ギルドマスターの元に案内される。

 

 上裸でスキンヘッドの、ムキムキなおっさんが眼鏡を掛けて書類仕事をしていた。

 ……部屋のドアには『ギルドマスター室』って書かれていたし、この部屋の上座の椅子に座っているからきっと彼がギルマスなのだろう。

 

「オズカムさん。少し話が――」

 

「なんだ? 亜人大粛清なるクソッタレのせいで書いても書いても書類仕事が片付かないから、書きながら聞かせてもらうぞ」

 

 オズカムと呼ばれたギルマスは、書類にバリバリと爆速でペンを走らせながら、俺や受付の方を一切見ずに応対する。……スキンヘッドに血管が浮かび上がっている。本当に忙しそうだった。

 

「――ええ、では。まず彼は新人冒険者なのですが、適正ランク試験で少なくともDランク以上の適性があると認めました」

 

「なるほど。期待の新人か。即戦力なら大歓迎だ」

 

「……試験官は、セッカマでした」

 

 ピタリと、オズカムの手が止まった。

 

「なんだ? また八百長でもしやがったのか? ……弱い奴にランクだけ下駄を履かせても犬死させて始末書が増えるだけだぞ」

 

「いえ、彼はセッカマを打倒しました。……セッカマは今、両腕欠損の重傷です」

 

「……!? 何だと?」

 

 オズカムはパッと顔を上げて俺を見る。

 

「……セッカマは素行は最悪だが、実力だけなら間違いなくBランクだ。少なくとも腕を切り落とされるようなヘマはしない。……上位種の亜人だな。竜人族(ドラゴニュート)もいるな。亜人奴隷に戦わせたのか?」

 

「いえ、主人が一人で戦っていました」

 

「……マジか。格好を見る感じマモーン様の信徒って感じではなさそうだが、僧侶系だろ? 剣を持っている様子もない」

 

「剣はスキルのようなもので出していました。私は、見たことそのままを報告しているまでです」

 

「ああ、解っている。お前がそんな嘘を吐くような女じゃないことは解っている。信じがたい報告ではあるが、事実なのだろう」

 

 オズカムは首を捻りながら、俺をマジマジと見て、それから何かを飲み込むようにウンと頷いた。

 

「まあ、良い。今は人手がいくらあっても足りてねえんだ。有用な戦力なら歓迎するぜ」

 

「あ、はい。よろしくお願いします」

 

「しかし、セッカマを倒したってんならDでも適正ランクって言えねえよなぁ。ギルマス権限でCに上げようか?」

 

「ギルマス! 依頼を受けたことがない人をCランク以上に上げるのは、ギルマスでも越権行為です!」

 

「そんなこと、解ってるよ。……お前、名前何て言うんだ?」

 

「ジタローです」

 

「ジタロー、早速依頼を受ける気はないか? Cランクの依頼だ。……本当はセッカマの奴に頼むつもりの案件だったんだが、お前が両腕を切り落として使い物にならなくしたんだろ?」

 

 オズカムは、怠そうに書類の山から一枚の紙切れを取り出して俺に渡してくる。

 

 

依頼:盗賊団を壊滅させよ

 

難易度:Cランク

 

内容:商業道路で馬車を襲っている盗賊団のアジトが、先日の調査でエルリン廃鉱山にある可能性が極めて高いことが判明した。

 推定構成人数は7~9人。

 依頼者はエルリン廃鉱山に乗り込み、盗賊団を捕獲もしくは殺して、その首を憲兵隊に差し出すように。

 

報酬:金貨5枚+アジトにあった財産の2割。

 

 

 依頼書には地図も描かれており、エルリン廃鉱山と書かれた場所には赤い丸が付けられていた。

 

「この町は見ての通りそんな大きいわけでもねえから、強い冒険者も少ねえんだ。責任を取れ、とまでは言わねえけどその依頼を受けてくれると助かる。それを達成してくれたらジタローを俺の権限でもCランクに上げてやれるし悪い話ではねえと思うんだが」

 

 地図を見た感じ距離は遠くなさそうだ。

 報酬は金貨5枚。四肢欠損したニケの値段の半分で、今日使ったお金の総額と丁度同じくらい。

 

 かなりしょっぱく思えるが、依頼難易度はC。

 

 D以下はもっと報酬が低いのだろう。

 となると、もっと高い報酬を得るためにはランクを上げてもっと上の依頼を受けれるようにすることは不可欠だろうし、オズカムさんの俺をCランクに上げてくれるって条件も悪くないように思える。

 

 俺は振り返って三人を見た。

 

「私は、ジタロー様の意志に従うわ」

 

「盗賊退治! オレは行きたいぜ!」

 

「試し撃ちしたいのです!」

 

 スンとしてるニケですら、尻尾を振ってうずうずしている。

 みんなやる気は十分のようだった。

 

 受けるメリットも大きい。

 

「解りました。この依頼、受けます」

 

「助かるぜ」

 

 オズカムさんはそれだけ言って、また書類仕事を再開した。俺たちは、依頼書を持ってギルドの外に出た。

 

「オラァ、これは俺の女を寝取った恨みだ!」

「ギャハハッ! 今までは強ぇからデカい顔させてきたが、これからは俺たちの時代だァ!」

「両腕を失ったセッカマなんてちっとも怖くねぇ!」

 

「クソォ。クソォォッ」

 

 ギルドの外に出ると、セッカマが冒険者たちに袋叩きにされていた。

 

 身に着けていたナイフや装備は既に冒険者たちに取られていて、裸に剥かれてしまっていたセッカマは斬られた両腕の傷口から大量の血を流し、惨めに地べたに這いつくばって涙を流していた。

 

 セッカマは、俺を脅してミューたちにいやらしいことをしようとしたクズだし、勝敗が着いた後に不意打ちでナイフを飛ばしてくるような卑怯者だ。

 助けてやる義理なんてない。

 

 だけど、さっきまでセッカマの味方をしてギャーギャーはしゃいでいた冒険者たちにズタボロに痛めつけられている彼はあまりにも哀れで見てられなかった。

 

 俺はセッカマの元まで歩いていく。

 

 セッカマを袋叩きにしていた冒険者たちは、俺が近づくとスッと避けて道を開けた。

 

「お前……俺様を、嗤いに来たってのか?」

 

 恨みと悲哀の籠った目で俺を睨みつけてくるセッカマに無言で手を向ける。

 

「『治す』」

 

「……う、腕が、治っていく」

 

 スキルを発動させると、セッカマの両腕がひっついてみるみる再生していく。セッカマは驚愕の表情を浮かべていた。

 

「欠損を治すレベルの回復魔法。……枢機卿レベルの実力。――教団なんてイカれたパーティ名。あ、アンタまさか……。いや、そんなことより、どうして。どうして俺様を助けてくれるんだ……?」

 

「女神アストレア様の慈悲だ」

 

「アストレア。……あ、アンタ、そういや名前は何て言うんだ?」

 

「ジタローだ」

 

「……ジタロー。聖者、ジタロー様」

 

 両腕が回復したセッカマは俺を見上げながら涙を流して五体投地をしていた。

 

 俺は踵を返して、ニケ達の元へ戻る。

 

「……どうしてアレを治してあげたのです?」

 

「そんなの、ジタロー様が根っからの聖人様だからに決まってるじゃない!」

 

 ミューの質問に、ニケが勝手に答える。

 いや、流石に俺が両手を切り落としたばっかりにあんな酷い目にあってるところ見せられたら見殺しには出来ないだろ……。

 

「お、おい、これ、ヤバくねえか?」

「な、なあ、セッカマ? セッカマの兄貴、さ、さっきのはちょっとした冗談でさぁ」

 

「お前ら、よくも散々俺様を痛めつけてくれたなァ!」

 

 恐る恐る、セッカマにナイフを返していた冒険者が殴られてド派手に吹き飛ぶ。後ろの方でドンパチが始まった。

 

「なあ、そんなことより早く行こうぜ、盗賊退治!」

 

 うずうずしている様子のファルが町の出口の方を指さす。

 

「なあ、盗賊の場所、解るのか?」

 

「エルリン廃鉱山の場所なら私が知ってるわ。本当にすぐ近くよ」

 

 ニケが出口とは逆方向を指さしながら、そう言った。アジトまではニケが案内してくれるらしい。

 

 じゃあ行くか、盗賊退治――!

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